僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第32話

普段気慣れた制服をこの先永遠に着ることが無いって考えたら何だか感慨にふけるよね。僕はいつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ制服を着るけど今日でおしまい。今日はちょっとだけセミの気持ちが分かったような気がした。

セミは幼虫で3年過ごしたのち、脱皮して成虫になる。

 

僕の母親は息子の卒業式を口実に会社を休める事でやたらと機嫌が良い。僕からしたらまだ高校の合格発表が明日で心から卒業式を楽しめないんだけど。

そんな気分を忘れる為、人生で初めてヘアワックスをつけた。

 

「聡士、式が終わったら校門の前で麻弥ちゃんと待ってなさいよ」

「え?そんなの初めて聞いたんだけど」

「今言ったんだから初めてに決まってるじゃない」

 

ケンカを売っているのだろうか、僕の母親は。

今の僕の足は完治しているから飛び蹴りも出来るんだよ?

 

そんなしょうもない事を考えていたって仕方がない。今日で大和さんと登校するのは中学生として最後だからしっかり思い出に残さないといけない。

僕は母親にいってきます、って言ったんだけど呼び止められた。

 

「聡士」

「なに?」

「中学校卒業おめでとう、聡士」

「あ、ありがとう」

 

やけに調子が狂うな、今日は。

 

 

 

「おはようございます!今日は早いですね」

「おはよう、大和さん」

 

僕はいつもより早く家の前の電柱で大和さんを待っていた。理由なんて特にないけど、あえて言うなら、なんとなく。

 

「それにしても、中学校生活はあっという間でした。特に三年生の一年間は」

「そうだね。大和さんに会ったのが昨日のように感じるね」

「少し大袈裟ですが……その気持ち、分かりますっ!」

 

中学三年の思い出はほとんど大和さんと同じだったから、余計に感じてしまう。逆に言えば、君がいたからこんなにたくさんの思い出が作れたんじゃないかな。

 

「あ、そうです!山手君っ!」

「どうしたの?大和さん?」

「明日、必ず電話くださいよ!ジブンも緊張しているんですから」

 

電話って言うのは、僕の合格発表の事。ちなみに大和さんは見事、羽丘女子学園に合格した。来年からは高校生兼スタジオミュージシャンの道を歩く。

 

「山手君が受けた花咲川西高校って確か演劇部が有名でしたよねっ!」

「そうらしいけど……どうして大和さんが知ってるの?」

「あ、はは……なんででしょうね~」

 

大和さんって凄く誤魔化すのが下手なんだけど、本当にどうして知っているんだろう。美術部(・・・)の方が有名なんだけど、大和さんって演劇に興味あるのかな。

……もしかしたら演劇に使う機材の方に興味があるのかもしれない。

 

だけど本当の事を言えずに何とか誤魔化そうとする大和さんを見て、やっぱり君といるのは楽しいな、って改めて思った。

 

 

 

学校に到着したら、クラスの黒板が派手に装飾されたり、チョークで絵が描いてあったりと今日が特別な日であるとまじまじと伝えてくる。

僕たちは適当に雑談しながら出席番号順に廊下に並ぶ。中学生って小学生と違ってほとんど卒業式の練習なんてしないから特に緊張なんかしない。

 

「山手君」

「どうしたの?大和さん?」

 

僕たちが体育館に入場して、下級生の子達が頑張って並べてくれたパイプ椅子に座っていると、大和さんが小さな声で僕に話しかけてきた。

僕たちはA組だから一番早くに座るからちょっと暇なんだ。

 

「今日の山手君、かっこいいですよ?」

「あ、ありがとう……大和さん」

 

急にそんな事を言うなんてずるいよ。心臓の音が隣の桃谷にも聞こえてしまったらバカにされるじゃないか。でも、とても嬉しくて大和さんの顔をじっと見つめた。

 

「みなさん!A組が誇るカップルがいきなりイチャついてますよ!!」

「桃谷!ふざけたらダメだって!」

 

いきなり桃谷が立ち上がって大声でそんな事を言いふらす。お前、バカなの?

