カードファイト!!ヴァンガードG 再結成!世界に挑戦する3人 作:リー・D
いよいよ近づくVF世界大会日本本予選。
その健闘をたたえるために、トライスリーは壮行会を行おうとしていた。
VF世界大会本予選数日前。
シオン「やあ2人とも」
トコハ「やっほ~。来たよ~」
クロノ「で、今日はどこ行くんだ?」
シオン「それは着いてからのお楽しみってことで。じゃあ、行こうか」
トライスリーの3人は、岩倉の運転する車に乗り、シオンが決めた目的地に向かった。
辿り着いた先は――
クロノ「ここって……」
トコハ「……服屋?」
シオンは笑って頷いた。
シオン「トコハに似合いそうな服をプレゼントするよ」
そのまま3人は店に入り、中のラインナップを見て回った。
しばらくして、車を止めに行っていた岩倉が合流した。
クロノ「とりあえず、ここは綺場系列の店だな」
シオン「流石に分かるよね。ここなら融通効くから、何でも好きな物選んでよ」
トコハ「それは良いんだけど。なんで服?」
確かに、とクロノも頷いた。
シオン「実は……ね。気づいちゃたんだ」
クロトコ「「何を?」」
シオン「ノブレス・オブリージって知ってる?」
トコハ「確か、高貴なる者の義務。よね」
シオン「僕はね。それをしていないなって」
クロトコ「「えっ?」」
突然の告白にクロノもトコハも絶句してしまう。
クロノ「いやいやいや! お前、俺が告白する時に自家航空機貸してくれだじゃねえか!」
トコハ「それに今日だって送迎してくれたじゃない! 他にも、花火! そう! 花火上げてくれるじゃない! あれシオンじゃなきゃできないでしょ!」
トライスリーの約束の花火は、今年の夏にも上がったらしい。
シオン「うん。そうだね。でもどれも、綺場の財力。つまり、僕が受け継いできた物を使ってやってきたことなんだ。綺場シオンとして築いてきたものでは無い」
クロノ「いや、でも。十分だぜ」
シオン「そうもいかない。早尾先輩や羽島先輩ならともかく、君たち2人には、数え切れない恩があるんだ。少なくとも、1回は個人的に何かしないと、僕の気が済まない」
トコハ「ぐ、具体的に何がしたいの?」
クロノもトコハもシオンの勢いに押されてしまい、言葉が単調になっているのに気づいていない。
とりあえず、シオンが求めていることを聞き出すことから始めたらしい。
シオン「奢らせて欲しい。僕が稼いできたお金で」
クロトコ「「そ、そうきたか」」
真剣な表情のシオンに2人は呆れながら納得する。
クロノ「でもそれなら全然違う店のほうがいいんじゃねえか? この店の信頼はシオンじゃなくて綺場が得てきたものだろ」
シオン「いいや、違う。そういう服屋も確かに有るけど、この店はそのリストに入っていない。ここは僕が自分で入って、信頼足ると感じて契約した店。つまり、僕が自分で勝ち取った財産の一角だよ」
トコハ「それで、この店なのね」
クロノもトコハもシオンが店に立ち寄った理由を頭に過ぎらせた。
ある女性の笑顔を。
そんな2人の様子を察したのか、岩倉が近づいて、小さくつぶやいた。
岩倉「お察しの通り、このお店には、アム様へのプレゼントを買うために立ち寄ったのです。偶然でしたが、アム様にピッタリの物を選出して頂いたので、信頼しているのですよ」
岩倉の言葉に両者は「なるほど」とも「やっぱり」とも思い、補足してくれた岩倉に感謝した。
シオン「僕が奢るのなら、食べ物系じゃなくて、服が1番だと思ったからね。どれでも好きなものを選んでいいよ」
トコハ「分かったわ。今回は、シオンのお言葉に甘えましょう」
シオン「ありがとう。じゃあ、クロノ。さっそくトコハに似合いそうな服を選んできなよ」
クロノ「俺に服のセンスはないぞ。ちゃんとしたの選ぶなら、岩倉さんが1番だろ」
岩倉「おや、わたくしでよろしいのですか?」
トコハ「そうですね。お願いします。岩倉さん」
岩倉「承りました。トコハ様にピッタリなものをお選びいたしましょう」
トコハと岩倉は、店の奥へと入っていった。
トコハの服を選んだ後、クロノとシオンの分も選ぶことになるので、2人は店の中にある休憩スペースに入り浸ることにした。
適当に飲み物を買い、椅子に座ってくつろいで居た。
