ハロウィン祭が始まってから早くも5時間が経過した。
ほとんどクラス展示しかないから午後は出し物を見る為に体育館に集まるのが通例となっていて、今年もその例に漏れずたくさんの生徒が体育館に集まって来ている。
午後2時に生徒会が主催で出し物が始まる。
大体一組で10分の持ち時間を与えられ、出演者たちは思い思いの時間を作り出す。
今年は僕たちも入れて10組がエントリーしたらしい。最初は3-C女子によるダンスからスタートした。
僕たちは最後だからまだ体育館に出されているパイプ椅子に座っている。
「すごい盛り上がりですね……」
「そうだね。椅子から立って舞台前までたくさんの人が集まってるもんね」
「あ、はは……。ジブンたちもあんな風になるのでしょうか」
「もしなっても大和さんは後ろの方だから、僕がもみくちゃにされそう」
今年は例年より盛り上がっているような気がするなぁ、なんて考えながらダンスを観ていた。会場を良い雰囲気に持って行ってくれた彼女たちに感謝しつつ、僕は盛大な拍手を送った。
5組目の一年生がインスタントラーメン早食い競争を行っている時、僕は大和さんにちょっと外の空気を吸ってくるよ、と言って体育館の外に出てきた。
体育館の裏辺りに行って、発声を確かめる。そしてその後最後のトローチを口に含む。
「こんなとこで何やってんの?」
「ん?いや、発声の確認をね。桃谷がここにいるのすっごく怪しいけど」
「お前は俺をどんな目で見てるんだよ」
「えっと……。女の子の事しか考えてない思春期変態野郎」
「ひでぇな!……まぁでもよ」
桃谷の雰囲気が急に変わった。真剣な時の彼の顔は整っていて、普段と真剣な時のギャップにハートをぶち抜かれる女の子は多いらしい。
僕もサッカーをしている時しか見せない彼のその表情に目が離せなかった。
「お前の出番、しっかり観といてやるからしっかりやれよ聡士!」
「言われなくても分かってるよ、桃谷」
桃谷からエールを貰えるなんて思ってもいなかったからびっくりしたけど、せっかく応援してくれるんだから期待には応えたい。
桃谷が「そこは隼人って呼べよ!空気読めねーと女の子に嫌われるぞ」なんて言わなければ、僕は桃谷を見直していたかもしれないのに。
僕は桃谷と別れてから体育館の正面入り口に行くと、前に大和さんが立っていた。
大和さんに声をかけてから僕たちは体育館の舞台袖に向かった。
もうすぐ、僕たちの演奏が始まる。
9組目、すなわち僕たちの前の人達が舞台に上がった。
二年生の男子二人で漫才をするらしい。
僕は隣にいる大和さんの様子を見ると、雰囲気がいつもと同じであまり緊張していないように見えて、何かに怯えているようなそぶりも無かった。
まじまじと見ていたかもしれないけど、大和さんがこっちを向いた。
「どうかしましたか?顔に何かついていますか?」
「そうじゃなくて。落ち着いたいつもの大和さんだな、っと思っていたんだよ」
「音楽室で山手君が勇気をくれたので」
「そ、そっか。何だかいきなり恥ずかしくなってきたよ」
僕たちはお互い微笑み合った。いつから僕たちはこんな関係になったんだろう。考えても分からない。だけど、ずっとこんな関係で居れたらいいな。
心から信頼出来て、一緒にいると心地がいい。そんな関係。
その時だった。大和さんは僕の左手をきゅっと握ってきたんだ。大和さんの手は何だか温かかった。
「山手君、声が出なくなったら途中でも良いですので知らせてください」
「ありがとう。でもそうならないようにするから」
「楽しみましょうね」
「うん。もちろんだよ!大和さん」
丁度漫才が終わったらしい。生徒会の進行役の人に促されて、ついに舞台上に立った。
舞台でさっと配線を繋いで、アンプに差し込む。
「みなさん、こんにちは。僕たちが最後らしいので思いっきり楽しんでください」
僕が話し出したら、桃谷がクラスの男子と女子を連れて舞台前までやって来た。それをみて下級生や同級生もぞろぞろと寄って来る。
後ろをちらっと見て大和さんとアイコンタクトをする。
「では、聞いてください!」
カンカンカンと大和さんがドラムスティックを叩いてからそのテンポで僕は足でリズムを取り、ギターを弾き始める。
僕は歌い始める。大和さんを横目で見るととても驚いた顔をしていた。
