僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第16話

9月も終わって残っていた暑さもどこかに身を潜め、本格的に秋の気配が漂い出した10月17日(金)。

なんだかんだ言って今年も残すところあと二ヶ月と時の経つ速さに驚嘆しつつ、僕たちは開催から二週間と迫ったハロウィン祭の出し物申請に生徒会室へやって来ている。

 

10月ともなるとさすがに朝夕は肌寒くなってきており、午後4時30分の廊下には生徒に変わって冷たい風がたくさん歩いている。

隣を歩く大和さんは来ているセーターに手を隠しながら歩いていて、この子の萌え袖姿は様になるなって思った。

 

 

生徒会室であらかじめ記入しておいた申請書を生徒会長に渡して僕たちはある場所へ向かった。

僕は緊張でガチガチなんだけど、大和さんは嬉々とした表情を浮かべている。

 

 

「さて、到着しましたよ!……まだ迎えが来ていませんが」

「うん。でも送迎バスが出ているなんて知らなかったよ」

 

僕たちは駅前に来ている。向かう先は音楽スタジオ。

僕にとっては人生初のスタジオでの練習だからかなり緊張している。大和さんは多分何回か使用しているんだろうなぁ。

 

「あ、あの車ですっ!行きましょう、山手君」

「う、うん」

 

送迎バスって聞いていたからバスが来るって思っていたけど、一般の中型車にスタジオのステッカーが貼ってある車だった。

バスの運転手の人はとても若く、スタジオのスタッフの方なのかもしれない。

 

「二人で音楽グループやってるの?」

「いえ、ジブンたち文化祭の出し物で演奏するんですが、その前にドラムを叩いておきたくて」

「へぇ~」

 

バスの運転手さんは気さくに僕たちに話しかけてくれる。音楽をやっている人って意外と社交性があるのかもしれない。

 

「カップルで演奏なんて良いじゃん。恋の歌でも歌うの?」

 

僕たちは同時に顔を赤くさせる。どうしてみんな僕たちをカップルとして見てしまうんだ。僕たちの表情をバックミラーで確認したらしい運転手さんはニヤッとした。

 

「初々しいね。お願いだからスタジオをラブホテル代わりに使わないでね?掃除するの大変だから」

「「そんな事しません!!」」

 

 

 

運転手さんのいじりに耐えながらようやくスタジオに到着した。バスで10分って聞いていたけどそれより長く感じて、この運転手さんは僕たちをからかう為にわざと遠回りしているんじゃないかって思った。

 

受付を済まして僕たちは使う部屋の前に来た。ドアを開けようとすると、思ったよりも重たくて思わず両手で開けた。

 

「わぁ……!」

 

僕はテレビでよく見る有名人を初めて生で見たような気持ちになった。部屋はかなり狭いけど、音楽番組で見た事があるような大きなアンプやスピーカーが置いてあってここで練習すると思うと武者震いした。

 

「マイクとか周辺はジブンが用意しますので、山手君はギターのチューニングをしておいてください」

「分かったよ。ごめんね、色々してもらって」

「いえいえ、ジブンが楽しいからやっているだけですから」

 

僕がギターのチューニングを終えるといつの間にかマイクスタンドが僕の前に現れていて、大和さんはギターアンプの前で何やらガサゴソしている。

 

「これでよしっと……。山手君、これをギターに付けてください」

「えっと、この丸い穴に付けるのかな?」

「そうですっ!これをつければアンプからアコギの音を出せるようになります」

 

僕は大和さんから貰った黒い機材(ピックアップと言う)をギターの中心部にある丸い穴に付ける。ネジで固定するタイプらしく、一緒に渡されたドライバーを使って固定した。

そしてアンプの電源をオンにしてボリュームのつまみをあげていくと、アンプから音が鳴って何だか新鮮な気分になった。

 

「では、一度本番を想定して演奏してみましょうか」

「うん。じゃあ、大和さんお願い」

「はいっ!」

 

カンカンカンと三回ドラムスティックを叩いて音を出し、そのリズムで演奏を始める。

いつも練習をしていたし、何回か大和さんと会わせた事もある。

 

だけど僕のギターの音がアンプを通し、僕の歌声がスピーカーから出てくる事に慣れていなくてあまり上手くできない。

それに電子ドラムと生ドラムでは迫力も違う為、頭がこんがらがってしまった。

 

