金メッキがはがされている事も知らずにドヤ顔で「今日は国民の休日なんだよ」って言われているような気がする5月4日(日)。
僕はそんなゴールデンウィークに何だか腹が立ってきて家に居るのが億劫に思うようになり外に飛び出した。
だけど、今なら言える事が一点ある。
それは、今日外出していて良かったと言う点に尽きる。
僕は特に用事が無かったから、街にある本屋さんに出かけて文庫本の新刊コーナーに行って良さげな物があったら買おうって思っていた。
その途中で、僕は見覚えのある女の子を見つけたんだ。その瞬間僕の心臓が速足になったから、つられて僕も速足で彼女のいる方向に向かう。
「おはよう!大和さん」
「あ、おはようございます山手君!奇遇ッスね~」
やっぱり彼女の正体は大和さんだった。僕の心臓がまだ速足なのは多分、休日にクラスの女の子に会うと言うシチュエーションが何だかデートみたいだって思ったからだ。
「大和さんは何をしていたの?」
「ジブンはこれから楽器店に行こうって思っていました」
「え?楽器店?」
中学生の行先にしてはいささか稀有な回答に僕は頭にクエスチョンマークを浮かべる。確か大和さんは吹奏楽部に所属していないし、中々大和さんと楽器がイコールで結ばれない。
「良かったら、山手君も一緒に来ますか?」
「ほんとに?やった!」
正直なところ、楽器に少なからず興味があったんだ。テレビでバンドを見ていたらギターってかっこいいな、とかドラムって難しそうだな、とか。
それに楽器屋に入る事なんて普通の人は経験できないじゃん?楽器が素人なのに店に入って店員に絡まれたらどうしたらいいか分からないし。
だから僕は大和さんの誘いに乗った。
それと同時に、もしかしたら大和さんは趣味が楽器を弾く事なのかもしれないって思ったんだ。僕はギターを弾く大和さんを想像する。普段はおとなしいけど、ギターを手にした瞬間すごい音を出してヘドバンしながらメタル系を演奏するのかも。
「ここです!」
大和さんに着いて行って到着したのは「江戸川楽器店」。楽器店ってもっとこじんまりしているのかなって思ってたけど、案外大きさがある。
それに大和さんはいつもより表情がイキイキしている。目が北極星のようなまばゆい光を発しているようにも感じる。
僕たちは楽器店に入店する。入った瞬間、壁にたくさんのギターやベースが掛けられていることに驚いたんだ。まるでプラネタリウムにいるような感覚だった。見渡しても周りはきれいに輝く楽器ばかり。
呆気にとられていた僕は横に大和さんがいなくなっているのに気づけなかったから、ふと横を見て誰もいなかった時、肝がヒヤリとした。
周りを見渡してもいなかったから慌てて探していると、何だか箱みたいな機械の前でしゃがんでいる大和さんを見つけた。
「急にどこか行かないでよ、大和さん」
「
「……大和さん?」
「うわあ!?山手君!」
見つけたのは良かったけど、大和さんは何やら訳の分からない言葉を発していた。何だか僕だけ外国に飛ばされたような錯覚になった。
用語も、周りの人間も、僕の常識が通じない。
「あ、スミマセン。機材を見てると興奮しちゃうんです」
「そうなんだ。……大和さんの見ていたこの箱はなんなの?」
「これはギターアンプのヘッドです!スピーカー内蔵のキャビネットの上に載せて使うんですけど、このMarshallは真空管が付いていてパワフルな音が鳴る代表的なアンプで、このFenderはこの会社にしか出せないジャキジャキ感がもう……」
身の周りが外国で訳が分からないから大和さんに通訳をお願いしてみたけど、その通訳が外国語で話されていて全く分からない。
けど大和さんが話す時はとても楽しそうで本当に好きなんだなって思えてきて、言葉の意味は分からないけど、僕は自然と笑顔になった。
「おー!このMarshallのアンプ、フットスイッチが付いていて触らずに足で自在にクリーンと
「大和さんってギター弾けるの?」
「あ、ジブンはギターを弾けないんです」
僕は危うく転びそうになった。だってあんなにギターのアンプ?について熱く語っていたのにギターを弾けないって凄く矛盾しているから。逆を言うなら、弾けない楽器の機材でこんなにも語れるなら弾ける楽器はとてつもない知識量なのかもしれない。
「ジブンはドラムをしています」
「へー!ドラムって難しそうだけどかっこいいよね」
