徐々に冷たくなる秋の風がより一層僕を寒く感じさせる11月5日(水)。
僕は学校に向かっているけど、隣には大和さんがいない。いつもは他愛も無い世間話で学校まで歩いていた日常が無く、僕は寒さに身を震わせる。
今日の朝のHRでも大和さんは欠席と伝えられた。今日で二日目。
「今日も大和は休みだって?風邪か?」
「違うみたいだけど、しんどいみたいだよ。どっかのバカが嫌な事をしたから」
「まじで?彼氏としてそのバカぶっ飛ばせよ、山手」
「言われなくてもだよ。桃谷」
二日前に大和さんを傷つけたバカは反省しきりだけどね。反省ばっかりではダメだからちゃんと行動に移して謝らないとね。
もう受験も近くなっている僕たちはそれなりに授業を受けている。僕もルーズリーフに先生のコメントまではっきりと書いておく。これは大和さんに渡す分だけどね。
そして放課後には担任の先生の所まで行って、今日配布されたプリント類をクリアファイルに丁寧に入れて一旦教室に戻る。
教室ではちょっとした言葉をプリントに書いて学校を後にする。向かう場所は大和さんの家。僕が逃げるわけにはいかないから。
「今日も来てくれたの?ありがとね、聡士君!」
「来たくて来ていますから。そんなに褒めないでください」
大和さんのお母さんの言葉からも分かるように昨日もここに来た。昨日はプリントをお母さんに渡して帰った。
でも、今日は違った。
「聡士君、家に上がって。お茶ぐらい出すから」
「そんな気を遣ってもらわなくても良いですから」
「子供がそんな事気にする必要なし!ね?ちょっとで良いから」
「……少しだけお邪魔させてもらいます」
僕は一生この人には言葉で勝つことが出来ないな、って悟った。でも僕の罪悪感を少しでも軽減してくれるその姿に羨望を覚えた。
「あの、これを大和さんに渡してください。今日配布された分です」
「分かったわ。ちゃんと渡しておくね」
目の前にお茶を注いでくれたグラスコップを置いてくれて、僕はすっと口の中に入れる。今までカラカラだった僕の喉に一握の水分が広がる。
「このプリント、聡士君の手書きの言葉も入れてくれてるの?」
「はい。今の大和さんは僕の声を聞きたくないかもと思いまして、文字にしたんです」
「そんな事思ってないと思うけど……なになに?」
「わっ!声に出して読まないでくださいって!」
僕の抵抗もむなしく終わった。
部屋に響くような、それでいてきれいな声が僕の書いた文字をゆっくりと読み上げていく大和さんのお母さんに、僕は手持ち無沙汰になる。
「この前はごめんね、大和さん。知らなかったとは言え大和さんを傷つけてしまった事に。でも僕は大和さんの味方だし、もう一回ゆっくりで良いから夢に向かって歩こうよ。僕も一緒に歩くから。楽しい事もつらい事も一緒に背負って、歩くから」
「あの……もうその辺で辞めてもらえませんか?すっごく恥ずかしいんですけど」
「後、学校にも来てよ。みんな心配してるから。僕はすごく寂しいから」
そのままの勢いで書いた文字をすべて読み上げられてしまって僕は頭を掻くしか出来なかった。今思えば訳の分からない事ばっかり書いてるし、僕の学力の無さが露呈しているような気もしてむず痒い。
僕の書いた文字を読み終えた大和さんのお母さんはふふっ、と笑いながら僕の方を見る。
「本当に麻弥の事、大事に思ってくれてありがと。普通の子ならこんな事書かないもの」
「大和さんは僕に進むべき道を間接的にですけど見つけてもらったんです。本当は死ぬほど嫌なんですけど、大和さんに嫌われているかもしれない。でも嫌われていても良いからもう一度話がしたいって思いまして」
制服の袖を手でぎゅっと握りながら、こんな長く暑苦しい言葉が僕の口から出るなんて思ってもいなかったけど、今の自分の気持ちを吐露した。
その後すぐ、僕は全速力で走っていたらいつの間にか空の上の方まで走って行ったような気持ちになった。正直何を言っているか分からないと思う。
だけど、その時はそれくらいびっくりしたと言う事。
「そう思ってるんだ聡士君。……この話を聞いてどう思う?麻弥」
びっくりしすぎると声が出ないってよく聞くけど、本当らしい。
リビングの奥からこそっと出てくる大和さんに僕は言葉を失った。
「二人で話してみたらどうかしら?おばさんはどこかに行っておくから」
そう言っておばさんは奥の方に歩いて行った。
リビングに残された僕と大和さんはお互い気まずい空気を出していた。だけどこれはチャンスなんだって思ったらすっと言葉が出てきたんだ。
