僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第29話

「うん……?」

 

あれ?僕は一体何をしていたんだっけ。それに身体の節々がガラクタのような感覚ですごく痛い。寝違えたのかなって思って僕は起き上がろうとするも力が入らない。参ったな。

 

瞬間、僕は異変に気づいたんだ。ここは僕の家では無い。それに僕の布団のシーツはどこまでも行き届くような青色でこんな味気の無い白色では無い。

 

「あ、そう言えば僕は……」

 

確かコンビニで大和さんの自己PRをコピーするから僕も着いて行ったんだ。そして後ろから車が猛スピードで大和さんに向かっていったから大和さんを押して……。

どうしよう。ここから先の記憶が無い。大和さんは無事なのか!?

 

「大和さん!!あっ……いててて」

 

急に動いてしまったからか身体がすごく痛いのを忘れていて思わず大きな声をあげてしまった。僕が入院しているらしい部屋は幸いなことに個室だから他人に迷惑をかけてないから良かったかもしれないね。けど大和さんは?

 

僕の出してしまった大声が響いたのかもしれない。その後すぐに病室の扉が開かれた。

……え?ノックくらいして欲しいな。

 

僕はさっきまで寝ていた布団の上で上体を起こして空いたドアを確認する。

普通起きてすぐは視界がぼやけていて良く見えないのに、今日はやけにすっきり見える。

身長は少し高いくらいで、髪質から髪形、それに目元に鼻の形が大和さんにそっくりな人が立っていたんだ。

 

「うそ……!?聡士君!起きたの!?」

「え、はい。さっき起きました」

「よかったぁ~~!心配したんだから!」

 

すごいスピードで近づいて来たと思ったら、急に大和さんのお母さんに抱き着かれたんだ。

やっぱり大人の女性は身体つきがグラマラスだなぁ。

 

……なんて思っていない。本当だからねっ!?

だって急な事で僕の頭が着いていけてないし、何よりかなりきつめに抱き着かれているから身体がすごく痛くて失神しそうなんだ。

 

「いたたたた!どうしたんですか急に」

「これくらいの痛みは我慢しなさい!……目が覚めて良かった……」

 

痛いって言っても離してくれなくて、もしかして僕は大変な事をやらかしてしまったのかもしれないって薄々感じてきたんだ。

 

「その、聞きたいんですけど大和さんは無事ですよね?」

「あら?自分の事より麻弥の心配?本当に良く出来た子ね」

「は、はぁ……」

 

 

大和さんのお母さんは僕が目覚めた事を看護師や担当医に知らせてくれた。みんな二度見したり、目をあからさまに大きくしたりと中々失礼な振る舞いを受けた。

さっき「麻弥は聡士君のお陰でケガ無く過ごせているわ」って聞けたのでひとまずは安心しているんだけど……。

 

「山手君。今日は何日か分かりますか?」

「えっと……」

 

担当医からの質問が藪から棒どころか、藪から鉄パイプが出てくるような素っ頓狂な質問に僕はたじろいだけど、そう言えば起きてからカレンダーを見ていないなって思ったんだ。

確かコンビニに行った日は8日だったから……。

 

「12月9日くらいですか?」

「……それは君が事故にあった次の日だよ」

 

僕が質問したのに答えが返ってこない、何だかちぐはぐな返答。

すると大和さんのお母さんが携帯の画面を見せてくる。……なんで僕と大和さんが抱き合っている写真が待ち受けなんですか。

仲直りしたあの日の写真なんだろうけど、何回も消してください、って言いましたよね。

 

そんな待ち受け画面に映し出される日付を見た。

 

「……。えっと、この携帯壊れてます?」

「まだ寝ぼけているの?聡士君。今日は12月24日よ」

 

嘘だ、って思って周りの人たちにも目を合わせてみたけど目が真実を伝えているように感じた。と言う事は僕は二週間も寝ていたのか。

……待って。僕が二週間もの間ずっと寝ていたって事は!

 

沙弥(さや)さん!!大和さんはスタジオミュージシャンの受験、どうしたんですか!」

 

大和さんのお母さんを咄嗟に名前で呼んでしまった。失礼かもしれないけどかなり焦っている。僕はあんな偉そうな事を言っておいて大和さんが頑張っている時に寝ていたなんて。

 

「麻弥は今ね、最終面接を受けに事務所に向かっているわ」

「場所はどこですか!今すぐ行きますから!」

「ちょっと落ち着いて、聡士君」

 

落ち着いてなんていられるわけないじゃないか。あれだけ「一緒に頑張ろうよ」なんて言っておいて結局大和さんを一人にしてしまっているじゃないか。

僕の足はまだ動かないのは起きてからでも分かる。でも大和さんの近くに行きたい。

例え這ってでも行きたいんだ。

 

