放課後になる。
学校のみんなは「もう二人付き合ってるでしょ?」みたいな空気が本格的に流れてきているから、友達といてもすぐそのような話題になる。
最初は否定ばっかりしていたけど、最近は否定もしない。多分、自分の気持ちも友達が思っている方向で間違っていないから。
正確に言うと「好き」なんだ。だから登下校がいつもより楽しく感じてしまう。いつも別れの時間が近づけば寂しいし、少しでも一緒に居たいと思ってしまう。
……何を言っているんだろう。恥ずかしい。
いつものように校門近くで壁に背を預けて待ち人を待つ。何人かは「おっ、これからデート?良いなー」なんて冷やかしてから帰って行く。
「あ、山手君。では、行きましょうか」
「うん。大和さん、ちょっと遠いけどFriendlyマートに行かない?」
「別に良いですよ?何か買いたいものがあるんですか?」
「うん。ちょっとね。それにあそこならYポイントカード使えるし」
心臓のドキドキがピークから落ち着いてきて、丁度心地の良い高揚を手に入れる。心が両手で優しく包まれているような、ちょっとくすぐったいけど温かい感情。
Friendlyマートに到着するまでの道のり、どちらからともなく手を繋いで歩いた。手袋をしていると手の温かさが分からないから右手だけ手袋を取る。
手袋を取ったばかりの右手で触れた左手は、とても冷たかった。
「大和さん。大和さんって機材以外に好きな物って何かある?」
「えっ!?ジブンですか!?」
「そう。大和さんの好きな物」
「そうですね……。スミマセン、急に言われても分からないです。野菜スティックぐらいしか思いつきません」
「大和さんらしいや!じゃあさ、スタジオミュージシャンになれた日には野菜スティックパーティでもしようか」
「倍率も高いですし、そう簡単にはなれませんからいつになるか分かりませんが……」
「来年の3月には決まっているよ。だって今回は大和さん一人じゃなくて、僕も付いてるから」
ぐっと繋がれた手が握られる。自分で言っておいてなんだけど、本当に合格するような気がする。だって、他の受験者と違って二人で受けるんだから。
本当は手を強く握るよりもキスをしたかった。でもキスは恋人たちがするものだから今はお預け。……一回してしまっているけど。
「ところで山手君、野菜スティックパーティって何をするんですか?」
「え?色んな野菜スティックを用意して数種類のソースをつけて食べ比べかな?」
「パーティと言うか、立食会みたいですね」
「あ、じゃあ、部屋を暗くして闇鍋みたいにしよう!ハズレ枠はドラムスティックね」
「ドラムスティックはもっと大事に使わないといけませんよ!」
だから、繋いだ手を指と指で絡めて繋ぐ。これも恋人同士でやる事だけど、我慢できなかった。
絡まった手からは君の温もりをたくさん感じた。
二人で歩いていると距離は遠いはずなのにすぐにコンビニに着いてしまう。コンビニに入る時、繋いでいた手が離されることに少し物寂しく感じてしまった。
「僕は買い物をするから大和さんはコピー機で先にコピーしておいて」
「ジブンも山手君の買い物手伝いますよ」
「え!?あ、すぐに終わるからさ」
「そうですか?」
今まで二人でいたけどコンビニでは別行動をとる。コピー機の前はおばあさんが何かをコピーしているようだから一緒に買い物をしても良いとは思うけれど今回はダメらしい。
「おまたせ、大和さん」
「え!?もう買い物は終わったんですか?」
「うん。だってすぐ終わるって言ったし……ね?あ、ほら大和さん、コピー機が空いたよ」
「何だか誤魔化されたような気がするんですが」
気にしないで気にしないで、と言いながらコピー機の前に行く。
コンビニのコピー機って何故か重装備で敵を薙ぎ払うロボットアニメなんかで出てきそうな風貌をしているように見える。
そのコピー機のふたをよいしょと持ち上げると、赤外線みたいな赤いラインが行ったり来たりする様子を見てますますロボットに見える。
少し離れたところにある精算機に100円が入れられて、コピー機には自己PR 文の原稿が置かれる。
ふたを閉じるのがめんどくさいから手で押さえてコピーしてしまおう、と言う提案があったからその方法でやってみると、案外きれいにコピーされていた。
お釣りを取ってからコンビニを出る。
コンビニの周りは自動車の交通量の多さで鋭い風がビュンビュンと吹いている。
「それにしても大和さんって字もきれいだよね」
