僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第13話

お世話になったご先祖様も牛に乗ってゆっくりとあの世に戻っていき、またこの世にいる人間が社会を動かしていく日に戻った8月18日(月)。

 

お昼過ぎに僕は、大和さんの家に向かっているんだ。

理由はお土産を渡すため。僕の実家は関西にあるからお盆期間はずっと関西にいたんだ。

 

ただ今日僕が大和さんの家に行くよ、って彼女には伝えていない。サプライズにお土産を渡せば面白いかもしれないって思ったから。

……と言うのは嘘で、実は初めて大和さんとキスをしてからお互い恥ずかしくなってしまって連絡すらお祭りの日から取っていないんだ。

 

 

このまま連絡を取らなかったら余計に気まずくなってしまうって思ったから少し大胆な行動に出てみた訳だけど。

 

ピンポーン

 

僕は大和さんの家の前に着いてインターホンを鳴らす。何やら家の中で誰かが動いたような気配がするから大和さんが出てくるのかなって思っていた。

 

「はーい……あら?聡士君?」

「こんにちは。突然ですみませんが、大和さんいますか?」

「麻弥?今は出かけていていないわよ」

「あ、そうですか。……いきなり押しかけてすみません」

 

また楽器店に行って新しく入荷した機材とか機材カタログを見に行っているのかもしれない。しょうがないから時間を改めて出直そうかな。

 

「せっかく来たんだし上がって良いわよ、聡士君」

「迷惑じゃないですか?」

「気にしなくて良いのよ。麻弥が帰ってくるまでいてくれても良いから」

 

 

僕はお母さんに連れられてリビングに座る。何回もこの家に来ていて少しづつ慣れてきているのが怖いと感じる。

今日は紅茶を出してくれた。

 

「あの、これ良かったら受け取ってください」

「あら、クッキーじゃない!ありがとうね」

 

僕はお土産であるクッキーを渡した。僕は紅茶をすすっていると、僕の前に大和さんのお母さんが座って向かい合わせになった。

所々大和さんと似ている部分もあるから何だか緊張する。

 

「ふふっ。聡士君には話してみたいことがたくさんあるのよね~」

「ははは……」

「じゃ、まず一つ目!麻弥とキスした?」

「ごほっ!」

 

僕は飲んでいた紅茶を全力で飲んでしまいむせてしまった。もう鼻から出したり、吹いてしまったりしてはいけないから飲み込んだけどこれはこれでしんどい。

むせた事と、否定の出来ない事で顔が熱くなっていく。

 

「あら、その表情!……もうしたわね」

「言い方がいやらしいですよ!」

 

僕の周りは精神年齢が中学生ぐらいの人しかいないのかもしれない。

……母親勢以外は全員中学生でした。

 

「じゃ、二つ目!」

 

大和さんのお母さんはもう次の聞きたい事にシフトしていたから僕は速攻で紅茶を机の上に置いた。もう何を聞いてきても驚かないように色々想定していたんだ。

例えば「結婚はいつするの?」とか、「私の事はお義母さんって呼んでも良いのよ!」とか、「子供は何人欲しいの?」とか。

 

だけど、僕の耳に届いた言葉は想定していたものとは全く違っていたんだ。

僕は、ピーマンを収穫せずに置いておくと緑色から赤色になる事を初めて知った時のような感情になった。

驚きと言うか、呆気にとられたと言うか、そんな感じがしたんだ。

 

 

「麻弥の事、気にかけてくれてありがとうね」

「えっ?」

「多分聡士君と出会ってすぐくらいかな?麻弥が笑顔でいることが増えたのよ」

「は……はぁ」

「去年の12月だからもうすぐ一年前の事だけどね、ある出来事がきっかけで少し元気を無くしてたの」

 

僕はUFOキャッチャーの商品が落ちそうで落ちない、そんなむずがゆい気持ちになった。

僕は今の大和さんしか知らない。その出来事について聞きたいけど聞いてもいいのかなって思ったんだ。

でも、僕は。

 

「あ……あのっ!」

「どうかした?聡士君?」

「僕に教えてもらえませんか?ある出来事について」

「う~ん……」

「もし今もその出来事をまだ引きずっているなら、僕は助けてあげたい!」

「ふふっ」

 

そんなの自己満足かもしれない。大和さんはもうその事を触れて欲しくないって思っているかもしれない。でも僕は助けてあげたい。

そして大和さんに次の一歩を進んでほしいんだ。

 

「聡士君ってかっこいいわね。私が同い年なら放っておかないわ」

「そ、そんな事ありませんよ」

「でもね、その事を私からは言わないわ。麻弥から直接聞いてみて?」

「そうですね……」

「ただし!今はタイミング的に良くないから、もっと仲良くなってから聞いてあげて」

「分かりました」

 

