僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第26話

声をあげて泣いて、昨日もいっぱい泣いてしまっていたから涙が枯れてしまったのかもしれませんが、少し落ち着きました。

 

病室の小さな机の上に置いてあるカレンダー。それによると今日は12月9日の火曜日。

 

ジブンは、今日の学校が終わった後すぐに山手君が眠っている病室まで行きました。

その時、その小さな机の上にジブンと山手君が出会うきっかけを作ってくれた日記が置いてありましたから、今まで読んでいたんです。

 

「こんなテンプレートな日記みたいな始め方はどうなんだろうって僕は思うけれど、たまには良いかなって思うからこのままいくね」という面白い書き方から始まっていた彼の日記を読んでいて、途中からたくさん涙をこぼしてしまいました。

 

山手君の思っていた感情、山手君の夢など今まで知らなかったことが多くありましたから。

それと日記を読んでいたら、思い出が山手君の声付きで思い出してしまったと言う理由もあります。

それに毎日書くことを目標にしていましたからジブンも昨日の事を書いていたんですが、ノートがふやけてしまってペンで書けないんです。

 

時計を見ると短い針が7を指していて、面会時間が後1時間しかありません。

 

 

“コンコン”

 

と言う音がドアから聞こえたからどうぞ、とジブンは答えました。看護師の方でしょうか?

 

「えっと、大和麻弥ちゃんだっけ?今日も来てくれたの?」

「あ、山手君のお母さん。お邪魔しています」

「そんな硬い事言わなくて良いの!聡美さんって呼んでって言ったじゃない」

 

山手君のお母さんである山手聡美さんでした。一度家にお邪魔させていただきましたけどかなり優しい方です。

 

「このバカ息子の為に毎日なんて来なくてもいいのに」

「いや、その、ジブンが会いたいんですよ。山手君に……」

「そうなの?このバカにはもったいないわね。速く目を覚ましなさいよね」

 

多分、優しい方です……。今はこんな事を言っていますが昨日も面会時間ぎりぎりまでこの病室に居ましたから。

 

「その、聡美……さん。本当にスミマセン」

「どうしたの?麻弥ちゃん」

「ジブンがもっとしっかりしていれば、山手君はこんな事になっていませんから」

 

あの時ジブンが走らなければ車と接触する事もありませんでした。

それに、もしかしたら神様がジブンにこうなってしまう事を事前に伝えてくれていたのかもしれません。山手君のおみくじには「後ろからの衝撃に注意が必要」って書いてありましたから。

 

そんなジブンを聡美さんは肩をさすりながらにっこりと笑いかけてくれました。

そして聡美さんのくれた言葉がとても温かくて抱きしめてもらっていないのに包容力を感じたんです。

 

「麻弥ちゃんが謝らなくても良いのよ。麻弥ちゃんにケガが無かっただけでも良かったんだから」

「ですけど……」

「心配しないの。このバカの事だからこのまま死なないわよ」

 

ジブンは寝ている山手君の顔を見ました。彼の顔はちょっと誇らしい事をしたような顔に見えました。

 

 

「もう7時だし、麻弥ちゃん家に帰らなくても大丈夫?」

「はい。面会時間ぎりぎりまでいるって山手君にも伝えましたから」

 

ジブンは今日病室についてすぐに彼の分のプリントをファイルに入れて病室の机に置きました。その時に今日も最後までいますから安心してくださいね、って言ったんです。

 

「でも麻弥ちゃん、確か三日後に何か締め切りがあるんでしょ?」

「あ、ご存じでしたか。そうです」

 

そうなんです。山手君と一緒に録音したデモテープやCD、それに自己PRの提出締め切りが今日を入れて三日後なんです。そうなんですけど……。

 

「今回は辞退しようかなって考えているんです」

「え!?どうして?」

「それは……」

 

それはスタジオミュージシャンになる以上に大事なことが目の前にあるからです。スタジオミュージシャンに応募するのは来年でも出来ます。ですが、山手君は……。

なので、ジブンは山手君のそばにいるって決めました。今は世の中のどんな事よりも山手君が大事ですから。

 

 

「母親の勘なんだけどね」

 

聡美さんはジブンに優しい声で語りかけてくれました。山手君にはちょっと口の悪いところがありますが、山手君の性格はこの人に似ていると思いました。優しく接してくれて、励ましてくれるところが、です。

