「何?新しい艦娘だと?」
「です。」
近海域はある程度攻め、深海棲艦が居なくなった平和な海を一応は取り戻したがまだまだ奥の方へは強力な敵がいる。
そこへ新たな朗報が舞い込んできた。
「どういうことだ?建造以外でも艦娘は得られるのか?」
「大本営から送られて来た娘なのです、適正が合うと艤装が装着できるのですよ。」
「あの大本営がか?どういう風の吹き回しだ?徴兵制度でも設けたのかまさか?」
「詳しくは私も分からないのです、私もどこから生まれどこから来たのか自分でも分からないのですよ。唯一分かるのは自分が与えられた艦の事しか分からないのです。」
こちらとしては戦力が増えるのでありがたい話だが徴兵された艦娘には同情せざる負えないな。建造の仕方も良く原理が自分では分かっていないのだが徴兵された娘の適正とやらが合えば艤装を付け出撃が出来るという事か。
「徴兵自体は今時珍しくも何とも無いが私が歩兵だった頃は皆深海棲艦対武器を装着したもんだ。まったくの無意味だったが。それで?その艦娘はどうした?」
「そろそろ来る頃だと思うのです。先程説明してここに来るよう伝えたので。」
「ふーむ・・・取り敢えず茶のお代わりを頼むよ。」
「はぁ・・・もう少ししっかりしてくださいなのです。」
電が嫌々空いた湯呑を手に取りもう一度急須に入った茶を入れた。
それを貰い啜ると少し出がらしの風味が出ている事に気づく。
「もうこの茶葉は使えんな、補充をしておいてくれ。」
「しょうがない司令官さんなのです。」
周りの世話は全て電と榛名に任せっきりなので茶葉がどこにあるかが分からない。
飯や掃除は逆に自分がやる分他の事は分配している。
「しっかし、榛名や電の熟練度が上がった故近海はなんとか凌いだがこれからが勝負だな。さらに艦娘を増やし艦隊を揃えんといけん。」
「さすがに二人ではこれ以上は少し難しいのです。」
最後の近海攻略の時には電が中破した時にはさすがに焦った。
退却をせざる負えなかったがもう一度作戦を練り直し打破したのはいいが。
そんな事を考えていると執務室のドアが軽い音を鳴らす。
「失礼するクマ。」
「クマ?」
軽快にドアを開けた先に立っていたのは昔ながらのセーラー服を来た少女が元気な顔を覗かせた。
「球磨型軽巡洋艦の一番艦、球磨だクマ。よろしクマ。」
「クマクマ五月蝿い奴だな、しかし・・・ふーむ・・・。」
敬礼する球磨を下から上から右から左から、舐めるように見るとすこし顔を赤らめ照れてしまった。
「ふむ・・・電と違って昔ながらのセーラー服もくるものがあるな。」
「提督さんは変態さんクマ?そんなに見られるとすこし恥ずかしいクマ。」
「男は皆変態だよ球磨君。私も一概に言えないのだ。」
一番気になるのはこの頭から生えている癖毛だ、手ですこし押さえつけても反発する力がある。
「ふむ、まぁいいだろう。これからよろしくな。まだ何もこの鎮守府には無いが頑張ってくれ。」
「クマ~。」
ガシガシと頭を撫で煙草に火を点け上着を羽織り執務室のドアに手をかけると電が不思議な顔をする。
「司令官さんどこか行くのですか?」
「気分転換だ、お前らも休養はしっかり取れよ、明日からは地獄かもしれんぞ。」
「クマァ~・・・。」
乱れた髪を整える球磨、電も溜息をついて二人は目を合わせた。
「提督さんは何時もあんな感じなのかクマ?」
「はい、こまった司令官さんなのです。」
暇を持て余し気分転換に出かけた提督は堤防のテトラポットに座り釣り竿を海に垂らしていた。
釣り糸を投げてから一時間程経つが未だ何も釣れないがそんな事は気にせずゆったりと煙草を吸いながら海を眺めていく。
すると後ろから声を掛けられた。
「釣果はどうクマ?」
「む?」
後ろを向くと特徴のある癖毛だけがテトラポットからゆらゆらと飛び出ていた。
さらに元気な顔を覗かせテトラポットをよじ登り提督の隣に座り込む。
「あ~ダメだダメだ、俺は一人で釣りをしていたい派なんだ。お前は自分の部屋の模様替えでもしていろ。」
