僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第18話

目を閉じれば、ジャックオーランタンの足音が近くで聞こえてきているような雰囲気と、明日の為に仮装やお菓子を買い漁り今にも明日へ飛んでいきそうな舞い上がった気持ちが街全体を支配する10月30日(木)。

 

今日の授業は午前で終了し、午後からハロウィン祭の準備をクラスで行う。

僕たちのクラスは小さいシールで作られた大きなかぼちゃのモザイクアートを一つ飾ると言う中学生らしい盛り上がりに欠ける物を展示する。

 

中学生レベルの文化祭では屋台は出せないらしい。その楽しみは高校に行ってから、と言う事だと思う。まだ文化祭があるだけ喜ばなくてはいけない。

 

 

ともあれ僕たちのクラス展示はクラスの中心に位置する人達に任せておけば出来るので、その他の人達はすぐに帰る。

僕と大和さんはする事があるから学校に残っているんだけどね。

 

「ジブンたち、出番が最後なんですね……」

「そうみたいだね。僕たちが最後を飾るんだね」

 

僕たちは出し物を行う人達で集まる集会兼リハーサルの為に体育館にいる。

生徒会の人から渡された出し物の順番が書かれたプリントを手に取りながら、肌が粟立っている大和さんが何だか面白い。

ちなみに僕は今マスクをしている。理由は喉のケアの為で、実はまだ声が完全には治っていないんだ。通常会話は違和感なく出来るけど。

 

簡単な集会が終わり、本番の流れでリハーサルを行っていく。僕たちの前の出番である二年生の二人組は漫才をするらしい。

 

続いて僕たちのリハーサルなんだけど、実際音を出すわけでは無く、運営をしている生徒から流れを説明されるだけだった。

生ドラムは吹奏楽部の使っているドラムを借りられるらしいけど、アンプは持参して欲しいと言われた。

 

生ドラムでやるとアコギの音が消されるから、アンプを使いたかったんだけど。

大和さんにピックアップと一緒にアンプを借りようかな。

 

出し物の参加者たちが「楽器で演奏かぁ~」や「ギター弾くのかな?」などそれなりには注目してくれているみたいだから照れくさいながらもやる気が出てくる。

僕はマスクの下で、口の口角を上げた。

 

 

 

 

「かなり良い感じですね~。山手君の音とジブンの音がきれいにシンクロしていますよっ!」

「じゃあ、本番前に最後の練習をやろう!」

 

僕たちは本番前の最後の練習をスタジオで行っている。

もう何度も二人で合わせて演奏したから僕たちの音は大和さんの言う通り、きれいにシンクロしているような錯覚を覚えるくらいだった。

 

「山手君、歌は……入れますか?」

「いや、大事を取るよ。大丈夫。明日はきれいな声を出せるようにしておくから」

「あ、はは……」

 

僕の喉は本当にもう少しで治るような気がするんだ。喉に何かがちょっとひっかかっていて、それが明日にはころっと取れそうな、そんな気がするんだ。

 

大和さんの合図から演奏が始まって、僕はギターを優しく奏でる。でもサビ部分では少し力を入れてギターをかき鳴らす。

この楽しい時間が明日で終わるかもしれない。そう思った僕はギターに想いを託してかき鳴らしてやった。

大和さんは少し驚いた顔を僕に向けたような気がした。

 

 

 

スタジオ練習を終えた後、僕から先にある提案をしたんだ。

 

「大和さん。帰りに神社に寄ってみない?」

「おお!明日の成功を願って神様にお祈りをするんですね!」

「そう言う事。たまには神様にお願いしてみようよ」

「分かりました。行きましょうっ!」

 

こういういきさつで僕たちは近所の神社に向かう。初詣などで人がにぎわう比較的大きな神社が近くにあるから使ってみようと思ったんだ。

 

普段は歩かない道を歩いて到着した神社は平日の夕方にもかかわらず、参拝客が何人かいた。

神社の奥にある本堂に向かう。階段が長く、ギターを背負っている僕には結構つらい。階段を上るたびに背中のギターが僕のお尻をパコパコと叩く。「ほら、もっとしっかりしろ」って言われているかのように。

 

「ふぅ、やっと着いたね」

「……はい。少し疲れました」

「ちょっと休憩してから本殿に行こっか」

「では、休憩ついでにおみくじを引きませんか?」

「おみくじ?そう言えば今年はおみくじ、引いていなかったよ」

 

境内にあるおみくじ売り場で三百円を払っておみくじを貰い、近くのベンチに座ってから一斉に結果を見ようと言う事になった。

恋人っぽいと言うか、何か青春しているような甘酸っぱい風が吹いている中、僕たちはベンチに座った。

 

「では……」

「うん……」

 

「「いっせーのっ!」」

 