僕の歌声は、元に戻っていたから。
舞台の前で立って聞いている生徒たちは曲調に合わないのに飛び跳ねたり、僕の足をちねってきたりして来る。
ちねった奴は許さないけど、ここまで盛り上がってくれて僕も自然と笑みが増す。
サビは僕の声に大和さんがきれいにかぶせてきて、観客からは声援が上がる。
正直、演奏が楽しくて気が付いたらアウトロを弾いていた。ちゃんと歌えていたかどうかは分からないけど、前ではしゃいでいる生徒を見たら成功したんだなって思った。
「最後まで聞いてくれてありがとう!」
その言葉を皮切りに、たくさんの拍手が僕たちを包み込んだ。
「今日はお疲れさま、大和さん」
「本当に疲れました……」
演奏を終えた後、教室に戻ると僕たちはクラスメイトにもみくちゃにされた。桃谷が「山手のギターは普通だったけど大和うますぎ」って僕に嫌味っぽく何回も言うから一発殴っておいた。
でも大和さんのドラムは上手いのは本当の事で、尚且つ中学生でドラムを自在に操れる人は少ないから物珍しさもあったのだろう、僕より大和さんの方に人が多く集まった。
「でもさ、大和さん」
「そうですね」
「「楽しかったね!!」」
二人の感想は同じものだった。楽器をみんなの前で演奏する事がこんなにも楽しいなんて思ってもいなかった。
「山手君。今日はありがとうございました」
「え?どうしたの急に?」
「山手君が誘ってくれなかったら、こんな経験出来ませんでしたから」
「それなら僕もありがとうだよ、大和さん。僕にも楽しい経験をくれたから」
「あ、もうお別れですね。ではまた学校でお会いしましょう」
「うん。ばいばい、大和さん。今日はゆっくり休んでね」
内容の濃かった一日が終わる。内容の濃い日はたくさんの思い出があるのに時間は速く感じる良く分からない日だよな、と思いながら僕も家に帰る。
晩御飯を食べ終えて、自室でゆっくりしている時に携帯が僕を呼んでいることに気が付いた。見ると大和さんから電話がかかって来ていた。
「もしもし。どうかした?大和さん」
「聡士君よね?大和の母です」
「えっ!?」
なんで大和さんの携帯から大和さんのお母さんが電話してくるんだ?僕何か大和さんに悪い事したっけ?……あ、音楽室で抱き着いたわ。
「えっと!音楽室での出来事は大和さんを励ますことしか考えて無くて、ほんとすみませんでしたー!!」
「あら?音楽室で何かしたの?ふふっ、まだ子供を作るには早いわよ」
「え?あっ……忘れてください。それでどういった要件ですか?」
「ふふふ。聡士君に良い情報を教えてあげようと思って」
良い情報ってなんだ?もしかしたら大和さんの好きな人のタイプを教えてくれるのかもしれない。素早く綿棒で耳を掃除する。
「良い情報って……な、何ですか?」
「11月3日。麻弥の誕生日なのよ」
「そうなんですか!?知りませんでした」
「その日って文化の日でしょう?だからね……あら、麻弥が来ちゃったわ!切るわね」
まるでF1の車体のように突然出てきて、突然いなくなるような電話だった。
でも、大和さんの誕生日がその日なんて全く知らなかった僕は悩みの種を頭に植え付ける事となり、中々その種は芽を出してくれなかった。
@komugikonana
次話は1月7日(月)の22:00に投稿予定です。
この小説をお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
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なんと!この小説のお気に入り数が200を超えました!!
これも読者のみなさんの応援のお陰です!みなさん本当にありがとう!!
今作品も前作同様、エンドロールを書くのでお気に入りにしていただいた方々や評価をつけてくれた方々は作品のエンドロールに出ますよ!
エンドロール書くのに4時間くらいかかるんだよなぁ(笑)
さて、二人は演奏を成功に収めることが出来ましたね。今話から20話目に入っております。ここから一気に物語、進みます。次話は麻弥ちゃんの誕生日回ですね。きっとみなさんの予想をいい意味で裏切れるんじゃないかな?
では、次話までまったり待ってあげてください。