少しずつ過ごしやすい気温になってきた4月28日。ちなみに今日は月曜日だから学校が始まるので僕はいつも通りの朝を迎えている。
いつも通りの朝って言うのは二階にある自室から下に降りると焼きたての食パンが置いてあって、それにイチゴジャムをたっぷり塗って食べるいつもの朝。食パンは五枚切りを好んで食べる。
僕はぽけーっとある事を考えていた。それはゴールデンウィークの事なんだけど、今年のゴールデンウィークははっきり言ってクソなんだ。三日の憲法記念日が土曜日でみどりの日が日曜日に配置されていて、日曜日だけ振替休日になって四連休しかない。
ゴールデンとか言っているけど金メッキがはがされてガタガタに錆びついている。
そんな不満を心に秘めながら学校に行く準備をする。着替えながら窓で外を見るとどんよりと重たそうな雲が空を覆っていたんだ。
まるで僕の心を投影したような、そんな空模様だったんだ。
僕は準備を終えて家のドアを開けた。たしか、テレビの星座占いを見てから出たから八時ちょうどぐらいだったと思う。ドアを開けると、ちょうど家の前を通っていた同じ学校の女子生徒とばっちり目が合った。
そう言えば今日の占いの結果によると、僕の今日の運勢は一番良いらしい。
「あ、おはようございます!山手君」
僕の目の前に現れた女子生徒は新学期になって知り合った大和麻弥さん。実のところ最近の登校時間はかなりの頻度で大和さんと出会うんだ。しかも僕の家の前で。偶然ってすごいと思う。
大和さんはどう思っているかは知らないけど、僕は大和さんと一緒に登校出来るかもしれないって毎朝期待しているんだ。……ここだけの話だよ?
だから僕は嬉しさを隠しきれずに大和さんとあいさつするんだ。
「おはよう、大和さん!」って。
それから二人で並んで片道十五分の通学路を歩く。他愛のない世間話からいつも話すんだけど、大和さんはいつも話に乗ってくれる。まだ僕は大和さんがどんな趣味を持っているのか、好きな事は何なのかって分からないんだ。
それらが分かればもっと仲良くなれるのかなって最近思うんだ。この気持ちは何なのかはまったく分からないけど、大和さんの事をもっと知りたいって思うのだ。
僕たちは学校についても大抵、同じ行動をするんだ。だって下駄箱も僕の下は大和さんだし、クラスも同じで席も僕が前で大和さんが後ろなんだから。
中学生って恋を恥ずかしいって思うよね。僕も思う。ちょっと男女二人で話をしたりするだけですぐに「あいつら付き合ってるんじゃね?」って噂になるんだ。
この事例は僕と大和さんにも当てはまったんだ。
「なぁ、山手。お前大和と付き合ってんの?」
昼休み、僕は前の席にいる桃谷って奴と仲良くなって一緒にお弁当を食べるようになったんだ。桃谷って結構チャラい見た目だけど根は凄く良い奴で人脈も広いしおまけに誰とでも仲良くなれるタイプなんだ。
「ううん。付き合ってないよ」
「そうなのか?大和って目立ちはしないけど結構かわいいよな」
「僕もそう思う。クラスで一番かわいいかもしれないね」
「山手、お前大和にぞっこんじゃん」
僕はうっかり本音を言ってしまった。でも桃谷がかわいいって言うぐらいだからみんなそう思っているかもしれないって考えてみたら、何だか面白くない。
そのまま僕はぶっきらぼうにお弁当のおかずを口に放り込んだ。
今日の午後の授業は散々だった。
五時間目に社会の授業なんだけど、お昼ご飯後の社会なんてこんなの生徒に催眠術をかけているようなものだ。しかもこの催眠術の命中率はずば抜けて高く、ぐったりしている人も多い。
僕もその被害者の一人で、まるで和風旅館の庭にあるししおどしのように頭を上下に揺らしていた。
ししおどしって鳥獣を驚かせて追い払う仕組みなんだけど、今回はどうやら教壇にいる獣に見つかってしまったらしい。
「山手君!起きてください!」
後ろから背中をシャーペンでつつかれ、僕は起きる。
大和さんの指示通りに起きてみると、教壇に立っている先生が僕の方を睨んでいた。寝ぼけ眼の僕にはクマにしか見えなかった。
「山手。放課後職員室に来なさい」
僕は放課後職員室に向かった。クマだから鈴か撃退スプレーを持っていったら何とかなると考えて鈴っぽい物が付いているペンを大和さんに借りたけど、効果は無かった。
