僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第15話

 

テレビを見ていると、お天気のお姉さんが台風情報をお茶の間に伝える日が毎日のように続く9月11日(木)。

台風は僕たちの敵だなって最近思うようになってきた。最近の台風は絶対に土曜日日曜日を狙って直撃してくるから、休日遊びに行けないのに月曜日になれば台風はきれいさっぱり通過してるから学校はあるんだ。

証拠に今週の日曜日に台風が直撃して月曜日の午前三時には台風一過らしい。

 

 

今日からその情けない台風の影響により雨が降っていて、受験生の僕らのオアシスである体育まで中止になってしまい男子は自習の時間。女子は体育館で教室にはいない。

僕は勉強。……といっても楽譜を見ているんだけど。ハロウィン祭で僕と大和さんが演奏する曲の楽譜だ。

今日の放課後、一度大和さんの家で合わせてみようってなったから楽譜を見ておさらいをしている。

 

「なぁ山手!ちょっと手を貸せ」

 

自習時間なんだけど監督をする先生がいないから誰一人勉強をしていない雰囲気の中、僕は桃谷に何やらお願い事をされた。

 

「また黒板消しを隠して授業妨害とかする気?」

「ちげーよ!あの先生隠され慣れて黒板消しを持参してくるようになったからもうしねーよ」

「じゃあ、何?」

「今回は大掛かりなミッションなんだぜ?」

 

桃谷の周りには複数人の男子が集まり始めた。すごく嫌な予感がする。

 

「女子の着替えを覗くぞっ!」

「僕はそんな事やらないよ」

「そうはいかねぇぞ!もう女子更衣室にお前の筆箱を置いて来たからな!」

「なっ!」

 

机の上を見ると、さっきまであった僕の筆箱が本当に無くなっていたんだ。こいつらは目的の為なら手段を選ばないらしい。

 

「観念しろ!お前は大和の裸を見慣れているかもしれないが、俺たちはそうじゃないんだ!」

「すごく誤解をしてるよ……」

 

 

いつもは待ち遠しいはずのチャイムの音が鳴る。こんなにもチャイムの音が憂鬱に感じたのは義務教育人生で初の快挙だ。

僕は四人の男子生徒の先頭に立ってとぼとぼと歩く。女子が着替え中の更衣室に向かって。

 

桃谷の作戦は「山手は普段覗きとかしないタイプだから筆箱を取ってほしいと言えば女子はドアを開けるっ!」との事。

 

「よし、山手!ノックをしろ!」

「わ、分かったよ」

 

トントンとドアを叩いてから、名前と筆箱を取ってほしいと伝えた。

正直、こんなのでドアが開くわけないと思っていた。「着替え終わるまで待ってて」って言われるのが普通だと思っていたから。

だけど、僕の考えとは裏腹に更衣室のドアが開いたんだ。

 

 

「この筆箱ですか?山手君」

「や……大和さん」

 

ドアの隙間から顔だけひょこっと出した大和さんが出てきたんだ。下の方を見ると筆箱も同じように出てきている。

何だか僕は好きな女の子が自分以外の男と話しているようなもやもやした気分になった。もし今の大和さんが下着姿だったら、桃谷たちに見られてほしくないって気持ち。

 

だから僕は、筆箱だけ大和さんから貰ってすぐにドアを閉めることにした。

 

 

 

しかし、そうは問屋が降ろさなかった。

 

僕はものすごい勢いで桃谷に吹っ飛ばされて、残りの男子たちがドアを全開にした。

この後聞いたんだけど、女子生徒全員がまだ体操服姿だったらしい。桃谷たちが張り切りすぎてチャイムが鳴ったと同時に更衣室に行ったことが敗因だ。

 

僕たちは放課後、生徒指導室に向かう羽目になった。

 

 

 

 

「はぁ~……やっと終わった」

 

僕はやっと生徒指導室から解放された。時計を見るともうすぐで6時になりそうだから約2時間こってり絞られた事になる。

生徒指導の先生曰く僕が止めるべき立場なのに止めなかったから一番悪いみたいな事を言われて、何故か発起人の桃谷より怒られてしまった。

 

生徒指導室に向かう前に大和さんに先に帰ってて、と伝えておいて正解だった。

雨が降りしきる中、僕は下駄箱に向かってすぐに帰ろうとした。

 

下駄箱に到着した時、僕は急に重力の強い星に着地したかのような気持ちになったんだ。

僕の動きが止まる。

 

「あ、山手君!ずいぶん怒られてしまったようですね……」

「大和さん!?なんでいるの?遅くなるから先に帰っててって言ったのに」

「図書室などで勉強していたらすぐ時間が経ちますから、遅くなるなら山手君と帰れるって思いましたから」

「そ……そうなんだ」

「それに、今回の件での山手君はある意味被害者ですから、落ち込んでいるかもしれないって思ったんで待ってたんですよ?」

 