「ジブン、大吉ですよっ!フヘへ……」

「僕は小吉だったよ」

 

僕のおみくじの内容は実に小吉らしいものだった。結論から述べると今は良くないけど、徳を積めば良い方向に導かれる。みたいな感じだ。

もうちょっと徳について詳しく書いて欲しかった。徳って言っても何かわからないよ。

 

僕がそんな事を考えていると隣の大和さんがすごく顔が赤くなっていることに気がついた。隣から熱が伝わったから気づいたのかもしれない。

 

「どうしたの?大和さん?」

「い、いえ!何もありませんからっ!」

「いや、絶対に何かあるよね……おみくじ見せてよ」

「で、では山手君のおみくじも見せてくださいよ!」

 

僕は大和さんが引いたおみくじを眺めていた。恋愛の欄に「幸せはすぐ近くにあります」って書いてあった。たぶんこれを見て顔を赤くしたのかもしれない。

でも僕の目は、違う欄に留まった。

 

「大和さんの幸せは近くにあるんだね。好きな人って誰なの?」

「ちょっと山手君っ!?」

「さて、そろそろ本殿に行こうか」

「ま、待ってくださいよ~」

 

僕が先にベンチから立って歩き出すと、大和さんは慌てた様子でこっちまで着いてきてとてもかわいらしかった。大和さんは僕の事、どう思っているのだろう。僕は君の事が……。

 

僕が恋愛より目を奪われた欄、それは。

夢の欄。「もうすぐあなたの夢が叶います」って書いてあったんだ。

 

 

 

本殿の前に着いて、僕たちは五円玉を投げ込んだ。御縁があるようにと言う事で五円玉なんだけど、これを最初に考えた人って鋭いよね。

鐘を鳴らして手を合わし、お願いする。横をちらっと見ると大和さんもどんな願いか知らないけど、入念にお願いをしているように見えた。

 

「大和さんはどんなお願いをしたの?」

「ジブンですか?明日の演奏が上手くいきますように、ってお願いしましたよっ!」

「さすが大和さんだね」

「え?では山手君はどんなお願いをしたんですか?」

「こういうお願いを人に言うと叶わなくなるって言うから、教えないよ」

「ずるいですよ~山手君!」

 

神様は一人に対して一つの願いを叶えてくれるなら、明日の演奏の成功は大和さんがお願いしてくれるって思っていた。二人で一緒のお願いって損した気分がしない?

それに僕のお願いは大和さんに言わないのではなく、言えないんだ。

 

大和さんが将来、スタジオミュージシャンになれますように。

 

そんなお願い。今回の出し物で演奏をしようって大和さんを誘ったのも、これが狙いなんだ。中学生から応募が出来る音楽事務所もあるって楽器店で貰った紙に書いてあった。

生徒の前で良い演奏が出来たら自信になるはず。

 

大和さんが本気でその夢を追いかけたいのなら、僕は全力で応援したいから。

それが僕が、歩くと決めた道なんだから。

 

 

帰ろうと言って僕が歩き出すと、大和さんが後ろからドンっとぶつかって来た。

 

「山手君のおみくじの病の欄に『後ろからの衝撃に注意が必要』って書いてありましたから」

「今やらなくても良いよね!?」

「山手君だけお願いを言わないなんてずるいですから仕返しです」

「後ろからの衝撃は騎馬戦の時でお腹いっぱいだから許してよ、大和さん」

 

ぶつかって来てからは、僕の隣にいつものように並んで歩いてくれる大和さん。僕はそんな大和さんに、にっこりと微笑んで言った。

 

この神社のおみくじは当たるのかもしれない。そんな気が漠然とだけど、したんだ。

 

「明日、絶対に成功させてみんなを感動させようね!」

「はいっ!もちろんです!」

 

 




@komugikonana

次話は1月2日(水)の22:00に投稿予定です。
新年から3日まで恐らく母親側の実家に帰るので、次話分は予約投稿しておきますね。

新しくこの小説をお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
Twitterもやってます。良かったら覗いてあげてください。

評価9と言う高評価をつけていただきました 八雲藍1341398さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。 本当にありがとう!!

通算UAが1万を突破、さらに投票者が40人になりました!
これも読者のみなさんの応援のお陰です。温かく見守りながら応援していただいたみなさん、ありがとうございます!これからもよろしくね。

年内最後の投稿となりました。今年はみなさんと出会えたかけがえのない一年となりました。来年も小麦こなをよろしくお願いします。

年内最後の18話、伏線がたくさんあるお話になりましたね。スタジオミュージシャンと言う言葉が久しぶりに出ましたね。おみくじ、当たるみたいですよ。
「楽器店で貰った紙」と言うのは、10話で聡士君がギターを買った時にレジの横に置いてあった紙の事です。

では次話までまったり待ってあげてください。

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