目が覚める。冷たい空気と独特の緊張感がジブンを迎えてくれました。
今日は12月24日、水曜日。
クリスマスイヴの今宵、テレビ番組もクリスマス特集が組まれていたりと華やかなムードを醸し出しています。
街中も歩けばたくさんの方がクリスマスを楽しんでいそうです。
ジブンは、みなさんとは違うクリスマスを過ごします。今日は芸能事務所へ向かって最終面接です。これをクリアできれば夢のスタジオミュージシャンになれるんです。
「せっかくですから、サンタさんにお願いしてみましょうか」
クリスマスイブの夜にはサンタさんが良い子にプレゼントを配りますよね。ジブンはもう信じていませんが、お願いくらいなら聞いてくれたりしませんかね?
最終面接に合格して、君と笑顔で喜びを分かち合えますように。
一つのお願いですが、実質二つ分を要求するジブンは欲張りでしょうか?それなら今日でなくても良いです。一つだけでも良いです。
君が目覚めると言う最高のプレゼントをください。
朝から電車を乗り継いで芸能事務所近くに着きました。時刻は9時20分。
少し早めに着いたジブンは緊張で飛び跳ねている心臓を落ち着かせる為、近くの公園に腰を下ろしました。
朝の冷たい空気を目一杯吸ってみれば、冬の空気は夏より澄んでいて綺麗な気さえしてジブンの感情が浄化されていくように感じます。
……よしっ!気合いを入れて面接を受けましょう!
ジブンの左ポケットに緑色のお守りが入っていることを確認して意気揚々と事務所に入りました。
面接の待合室は大きい割に人数が少なくて心細く感じましたが、それは最初だけでした。
だってジブンの近くには、君も居てくれているんですよね?
「大和さん。入ってください」
「はい」
若そうな人がジブンを呼んで、面接が行われる部屋に連れて行っていただきました。
多分エライであろう方々が三人一斉にこちらを向いて、緊張が走ります。
ジブンの自己紹介やら自己PRを伝えました。面接官の方があまりメモを取っていない事が少し気になりますが。
「大和さんはね、どうしてこの年でスタジオミュージシャンになりたいの?来年高校生ですよね?今じゃなくても良いと思うけど」
自己紹介で社長と名乗っていた方がそう聞いてきました。
確かに来年は高校生になる予定ですし、スタジオミュージシャンになるチャンスは後々にもたくさん有ります。ですが、「今しか」ダメなんです。
「スタジオミュージシャンになる事が夢でしたが、去年失敗してほぼ諦めかけていました。ですが、大事な人がそんな
「……それで?」
「その大事な人は今、生死をさまよっています。ですがその人と一緒に夢を叶えようって約束しました。ですからきっと目を覚ます彼に伝えたいんです。ちゃんとスタジオミュージシャンになれましたよって」
「聞いているとね、大和さんがスタジオミュージシャンになる事が目的では無くて手段に聞こえる。大事な人が目を覚ますための手段として、ね。では、どちらかしか選べないって神様に言われたとしよう。スタジオミュージシャンになる事と大事な人、どっちを選びますか?」
おそらくですが、この場面ではスタジオミュージシャンになることの方が大事です、っていうのが正解だと思います。
ですが、ジブンの口から出た言葉は違ったものでした。
「大事な人、山手君が目を覚ます方が大事です!」
正午になって人が多くなってきた時にジブンは芸能事務所を出ました。
……言ってしまった。君の方が大事ですって。
きっとスタジオミュージシャンにはなれないと思います。ごめんなさい。
ですが、あの場面で嘘をつきたくなかったんです。嘘をついてしまったら今までの君との思い出がすべて泡のように消えて無くなるって思ってしまったんです。
電車に揺られて、見覚えのある駅で降りる。
確か、似たような事をレコーディングスタジオから帰って来た時に思いました。
あの時はもう少し君と一緒にいたいって言いましたけど、今は言えないんですよね。
「♪~」
そんな事を思っていた時に急に携帯が鳴ったのでジブンは訳が分からないまま電話に出ました。いきなりすぎて頭が着いて行きませんよ。
「先ほど最終面接を受験された大和麻弥さんのお電話で間違いないでしょうか?」
「あ、はい!大和です」
「申し遅れました。私、芸能事務所trueの斎藤と申します。大和さんは来年からうちの事務所のスタジオミュージシャンとして契約させていただきます」
「え?」
それってもしかして、ジブン……。
「社長が大和さんの事、気に入ったみたいです。『普通あの場面で本音は言えない』って太鼓判ですよ?」
「あ、ありがとうございます!」
