僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第4話

 

もうすぐ梅雨入り前だから今のうちに照らしておこうと太陽が頑張っている5月21日(水)。

 

今日の天気は快晴で気温も過ごしやすく、僕の中では一年で一番好きな季節辺りなんだけどテンションは天気のように晴れ晴れしない。

通学路を歩く同じ学校の生徒も心なしかうつむいて歩いているように見える。

 

今日からテストの一週間前なんだ。小学生の時のテストなんて勉強しなくても高得点は難なく取れるけど、中学ではそう上手くいかない。学力で評価される世の中は中々辛辣で、この先がとても不安になる。

 

「山手君はテスト、大丈夫なんですか?」

 

今日も一緒に登校している大和さんが僕に聞いてくる。

今回の僕は一味違うぞというところ大和さんに見せてあげよう。僕はその場所で立ち止まって控えめにだけど、立派に胸をはって答える。

 

「今回はなんと二週間前から勉強を始めたんだ!すごいでしょ!」

 

僕はまだ覚えている。大和さんが言った言葉を。

 

「それって普通の事じゃないですか?」

 

 

僕は田舎の畑に走り回るキジのような気持ちになったんだ。

僕にとっては大きく助走をつけて飛べるような高さも、他の種の鳥なら助走が無くても僕より高く飛べるんだ。

僕と大和さんは同じ種だけど、ベクトルが違うって思い知ったんだ。

 

 

 

「べ、別に悔しくなんかないもん」って感じでそのまま僕は速足で学校に到着した。そして一時間目の授業を受ける。科目は社会。

今日はテスト前だからプリントを貰って、授業中に解答して答え合わせする時間なんだ。僕の二週間の成果を見せてやると意気込んでプリントを解き始めたんだけど。

 

数分後、白紙だらけのプリントが出来上がったんだ。

 

 

 

「大和さん!勉強を教えてくださいお願いします!」

「ちょ……山手君……みんな見てますよ」

 

僕は一時間目が終わって礼を終えてそのまま180°振り返ってきれいにお辞儀してお願いした。お願いする身なんだから元気よく言葉を発した。

周りからざわざわ聞こえるけど関係ない。僕は本気なんだ。

 

「わ、分かりました。……放課後に図書室でしましょうか」

「ありがとう!大和さん!」

 

僕は思わず大和さんの手を握ってブンブン振り回す。大和さんは「うわあ!?」と言いながら真っ赤な顔で僕の行動にされるがままだった。

 

 

そこから放課後に僕は図書室に向かうんだ。

……そうだ。その前にちょっとしたトラブルがあったんだ。それは昼休み。

 

五時間目は体育で、女子たちは更衣室に向かった。要するに3-Aは中学生男子しかいないんだ。僕はそそっと着替えていると桃谷と数人がやって来た。

 

「おい山手!お前大和にナニを教えてもらうんだ!」

「え、ちょ、そんなんじゃないって!」

 

僕は上半身裸の桃谷と、数人の男子に囲まれた。本当に中学生男子はダメだ。すぐに性の方向に持っていくんだから。それと桃谷にはちゃんと体操服を着てから僕の近くに来てほしい。

 

「中間テストの勉強だよ、桃谷」

「とか言って、こっそり期末に出る保健体育の勉強なんだろ?」

「それに大和も顔赤かったぜ……お前、まさかすでに……」

 

僕は(らち)が明かないと思い、体育館シューズを持って逃げた。後ろから上半身裸の桃谷と数人が追って来て、周りから見たらカオスな追いかけっこが始まったんだ。

ちなみに中3の保健の授業は公害問題やら応急処置の仕方である。

 

体育の授業はこう言う時に限ってドッジボールで先生までグルなんじゃないかって思えてしまった。

僕は練習の時点からボコボコ球を当てられて、試合が始まったらみんな僕を一斉に狙ってきて散々な体育だったんだ。

 

桃谷が「顔面に当たったらセーフ」とか言う小学校の時にあった謎ルールを適用してきた時には冷や汗どころか、僕の心臓にドライアイスをつけられたかのようだった。

 

 

 

