ACfA RAVEN LIFE   作:D-delta

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今回は短めです。


CHAPTER7

 戦場という名の地獄は過ぎ去り、無数にも見える鉄塊と肉塊がマザーウィルのカタパルト上に置いてかれる。硝煙と焦げた臭い。そして死肉の臭いが漂う。

 しかし漂い、置いてかれたのはそれらだけじゃない。

 薄く緑色に輝く死の粒子――コジマ粒子も他の臭いと同じように漂っていた。

 

≪辺り一面死体と残骸だらけ……まるで地獄だ≫

 

 通信に震えた声が入る。その声の主は補給所の人間のものだ。

 通信から程なくしてマザーウィル内に退避していた補給所の人間が次々とカタパルトに出て来る。もちろん補給所の人間たちはコジマ汚染対策に厚い防護服を着込んでいた。

 

≪生きている奴はいるかー!≫

 

 呼びかけるような声。補給所の人間の声である。

 その声がトーマス機のコックピット内に響いた。その身に感じた地獄を前にして意気消沈しているトーマスは、意識をぼやけさせながら通信の声を耳にする。

 

≪生きている奴がいたら通信でもなんでもいい、返事をくれ!≫

 

 再び通信に入る声。

 何度か響く声に返事を返そうと、トーマスはコックピット内の通信器に手をやった。

 

「こちらトーマス、生きている」

 

 地獄をその身に残し、震えた声で通信に返事を返した。

 補給所の人間の反応はない。

 通信器が壊れたか、はたまたトーマスの声は既に誰にも届かない死人の声となってしまっているのか。

 どちらにしろ、正常な判断が付かない今のトーマスにはどうでも良いことだった。

 

「外は……どうなったんだ」

 

 トーマスは地獄に怯えながら興味の行くままにコックピットハッチを開ける。

 ハッチが開かれたと同時にカタパルト上を漂う悪臭がコックピット内へと入り込み、トーマスの鼻を侵した。

 そんな悪臭に鼻を侵されながらもトーマスは外の景色へと目を向けた。ガスマスク越しに目に映るのはカタパルト上を転がる鉄塊と肉塊ばかり。そこにある景色は天国などではない。

 トーマスの目に映ったのは紛れもない地獄の跡だった。

 

「幼い頃から見慣れた景色、だな」

 

 幼い瞳で見てきたものを思い出し、トーマスはコックピットから外へと出た。その足で仄かに残った戦闘の熱を感じながら硝煙漂う第四カタパルトを歩いて行く。

 鉄塊と肉塊。飛び散った破片と肉片。ミサイルに被弾して爆散した機体。ライフルによって射抜かれた機体。コックピットから投げ出されたようなバラバラになった死体。コックピットに残ったまま真っ黒に焦げた死体。

 微かに前が見える硝煙の中、トーマスはそれらを目にして「ここも幼い頃と変わらないな」と呟く。

 

「トーマス……」

 

 トーマスの呟く声に反応し、澄んだ女性の弱った声が硝煙漂う中から聞こえてきた。

 

「エリーゼ?」

 

 澄んだ若い女性の声、その聞き覚えのある声でトーマスはエリーゼと判断。そうしてトーマスは「どこだ!?」と助けるつもりで場所を尋ねた。

 

「ここ……」

 

 そんなエリーゼの弱った声と共になにかを引きずる音が近付いて来る。

 トーマスは硝煙漂う中で声のする方を見つめる。そして血に染まった何者かが這いずって近付いてくる姿が見えてくる。

 

「エリーゼ、だよな?」

 

 トーマスは這いずってきたところを血に染めて近付いてくる何者かに恐怖を感じ、不安なままに尋ねた。

 

「はい……」

 

 這いずる者から返ってきた言葉は確かにエリーゼの声だ。しかしエリーゼの身体全体がハッキリ見えてくると、トーマスは言葉を失う。

 

「足の感覚が、なくて……動きにくいんです」

 

 血に濡れた顔を上げて、エリーゼは告げる。

 エリーゼの姿を見つめるトーマスは返す言葉など頭に出て来なかった。

 それもそのはず、這いずってきたこと、這いずった場所を血に染めたこと、足の感覚のなさ、それらを証明するようにエリーゼの下半身がなくなっていたのだ。

 

「どうしてか……足に触ることも出来ないんです……」

 

 再びエリーゼが告げる。

 トーマスは視界に映る衝撃的なものに咄嗟の言葉も出ない。腰から下、血に染まった内臓を漏れ出させている部分を見つめる続けることしか出来ない。

 

「トーマス……私、死ぬのでしょうか?」

 

 問いかけられたトーマスはレッグホルスターにある拳銃を無言で取り、安全装置を解除する。

 そしてトーマスは口を開く。

 

「死ぬよ、確実に」

 

 トーマスは心苦しい気持ちで拳銃をエリーゼに見せ、再び口を開く。

 

「少しでも今の景色を見ていたいか、それとも今すぐに楽になりたいか……今の俺に出来ることはこれぐらいしかない。助けられなくてごめん。許してくれ」

 

 結局慰めてやることさえ出来なかったと感傷に浸ってしまうのを堪え、トーマスはエリーゼの選択を待つ。

 

「楽に……させて……お願い……」

 

 敬語のない親しげで苦しみの混ざる澄んだ声が二つの選択から一つを選ぶ。

 トーマスはその選択を受け入れる。

 うつ伏せのままのエリーゼに触れ、手で目を覆う。

 触れて伝わる人の温もり。それがエリーゼの感じる最期の温もり。

 

「目を閉じて」

 

 トーマスの言うことに従い、エリーゼは目を閉じる。

 

「次に目を開ける時はきっと、こんな地獄からはほど遠い幸せな世界が目の前に広がっているよ」

「そう……だね……」

 

 エリーゼが初めて見せた笑み。その笑みから告げられた最期の言葉を聞き取り、トーマスはエリーゼの脳天に銃口を向けて引き金を引いた。

 楽にさせるための、あまりにも重い引き金。

 硝煙漂う中に発砲音が鳴り響く。

 放たれた銃弾はエリーゼの皮と肉、その先にある脳を貫き、確実に命を終わらせる。

 そして終わった命から魂が抜けていく。その魂が次の場所へと至るために、次の命を始めるために。

 

「そこに誰かいるのか!」

 

 銃声を聞きつけて、防護服を着た補給所の人間たちがトーマスのいる場所へと駆けつける。

 補給所の人間たちがそこで目にしたのは若い女性の遺体とそのすぐ側で感傷に浸っているトーマスだった。

 




次のお話はコラボ回となります。お楽しみに。
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