シオン「女性の服選びは時間がかかりそうだね」
クロノ「そうだな」
シオン「でも、良いのかい? 君は、本当はトコハと2人だけで過ごしたかったんじゃ」
クロノ「何言ってやがる。今日はトライスリーの壮行会だろ。お前抜いたら唯のデートじゃねえか」
シオン「それはそうだけど」
クロノ「俺たちはな、互いの友好関係を邪魔するつもりなんてないぞ。トコハがお前と2人だけで遊びに行ったって良いと思ってる。もちろんお前が無事にトコハを帰さなかったら、怒るし、最悪殴るけど」
笑顔で殴るとか言うクロノにシオンは苦笑してしまった。
シオン「(でもそれは、2人の間に確かなる絆。愛情があるからなんだよね)ホント、君たちは仲良いね。羨ましいよ」
クロノ「……シオン」
シオン「ん?」
クロノ「アムとは上手くいってるのか?」
シオン「え゛? なっ、なんで、そんなこと言うんだい?」
クロノ「(動揺したな、コイツ)会いたいのなら会えば良いじゃないか」
トコハに告白するためにフランスにまで飛んだ人間の言うことは説得力に満ちている。
クロノ「『親しい仲にも礼儀あり』って言うのは当然だと思う。俺たちが互いの友好関係を邪魔するつもりが無いようにな。けど、時には礼儀を無視して会いに行くのは有りだと思うぞ」
シオン「そうは言うけど、収録中とかに突撃するのはどうかと思うよ」
クロノ「じゃあ電話でもしろよ。声が聞けるだけでも心には余裕が出来るぞ。再会した時に我慢できるかは保障しないけどな」
シオン「遠距離恋愛中の人間のアドバイスは心にしみるよ」
若干呆れながら、シオンは笑って礼を言った。
釣られてクロノも笑い、飲み物が無くなるまでホッコリとした雰囲気が場を支配した。
トコハ「2人ともお待たせ~」
しばらくするとトコハが休憩所にやってきた。
シオン「お疲れ、トコハ。おや」
クロノ「///」
紙袋を持ち、新しい服を身に纏った姿に2人して感動してしまった。
トコハ「ふふふ。岩倉さんに選んで貰ったわ。2人とも、似合う?」
シオン「良く似合っているよ。ねっ、クロノ」
クロノ「あっ/// ああ/// と……とても……よく……似合う……ぞ///」
トコハ「ちょっ///! 顔赤くしたまま褒めないでよ! こっちまで恥ずかしくなるじゃない///!」
基本バカップルな2人の初々しい姿にシオンも岩倉も笑ってしまった。
笑われたのが余計に恥ずかしいのか、クロノもトコハもさらに顔を赤く染め上げた。
羞恥心で顔を隠したトコハが落ち着いてから、シオンとクロノの服を選ぶこととなった。
シオン「う~ん。これが良いかな?」
トコハ「私が青と緑が中心の服だから。シオンは白と黄色の組み合わせにするとして、これなんかどう?」
シオンの服はトコハと相談して決めることになった。
そのため、クロノのほうには岩倉がいた。
岩倉「クロノ様は、このような服がよろしいのでは? トコハ様とお並びになっても十分映えますよ」
クロノ「そうですか? じゃあ、着て見ますね。……そういえば、トコハの紙袋大きくないですか?」
元々来ていた服が入っているとしても、トコハが持っている袋は大きかった。
岩倉「別の服もご購入されたのですよ」
クロノ「なるほど」
納得したところで、岩倉がクロノの耳元でささやいた。
岩倉「わたくしは見ていないのですが、1着はクロノ様に直接お見せしたいものだそうです。2人っきりの時にしっかりとご覧になってあげてください」
言われたことを理解してクロノの顔は耳まで真っ赤になって、見繕ってもらった服を持って試着室に飛び込んだ。
そんなクロノを見て、岩倉は嬉しそうに笑っていた。
無事に3人の服を購入した後、3人は岩倉と共に新導家の最寄のスーパーで買い物をしていた。
昼食と夕食の買出しだ。
クロノ「今日は、どっちも俺が作るからな」
シオン「クロノの料理、久しぶりだよ。楽しみだね」
トコハ「でもシオン良いの? シオンならいつも高級レストランの予約取ってたりするじゃん」
2人は早尾アンリから高1のU-20の壮行会では、船上レストランで食事を取った話を聞いているのだ。
シオン「いや、それはVF世界大会で優勝した時にとっておくとこにしたんだ」
それに……とシオンは付け足した。