あれ、おかしいな。僕はまだ下駄箱の前にいるから校舎内のはずなのに僕の頬を冷たい水が伝ったんだ。雨漏りでもしてるんじゃないかな。

 

「ええっ!?どうして泣いているんですかっ!?」

「何でもないよ!ほらっ、早く帰ろっ」

「あ、はい!」

 

 

 

「せっかくですし、山手君さえ良ければこの後予定通り一度曲合わせしてみませんか?」

「もう6時だし、大和さんのお家の人にも迷惑じゃない?」

「ジブンの母なら大丈夫ですよ。何故か山手君の事気に入っていますし」

「そっか。じゃあ言葉に甘えてやってみようか」

 

帰り道にそんな提案を大和さんが出してくれたから、僕は一旦家に帰ってギターを背負って大和さんの家に向かった。

 

夕ご飯の時間も近いこんな時間にもかかわらず、大和さんのお母さんは嫌味も一切言わず心から歓迎してくれた。僕は涙が出そうになったけど、こらえた。

 

大和さんの部屋にお邪魔すると、彼女は部屋に置いてある電子ドラム(シンバルなどがゴムみたいなもので、電気によりドラムの音を出す)をセッティングしていた。

その間に僕はギターを取り出し、チューニングをしていた。

 

「山手君、少しチューナーを借りても良いですか?」

「別に良いよ、はい」

 

僕は大和さんにクリップチューナーを渡した。電子ドラムは生ドラムみたいにチューニングなんてしなくても良いし、そもそもドラムのチューニングをクリップチューナーなんかでは出来ないはずだけど。

 

「クリップチューナーを指に付けて……フヘへ」

 

大和さんはチューナーを指に付けてにやにやしている。

ギターをやっている身としてとても気持ちが分かるからそっとしておいてあげた。きゅっと指に挟んだ時の心地よい圧迫感がくせになるんだよね……。

 

 

「さて、やってみましょうか!」

「うん。いくよっ!」

 

僕の拙いギターと大和さんの完璧なドラムが合わさる。

演奏する曲は名曲である「空も飛べるはず」。コード進行が簡単で初心者でも弾けると言う理由もあるけど、僕は歌詞が好きだからこの曲にしたんだ。

 

「うーん……山手君少し歌いづらそうですね」

「そうなんだ。ちょっと原曲キーではしんどいかな」

「では、キーを下げて歌ってみるのはどうでしょうか?」

「なるほど……。たしかカポタストをギターに付ければ良いんだよね?」

「そうですっ!」

 

僕たちは一度合わせるだけと最初は言っていたけど、何回も何回も大和さんと演奏した。一人でやるより数倍も面白く感じて、音楽が古くから愛される理由が分かったような気がした。

 

 

「お疲れさまでした。山手君、ギター始めてばかりなのに上手でしたよ~」

「ううん。もっと練習しなきゃ大和さんの正確なドラムに失礼だよ」

 

僕はギターの後方付けをしてから、電子ドラムの方付けも手伝った。思っていたより配線類がとても多くてびっくりした。もっとコンパクトだと思っていたから。

この後は時間も遅いからもう解散、なんだけど。

 

「大和さん」

「どうかしましたか?」

 

僕は大和さんを包み込んだんだ。簡単に言えばハグをした。

大和さんはかなり驚いていたけど、こんな僕を受け入れてくれたみたいでそっと背中に手を回してくれた。

 

「大和さん、今日はありがとう」

「ど、どうしたんですか?急に」

「僕を心配してくれて、僕が戻ってくるまで学校で待っていてくれた事」

 

僕は生徒指導室で怒られている時、僕もしっかり止めなかったのは悪かったけどそこまで怒られなくても良いんじゃないか、って思っていた。僕だけが一番の悪者扱いだった。

だけど、大和さんは僕の味方で居てくれて。

 

大和さんは図書室で時間を潰していたというのは嘘だと思う。だって僕がいつ終わるか分からないから最悪すれ違ってしまう。

だからずっと、下駄箱の前で待ってくれていたんだと思った。

 

そう思ったから、僕はあの時涙を流したんだ。

 

 

だからありがとう、大和さん。

 

 




@komugikonana

次話は12月26日(水)の22:00に投稿予定です。

新しくこの小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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クリスマスイヴの夜ですね!私はギターで山下達〇さんのあのクリスマスソングを弾くって言うのが毎年の恒例行事です(笑)みなさんは素敵なクリスマス、過ごしてくださいね。
今年はアコギで弾いてやろう。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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