所詮、世の中の撃退法なんてほとんど迷信なのかもしれない。
僕はクマから渡された補習プリントを持って図書室に向かう。このプリントを提出してからじゃないと帰れないらしい。猟友会の方を呼びたい。
僕は社会が苦手で、特に公民なんてさっぱりだったりする。覚えても訳の分からない言葉の羅列ですぐに忘れてしまう。補習プリントも全く分からないから今度は死んだふりをしてやり過ごそうか。
「ここにいましたか!どうです?がんばっていますか?」
図書室のドアが開いたと思えば開けた人物は大和さんで、僕を見つけるなり僕の椅子の隣に座ってきた。僕はそう言えばペンを借りたままだった事を思い出して、何だかデートの待ち合わせ時間に遅れたような申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、大和さん。このペン返すね」
「いえいえ。お役に立ちましたか?」
「結果、補習プリントがどっさり来たよ」
僕は大和さんにプリントを見せると、大和さんは苦笑いをしていた。量もそうだけど、白紙の多さにも苦笑いを浮かべたのじゃないかな。
「ジブンも手伝いますよ」
「え?」
僕は大和さんがどうしてそのような言葉を僕に掛けたのかは分からないけど、とにかくびっくりしたんだ。
それと大和さんのメガネ越しから見えるきれいな目に見とれていたんだ。
「ありがとう大和さん!すぐに終わったよ!」
「お役に立てて良かったです」
僕たちはまた二人で家に帰る道を歩いている。
ひっつきすぎず、離れすぎずの適度な距離を保ちながら。
「大和さんって友達と話す時も敬語なの?」
「はい。ジブンはこの口調で慣れていますので……」
「そっか」
少し軽めの話題を振ってから、僕は核心を聞きだす。
「どうして大和さんは図書室に来たの?」
僕は大和さんに聞いた。図書室に来た時の大和さんは「ここにいましたか!」って言っていたから僕を探していた可能性があるって思ったんだ。
そう思っていると、僕の心臓が急に仕事をし始めた。
「社会の熊谷先生に山手君の様子を見て来いって言われたんですよ」
「あ、そうなんだ。僕ってそんなに信頼が無いのか~」
少しがっかりしたと同時に本気で猟友会を呼んでやろうかって思った。
だけど、ここから先は凄く鮮明に覚えているんだ。
大和さんとの会話も、僕の心情も。
「でも、山手君ってすごいなってジブンは思いますよ」
「え?どうして」
「苦手な事に妥協しないで取り組んでいますから!それにジブンは前向きなところに憧れます」
褒められて恥ずかしいやら嬉しいやらでちょっと顔をそらしてしまったんだ。まだ目に見えないような距離しか進んでいない僕にも人から褒めてくれる長所があるなんて。
「ありがとう、大和さん」
「とんでもないですよ~」
でも、僕は少し気になった点があるんだ。それは大和さんの目の表情で、何だか一瞬だけ下を向いたんだ。もしかしたら大和さんは何か前向きになれない事があるのかもしれないって思ったんだ。
だから僕はもし大和さんが何か前向きになりたい事とか今夢中になっている趣味とかがあるならばそれを応援したいなって思った。
「大和さんも一緒に頑張ろうね!」
「?……そうですね。頑張りましょう!」
僕はこの日、密かに決心したんだ。
何か大和さんの力になりたいって。
@komugikonana
次話は11月30日(金)の22:00に投稿予定です。
この小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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評価9と言う高評価をつけていただきました Miku39さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!
なんと!第1話からルーキー日間にランクインしていました!これも読者のみなさんが始まったばかりのこの小説を支えてくださった結果です。
ありがとうございます!これからも応援よろしくね。
では、次話までまったり待ってあげてください。