僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第11話

 

真夏のうなるような暑さも、セミたちの大合唱もひとまず休憩を取る8月5日(火)時刻は20:00。

僕は今日も自室でギターの練習をしている。アコースティックギターはコードを弾くのが主な演奏方法らしく、ネットで調べてコードを弾いている。

今は難なくこなしているけど、指が痛くなる。そしてFコードの指が押さえられない。

 

けど、これさえクリアできれば曲が弾けると考えるとやる気も出るんだ。僕は10月までにスムーズに演奏が出来るように頑張ろうと思う。

 

「ブーッ、ブーッ」

 

僕の携帯が夏の夜を怖がっているかのように震えた。携帯を開くと、僕もオバケを見たかのように固まってしまったんだ。

携帯に着信が入っていて、尚且つ相手が大和さんだったんだ。

 

「もしもし」

「あ、山手君。今時間ありますか?」

「うん。大丈夫だよ。……どうしたの?こんな時間に」

「あのですね、良かったらですけど……」

「何かな?」

「明日、私とお祭りに行きませんか?」

 

僕は即答で行くことを大和さんに伝えた。電話を切った後、僕の胸の鼓動が時計の秒針よりも速く動いていたんだ。

 

そのまま練習に集中できないから今日は辞めてベッドに寝転んだけど、にやにやが止まらなくて年頃の女子みたいに布団の中で悶えた。

 

 

 

 

夏の鬱陶しい暑さも気にならず、セミたちのコーラスも小鳥のさえずりもみんな嬉遊曲のように聞こえる8月6日(水)。

昼をギターの練習で費やした僕は、晩御飯を食べないと言う趣旨を母親に伝えてからお祭りに向かう準備を行う。

 

 

僕は寝癖が無いかだけをしっかりと確認して、財布をかばんに詰めて集合場所である大和さんの家に向かう。

心臓の音と同じくらいのステップで僕は歩を進めていったから、約束した時間より二十分も早く着いてしまった。

僕は大和さんの家の横で携帯を触って待っていると、ドアが開く音がした。

 

「あら、聡士君いらっしゃい。麻弥を待っているのでしょ?」

「あ、そうです。少し早く来てしまって」

「家に入っておいで。外は暑いから」

 

僕は家から出てきた大和さんのお母さんに進められ二度目となる大和家の門をくぐった。

僕はリビングに座らせてもらっておまけに冷たいお茶まで出してもらった。

 

「麻弥はもうちょっと準備に時間がかかるから待ってあげてね」

「もちろんですよ。それより……」

「あら、何かしら?」

「僕たちがお祭りに行くこと、知っているんですね」

「私が行っておいでって助言しておいたの!感謝してよね~」

「あ、ありがとうございます……」

 

どういう経緯で助言してくれたのかは分からないけど、大和さんと二人っきりでお祭りに行けるのだから本当に感謝しかない。

……二人っきりでお祭り。それってデートっぽくないか。

冷たいお茶を飲んでいるのに冷や汗が止まらない僕に、更なる追い打ちが来たんだ。

 

「聡士君はいつ麻弥と結婚するの?」

 

僕は飲んでいたお茶を勢い余って鼻からぶすっと出してしまった。鼻から飲み物を出すなんて小学生の牛乳以来で鼻がむずがゆい。

 

 

「スミマセン、お待たせしましたっ!」

 

僕が鼻をマッサージしていると二階から大和さんが来たから、待ってないよってお約束のセリフを言おうって思ったけど、そのセリフは僕が飲んだお茶と一緒に胃まで流れていったらしく僕の口にはもうその言葉は見つからなかった。

 

目の前にいる大和さんは浴衣姿だったんだ。明るい青色をベースに、白色の花柄模様の浴衣は彼女にぴったりだった。

手に持っている緑色を基調とした巾着に付いている鈴がちゃりんと心地よい音色を鳴らす。

 

「ど、どうですか?似合っていますか?」

「に、似合ってるよ。すごく」

 

僕と大和さんは同じタイミングで顔が赤くなってしまって、俯いてしまった。

それを見た大和さんのお母さんから「こんな甘い空間にいたら溶けそうだから早く行ってきなさい」と言われたんだ。

 

 

 

 

「スミマセン、浴衣は慣れていないので歩くスピードが遅くて」

「気にしないでよ。その分大和さんとゆっくり話が出来るから」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

僕たちはゆっくりと祭り会場まで歩いて向かう。僕はこのような時間がこれからもずっと続けば良いなって叶う訳もないお願いを心の中でお願いする。

三者懇談の後、よく考えたら約半年で僕たちは卒業するんだ。半年は長いようで短い、夜道のトンネルのようなものだ。出口が見えないから長く見えるけど、車で走ってみたらすぐに外に出るような感じ。