僕は桃谷を抑え込んだけど、後ろの保護者席の方から「聡士君、大胆ね!麻弥はもっとアタックしなさい!」ってカメラのシャッターを高速で押す誰かのお母さんがいて……。

 

開始早々違う意味で涙を流してしまった。

横の大和さんを見たら、すごい量の冷や汗を流していた。

 

 

 

 

結論から言うと、僕たちはまったく卒業式で感動の涙を流せなかった。もちろん僕たちって言うのは僕と大和さん。

ある意味強烈なインパクトを残したこの卒業式を僕は一生忘れないだろう。

 

 

桃谷はすごく泣いていて腹が立ったのは内緒にしておこう。

 

 

「山手君スミマセン。ジブンの母が……」

「気にしないで。それより校門の方に行こうか。母親が大和さんと一緒に来いって言ってて」

「そうなんですか!?ジブンも今朝、母に同じ事を言われましたよ」

「大和さん、僕また冷や汗が出てきたんだけど」

「あ、はは……」

 

僕たちの母親同士が関わったら良い事なんて絶対に起きないだろうな……。どうしよう、校門の前で「結婚式は明日よ!」とか言われたら。

 

でも行かない訳にはいかないから、僕と大和さんはクラスのみんなとの別れを済まして校門に向かう。勇者が魔王に立ち向かう時の気持ちってこんな感じなのかもしれない。

僕が今持っているのは卒業証書の入った筒なんだけど。

 

「あ、来たわね!麻弥ちゃん久しぶりね!」

「聡美さん、お久しぶりです!」

 

僕の母親と大和さんのお母さんである沙弥さんが校門に立っていて僕たちを待っていてくれた。沙弥さんは何もしなければ大和さん似で美人なのに。

それに僕の母親が大和さんを呼ぶときの声色の変化にドン引きしたんだ。あんな声、僕は今まで聞いた事ないんですけど。

 

「早速写真を撮りましょ!表札の前でツーショットね」

 

案外普通な要求だった。僕は学校名が書かれた表札の右側に、大和さんは左側に立った。

何だか幼馴染との卒業式みたいで心臓の裏側がかゆいけど、精いっぱいの笑顔をレンズに向けたんだ。

 

「はい、チーズ!」

 

この写真がいつまでも僕たちを見守ってくれて、たまに見た時は君と一緒に思い出を笑いながら語り合えたら良いなって僕は思った。

 

「完璧ね。聡士、あんたこんなに笑えるなんて知らなかったわ」

「ふふっ、それじゃ私たち母親は食事に行ってくるから。それと麻弥」

 

僕の母親はさらっと毒を吐いた。沙弥さんは大和さんに何か耳打ちをしている。

あ、大和さんの顔が真っ赤になった。いったい何を吹き込んだんだろうか。

 

でも、母親たちがいなくなるのは好都合なんだ。

だって今日は大和さんに僕の考えを、想いを伝える日なんだから。

 

「大和さんっ!」

「山手君っ!」

「「あっ……」

 

どうしてこんな時に被るんだろうか。神様が僕たちに見えないゼンマイをつけていて、巻いたり止めたりしているように人生って上手い具合に誰かに調整されているんじゃないかって思った。

 

「その、山手君からで……良いですよ?」

「分かった」

 

僕はすーっと息を吸い込む。多分卒業式で名前を呼ばれる前よりも、息をお腹にためて言葉を放ったんじゃないかな。

 

「ちょっとだけ、僕たちのクラスに行かない?」

 

 

 

いつもは活気に湧いていて、楽しい時もつらい時も僕の居場所を作ってくれた教室は、今年の役目を終えたようにひっそりと休憩しているようでとても静かだった。

 

「僕たちは4月1日にここで出会ったんだよね。僕が日記を落としたのを大和さんが拾ってくれた」

「あの時は、当然の事をしただけでしたが……まさかその後こんなに山手君と思い出を作るなんて思ってもいませんでした」

 