シオン「最近、そういう料理ばかり食べていてね。なんて言うのかな? 飽きてきたとか?」
クロトコ「「……」」
クロノもトコハも互いの顔を見て、アイコンタクトを交わした。
互いに言いたいことは分かっている。
クロノ「よし、昼は適当に外で食おう」
トコハ「そうね。ハンバーガーとか良さそうね」
シオン「えっ? クロノが作るんじゃあ?」
クロノ「夕食を全力で作ってやる。だから行くぞ」
岩倉「それなら、ご購入した物はわたくしがクロノ様のお宅までお運びいたしましょう。皆様のご洋服もご一緒に」
岩倉からの提案を2人は嬉しそうに承諾した。
そうして、買い物が終了した3人は、新導家の近くのハンバーガーショップで簡単に昼食をとった。
シオン「ジャンクフードなんて久しぶりに食べたよ」
クロトコ「「やっぱり」」
シオン「えっ? 2人とも、分かってたの?」
トコハ「シオンのセリフを聞いた時になんとなくね」
クロノ「お前たまにははめ外せ。例の部屋まだ解約してないんだろ?」
例の部屋とは、中2の時に1人暮らしをすることとなったシオンが借りていたアパートの1室のことだ。
一時期トライスリーはこの部屋をたまり場としていたのだ。
シオン「うん。最近は使ってないけど」
クロノ「高校の時と比べて忙しくなったのは分かるけど、1人になる時間を取った方が良いぜ。緊張しっぱなしだと、肝心な時に力入らなくなるぞ」
トコハ「バランスって大切よ。1人が嫌なら、愚痴を言い合える友達……具体的には、クロノとかと話す時間を増やすとかしなさいよ。貴方は1人じゃないんだから」
シオン「はい。気をつけます」
説教もここまでとなったのか、3人は続く本予選の対策を話し合いながら食事を取った。
笑い合う3人の姿は、やはり中学の時となんら変わりなかった。
そして、食事が終了した3人は、新導家に向かったのだった。
トコハ「岩倉さん。帰っちゃってたね。ちょっと残念」
新導家の鍵は閉まっており、指定していた場所に鍵が収められていた。
中に入ると、購入した食材は、きちんと冷蔵庫などにしまわれており、服はテーブルの上に置かれていた。
さすがに人様の家の物を勝手に整理することはしなかったらしい。
トコハは自分の服をしまいに部屋に向かい、クロノは適当にお茶を出してシオンを椅子に座らせた後、調理を開始した。
シオン「ホント、クロノは手際が良いよね」
デッキ調節をしながら片目でクロノの調理現場を見たシオンは呟いた。
聞こえるはずの音量で言ったのだが、クロノは反応せずに調理に集中していた。
時間がかからずトコハが出てきた。
トコハ「シオン、デッキ調整中? なら、私のも手伝って」
シオン「良いよ」
2人はそれぞれのデッキを広げ、互いの戦術を確認しあい、改良点を指摘しあった。
軽くファイトをしていると、クロノが台所を離れ、ソファに座った。
シオン「クロノ。料理はもういいの?」
クロノ「下ごしらえは終わったし、吸い物系は放置して良い段階だから休憩。ふう、疲れた」
トコハ「お疲れ様」
トコハが自然とクロノに飲み物を渡した。
特に驚きもせずに普通に受け取り、それを飲む姿がシオンには羨ましく見えた。
シオン(本当に、仲良いよね)
羨ましいので、飲み物を持ってソファに突撃したシオンを向かえ、トコハを挟んで3人でソファに座ってまったりとした時間を過ごしていると、ちょうど良い時間になったので、クロノが調理を再開した。
そうして待っていると、ご飯が炊けたので、トコハがつぎ、シオンもコップなどを用意し始めた。
完成して皿に載せられた料理をクロノが運んできたので、テーブルに並べ食事の準備は完了した。
クロノ「今日の献立は、トンカツだ。まあ、ある意味お約束だな」
トコハ「あれ? 何で味噌があるの?」
シオン「これは……八丁味噌だね。名古屋で有名な味噌だよ」
クロノ「前にミクルさんが出張のお土産でくれた。向こうの味噌カツは上手いらしい。折角だからやってみようぜ」
飲むゼリーが入っている系列の容器に入った味噌のふたを開け、カツにかけて食べてみる。
クロノ「おお!」
シオン「うん!」
トコハ「わあ!」
トライスリー『美味しい!』
想像以上の美味しさに3人は絶賛した。
クロノ「合うな! これ!」