「そうですよね!ドラムって実はバンドで使う楽器の中で一番簡単って言われていますが、リズム感が物を言う楽器ですし、ドラムの実力がバンド全体に反映されるといっても過言では無いです。ドラムと言えば、現在の配置にしたのはあの有名なイギリスのロックバンド……」
大和さんはドラムの事について熱心に話す。話の大半が理解できないけど、好きな事にこんなにも向き合える大和さんがすごいなって思えて。
だから4月28日に見せた下向きの表情の意味が分からなくなった。
ちなみにこの後も楽器屋に居た。僕も個人的に楽しませてもらったし、また来たいと思えた。帰る時、入り口の横にあったスピーカーみたいなものを大和さんが見つけて「おー!これはヤマハの名器、BR12ですよ!リーズナブルなのに……」とまた訳の分からない言葉が飛び出したりしたんだ。
楽器店を後にしたら、大和さんが少しシュンとしていた。
「スミマセン……また熱くなってしまって……」
「楽しそうだったよ。大和さん」
「ジブン、こんな感じで機材を目の前にすると語りだす悪い癖がありまして……みんなひくんですよ……山手君もひきましたか?」
失敗してしまって怒られた子供のようにうなだれている大和さんに、僕は思った事をしっかりと言おうって思ったんだ。
僕は大和さんを呼んで、こっちを向いた彼女の顔をしっかりと見る。目と目を合わせて。
僕の感じた想いを、嘘偽りなくまっすぐに伝えるんだ。僕は大和さんに悲しい顔をしてほしくないんだ。
「僕はひかなかったよ。逆にすごいって思った」
「……どういう事ですか?」
「好きな事に真剣で。前向きで。それは誰にでも出来る事じゃないから」
「山手君……」
僕は好きな事って長続きしないって思っているんだ。簡単に言えば好きな事っていつか飽きると思っている。昔は良くやっていたのに今は……という経験はあるんじゃないかな?
でもそれは、どこかで真剣になれていないから飽きるんだ。大和さんは真剣に好きな事と向き合っている。
「あ、ありがとうございます!」
少し顔を赤らめてお礼を言う大和さん。
何だか僕まで熱くなってきた。僕と大和さんの周りにはむずがゆい空気が漂っていて僕の身体をくすぐっている。
「や、大和さん!そろそろご飯食べない?ファミレスとかで」
「あ、はい!」
僕たちはファミレスに行き、注文を取った。
たしか僕はランチセットAを、大和さんは野菜たっぷりクリームスパゲティにサラダを注文したと思う。どうやら大和さんは野菜が好物らしい。
各々注文をしていた商品たちは、僕たちの机にオシャレな服装を装ったようなきれいな盛り付けをされてやって来た。
僕は主役のエビフライをナイフで一口大の大きさに切ってからフォークで口まで運ぶ。
僕も大和さんも食事中はあまり話さなかったから黙々と食べて、食べ終えるとそのまま今日は解散になったんだ。
ご飯を食べている時に僕はちらっと大和さんの方を向くと、たまたま目が合いお互い顔が赤くなり微妙な空気になったんだけど、お別れの時は元気よく言えた。
「山手君、今日は楽しかったッス!」
「ばいばい!大和さん」
僕も、今日は楽しかったよ。大和さん。
@komugikonana
次話は12月3日(月)の22:00に投稿予定です。
新しくこの小説をお気に入りにしてくれた方々、ありがとうございます!
Twitterをフォローしてくれた方もありがとう!
評価10と言う最高評価をつけていただきました 黒猫ウィズさん!
評価9と言う高評価をつけていただきました ふがふがふがしすさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました シフォンケーキさん!
同じく評価9と言う高評価をつけていただきました ゆいがはまさん!
評価8と言う高評価をつけていただきました tk00さん!
評価7と言う高評価をつけていただきました 麻婆豆腐の人さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
「ここを改善した方が良いよ」と言う点があればアドバイスを頂ければと思っています。
評価バー点灯&お気に入りが50を超えました!これも読者のみなさんのお陰です!
お礼として、来週は月火木金の4回投稿しますのでお楽しみに!
では、次話までまったり待ってあげてください。