僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第10話

 

激闘を終えて、晴れ渡る青空を胸いっぱいに感じる7月8日(火)。

梅雨明けに伴い本格的な夏がやって来るであろうこんな日に、僕は自分の母親と学校に向かっている。

別に問題行動を起こして校長室に行くとかじゃない。三者懇談だ。

 

僕たちも実は中学三年生で来年、人生で初めての受験を経験する事になる。

今回の三者懇談は、主に進路調査。別に今の段階で完璧に決めなくても大丈夫だけど、そろそろ具体的な学校名ぐらい言えるようにしておけと言う目的だろう。

 

 

僕と母親は教室に向かって歩いていると、前から知っているお母さんとあの子がいた。

 

「あら!聡士君じゃない!」

「あ、大和さんのお母さん。ご無沙汰してます。大和さんもこんにちは」

 

どうやら僕の前の時間は大和さんの三者懇談だったらしい。大和さんは優秀だから進路とかもう決めてそうだよね。……僕も決めているけど。

 

「山手君。三者懇談後、良かったらどこか行きませんか?」

「うん、良いよ。図書室で集合しようか」

 

会話もほどほどに僕たちも時間が迫っているので大和さん親子とはお別れ。大和さんは終わった後に会うけどね。

 

 

「何?あんた、あの可愛い子と付き合ってたの?」

「付き合ってないよ」

僕の母親までもこんなことを言う。僕の周りは野次馬だらけだ。いつからこの国は遊牧国家になったんだ。

 

 

僕たちは教室に入り、先生と進路のお話をする。

僕の学校での生活態度、成績などを通知簿を見せながら説明をされる。

 

「山手はどこの高校を受験したいか決めているか?」

「僕は花咲川西高校に受験しようと思っています」

「そうか、山手なら今よりちょっと頑張らなくてはいけないけど不可能ではない。頑張りなさい」

「あの……先生、少し聞きたいことがあるんですけど」

「何かね?」

「夢を追いかけているけど行動に移せない。そんな生徒がいたら、先生はどうしますか?」

「先生もその人と一緒に出来る事をすると思うよ。ただ背中を押すだけって言うのは理不尽で無責任だからね」

「そうですよね。僕もそう思います」

「先生という職業はな、勉強を教えるだけじゃない。生徒一人一人の夢を叶えられるようにサポートする事も重要な仕事なんだ」

 

 

 

 

「お待たせ、大和さん」

「あ、山手君。三者懇談お疲れ様です」

 

僕は三者懇談が終わってから小走りで図書室へ向かった。大和さんは本を読んで待っていたみたいで、僕の姿を確認した大和さんは本を閉じた。

本をあった場所に直すらしいけれど、本棚の一番上にあった本らしく、背伸びしても届かない大和さんは小さい台にのって背伸びをする。

 

何だか危ない気がしたから大和さんの近くに向かったけど、それが正解だったんだ。

 

「うわあ!」

「わっ!……大丈夫?大和さん」

「へっ……あっ」

 

僕はバランスを崩して倒れそうになった大和さんを必死に止めたから、身体がかなり密着している。

……正直に言うね。男性諸君は怒らないで聞いて欲しいけど。

台に乗っている大和さんの方が背が高いから、僕の顔辺りにその……大和さんの胸が。それに密着どころかほぼ抱き着いていました。

 

「ジブンは大丈夫ですっ///」

「そ、それなら良かった。本を貸して?僕なら多分届くから」

 

そう言って台に上がって本を戻そうと思っていたけど、僕が大和さんにやった大胆な行動を今更恥ずかしくなった僕はわざと時間をかけて本を元に戻した。

 

「……あれ?山手君」

「どうしたの?大和さん」

「足、湿布貼ってありますけど痛めたんですか?」

「あー、うん。階段から落ちちゃって……」

 

僕は騎馬戦の時に痛めた足首をまだ内緒にしておこうと思ったから、とっさに誤魔化したんだ。今は本当の事を言ってはいけない気がしたから。

大和さんはジト目で見てきたけど、あはは……と誤魔化した。

 

 

 

 

学校を後にした僕たちは、ある場所に向かう。僕の目的地なんだけど、大和さんが居てくれたら安心だと思ったし、面白い大和さんも見れる。

 