「その……大和さん。まず一番に伝えたいことを言うね?ごめんなさい」
「……はい」
「つらい思い出を嬉しそうな顔をして大和さんを追い詰めた僕は最低だ」
「そ、そんな事……無いですよ」
「でも結果的に大和さんに苦しい思いをさせた」
僕は淡々と懺悔する。二日ぶりに会うにもかかわらず、少しやつれ気味の大和さんは首を左右に小さく揺らしながら涙目で僕の方を向いた。
「どうして……ですか」
「えっ?」
「どうしてもっとジブンを責めないんですかっ!?」
僕は黙って大和さんを見つめる。我慢できるところまで我慢するつもりだけど、無理かもしれない。
涙に染まった大和さんの声が僕の心に刺さる。
「ジブンの過去を山手君は知らなかったんですよ!?それなのにジブンが勝手に怒って、勝手に……!?」
僕はもう我慢できなかった。
自分で自分を傷つける大和さんを見ていられなくて、抱きしめた。ぐっと。
「僕らはどっちも悪かった、と言う事にしよう。大和さんの過去を踏みにじった僕も、怒った大和さんも、どっちも悪かったんだって」
「どうして……山手君はそんなに優しいんですか……」
「どうしてだろう……分かんないや」
「山手君らしいですね。……ううっ」
うわぁああ、と大和さんは大きな声で泣いて。僕は彼女の背負っている重荷を一緒に背負う事を決めた。そして、大和さんの夢を絶対に叶えるって決めた。
男に二言は無いってよく言うけど、今回は実行しよう。
「山手君、頬を叩いてしまってごめんなさい。痛かったですよね」
胸の中に納まっている大和さんの左手は僕の腰に回され、右手は僕の頬をさすってくれている。
「ちょっとだけ。だけどね」
「だけど……何ですか?」
「二日間大和さんと会えなかったこと、一緒に登下校できなかったことの方が痛かった」
「何を……言ってるんですか~」
「ねぇ大和さん」
「はい」
「これからつらい出来事が起きても、一人で涙を流さないようにしない?」
「どうしてですか?」
「人を強くする涙もあるけど、人を弱くする涙もある。つらい時はお互い支え合って二人で一緒の涙を流そうよ」
「山手君ってたまにロマンチックな事を言いますね」
その時、「カシャッ」と言う音が部屋中に響いた。僕の携帯のカメラはこんな音では無いし、大和さんも違うだろう。
後は大和さんのお母さんだけど、たしか奥の方に……奥の方?外じゃなくて?
「あらあら!良い写真が撮れたわ!主人にも送らなきゃ!」
「「今すぐ消してください!」」
「ほんと、息ぴったりね」
「どうしていつもジブンの母はああなってしまうのでしょうか……」
「僕はユーモアがあって良いお母さんだと思うけどね。でも流石にあの写真は勘弁してほしいけど」
写真を撮られてしまった僕たちは消しておくように入念に言っておいたけど、彼女のお母さんはニヤニヤして僕らの言葉を流していたような気もする。
少しだけ外を歩く事を提案して近所をぐるっと回る。
「あ、そうだ!大和さんに渡したいものがあって」
「……また募集要項ですか~?」
「違うよ。……その、これ。あげるよ」
僕がポケットから緑色の手作りお守りを渡した。細かい事が苦手な僕だから、縫い目もバラバラで小学生でももっと上手く作れるような代物。
「お守りですか?」
「そう。大和さんがスタジオミュージシャンに絶対になれるお守り」
「何だか心強いですね。後、かわいいです」
「それとさっき約束したけど、どうしても一人で泣きたくなった時はこのお守りの中を開いて欲しいんだ」
「分かりました。ですが、つらい時は山手君がそばに居てくれるんですよね?」
もちろん、と僕は力強く宣言する。
夕焼けの空は、いつもより輝いて見えた気がした。
@komugikonana
次話は1月11日(金)の22:00に投稿予定です。
新しくこの小説をお気に入りにしてくれた方々、ありがとうございます!
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前回のシリアスっぽい展開から一転して甘い展開まで持って行きました。
これからの聡士君、そして麻弥ちゃんの頑張りを見守ってあげてくださいね。
感想が100件を超えました!読者さんとの感想のやりとりが小説を書いている時よりも楽しいです(笑)
これからも気楽にドンドン感想くださいね。
では、次話までまったり待ってあげてください。