僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第19話

いつから日本の風習にこの日が定着したのか分からないけど、もうすっかり日本文化の一部となっている10月31日(金)。ハロウィンだ。

 

僕たちの学校の文化祭、通称ハロウィン祭の日であり僕と大和さんが舞台の上で演奏をする日でもある。

登下校は流石に制服でないといけないが、学校に着いたら自宅から持ってきた衣装に着替えることを許可されている。もちろん僕も一昨日にペンギンがモチーフの店で買った。店名はたしか金槌だっけ?鈍器だっけ?忘れた。

 

吸血鬼の衣装らしいけど、ちょっとしたベストにマントがあるくらい。

曲名と合うと思って某戦闘漫画に出るM字王子の戦闘服に目が行ったのは内緒だ。僕も気を自在に操って空を飛びたいものだ。

 

 

学校に着いたら早速着替える。と言っても学ランを脱いで、制服のシャツの上にベストを着てマントをつけたら終わりだから気楽で良い。

 

「なんだ?サラリーマンの仮装か山手」

「桃谷にはサラリーマンに見えるの?」

「おう。給料が低くてインフルエンザにかかりながらも残業をするおっさんに見える」

「嘘だ……」

 

僕はそんな疲れ切った顔はしていないと思うけど。もしかしたらマスクをしているせいかもしれない。

ハロウィン祭、最初で最後の仮装なんだけど僕には似合わないらしい。去年と同じく制服で過ごそうかな。

 

「マスク外してみろよ。そしたら変わると思うぜ」

「やっぱり?……どうかな」

「これで山手の仮装が分かった。ポ○モンリーグにいるチャンピオンの仮装だろ?」

「僕はドラゴンタイプばっかり使わないよ……」

 

手持ちキャラ全員に破壊光線を覚えさせる人間でもないんだけど。

大和さんの感想が微妙なら制服で過ごそう。

 

「ねぇねぇ、山手君っ!今暇だよね。こっち来てよ!」

 

突然、クリーム色の髪色をしたクラスの女の子に話しかけられたから桃谷をほっておく。桃谷からあからさまな舌打ちが聞こえたけど気にしてはいけない。

 

着いて行ってみるとたくさんのクラスの女の子がドア付近で集まっていて、いきなり呼ばれた僕には何が起きているのか全く分からない。

 

「山手君連れてきたよっ!」

「ほら、旦那が来たよ!大和さんも早くおいでって!」

「え、ちょっと待ってくださいよ~」

 

女の子たちがきゃぴきゃぴしていてとても近づける雰囲気では無かった。僕は少し離れたところで傍観していたけど、周りにいた女の子に「山手君から行ってこい!」といきなり背中を押されて廊下まで出た。

 

そこで僕は大和さんを見つけたんだけど。

僕はおとぎ話に出てくる魔法の鏡に浮かび上がった美しい女性を見ているような気分になった。

 

僕の目の前にいた大和さんは黒を基調にした衣装で、スカートのように見えるショートパンツ。薄い黒色のタイツだから若干素肌が見える。おまけにへそ出しで、猫耳としっぽが生えてあって……。

 

僕は鼻から何か違和感があった事ぐらいしか覚えていない。その後すぐに目の前が暗くなったから。

「山手君!鼻血の量がすごいですよっ!」と言う慌てた大和さんの声は覚えているけど。

大和さん、かわいすぎるわ……。

 

 

 

 

「急に倒れたのでびっくりしましたよ」

「ごめんね。でもそれは大和さんが悪いって」

 

吸血鬼が鼻にティッシュを詰めると言うシュールな事を成し遂げている僕は現在、保健室で大和さんに看護されている。

聞いた話によると「ジブンが持っているポケットティッシュはすべて、一瞬にして赤く染まった」らしい。僕はどれだけ鼻血を出したんだろう。

 

「さて、鼻血も出なくなったしどこか歩く?」

「もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。それにせっかくのハロウィン祭を保健室で過ごしたくないよ」

「それもそうですね」

 

僕は座っていた椅子を元の場所に戻してどこの教室から行こうかなって考えていたが、大事な事を忘れていて大和さんの方を向いたんだ。

 

「あ、そうだ。大和さん」

「どうかしましたか?」

「今日の大和さんの仮装、とってもかわいいよ」

 

大和さんは顔を赤らめながら上目遣いで「あ、ありがとうございます……」と消え入りそうな声で返事をした事で僕はまた鼻から血を出す羽目になった。

 

 

「山手君、お昼ご飯食べ終わってから少しだけ合わせませんか?」

 

各クラスの展示品を見終わった後、大和さんがそう提案してきた。確か生ドラムを借りる旨を吹奏楽部の顧問の先生に行った時「ハロウィン祭当日に音楽室は使わないから練習に使っても良いよ」って言っていたっけ。

 

なので弁当を持って音楽室に行って食事を終えた後、僕はギターを用意した。

ドラムセットは既に体育館に移動してあるらしく、大和さんは持ってきていた練習パッドを使うみたいだ。

 

本番二時間前ぐらいだからそこまでがっちり練習と言う訳ではないけど、今まで何回も二人で合わせたフレーズを確認していく。

そこで僕はちょっとした大和さんの変化を見出した。

大和さんの雰囲気はあまり変わらないけど、ドラムスティックを持つ手が若干だけど震えているような気がした。

 

「大和さん、もしかして緊張してる?」

「は、はい。ジブン、あまり人前に出て演奏とか得意ではないんです。サポートなら自信あるのですが……」

「そっか。そうだよね」

 

本番前になれば誰だって緊張はする。正直、僕も緊張で心臓の辺りがもやもやしている。だけど大和さんの緊張は僕とは違うような気もした。何かに怯えているような感じ。

 

だから僕は、そっと大和さんに近づいて前からぎゅっと抱きしめた。

 

「や、山手君。ここ学校ですよ……?」

「知ってる。でも大和さんが緊張と一緒に何かに怯えているような気がして」

「少し、怖いんです。失敗したらどうしようと思ってしまって」

「心配しないで。たくさん練習したから。それにね」

「……はい」

「緊張しているのは大和さんだけじゃない。僕も緊張してる。僕の心臓の音も気持ち悪い動き方してるから。大和さんにも聞こえるかも」

 

大和さんに入っていた余計な力がどこかに飛んで行った気がしたから、僕は大和さんからそっと離れる。だけど大和さんの両肩に手を乗せて僕はちっぽけな魔法を唱える。

 

「僕は大和さんのドラムの音、好きなんだ。だからきっとみんなの心に届くよ」

「山手君……。」

「きっと演奏が終わったら大きな拍手で会場が包まれるから」

 

 

僕は魔法使いじゃないから魔法なんて使えない。

だけど今は演奏が成功に終わって会場が拍手に埋まるような、そんなちっぽけな魔法ぐらいなら使えるような気がしたんだ。

 




@komugikonana

次話は1月4日(金)の22:00に投稿予定です。
新年、あけましておめでとうございます。これからも小麦こなをよろしくお願いします。

新しくこの小説をお気に入りにしてくれた方々、ありがとうございます!
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評価9と言う高評価をつけていただきました UNDERTREEさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました ケチャップさん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!

遂に文化祭が始まりました。次話で演奏します。
麻弥ちゃんの衣装は去年のハロウィンイベント、Trick or Escape!の麻弥ちゃんの衣装を借りてきました。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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