「えっ!?や、山手君!自己PR読んだんですか!?」
「読んでないよ!ちらっと見えただけだから」
「本当ですか~絶対ウソですよ!」
自分はその時、ちょっと走って君を困らせてみようって思った。
だけどそれと同じ瞬間に普段では聞かないようなものすごい自動車のアクセル音が後ろから聞こえた。
ちらっと音のする方を見たら、自動車が自分に向かってきていた。
「大和さん、危ない!!」
「えっ?」
自分はどうして車がこんなスピードで走ってきているのか、って分かるはずの無い疑問しか思わなくて、気づいたら君に押されて前に倒れた。
その瞬間すぐ後ろからものすごい爆音が響いて。
自分は頭が真っ白になったと同時に視界がぼやけた。
後ろを向いたら、電柱にぶつかってボンネットが大破した黒の軽自動車と。
ピクリとも動かない君が少し離れたところで倒れていたから。
その後の記憶はほとんどないんですけれど、通行人の人が救急車を呼んでくれたみたいで自分はずっと君を揺すっていたような気がする。
通行人は「あまり揺らすのは良くない」と言って的確に応急処置をしていて、自分は何も出来なかった。
救急車に自分も乗せてもらいましたが、病院に着いた後は厳かな部屋の中に君を運んで行って自分は外で待って手を合わせて祈る事しか出来ませんでした。
その時もずっと視界が揺らんでいたけど、君と約束したから涙をずっとこらえていました。
「これからつらい出来事が起きても、一人で涙を流さないようにしない?」と言う仲直りした時にした大切な約束。
君のお母さんと自分の母が病院に着いた時に医者の人が症状について話していた。
自分に聞こえてきた言葉は到底信じられるものでは無くて何回も頭の中で反芻した。
「山手聡士君は現在昏睡状態に陥っています。やれることはやりましたが、回復の見込みは未定です」
自分の中で何回も聞こえた言葉を繰り返しても、出てくる答えは同じ。
「そ、その……山手君はいつ……目覚めるのですか」
「分かりません。昏睡状態に陥った患者はそのまま目を覚まさない事も多いです」
そんな自分に出来る事を聞けば「出来るだけ声を掛けてあげてください。五感の中で一番早く回復するのが聴覚ですので昏睡状態の患者に効果がありますから……」と医者に言われて自分はきれいな顔をして眠っている君のそばにいるんです。
電子音しか聞こえない病室で優しく声を掛ける。
自分は、いや、ジブンは……。
全て真っ暗になった。
それは、涙ですっかりふやけてしまったA4サイズでA罫の薄い青色の大学ノートを閉じてしまったから。
そのノートはジブンが4月1日に拾った、初めて君と出会った
「スミマセン、山手君。もうジブン、我慢できませんよ……うっうっ……うわあぁあああ―――――――――」
病室には昨日から目を覚まさない君と、声をあげて泣くジブンの声。
ジブンの手には、今まで見ていた君の日記を胸に抱きかかえて持ったままだった。
@komugikonana
次話は1月18日(金)の22:00に投稿予定です。
この小説を新しくお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
Twitterもやってます。良かったら覗いてやってください。作者ページからサクッと飛べますよ。
評価10と言う最高評価をつけていただきました 暁 蒼空さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。 本当にありがとう!!
やっと時系列が現在まで戻ってきましたね。
1話から今話まで、聡士君の日記を麻弥ちゃんが「病室で」読んでいたんですね。1話から必ず冒頭に日付と曜日を書いたのはこの仕掛けの為です。1話は日記色が強いので読み返していただくとより理解できるかもしれません。
24話と今話、日記の書き手(一人称)が麻弥ちゃんになっていたのはお気づきでしょうか。その理由は次話で明かされます。あと、日記なのに会話文がある理由も明かされます。
聡士君が事故にあってしまいました。恐らく車の運転手は「若い人」だと推測できます。第5話の冒頭で地方枠のテレビニュースが伝えています。
長々と解説してしまいましたが……。
大きな転換点になりましたね。最後にもう一つだけ、大きな仕掛けを入れておきました。最後まで応援、よろしくお願いします。
では、次話までまったり待ってあげてください。