シッシと手で払い嫌な顔をすると球磨はすこしむくれる顔をするがすぐにニコニコと笑い気にせず提督に構う。
「釣れない事を言わないで欲しいクマ。クマも混ぜて欲しいクマ。」
「むぅ・・・しょうがないからいいが邪魔だけはするんじゃないぞ。」
「ありがとクマ。」
少し横目で球磨の方を見ると本当に嬉しいのか笑顔がよりキラキラとした表情になっていた。疎ましく思っていたがその顔を見たらどうでもよくなってくる。
それからひたすら海に釣り糸を垂らしだらだらと何も釣れないまま夕日を迎える。
腰を上げてバケツと釣り竿を持ち鎮守府に戻ると球磨もまた同時に腰をあげた。
「今日は実に無意義な時間を過ごした。」
「そこは有意義じゃないクマ?」
「どこが有意義だ?ただただ時間を無駄にしただけだぞ。だがそれがいいのだよ。この何も無かった、何も起きなかった。これがいいのだ。」
「なるほどクマ~。」
頷く球磨と共に鎮守府に戻り別れた後、真っ暗な自室に戻り酒を一杯煽る。
時計を見るともうすぐ夕飯時の時間が近づいて来ていたのに気づき腰をあげ食堂に向かう。
「球磨の就任祝いだ、特別な物を作ってやろう。」
ショートエプロンを着けズラリと並べた食材をまな板に乗せ軽快な音を鳴らしながら包丁を落とす。元からあった業務用のガス炊飯器で炊いた米の様子を見て下ごしらえを終え最後の仕上げにかかろうとした時、食堂のドアが開かれた。
「わぁ~美味しそうな匂いはやっぱりここからだったんですね~。」
「久しぶりのカレーの匂いでお腹と背中がくっつきそうなのです。」
「お邪魔するクマ」
ゾロゾロと三人が食堂に入り台所を覗いてくる。
電や榛名は待ちきれないのか皿やグラスの用意をしていた。
しかし球磨はそわそわと此方の様子を伺い台所から離れない。
「クマも何か手伝えることはないクマ?」
「ここの鎮守府での食材を触れるのは俺だけだ、大人しく机で座っていろ。」
「そう・・・クマ。」
とぼとぼと電の方へ向かっていく球磨。
料理も完成してあるので三人を呼ぶ事にする。
「できたぞ、皿もってこい。」
「は~い。」
「待ちに待ったのです。」
「・・・。」
ワイワイと皿を持ってくる二人に対し球磨は俯いていた。
「ほれ、火傷するなよ。」
二人の皿に常人以上のカレーを盛り付ける。
最後に球磨も皿を持ち提督に皿を渡した。
「球磨、就任ご苦労。これからも頑張ってくれ。」
「これ・・・。」
球磨のカレーには特別に可愛い熊の形でカットした人参を入れてあり、それに気づいた熊は目をキラキラと輝かせた。
「俺は口が悪いからな、気にしてると身が持たんぞ。」
「クマ~。」
目を輝かせている球磨の頭をガシガシと撫でると照れて笑っていた。
「あ!球磨さんだけずるいです!私も熊さんにしてください!」
「え?あっ!本当です!ずるいですよ!」
「駄目だ、お前らにやったら意味が無くなる。」
異変に気づき球磨のカレーを覗き込んだ二人は球磨のカレーだけ特殊な事に気づき同じのにするよう催促するが一蹴した。
台所を片付けエプロンを外し換気扇の下で一服すると三人はもう食べ終わっており雑談をしていた。
「皿片付けとけよ。」
「む?もう寝るクマ?」
食堂から出ようとすると球磨から声がかかるが振り向かず手を上に上げて出て行った。
電も榛名も何時も通りの事なので雑談を続けるが球磨は不思議な顔をし、また電と榛名の会話に戻った。
「よっこらせっ」
自室にてベッド脇に置いてある机の上から酒を取り猪口に注ぎ一気に口の中に入れる。
さほど高い酒でも無いためこれといった美味さはないが飲みやすくて程よく酔えるのにお気に入りにするのは時間の問題だった。
「・・・」
窓から見える月と海で合作された月の道は酷く神秘的で深海棲艦などいない物と勘違いさせる程美しい。
願わくば争い事等なくなるよう祈りたくなる程に。
「・・・誰だ。」
気配を感じ腰を上げドアを開くと榛名が盆を手に立っていた。
盆の中には小皿が複数あり美味そうな物が並べてあった。
