デモテープの提出期限も4日後に迫って来て、寒さと緊張感で肌がピリピリして来た12月8日(月)。……あまり上手く言えないけど、今回は許してください。
マフラーと手袋と言う最大級の防寒具に身を包んで今日も二人で学校に登校しています。
「いよいよ4日後だね、大和さん!自己PRとかってもう書けたの?」
「はいっ!もちろんですよ。誤字脱字が無いか何回も確かめましたよ?」
「そうなんだ!……ねぇその自己PR僕にも見せてよ」
「ええ!?そんなの恥ずかしいですよ!」
「そんな恥ずかしい事書いたの?」
「違いますよ!山手君に見せるのが恥ずかしいんですよ!」
いつも登下校中はこんな他愛もない会話で楽しいのだけど、最近は特に楽しく感じるようになってきた。
もっと早くに出会っていればこんな楽しい時間が3年も続いていたのかな、って思ったら運命って何だか意地悪な気がしてきた。
「でも、今日の放課後にその自己PRの書いた用紙をコンビニでコピーしますけど……」
「僕も一緒にコンビニに行くよ!」
「きっと今の山手君は来なくても良いですって言っても付いてきそうですね」
「ははは……」
もう学校に着いた。時間は不平等だと中学生ながらに思う。心が満ち足りている時の時間はすごく速く感じるのだから。
左ポケットに入れてあるものを強く握る。あの日から毎日肩身離さず持っている
この先もずっと自分のそばに置いておくと思う。
「おい山手!今日の体育は女子と合同でリレーらしいぜ!フゥー!燃えてきたぁ!!」
「ちょっとうるさいよ、桃谷」
「お前は大和っていう美人な彼女がいるからそんな弛んでるんだ!俺はこの体育でたくさんの女子のハートを掴むぜ!」
いつもこんな感じで一日が始まる。男子の大多数が本当に燃えていてちょっと引いてしまった。自分はあまり運動が得意ではないからここまでは盛り上がれないな、って思っていた。
12月ともなれば授業も公立高校の予想問題などのプリント演習が多くなってきた。いわゆる自習。自分は忙しいけれど、しっかりと勉強の時間を確保しているからそれなりには解ける。
でも、志望校の問題となると話は別で全然解けなかったりする。
「ねぇ大和さん。この問題なんだけど……」
「どれですか……?基本的人権の問題ですね」
「そう!やっぱり公民は分かんないよ。あのクマ絶対に僕の事嫌いだよ」
「あ、はは……」
授業中にも関わらずこうやって教え合えるのも、受験期直前で自習の良いところだったりする。
ちょっと距離が近くなるから匂いが鼻をくすぐる。その匂いが自分の心をきゅっと掴み、ドキドキが急加速する。
「おい、山手!自習中に彼女とイチャイチャしやがって……次の体育の時間覚えてろよ!」
こうやってたまに邪魔が入って来るけど、困っている顔から勉強モードに入った時の真面目な顔のギャップにまた心を打たれてしまう。
男子が急に熱を帯びて狂喜する四時間目の体育の時間。リレーは男女混合だけど、準備運動やサーキットトレーニングは男女別で行う。
この時期の男女混合リレーはこの中学校伝統らしい。何でも、受験は団体戦だから男女で同じ種目をやって力を合わせてクラス結束を高める目的らしい。
事前に体育委員が作ったくじ引きでチームは分けたのだけど、どこかの脳筋男子が体育委員を買収して一部操作したとクラスで情報が流れていた。クラスみんなが納得らしいけど。
「山手!アンカー対決だ!ここで決着をつけて女子人気は俺がもらうっ!」
「桃谷、何から何まですべて間違ってるよ……」
この会話にクラスの中心女子たちも加わるのだから大変なもの。どうなるか予想はついてしまうから嫌なんですけど……。
「山手君がアンカーなの?じゃ、女子のアンカーは大和さんで決定っ!」
「大和さんからのバトンを山手君が受け取るんだね!」
「ラブラブバトンパスじゃない!キャー!!」
何だか大変な事になってしまって、思わず二人で顔を合わせて苦笑いをするしか出来なかった。
体育の先生曰く「リレーでここまで盛り上がったクラスは教員生活23年で初めて」と言う異様な空気の中、自分たち紅組と白組の第一走者が走り出す。女子→男子と交互に変わっていく形式だったりする。
自分の走る番になる。運動が苦手だから走るのにも精いっぱいであまり覚えていない。
覚えているのは走っている最中に白組の走者に負けた事と、バトンを渡し渡される時の胸いっぱいに染みわたる感情と頑張ってと言うエールぐらいだった。
「山手君、お疲れさまでした。その……惜しかったですね」
「ありがとう、大和さん。でもボロ負けだよ」
「でもバトンを渡した後の山手君、すごく速かったですよ!」
「そうかな?……あ、でも」
「どうしたんですか?」
「大和さんからバトンを貰った時、なんか頑張らなくちゃって思ったよ。大和さんが『頑張ってください!』って言ってくれているように、そ、その、感じたんだ」
「えっ!?……そ、そうでしたか!」
結局二人で一緒のタイミングで照れてしまうからクラスのみんなの餌食になってしまうのだろうけど。
「おい山手ぇ!お前俺に負けた癖に女と良い雰囲気になってるんだ!お前は絶対に許さんからな!」
「なんでそんなに怒ってるのさ、桃谷は」
「お前が運動場のど真ん中で堂々とイチャついてるからだよ!」
そう言い残して嵐は去っていった。別にそこまで怒る事なんて無いと思うけど。それにクラス全員がこっちを向いてにやにやしている。自分たちのクラスは恋愛好きしかいないのかもしれない。
「あ、そうだ。大和さん」
「はい?どうかしましたか?」
「あんまり気にしないでね、リレーの結果なんて。大和さんがリードを保って僕にバトンを渡せたとしても、僕は桃谷に勝てないだろうから」
「気にしてなんていませんよ!あ、はは……」
「大和さん、嘘下手だね。僕には分かるよ、ちょっと雰囲気が暗いから」
「……スミマセン、山手君」
ほんの僅かの表情の違いを見抜いてくれた事に自分の心臓の鼓動はリレーで走っていた時よりも暴れまわっている。
でも、自分も君の僅かな表情の違い、見抜けるよ。
「嘘ついた罰に大和さんの自己PR見せてね!」
「どうしてそうなってしまうんですか~」
二人で笑い合う楽しい中学生生活。
この365分の1しかない楽しい学校生活が今日も終わる。
君がいなくなってしまったら、もうこんな日は来ないのかなって思ってしまった。
そんな事、今は絶対に思ってはいけない事だけど思ってしまうのです。
@komugikonana
次話は1月16日(水)の22:00に投稿予定です。
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さてさて、この小説も終盤に入ってきました。
ここから先は私の腕の見せ所ですね。これからも期待して最後まで読んで下さると幸いです。
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では、次話までまったり待ってあげてください。