「ごめん、上手くいかなかった」

「初めてマイクも使いましたし、スタジオに慣れていませんから仕方ないですよ」

「もう一回しよう」

「あ、待ってください」

 

大和さんは携帯を取り出して使っていないギターアンプに変換を使って接続した。それとスタジオの真ん中にボイスレコーダーを置いた。

携帯からはアンプを通してメトロノームの音がピッピッっと流れる。

 

「さっき合わせた時、山手君のリズムがバラバラでしたのでメトロノームに合わせてやってみましょうっ!メトロノームを意識してみてください」

「そうだね。分かった、やってみるよ」

「それと本番を想定していますが、練習ですからもっとリラックスしてください」

 

もう一度大和さんの合図から演奏が始まる。僕はメトロノームの音に合わせて足でリズムを取りながらギターを弾き、歌う。

狭い密室で僕の歌が響く。たしかにメトロノームを意識しただけでさっきより上手く合わせられていると実感して、リズムの大切さを学んだ。

 

それと僕にちょっとした案が頭にぽっ、と浮かんだ。

 

「さっきより上手くなりましたね。さすがですっ!」

「大和さんのお陰だよ」

「一度メトロノームを切ってみましょう。これでグダったら次からメトロノームを使って練習すれば良いですから」

「なるほどね」

「ジブンのドラムをメトロノームだと思ってください。そうすれば大丈夫だと思います」

「分かった。……ねぇ大和さん」

「はい?何ですか?」

「大和さん、サビ一緒に歌わない?」

「ええっ!?ジ、ジブンも……ですか?」

「そう!やってみようよ」

「ジブン、あまり歌は上手じゃないですよ……」

 

そう言いながらちゃんとドラムの横にマイクスタンドを置いて座りながらマイク位置を調整する大和さんは優しい。

 

「あー……。マイクオッケーです。時間的にラストですねっ!」

「よし、最後頑張ろう!」

 

 

 

 

一時間のスタジオ練習が終わった。

大和さん曰く「スタジオでは終了五分前には完全に退出すると言う暗黙のルールみたいなのがあるんです」らしいから、僕たちは余裕を持って十五分前に終えてゆっくりと片付けを行った。

 

行きと同じ運転手さんが僕たちを駅まで送ってくれた。帰りはちゃんと「文化祭頑張れよ」とエールをくれた。

 

「山手君、少しで良いのでジブンの家に来てもらえませんか?」

「良いけど……どうして?」

「これを聞いて今後の練習を考えましょうっ!」

 

大和さんはかばんからボイスレコーダーを取り出した。このレコーダーには僕たちが演奏した音を録音してあり、客観的に良い部分と悪い部分を見つけるらしい。

 

 

僕たちは大和さんの家に着いて、早速レコーダーを再生する。

 

「山手君、全体的にリズムが走っていますね」

「ちょっと速いって言う事?」

「はい。家で練習する時は原曲では無くてメトロノームでやってみてください。携帯のアプリで無料でも取れますから」

「了解。今日からその方法で練習してみるよ」

「スタジオ練習でも回を重ねるごとに上手くなっていますから山手君なら出来ますよっ!」

 

僕はありがとう、と言って頭にメモをする。

それと、今日の最後に合わせた音を聞いて僕はお願いをする。

 

「大和さんの歌声、きれいだし僕の声とちゃんとハモってるや」

「そ、そうですか?」

「うん。本番もコーラス入れてくれないかな?大和さん」

「わ、分かりました。やってみますっ!」

 

 

僕次第だけど、もしかしたら質の高い演奏が出来るかもしれないってこの時思った。

だから僕は今日から猛練習をする事にしたんだ。ギターも、歌も。

 

絶対に良い演奏をして、笑顔で終えようね。大和さん。

 




@komugikonana

次話は12月28日(金)の22:00に投稿予定です。
この小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
Twitterもやってます。興味があれば覗いてみて下さい。

評価10と言う最高評価をつけていただきました 来夢 彩葉さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。 本当にありがとう!!

25日のクリスマスの日にこの小説が日間ランキングの26位に入っていました。これは読者のみなさんからの素敵なクリスマスプレゼントですね。ありがとうございました!!

感想もお陰様で盛り上がっております!気楽に感想を書いてくださいね。
「麻弥ちゃんも主人公とのお話をお母さんと良くするの?」など、ちょっと気になるような事を書いていただいても大歓迎ですよ!

では、次話までまったり待ってあげてください。

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