僕は決心したんだ。その出来事を大和さんから聞き出すのではなくて、大和さんの口から聞けるような、そんな心から信頼してくれるような関係になるんだって。

 

 

 

 

僕がその出来事について聞いて十分ぐらい経った時に、家のドアが開いて誰かが入って来た。

 

「あ、あれ!?山手君!?どうしているんですかっ!」

「こんにちは、大和さん」

「連絡とか貰いましたっけ?」

「ううん。突然お邪魔しちゃって……」

「そ、そうでしたか!気にしなくて結構ですからっ!」

 

何だかとても焦っている大和さんを見るのは新鮮で面白い。そりゃ家に帰ったら突然クラスの男子生徒がいるんだから焦るよね。

実は、大和さんに話したいことがあるのもここに来た目的の一つにあるんだ。

 

「大和さん、ちょっと話したいことがあるから大和さんの部屋にお邪魔しても良いかな?」

「え?話……ですか?構いませんよ。ジブンも山手君に用があったので」

「じゃあ、行こうか」

 

僕は大和さんの部屋にお邪魔する事にして話したい事を伝えようとしたのだけど、冷やかしの言葉が来たんだ。

 

「あら、私は耳栓でもしておくから遠慮なく……ね?」

「「何もしませんよ!!」」

「わっ!息ぴったりね。ふふっ」

 

 

 

「あ、はは……スミマセン。ジブンの母が変な事を言って」

「ははは……僕もう慣れたかもしれないや」

 

僕たちは大和さんのベッドに腰掛けた。部屋全体がほんのりと大和さんの香りがして、僕の肺はいつもよりたくさん仕事をしているような気がする。

心なしか、お見舞いに行った時より二人の距離が近いように感じたんだ。

 

「それで、大和さんが僕に用があるって何かな?」

「はい!これを渡したかったんですよ~」

 

そう言って大和さんから財布を渡された。え?これって……。

 

「これ、かばんと一緒に無くした僕の財布だ!どうして大和さんが持っているの?」

「実は、お祭りがあった日の翌日から交番に落とし物申請をしまして、今日電話があったのでさっきまで交番に行ってたんですよ」

「そうなんだ……。ありがとう!拾ってくれた人にもお礼を言わなきゃね」

「それが……。拾ってくれた人は名前も言わずに去ったみたいなんです。黒髪で釣り目が特徴で白の七分袖シャツに黒色のズボンの男性の方と警察官の方が言っていました」

 

僕は大和さんに財布を渡してもらった時から、心が熱くなっていたんだ。もしかしたら今日まで大和さんは僕の財布を探してくれていたのかもしれないって思ったから。

僕はそんな大和さんに惹かれているのかもしれない。

 

「それで、山手君はジブンに話したい事って何ですか?」

「あ、うん。大和さんにお願いがあるんだ」

 

僕はすーっと深い呼吸をしてから大和さんの方を向いた。

 

 

「大和さん。ハロウィン祭の出し物で僕と一緒に演奏してください!」

「ええ!?ハロウィン祭で、ですか!?」

 

僕の言ったハロウィン祭と言うのは他の学校で言う文化祭のようなもので、僕たちの中学では10月31日にクラス内展示や出し物をする事が出来るんだ。当日は好きに仮装しても良いと言う、我が中学では数少ない良イベントなんだ。

 

大和さんはちょっと苦い顔と言うか、渋っているような顔をしていた。

だから僕は、結論を急がせるのは良くないって思った。

 

「大和さん。答えはまだ先で良いよ」

「で、でも……それでは迷惑をかけてしまいますから……」

「気にしないで。イエスかノーか、どっちでも良い。ギリギリまで僕、待つから」

 

 

 

もし大和さんと演奏が出来なくても僕は、大和さんに届くように気持ちを込めて楽器を弾くから。

僕はそう言い残して、大和さんの家を後にしたんだ。

 

気持ちと言うのは、大和さんに向けてのエール。僕の心に秘めた気持ちはもうちょっと後。

僕はこの時、楽器店で貰った紙の内容を頭に浮かべた。

 




@komugikonana

次話は12月21日(金)の22:00に投稿予定です。

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評価9と言う高評価をつけていただきました 時雨皆人さん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました steelwoolさん!
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この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!

主人公の聡士君がアコギを購入した目的は文化祭(ハロウィン祭)で演奏するため、と判明しましたね。彼が麻弥ちゃんと一緒に演奏したいと考えている理由は後々明かされます。
今話は結構重要なネタが入ってますね。ちなみに私のちょっとした遊び心も入れてみました。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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