「ふたり」の「他愛のない」日々 作:刃波海苔
それそれとして遅刻。
今回は地の文多めですが全体的な文字数は少ないです。
◯除夜の鐘
「明けましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします……しかし、蕎麦美味えな」
「ふふん、母直伝の特性鶏だしつゆですからね」
「……来年もこれ頼んで良いか? すごく気に入った」
「もちろんです! ていうか、好きならいつでも作ってあげますよ」
「なら、今度頼む……うん、美味い……」
「らじゃーです! ふふ……おいしい」
◯参拝
ざわざわ、ざわざわ。日を跨ぐような時間にそんなふうって、なんだか良くないイメージが有るかと思います。
でも、今日は違います。めでたい日ですから、いろいろな人が「一年」について話してます。
ありがとうと言い合ったり、いろんなことが有ったって振り返ってたり、よろしくお願いしますだったり、とにかくほんわかで、和やかで、賑やかに。
そして当の私、音重秋葉はそれはもう焦っていたりします。だって、ありがとうって言い合うとか、一年を振り返ったりするとか、来年もどうぞよろしくねって言う相手がこの場にいないからです。
彼氏ができてないから焦っている? ぶち転がしますよボケナス。彼氏どころか最面白カッコカワイイ婚約者がいるんですよ。
じゃあなんでその人が隣にいないかって言うと、云々の事情で私より先に出て、待ち合わせた場所に来ないからですね。
遅れることぐらいでそんなに心配することないじゃない、と思うかもしれませんが、私の最面白カッコカワイイ婚約者は……諸々の事情で良い意味でも悪い意味でも精神的に幼かったりするのです。なのでたまに凄いお人好しになったりします。
あとは私関係以外だと性の事情に疎かったり。
故にこう、何か如何わしいキャッチに引っかかったりとかしてないかと心配になるわけですよ。ほら、めでたい日で子供も割と出歩いているとはいえ、夜中ですから。
精神的に幼い理由ですが、別に何者かに強制的に成長させられたとか、肉体的な成長が人間より早い種族だとか、そんな鏡の世界と同じレベルのメルヒェンでファンタジーな事情では有りません。
とてもリアルで、だからこそ悲しくて恐ろしい事情が有るのです。あなたは……好き嫌いも、意思も時間も、なにもかもを奪われて奴隷のように生きてきた子供が成長できると思いますか?
まあちょっと涙が出てきたのでこの件に思いを巡らせるのはやめます。……辛いことを忘れられなくたって、代わりにたっぷり甘やかしてあげるんです。そうするって決めましたから。
「おーい!」
っと、噂をすればってやつですね。手を振る方とは別の片手に提げたビニール袋には……湯気から察するに何やら美味しそうなものが入っているようです。
「せんぱーい!」
と手を振り返しながら走り寄ると腕を広げて待ち構えてくれるので脱ぐと男らしいんだって分かる体にダイブします!
「わりいな、遅れちまって」
「なにごとも無かったみたいで良かったです……ところで、それは?」
「箸巻きってんだ。九州とか、そっちの方では良く食われるんだってよ」
「ハシマキ!」
おお、おお、この後輩、知っていますとも! お好み焼きを割り箸に巻いた、名前そのものの美味しいものだと!