「車いすとかは無いんですか?先生」

「落ち着きなさい、山手君。君は頭を強く打っていたんだよ!精密検査しないといけないから」

「僕は大丈夫ですよ!僕の命なんて……」

 

言いかけて、辞めた。僕の命なんてどうでも良いって言ってしまいそうになったんだ。

だけど、沙弥さんの喜び方を見て想像できたんだ。きっと大和さんは二週間の間ずっとお見舞いに来てくれていたんじゃないかなって。

 

そんな事言ったら大和さんや、沙弥さん。それにお見舞いに来てくれた人達に失礼だよね。

 

「……すみません。冷静を欠いていました」

「まず精密検査を受けようか」

「はい。……その前に少しだけ良いですか?時間」

 

僕は急いで電話を大勢の人にかき鳴らした。

 

 

 

僕は事故にあった後何も覚えてないって自分で思っていたけど、今になって違う気がする。

どうしてか知らないけど、ハロウィン祭で大和さんと二人で歌ったあの曲が流れていたような気がしたんだ。

 

久しぶりに聴いた大和さんのきれいで、温かみのある歌声に僕は泣いたような気がする。

多分気のせいだけど、そんな気がする。

 

 

 

 

精密検査は思っていたよりも速く終わった。脳をスキャンしたり色々されたけど、僕自身頭痛がしたりは無いから大丈夫だろう。足は筋肉が落ちていておまけに骨折しているのでしばらくはリハビリが必要らしい。

 

沙弥さん曰く、大和さんに何回電話を掛けても出ないらしい。きっと面接の最中なんだろう。僕の母親は仕事中でメッセージを入れたら「やっと起きたか、バカ」って帰って来た。辛辣すぎて涙が出た。

 

 

「来たわよ、山手君!」

 

クリーム色の髪の毛をしたクラスの女の子が病院に来た。この子は桃谷と同じくクラスの中心的存在で、たくさんのクラスメイトと一緒に来ていた。

 

「あれ?桃谷はいないの?」

「桃谷はクラブチームの練習試合だって。でも途中で抜けて病院に行くって言っていたわよ」

 

これは桃谷の八つ当たりコースかもしれないと苦笑いを浮かべる。けどそこまでしてでも来てくれる桃谷には感謝しないといけないな。

 

「ごめんね、みんな。急に集まってもらって。これをみんなにやって欲しいんだ」

 

 

 

 

クラスのみんなは帰って行った。桃谷も本当に来たけど、一発殴られた。「心配かけさせた上にいきなり来いはねーだろ!」って。

でも久しぶりのやり取りで笑みが浮かんだ。もちろん桃谷も。

 

「それにしても麻弥は幸せね」

 

病室の端っこで椅子に座っている沙弥さんがそんな事をこぼした。もう12時が過ぎているのにご飯を食べられないのかな。正直、お腹空いた。

 

「大和さんが幸せってどういう事ですか?」

「そのままの意味よ。聡士君って意外と鈍感?」

 

僕は鈍感じゃないと思うけど、同じことをクラスの男子にも言われたことがある。

鈍感って恋愛に対してだよね?僕に向けてくれる好意なんかすぐに気づけると思うけど。

 

なんて好意を向けられるまで分からないのは当たり前じゃないの?って思いながら青く澄み渡る空を病室から見渡す。

この時期の空って雲が多いイメージがあるけど、今日は雲一つも無い快晴って感じで僕の心の中を明るく照らしてくれる。

 

……病院の廊下を走る誰かの足跡がここまで聞こえる。

沙弥さんはくすくす笑っているけど。

 

 

ドアが思いっきり開けられた。

 

 

そこには息を切らしながらも、僕と視線を合わせてくれる君がいた。

久しぶりの感覚がしないのに、一年ぶりに再会したような感情が僕の周りを渦巻いた。

 

僕は君に、にっこりと笑いかける。

 

 

「久しぶり、だね。大和さん」

 

 

 




@komugikonana

次話は1月28日(月)の22:00に投稿予定です。
新しくこの小説をお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
Twitterもやってます。良かったら覗いてやってください。作者ページからサクッと飛べますよ。

~次回予告~
「久しぶり、だね。大和さん」それは僕が君に掛けた最初の言葉。もっと他に伝えたいことがあるんだけど。でも、君が無事で本当に良かった。
記念すべき30話、ラストは甘く……!?

~お知らせ~
・この作品では、感想を募集しております。気楽にドンドン書き込んでください。お待ちしております!!
・1月27日(日)の22:00に私のTwitterで新作「幸せの始まりはパン屋から」の本文を一部公開します。良ければ覗いてみて下さい。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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