 

「この息子は麻弥ちゃんに受験して欲しいって思っていると思う」

「そうなんですか?山手君」

「だってそう思っているから一緒にコンビニに行ったんじゃない?麻弥ちゃんをかばったのは色んな感情があると思うけど、一つに受験して欲しいっていう思いもあると思うの」

 

本当に山手君はお人よしですよね。ジブンの夢なのにまるで山手君の夢みたいに協力してくれるんですから。

ジブンはこれまで山手君とたくさんの時間一緒に居ましたが、山手君の歩く道が日記を読んでも分かりませんでした。もし山手君の道が「大和さん(ジブン)を助ける事」ならお人よしすぎますよ。

 

「それにうちの息子、何か麻弥ちゃんに伝えていないの?」

「えっと……無いと思います……け、ど」

 

その時、ジブンのスカートの左ポケットに入れてあるあれ(・・)の事を思い出したんです。

ジブンと山手君が仲直りして、ジブンが受験すると決心した日に彼から貰った緑色のお守り。

ジブンは慌ててお守りを取り出しました。

 

「そう言えばこのお守りを貰った時に山手君から『どうしても一人で泣きたくなった時はこのお守りの中を開いて欲しいんだ』って言ってくれました!」

「今、開けてみたらどう?麻弥ちゃん」

「え、今ですか?」

「うん。今の麻弥ちゃんの目、真っ赤よ。私がここに来る前に泣いていたんじゃない?もしそうならぴったりね」

 

ジブンはボタンによって閉められていたお守りを開けました。

そこには小さく折りたたんである紙があって。その紙を開きました。

 

 

 

 

 

人は成果が目に見えなければ、それは失敗だと思い込む

大きな前進を好むものだ

 

だけど、考えてみて

小さな一歩でも、それは前進しているんだ

その行動を取った時点で、君は輝いているんだ

 

たとえそれが、カメが踏み出す一歩ほどの歩幅であっても

 

そんな一歩を踏み出し続ければ、いつかウサギにも勝てるんだから

 

ねぇ大和さん。僕はずっと進んでいる君を見てきたんだ。

これを見ているって事はつらいことがあったんだよね。でも僕はずっと君のそばで応援してる。どんなに離れていても君の事を考えてるから。

たとえ僕が星になったとしても、ずっと大和さんのそばにいるよ。

だから君は一人じゃない。僕もいる。一緒にスタジオミュージシャンの夢を叶えようよ。今は泣いても良いよ。だけど明日は笑顔の君でいてね。

明日すぐ君の所に駆け寄ってつらい事なんてぶっとばしてみせるから。

 

 

 

 

 

ジブンの手がまるで山手君の手で、身体で包み込んで温めてくれているように感じてしまいました。あぁ、また視界がぼやけてきました。

 

「ずるいですよ、山手君は」

 

お守りだけでもうれしいのに、こんな紙まで残して。ジブンまたたくさん泣いてしまいますよ。

嗚咽も激しくなってしまいました。ジブンは君に怒らなくてはいけない事があります。

 

「ううっ、それなら山手君、明日駆け寄って来てくださいよ!うっ、うっ、そばにいて慰めてくださいよ……。山手君も寝ていないで一歩踏み出してくださいよ!本当に星にならないでくださいよぉ。ううっ、うわあぁああああ!ぐすっぐすっ!っあああ――」

 

 

 

 

泣いた。今日はたくさん泣きました。山手君のせいですからね。

ですけど、ジブンは決心出来ましたよ。

 

「聡美さん、ジブン、明日音源とPR文を持って事務所に出してきます」

「それが良いと思うわ。それとね」

「はい、何でしょうか?」

「この子の日記を麻弥ちゃんに持っていてほしいの。たくさん愚痴を書いて目が覚めたこの子にたたきつけてあげて」

「あ、はは……。でも、それも良いですね」

 

胸にもう一度君の日記を抱えました。もう面会時間は終わりますから今日はお別れの時間ですね。

 

「麻弥ちゃん。家まで車で送ってあげるね」

「ありがとうございます!」

 

 

「見ていてくださいね、山手君。それとまた明日も来ますから」

 

 




@komugikonana

次話は1月21日(月)の22:00に投稿予定です。

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では、次話までまったり待ってあげてください。
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