「すごく美味しいんですよ、冷めない内に食べちゃいましょ! ね、ね!」
「わあってるって。ちょっと工夫してるらしいから、お前が思ってるのと違うかもしれないけどな」
ふむ、確かにあれはトッピングも重要……ですがドバドバ掛けるとなると、パック詰めで袋にってことは難しい――と言うことは。
「ん……美味えな、トッピングは全部をそこそこって注文したんだが……」
「なるほど……ソースとかも纏めて中に巻く方式なんですね、美味しいです」
まあ、こうですよね。でもこれって、トッピングを細かく調整できないって欠点がどうしても出ますよね……。
それと……一つにかかる時間だって増えてしまう。いや、実際最適解でしょうし、食べやすい上に美味しいから文句のつもりは無いですけど。
「これ、どこで?」
帰りにもう一本いただきましょう。次は沢庵と紅生姜少なめで。
「なんかさ、出店の売上で勝負してるんだってよ。子供と大人がどっちも箸巻き出しててさ……これは大人の方が出してた箸巻き」
あっ、ふーん。
◯男の願い
「先輩は何をお願いしましたか?」
礼拝のあと、秋葉はこっちに軽くもたれながらそう聞いてきたので、俺は秋葉の手を手袋越しに握って、こそこそ話をするようにして言う。
「末永く一緒にってな」
「も、もう、先輩ってばぁ! そんなの当たり前じゃないですか! ……嬉しいですけど」
いつもは白いほっぺたをさくらんぼのように赤くして喜んでくれているけど、俺の答えは本当のことじゃない。
本当は、『彼女が母でいなくても一人前の男でいられるよう』に、そう願った。
俺がやりたいことをもっと感じ取れるようにならなきゃいけないって秋葉は言ってたけど、それは本当は問題にしなくても良いし、気に病むことも無くて良いはずなんだ。
なのに、俺が親離れできない子供みたいな人間だから秋葉は自分を責めてる。
……きっとこの関係は良いものじゃない。年上の男が小さい女の子に寄っかかるようにして生きてるってことなんだから。
末永く……。そう言えるのは一人前の男になってからなんだ。
◯秘密です
「先輩、おみくじどうでしたか?」
「吉だった」
「私はですね、大吉でした!」
「おお! で、どんな一年になるって書いてあった?」
「ふふふ、秘密です」
「秘密か」
「秘密です」
◯血の「絆」
「先輩も今年から就活なんですよね……」
「……俺は、家業を継がなくきゃいけないから」
「ダメです。絶っっっっ対にダメです!」
「でも、それで困る人がたくさんいるんだし……」
「それ、すぐに継がなきゃダメなんですか?」
「一応、あいつはまだ若いからできると思うけど……」
「じゃあアレが死んでからで良いじゃないですか!」
「でも……俺って鍛冶屋仕事しかできないぜ? 頭良くないし……」
「だったら別の鍛冶屋さんに行けば良いんですよ。そうすれば、先輩は傷付かないで済むじゃないですか、嫌な記憶と向き合わないで済むじゃないですか、たかが血の繋がりに囚われずに済むじゃないですか!」
「お前……」
「だからそうしましょうよ、ね?」
「……それはできない」
「〜⁉ ドアホッ!」
◯こたつで項垂れて
「あの、さっきはごめんなさい……」
「お前は俺のこと考えてくれてるだけだろ? ……実際な、他のところで鍛冶をやるって発想、言われるまで思い浮かばなかった」
「……なにか、どうにもならない事情が有るんですよね。私と先輩が婚約したのと同じような事情が」
「……」
「なのに私、それも考えないで怒鳴って……!」
「……手は有る」
「えっ、本当に?」
「ああ。……俺だって、あんな奴と一緒に――それこそお前も住むなんて絶対に嫌だ。だからなんとかしてみる」
「先輩……!」
「泣くなよ……たぶん俺は、人に比べりゃ苦しい思いしてないっての」
「人がどうとかじゃないです、苦しみの事実は相対評価したからって、辛さがマシになるものじゃないんですから! だから、先輩が心が疲れ切っちゃうほど苦しい思いをしてきたってことは変わりないんですよ! ……だから、言わないでください。他人よりとか」
「……そうか」
「そうです!」
「……ありがとうな」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ところで今作ですが、打ち切ってリニューアルすることにしました。
理由? 才能も無いのに無軌道にやり過ぎて(才能が無いから無軌道にやり過ぎるのか?)設定と描写の矛盾とか違和感が出まくりだからですね。
て言うか今作に限らないことですが、私は未熟故に「次の一文字は一秒後の自分に任せる」方式でしか書けない人間でして、連載はそもそも無謀だったのだなと。
というわけで未完、となります。
評価投票、お気に入り登録してくれた皆様、ありがとうございました。
以下矛盾塊とかした設定。
「先輩」
本名、
実は自分の境遇に同情してれた人は秋葉ちゃんだけ。
「後輩、改め音重秋葉」
牛肉の赤ワイン煮込みをビーフシチューと言われてもスルーする人。