トコハ「味噌甘い! カツ美味しい! ご飯も美味しい!」
シオン「味噌とカツの組み合わせがここまでマッチするなんて思わなかったよ。キャベツとの相性も良いし、さくさく食べれるね」
歓喜となった3人ともあっという間に食事を済ませてしまい、最後の1口を食べ終えた時、3人は満足気の顔となった。
少しだけ余韻に浸った後、クロノはお皿を洗面台に運び、片付け始めた。
その間に、お風呂が入ったことが伝えられたので、残りの片づけをシオンとトコハに任せ、クロノから順に入浴を開始した。
最後に入ったトコハが出てくると、そこにあった光景にトコハは驚いた。
クロノ「Zzzz」
シオン「さっきまでファイトしてたんだけど、終わったら寝ちゃったよ」
トコハ「そっか。掛け布団持ってくるね」
シオン「ベッドまで運ばなくて良いのかい?」
トコハ「机ならともかく、ソファだから。このまま寝かせてあげよ」
ソファの背もたれに体を預けながら寝ているクロノに布団を掛け、トコハはその隣に座って、頭を撫でた。
トコハ「お疲れ様。シオンのおかげだね。ありがとう」
シオン「え?」
急にお礼を言われたシオンは、思わず困惑してしまった。
トコハ「ライブお義父さんから聞いたんだけどね。クロノって、この家で1番最後に寝ようとするの。もちろん昼寝は例外だけど」
シオン「そうなのかい?」
トコハ「私も気になっていろいろ試してみたんだけど。クロノ、私が部屋に戻るまでリビングで勉強してて寝ようとしないの。先に寝ててって言ってもだよ」
シオン「それは……ちょっと心配だね」
トコハ「だから、こうして寝てるのは、シオンのおかげ。シオンを本当に信頼してるから安心して眠ることができるんだと思うの。ありがとう」
トコハのお礼を受け取ったシオンは、クロノがなかなか寝ない理由を考える。
シオン(……クロノは、幼い時に父親を失った。もしかして、怖いのかな。目の前で誰かを失う可能性を。……クロノが信頼できる人を派遣するかな)
トコハ「シオン? 眠いなら、クロノの部屋で寝る?」
シオン「え? あっ、ごめん。ちょっと考え事してたよ。でも、そうだね。お邪魔させてもらうよ。……変な臭いしないよね?」
トコハ「フ○ブリーズならここに!」
シオン「借りるよ」
シオンはクロノの部屋に向かい、ドアを開けた直後に1回フ○ブリーズをかけて戻ってきた。
トコハ「あれ? どうしたの?」
シオン「いや、トコハはどうするのかなって。……心配要らないみたいだけど」
トコハは寝ているクロノの膝を枕にしてソファで横になっていた。
掛け布団もかぶっているため、このまま眠るらしい。
トコハ「ソファだから大丈夫。それじゃあ、お休み」
シオン「うん。お休み」
シオンはリビングの電気を消して、改めてクロノの部屋に入った。
そこでシオンは携帯電話を取り出して、電話をかけた。
シオン「やあ、こんばんは。久しぶりだね。……うん。ちょっと声が聞きたくて」
誰と話しているかは分からないが、その顔はとても優しい笑顔になっていた。
シオン「……うん。そうなんだ。それじゃあ、お互い頑張ろう。……うん。会場で。……また、電話……かけて良いかな? ……うん。ありがとう。お休み」
会話を終えたシオンは、そのままベッドに入った。
シオン「……クロノのベッドか。トコハが帰ってきた時は、ここで2人は一緒に寝ているんだよね。……2人の幸せをこのベッドを通じてお裾分けしてもらおう。……ありがとう、2人とも。君たちが、僕に友で居てくれたことを感謝するように。僕も君たち感謝しているよ」
シオンは眠った。
その顔には、確かな喜びと決意に満ちた穏やかなものだった。
VF世界大会日本本予選が迫る夜。
トライスリーは、また1つ、絆を深めたのだった。
続く
シオン「おはよう」
トコハ「あっ」
シオン「あっ」
次回予告
「いや~。シオンのおかげで楽しかったな」
「そうね」
「シオンの悩みも解決したし、これで何事も無く大会を進めたいぜ」
「いろいろあったもんね。無駄に」
「もうすぐ、始まる。日本本予選。絶対勝ち抜いてやる」
「頑張りましょう」
次回、第7ターン:本予選開幕!
「ところで、シオンは何所いったんだ? 帰ったわけじゃないのに」
「聞かないであげて」
「?」