僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第23話

少しのドキドキと、少しのハラハラと、もうすっかり冷たくなった風が僕の肌身にこびりついて震えを生む12月6日(土)。

 

大和さんは今まで立ち止まっていた時を取り戻すかのように練習に励んでいる。大和さんは音楽事務所にデモテープを送る決意をしたみたいだ。

もちろん、僕も支えてあげる……と言っても僕の音楽歴では大和さんにアドバイスをあげることは出来ないけど。

 

そんな事を言っても、大和さんは「山手君はそばに居てくれるだけで良いんです。ジブンに勇気をくれますから」なんて言ってくれる。

 

これは大和さんには言っていないけど、僕は毎日こっそりと神社に足を運んで、神様にお願いをしている。お願いの内容は言ったら叶わなくなるから言わないけど。

 

 

 

「確かここです!何回か使用しましたが、昔なので記憶は曖昧なんです」

「いかにも、って感じがするね」

 

デモテープの締め切りまで一週間を切った今日、僕と大和さんは電車を乗り継いで都心の方までやって来た。

やってきた場所はレコーディングスタジオ。大和さんのお父さんの友人がやっているらしい。何だかプロっぽい響きのするスタジオを使用したことのある大和さんに、僕は一瞬だけ彼女が遠い存在の人物に見えた。

 

中に入ると優しそうなおじさんが迎えてくれて、「麻弥ちゃんかな?久しぶりだね」って言っていたからこの人がお父さんの友人の方だと分かった。

 

早速レコーディングに取り掛かるらしく、大和さんはドラムセットを叩きやすいように調整したり、ちょっとした音をチューニングしたりしている。

その間、僕はおじさんとレコーディングをする高級そうで尚且つボタンが多く扱うのが難しそうなPAミキサーの前で大和さんを見ている。

 

「それにしてもあの麻弥ちゃんが彼氏を連れて来るなんて思ってもいなかったよ」

「あの、僕たち恋人ではないんですけど……」

「えっ!?いやいや。恥ずかしいからって嘘ついちゃダメだよ?」

「事実なんですけど」

「じゃ、二人はどういう関係なの?ただの友達?」

「それは、えっと……」

 

そう聞かれると、僕と大和さんはどんな関係なのか分からなくなった。ただの友達にしては距離が近いけど、告白もしていないから恋人でもない。よく友達以上恋人未満、なんて言い方をするけど僕たちはそんな安っぽい関係でもないような気がするんだ。

だから僕は友達だけど誰よりも大事な人です、って答えたら「もう恋人じゃん。こう言うのは男から告白するものだぞ」って言われた。

 

確かにそうかもしれないと思い後頭部をガシガシと掻いていると、大和さんから準備が出来たと伝えてきた。

その瞬間、おじさんの雰囲気がぱっと変わったから僕も息を飲む。

 

出来る大人は、オンとオフの切り替えがとても上手く出来るって事を目の当たりにした。

 

「それでは、これからレコーディングを始めます。麻弥ちゃん、よろしくね」

「はいっ!よろしくお願いします!」

 

 

しばらくして休憩に入る。僕の耳から聞こえる大和さんのドラムは正確無比なんだけど、おじさんの耳には違って聞こえるらしい。何回も録音した音源を再生しては改善点を挙げていった。

休憩中にその改善点を頭に入れている大和さんもずっとドラムを叩きっぱなしだからか、汗だくになっている。

 

「お疲れさま、大和さん。タオル借りてきたよ」

「スミマセン、ありがとうございます」

 

大和さんは渡したタオルで汗を拭きとっている。男の汗ってくさいけど、女の子の汗って何故かさわやかでくさくないよね。ちょっと不思議に思う。

汗を拭いている大和さんは、右手でタオルを持っているけど左手は何かを握りしめていた。

 

「大和さん。左手に何を持っているの?」

「あ、これは山手君がくれたお守りですよ。今日ずっとズボンのポケットに入れていましたよ」

 

そう言って左手を開いてくれた大和さん。握られていたから少ししわが付いていたけど、誇らしいぐらい緑色の生地が輝いていた。

 