こんなトラブルがあった後の放課後、僕は桃谷や数人がくれた保冷材を持っていたハンカチにくるんで頬っぺたに当てながら図書室の方に向かった。

僕と大和さんは掃除の順番で、トイレ掃除だったから終わるのが別々。だから掃除が終わったら各々図書室で待ち合わせようとなったんだ。

 

図書室に入るとまだ大和さんは来ていなかったから、先に道具を広げて勉強を開始する。僕は大和さんに勉強の仕方を中心に聞きたいと思っていたんだ。新学期が始まって早二ヶ月、大和さんは優秀な頭脳の持ち主だと言う事が分かったんだ。

 

「お待たせしました。……ぷっ」

「大和さん、来て早々笑わないでほしいな」

「スミマセン……つい」

 

僕も掃除の時に鏡を見て気づいたのだけれど、顔が異様に赤くなっててそれでいて顔がむくんでいるかのようにパンパンだったんだ。

後で桃谷には嫌いな牛乳を1ℓパックで用意して五個ぐらいロッカーに突っ込んどいてやろう。

 

「それで本題なんだけど、公民ってどうやって勉強してるの?」

「公民ですか~。覚えにくいですけど、ジブンは意味を理解しながら覚えていますよ」

「えっ?どういう事?」

「例えばですね……。ジブンは機材を知る為にまずどうしてこの部品が付いているんだろうって考えるんですよ。それが分かったら他にも応用出来ますし、忘れにくいですからね。ギターなんて内部部品をちょっと変えるだけで違うギターが出来上がったり、自分でピックアップなんかをカスタマイズして……」

 

大和さんはまた自分の世界に入ってしまったけど、この言葉はとても重みのある言葉だってその時思ったんだ。

僕も毎日日記を書いて今日より明日は一歩でも進歩しようって思っていたけど、意味を理解しながら書いて、意味を理解しながら読み返したらきっと効果は今までより倍増するはず。

 

僕は大和さんに会ってから、日記を書き始めてから多少は進んでいるんじゃないかなって思っていた。今まで数人だった友人もそこそこ出来たし。

でも、今気づいたんだ。どういう方向に歩を進めたらいいのか自分でも分かっていなかったんだ。

 

「ハッ!……スミマセン。また癖で」

「いや、十分分かったよ。ありがとう、大和さん」

「そうですか?では続きをやっていきましょう!」

 

大和さんはルーズリーフにペンを走らせて数学を解いている。僕はこのまま公民の教科書を読みながら、ピンクの蛍光ペンで作った枠の中に書かれている法律を理解していく。

 

「ねぇ、大和さん」

「どうかしましたか?」

 

僕は、悪いと思いつつ問題を解いている大和さんに声をかけたんだ。

僕の歩く道が不明瞭だから、明かりを灯したくなったんだ。

 

「大和さんって……将来してみたい事ってある?」

「ジブンですか?」

「うん」

「ジブンは……難しい事ですけど、音楽に携わって生きていきたいって思っています」

「それって、プロのミュージシャンになりたいって事?」

「ジブンはサポートが得意ですからスタジオミュージシャンになりたいって思っていました」

「そっか」

 

僕にはスタジオミュージシャンって何をやる仕事なのかは分からないけど、音楽だけで生きていける人間は一握りだって言う事は僕でも分かる。

 

「本当はスタジオミュージシャンになりたいです。しかしほとんど諦めました。ジブンには無理な気がしたので」

 

僕はこの時、自分の歩を進める方向が分かったような気がしたんだ。

それはまるで真っ暗闇の中に一匹のホタルがぽっと出てきてフワフワしているような、そんな感覚。

一匹のホタルが出てくれば他のホタルも出てくる。そしていつかは大きな光になるんだ。

 

 

 

「大和さん、きっとスタジオミュージシャンになれるよ。僕はそう思う」

「えっ……。あ、ありがとうございます?」

 

僕の進む道、しっかりと見ていてほしい。

 

 




@komugikonana

次話は12月4日(火)の22:00に投稿予定です。

この小説をお気に入りにしてくださった方々、ありがとうございます!
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この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!

もう12月なんですね。一年は早いですね。
私は来年から社会人ですね……。23歳ですけど(笑)
みなさん、体調には気を付けてくださいね。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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