「詳しい事は書類を郵送いたしますので。不明な点がございましたら遠慮なくお電話でお問い合わせください」
携帯が切れて、ジブンは少しふわついた気持ちになっていました。
夢のスタジオミュージシャンになれるんですよ!早く君に伝えたいって思いました。
ですが、気づいたんです。母からたくさんの不在着信が来ていることに。
母に電話を折り返しますが、電話に出てくれる気配がしません。
「もしかして、山手君……?」
君に何かあったのかもしれない。急に不安がジブンに襲い掛かってきました。
面接の時の会話が頭を離れないんです。
「では、どちらかしか選べないって神様に言われたとしよう。スタジオミュージシャンになる事と大事な人、どっちを選びますか?」
ジブンは急いで病院に向かって走り出しました。駅からだとバスがあるのですが、さっき出たばかりで30分後にしか来ないらしい。
それなら運動が苦手なジブンでも走って向かった方が早いって感じたから。
本当にジブンが走っているのかって思うほど景色が流れるように変わりました。しかしそれも最初だけで、段々と足が痛くなってきたり足が絡まるようになってきました。
やっとの思いで病院に到着しましたが、あれから30分ぐらい経過していましたからあとちょっと、と言い聞かせながら走っていると知っている人がいました。
「あれ?大和じゃん。お疲れさま」
「はぁはぁ……桃谷君?どうしているんですか?」
桃谷君は以前、「山手はこんな事で死ぬ奴じゃないから意識が戻るまで会わない。もし死んだらぶん殴りに病院に殴りこむ」って言っていましたよね?……どうして病院にいるんですか?
「どうしてって言われてもな……。さっきまでクラス全員来ていたし」
クラス全員が一度に病院に来る事なんてよほど大きな出来事が起こらない限りありえませんよね?
「ほんっとあいつはいつも急に……。大和もあいつに会いに来たんだろ?待ってるんじゃないか?」
桃谷君の言葉を最後まで聞くことなく走りました。
病室では静かにして走らないように、なんてよく注意されますが、今はそれどころではありません。
「いつも急に……」なんですか?
君は今まで一度もジブンとの約束を破ったことがありませんよね!ジブンが勝手に怒ってケンカした時も慰めてくれましたよね!
勝手に死んだりしませんよね、山手君!
スタジオミュージシャンになれたら野菜スティックパーティするんですよね!
息は絶え絶えで足元もおぼつかないジブンの身体にムチを打って階段を上る。
山手君が眠っている5階に到着して、いつも通い慣れている病室に行くだけなのに今日はやけに遠くに感じるんです。
ジブンは思いっきり閉まっていたドアを開けました。
途端にジブンの目から熱いものがたくさんこぼれ落ちた。
「久しぶり、だね。大和さん」
@komugikonana
次話は1月25日(金)の22:00に投稿予定です。
新しくこの小説をお気に入りにしてくれた方々、ありがとうございます!
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~評価していただいた方々を紹介します~
評価10と言う最高評価をつけていただきました 金月さん!
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評価9と言う高評価をつけていただきました すくすくLv.Xさん!
評価9と評価を上方修正していただきました 菘亜杞さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!
これからも応援よろしくお願いします。
~次回予告~
これは、12月24日の朝の出来事。最終面接を受けている君は知らない、裏側の物語。
そして……な物語。お楽しみに!
~お詫びと訂正~
「僕と、君と、歩く道」において、第20話で誤字が確認されました。
(誤)まだ子供をつくるには速いわよ
(正)まだ子供をつくるには早いわよ
執筆過程から使い分けを特に気を付けていた漢字でしたが、ミスをしてしまいました。読者さんのみなさんにご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
誤字報告していただいた方、ありがとうございます。
~感謝と御礼~
「僕と、君と、歩く道」のお気に入り数が300を超えました!!読者のみなさんの応援無しでは成し遂げられない事です。みなさん、本当にありがとうございます!!
これからも応援、よろしくお願いします!
では、次話までまったり待ってあげてください。