 

 

「大和さんはどこの高校を受けるか考えてる?」

 

僕は大和さんにこんな事を聞いた。同じ高校だったら良いねと言う少しの希望もあるけど、それ以上の意味を含む言葉。

 

「ジブンは羽丘女子を受験しようって考えています」

「……。そっか、お互い頑張ろうね」

 

羽丘女子って偏差値も高いしこの辺りでは有名な学校。女子高だから大和さんと同じ高校生活って訳にはいかない。

だから僕は、高校生になっても忘れないような半年を過ごしたいんだ。

……大和さんと一緒にね。

 

 

「あ、人が多くなってきたね。もうすぐ会場かな?」

「そうですね。少しずつですが屋台も見えてきましたよ」

「僕、ちょっとお腹空いたな」

「屋台をゆっくり回りましょうか」

 

僕たちはまだお祭り会場の入り口にも入っていないのに気分はもうお祭り会場の中。現実と想見の乖離を楽しみつつ心を躍らせながらお祭り会場に足を踏み入れる。

 

 

子供も大人もみんな同じ表情をしている会場内は、嬉々とした喧騒がこだまする。

僕は大好物の屋台を見つけた。

 

「大和さん、あの屋台に寄っても良い?」

「もちろんですよ!えっと……唐揚げですか!」

「そう!僕は唐揚げが好きなんだ」

 

早速屋台に向かって三百円で唐揚げを購入した。このスパイシーな香りが食欲をそそって、今にもお腹が音をあげそうだ。

僕は出来立ての唐揚げを爪楊枝で刺してぽいっと口の中に放り込む。

 

「あ、これうまいわ!大和さんも食べてみる?」

「遠慮しておきます。あ、はは……」

「遠慮しなくても良いよ」

「い、いえその……爪楊枝が一つしかありませんから」

 

大和さんは多分、間接キスになるのが恥ずかしいのかもしれない。箸とかペットボトルなら分かるけど爪楊枝だし。

僕は少しだけイタズラしたくなって、適度な大きさの唐揚げを爪楊枝で刺して大和さんに近づけてみたんだ。

 

「爪楊枝なら僕の口に触れてないし、大丈夫だよ。ほら、大和さん」

「ええ!?わ、分かりました!覚悟を決めますよ!」

 

僕はこの時にやっと気づいたんだ。大和さんは間接キスで恥ずかしがっていた訳では無かったと言う事に。

僕が爪楊枝を持っているからもし大和さんに食べさせてあげるなら方法は……。

 

大和さんは目を閉じてゆっくりと口を開く。

僕の手が震えて唐揚げがぷるぷるしている。いや、だって何故か今の大和さんはすごく色っぽいのだ。これが大人の階段なのかもしれない。

 

 

僕は優しく大和さんの口の中に唐揚げを置いた。

大和さんは口に手を当てながらゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。

 

「山手君……。大胆ですよ~」

 

頬を赤らめ上目遣いでそう訴えてくる大和さんの方が僕からしたら大胆だなって思った。

 

 

 

 

その後は、何件か屋台を回った。ビー玉入りのラムネとか、ベビーカステラとか。

楽しい時間はあっという間に過ぎるから、気が付けば空は暗くなっていたんだ。

 

「あの、山手君」

「何かな?」

「この後、花火が上がるんですよ!観に行ってみませんか?」

「でも、この時間帯ってどこも人でいっぱいじゃないかな?」

「少し離れるんですけど、公園でも見れますよ」

「そうなんだ!じゃあ、行ってみようか」

「はい!」

 

 

僕たちはこの後、賑やかなお祭り会場とは正反対の公園に足を運んだんだ。

この時の大和さんはどうしてか、何かを決心したような顔になった気がした。

 




@komugikonana

次話は12月17日(月)の22:00に投稿予定です。

新しくこの小説をお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
Twitterをフォローしてくれた方もありがとうございます!

お気に入り数が150に達しました!かなり速いペースで私自身ビックリしております。ありがとうございます。

連続ランクインの事なんですけど、途切れました。1話から9話まで9回連続だったんですけど、第10話は載りませんでした。
ともあれ、9回も連続でランクインと言う夢みたいな体験をさせてくれた読者のみなさん、ありがとうございました!
私自身ランキングに載せるために小説を書いているわけではありませんので、これからもいつも通り連載していこうと思いますので応援よろしくね。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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