「提督さん、晩酌でしたら私もご一緒してもいいですか?」
「俺の部屋でか?襲っちまってもいいなら構わんぞ。」
「えぇ!?」
「おっと、冗談だ。」
驚いて盆を落としそうになったが寸前で提督が拾ったので床が汚れる事は無かった。
部屋の片隅に置いてあるランプを点け椅子に座り榛名を待つと恐る恐る部屋に榛名は入ってきた。
「汚くてすまんな、椅子も一つしかないからベッドに腰掛けてくれ。」
「はっはい。失礼します。」
床に散らばった物を隅に追いやりある程度はくつろげるスペースにした。
椅子に腰掛け榛名の持ってきた猪口と自分の猪口に酒を注ぎ榛名の分を手渡し自分の猪口の酒を飲み干しさらに一息つく。
「梅くらげとは渋いな、まぁ好きだが。」
盆の中にある小皿の中から赤く梅の匂いを漂わせた代物を箸で拾い口にいれると爽やかな梅の酸味とコリコリとしたくらげの食感が酒を進ませる。
「お気に召せたようでよかったです。」
榛名もグイっと酒を飲みほわほわとした顔になった。
「しかしビールピッチャーを何杯も飲んでほろ酔い程度なのにこんなので満足するのか?」
「何を言ってるんですか、味を楽しんでいるんですよ。」
榛名の就任祝いで居酒屋に連れて行った事を言うと少し怒って言い返してきた。
しかしこんな安酒の味を楽しむとは変わっている。
「ふ~ん・・・まぁいい。所で何か俺に用事があってここに来たんだろう?」
「えっ?」
ぎくりと肩を震わせ素っ頓狂な顔をこちらが提督に向いた。
「皆が居るところでは話せない内容なんだろ?なんだ?言ってみろ。」
「いえっ!特にこれといった話ではないんです!提督とお話したかっただけで・・・。」
「・・・そうか、邪推だったな。」
その後は艤装の話や榛名の話、新しく就任した球磨の事や電。
売店にいる少女の事も少し話に出たが謎が多いためそこまで深くは話さなかった。
そんな事をしているともう時間は天辺に近づいておりそろそろ解散をしないと明日に響く。
「そろそろ自室に戻れ、明日から大変だぞ。」
「そうですね、そろそろお暇させて頂きますね。おやすみなさい提督さん。」
「あぁ、おやすみ。」
空になった小鉢と盆を持ち提督にお辞儀をして部屋から出て行った。
寝る前に風呂に入るので着替えと石鹸を持ち男湯に向かうとしよう。
「ふぅ・・・。」
浴場も男一人では大浴場だと思う。いつか露天風呂を作りたいものだ。
温泉でも引いて源泉かけ流し、夜空を見ながら酒を煽れたらどれほど幸せだろうか。
明日からは海域を進む事よりも、電や榛名。球磨の基礎体力を上げていこうと思う。
海軍たれ体力なくては航海先に立たずと適当に思いついた言葉で笑ってしまった。
「その不気味な笑い声は司令官さんですね?」
突然男湯と女湯を分ける壁の向こうから電の声がした。
聞かれていたと思うと少し恥ずかしく、顔を手で覆う。
「・・・居たのか。」
「居てはいけなかったです?」
「・・・。」
電の言葉を無視して湯船に浸かる。
とくに疲れてはいないが体が暖まっていく感覚は不思議と身を委ねたくなってくる。
「何かいってくださいなのですよ!」
「さっさと上がって寝ろ。明日に支えるぞ。」
「実はお昼寝をしてしまったのでそんなに眠くないのです。」
「そんな事は知らん、体調管理も睡眠管理も自分でなんとかせねばいかんぞ。」
「分かってはいるのです、だから体を温めて眠くなるのを待ってるのです。」
女子の事は分からないが風呂にあがったら髪を乾かしたりその他もろもろで一時間はかかるんじゃなかろうか。
となればもう深夜の時間であるが。
「まあ俺はお前らの親じゃないからな。うるさい事は言わん。」
「私的にもそれが楽なのでありがたいです。」
「そろそろ俺は上がるぞ、湯あたりに気をつけるんだぞ。」
「は~い。」
最後にシャワーで体を流し脱衣所の冷蔵庫で冷やしておいた牛乳を一気に飲むとなにか達成感を感じるがとくにそんなことはない。
明日の訓練をどうするか考えねば。