僕たちの会話が教室内に優しく響き渡る。

もし僕があの時日記を落とさなければ大和さんに出会っていなかった、って考えたら運命って皮肉だと思う。たまたまチャンスが訪れたけど、訪れない事だってあるし、活かせない時だってある。

 

「色んな事があったね、この一年間」

 

公民の授業で寝てしまって補習したり

大和さんが目指したいけど、一歩踏み出せない夢の存在を知ったり

僕が廊下で転んで頭を打って看病してくれて、2日後に大和さんの看病をしたり

体育大会で二人三脚をやったり

一緒にギターを選んだり

お祭りに行って、野良犬にベビーカステラを持って行かれたり

ハロウィン祭で一緒に演奏したり

去年の出来事を知らずに大和さんを傷つけたり

僕が大和さんをかばって昏睡状態に陥ったり

そして、

 

「そして、大和さんは夢を叶えた。本当にすごいよね」

「すべて山手君がいてくれたからですよ!ジブンだけだったらスタジオミュージシャンになれていませんし、こんな素敵な一年間は過ごせませんでしたから」

 

僕も同じことを思っている。大和さんがいてくれたから、こんな楽しい一年間を過ごせなかったし、僕の歩く道を見つけられなかった。

そして、大和さんの夢を叶える手伝いを出来た。

 

「それでね、大和さん。僕は君に伝えたいことがあるんだ」

 

大和さんは顔を赤くして、上目遣いで僕の方を見つめてくる。これが夕焼けが差し込む教室ならとっても幻想的だったと思うけど、生憎今は昼間なんだ。

夕焼けに映える大和さんもすごくきれいだったっけ。

 

「僕は大和さんの事が好きです」

 

大和さんは目をはっと見開いて、瞳を潤ませながらじっと見てくる。

でも、僕の言葉には続きがあるんだ。

 

「でもね、僕はまだ大和さんに見合う人間じゃない」

「そんな事ありません!!ジブンも……っ!」

 

ゆっくりと優しく大和さんを包み込む。お願いだから最後まで、落ち着いて聞いて欲しいんだ。

 

「大和さんは夢を叶えた。だけど僕はまだ道半ばなんだ。中途半端な僕と今付き合っても、きっと大和さんの足枷になってしまうんだ。だから、もうちょっと待ってほしいんだ」

「……いつまで待っていれば良いんですか?」

「僕が夢を形に出来るまで。大和さんもスタートラインに立ったばっかりなんだから、お互い立派になってから付き合おうよ」

「こ、怖いです!山手君がどこかに行ってしまったり、ジブンの事を忘れてしまって他の人と仲良くなったりしたら……」

「だから今告白したんだ。僕はこれからもずっと大和さんの事が好き。約束するよ」

「では、その約束を忘れないようにしてください。山手君」

 

大和さんは目を閉じて僕に近づいてくる。僕もそれにこたえるように口を近づける。

僕たちのシルエットが一つになる。

 

短いキスをした後、大和さんは口を開いて、

 

「ジブン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ぷつん

 

 

 

「うそだよね!?」

「もうこれ以上は恥ずかしいですよ~っ!」

 

 




@komugikonana

次話は2月4日(月)の22:00に投稿予定です。
次話が最終回となります。

新しくこの小説をお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
Twitterもやってます。良かったら覗いてやってください。作者ページからサクッと飛べますよ。

~次回予告~
言いたいことがたくさんあるんですけど、今回は無しと言う事で……。
最後はきっと、小説という枠を超える。

~お詫びと訂正~
新作「幸せの始まりはパン屋から」の更新日時をTwitterで2月6日とお伝えしたんですけど2月11日に変更します。新作はあと最終回を書くだけなんですけど、添削やあらすじ、また私の休憩期間を設けさせていただきます事をご理解お願いします。

~お知らせ~
2月6日(水)の22:00に私のTwitterで4作目のヒロインアンケートを行います。Afterglowの5人が候補です。フォロー内外関係なくぜひ参加してくださいね。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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