 

休憩が終わった後も大和さんはたくさんドラムを叩いた。一度ドラムスティックが折れて交換していたけど、折れたドラムスティックに触れたら持ち手がとても熱くて大和さんの熱意が伝わった気がした。

 

多分5時間ぐらいスタジオにいたと思う。

おじさんがこの音源が一番いい出来だと評価したものをCD化したり、パソコンで音源を保存する。使用費用は先に大和さんのお父さんが支払ってくれたらしい。

 

「「お疲れさまでした!」」

「今日はお疲れさま。ちょっと麻弥ちゃん来てくれる?」

 

おじさんは最後に大和さんを呼んで、何やらこそこそと話をしている。

あっ、大和さんと目が合った。すごく顔を赤くさせているけど……。おじさんは一体何を大和さんに吹き込んだのだろう。

 

 

「大和さん。あれだけドラム叩いてしんどくないの?」

「流石にしんどいですけど、スタジオミュージシャンになればそんな事言えませんから」

「やっぱりすごいね、大和さんは」

 

僕たちは帰りの電車で揺られている。そこまで遠くは無いけど時間帯が悪く部活生やスーツの人達による帰宅ラッシュの真っ只中に電車に乗った。

スタジオを後にした時、おじさんが僕の方を向いてぐっとサムズアップしていたけどどういう意味なんだろうか。

 

「ふぅ、しかし流石に今日は疲れました……」

「そりゃあれだけドラム叩いたら僕なんか筋肉痛になるよ。……今日は帰ろう。大和さんもゆっくり休まなきゃいけないし家まで送るよ」

「そうですけど……」

 

電車から降りて、僕たちが良く知っている道を二人で歩く帰り道。

僕の左肩がちょっと重たくなったから見てみると大和さんが頭を預けてきてて。すごくいい匂いがする。

 

「もう少し、山手君と一緒にいたいです」

「うん。外は寒いからファストフード店に行こうか」

 

 

近くのハンバーガー店に入って注文をする。今日頑張ったご褒美として大和さんの分は僕が奢る事にした。

僕は100円のハンバーガーと飲み物を頼んで、大和さんはポテトのMを注文した。

 

「ポテトだけでいいの?せっかくだからもうちょっと頼んでも大丈夫だよ?」

「いえ、これで大丈夫ですよ」

「そう?ならいいけど」

 

注文したものを受け取って、席に座る。大和さんとご飯を食べるのは久しぶりで、こうして向かい合わせで食べることに少し緊張する。

 

「山手君もポテト食べてくださいね」

「貰っても良いの?」

「はいっ!もちろんですよ!」

 

ポテトを大雑把にだけど分けている大和さんを見て、僕は思う。

この時期だから、受験勉強もしっかりしているはずだ。大和さんは羽丘女子学園を受験するみたいだし。それに今日のドラムを見てもかなり練習したように見えた。

僕も、負けていられないな。

 

「……て君!聞いてますか?」

「えっ!?ごめん、聞いてなかった」

「もう一度言いますよ?11日、CDとデモテープを出しに複数の音楽事務所に行くんですけど、一緒に来てもらえませんか?」

「そんなの答えは決まってるよ、大和さん。僕も行くよ」

 

僕は長いポテトを半分に手で切ってから半分だけ口の中に運んで、それから大和さんにこんな事を言った。

 

 

「大和さんの夢、見届けるから」

 

 

半分に分けられた片方のポテトはまだトレイに横たわったままだった。

 

 




@komugikonana

次話は1月14日(月)の22:00に投稿予定です。

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評価9と言う高評価をしていただきました こーやどーふさん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!

明日の22時に私のTwitterで第3作目である小説のタイトルとヒロインを発表します。ぜひご覧頂けたらなと思っております。

今日からガルパ、麻弥ちゃんイベントですね。私は早速イベントストーリ―を全話見ました。最高でしたね。
私は見開きの麻弥ちゃんのグラビア、めっちゃ見たいです(笑)

では、次話までまったり待ってあげてください。
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