「それにしても、山手君から楽器店に行こうって珍しいですね~」

「そうだね。実はギターを始めようかなって思ったんだ」

「おお!いいですね~ジブンもギター選び、手伝いますよ!」

 

僕がギターを始めるのは目的があるんだ。僕はどこまで弾けるようになるのかは全くの未知数だけど、やれるだけやってみようって思ったんだ。

 

 

「おお!見てください、山手君!!Gibson USAのレスポールカスタムがありますよ!黒のボディに金色のピックアップにブリッジ!!そして見た目に反してゲインで音を歪ませた時のあま~い音がギャップを……フヘへ」

「すごく高いギターだね……」

 

楽器店に入ってギター売り場に入ると、早速大和さんのスイッチがオンになった。訳の分からない事の羅列で意味は全く分からないけど、伝えたい事は凄く分かる。

例えるなら、洋楽を聴いているような感じかな。

僕には彼らの歌詞の意味が分からないけど、曲に込められた感情とか良い曲だなとか、漠然とだけど分かる。

 

2に0が五つ並んだ値段もそうだけど、大和さんの熱の入りようがこのギターの凄さを表しているのだって分かったのだから。

 

 

 

 

「……そう言う事でしたら、アコースティックギターの方が良いかもしれませんね」

「アコースティックギターって、あそこに並んでいる真ん中に穴が空いてるギターの事?」

「そうです!では早速行ってみましょう!」

 

凄そうなギターを見た後、僕は大和さんに何処でも気楽に弾けるようなギターが欲しいと伝えたんだ。すると大和さんはアコースティックギター売り場へ案内してくれた。

 

「山手君、予算ってどれくらいですか?」

「うーんと……三万円くらいかな」

「それならこのギターはどうです?このギターはボディが薄いですので初心者の方でも弾きやすいと思います」

 

大和さんは僕に合いそうなギターを紹介してくれた。僕はこのギターになぜだか愛着が湧いたんだ。

僕はボディの厚さで何か変わるの?って聞くと「ボディが厚いほど空気の入る量が違いますから、音の大きさが違うんですよ。それにですね~……」と長く、丁寧に教えてくれた。

別売りの部品をつければアンプにも繋げるから、音の大きさは調整出来ると言う事も教えてもらったのでこのギターを買うことにした。

 

 

僕は店員を呼んでこれが欲しいので精算してください、と言って店員に連れられレジに一人で向かった。

 

「あの、すみません。この紙って貰っても良いですか?」

 

僕はレジの横に置いてあった紙を手に取って店員に聞いた。

 

「はい、良いですよ。よろしければ参加してみてください」

「じゃあ、一枚貰いますね」

「お待たせしました。またのご来店をお待ちしております」

 

僕は店員からギターを受け取ってそのまま背負った。

ギターを購入すればギターケースも付いてくる。そのギターケースのポケットにレジの横に置いてあった紙を丁寧に折りたたんでから入れた。

 

 

「おお!似合いますよ~山手君」

「そう?ありがとう」

「大和さん、今日のお礼に晩御飯食べに行かない?ちょっとだけ奢るから」

「良いんですか?」

「もちろんだよ」

 

 

僕はギターを背負ったまま大和さんと二人でファミレスに向かう。

今日から僕と背中を預ける仲間になったギターの事も大和さんから聞いておきたい。僕と一緒に歩いて行こうね、ギター。

 

 

「あ、そう言えば山手君」

「どうしたの?大和さん?」

「ピックとか、ストラップ、交換用の弦とか買いましたか?」

「……なんの事?」

「あ、はは……」

 

最低限ピックはあった方が良いらしい。

僕たちはまるで、小さい頃によく遊んだ吹き戻し笛のように楽器店を行ったり来たりしたんだ。

 

 




@komugikonana

次話は12月14日(金)の22:00に投稿予定です。

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今日のお話で聡士君がギターを購入しましたね。13話で何に使うかが分かりますが、そこから新たな局面に入っていきます。
ちなみに1話で聡士君は「友達が少ない」「学校になんて行っても格段面白い事なんて無い」と言っていた事を覚えていますか?ですけど9話まで、今話もですけど学校を楽しんでいますね。聡士君の日記のモットーは……。
「僕はたとえどんな小さな一歩でも前に進めたら進歩なんだって思う」

では次話までまったり待ってあげてください。


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