僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第6話

 

黒く、そして厚く重たそうな曇が一帯を覆う空、屋根にかかる雨の音がより一層テンポを速くする6月11日(水)。

 

雨が好きな変わり者の母親とは逆に空を覆う雲と同じぐらいどんよりとしている僕は、自室で制服に着替えている。

その時に僕の携帯が、外の雷の音にびっくりしたかのようにぶるぶるっと震えた。

 

僕は携帯を手に取り、メッセージを開く。もしかしたら警報が出て今日は休みかもしれないって思ってみると、いつも一緒に登校しているあの子からの連絡だった。

僕はドキドキしながらメッセージを見た。

 

「今日は遅れるので先に学校に行ってください」

 

大和さんが時間に遅れるなんて今まで無かったから意外に思ったんだ。大和さんだって人間だ。寝過ごすぐらいはするだろう。

だから僕は大和さんにメッセージを送った。

 

「分かった。先に行っとくね。学校で待ってるよ!」って。

 

 

 

その時、僕はまだ気づいていなかったんだ。

現在時刻が七時を回ってまだ二十分しか経って無くて、急いで支度をすれば間に合う時間である事に。

 

 

 

 

僕はいつもの時間に家を出て、大和さんに昨日返してもらった黒色の傘をさして一人で登校する。

いつもはお話をしていたらすぐに学校に着くのに、一人で口も開かず歩いていても中々学校に到着しなくて困惑する。

一人って寂しいね。だから僕はあの時、自分の道の進む方向は正しいのかもしれないって密かに思ったんだ。

 

どんな道に進むかって?それは今は秘密だよ。

 

 

 

僕は学校に着いて机に座っていて、先生が来るまで待っていた。

先生がやって来て黒板の欠席者の欄に何か書くのが見えた。僕は視力は悪くないからなんて書いたか見えたけど、見間違いじゃないかって何回も目をこすって見たんだ。

 

けれど、見える文字に間違いは無い。

 

 

欠席者の欄に“大和”って書いてあったんだ。

 

 

「そんなに落ち込むなよ~休むぐらい誰でもあるって」

「そりゃ、そうだけど」

「まぁ彼女が休んだら心配になるわな」

「彼女じゃないって」

 

お昼休み、僕と桃谷はお弁当を食べている。桃谷のお弁当は僕のやつより二倍ほど大きいのにすぐぺろっと平らげる。

 

僕が気になっているのは、大和さんは遅れるって言っていたのに学校を休んだからだ。もしかしたら事故にあったのでは?って飛躍しすぎてしまうような考えが多々ある。

この事は桃谷には言ってない。また変な方向に話を持っていくのが分かるから。

 

 

僕は正直、桃谷は良い奴だとは思ってるけど憧れはしない。だってシャツはズボンから出しているし、ズボンも下げ気味でダボダボ。おまけに冬に着る学ランなんて第二ボタンまで開けているぐらい。髪の毛もばれない程度に染めている。

 

だけど、この時だけ僕は桃谷を見直したんだ。

 

 

「そんなに心配なら、学校終わったら大和の家に行けばいいじゃん」

「え、そんなの急に行ったら迷惑になるし」

「ばーか。女の子は気にかけてほしいって思うもんなんだよ」

「それは桃谷の周りにいるヤンキー女子だけだよ」

「ちげーよ!自分に置き換えて考えてみろよ。それと、俺の周りの女の子は清楚系だからな」

 

僕は自分に置き換えて考えてみる。

確かに廊下で転んで頭を打って、大和さんが保健室に来てくれた時は嬉しかった。今日の登校時間も、一人で寂しかった。

……もしかしたら大和さんもそう思っているかもしれない。桃谷、ナイスだ。

 

でも、やっぱり桃谷は桃谷で、見直したのはこの瞬間だけだった。

 

「いいか?」

「どうしたの?桃谷」

「もし大和が風邪をひいて熱を出していたらキスして治せ。ついでに最後までヤれ」

「ばか」

 

 

 

そんな感じで、大和さんの家に寄ってみようって決心したら時間が経つのが速いもので。放課後になって僕は職員室を後にした。

 

何を隠そう、僕は大和さんの家を知らないから担任の先生に聞こうと思った。そして今日の配布プリントを先生からもらって、おまけに住所も教えてもらった。

個人情報の流出具合がペットボトルのキャップ並みにゆるゆるで、ふたを開ければどばどばと情報が出てきたからこの学校の危機管理は大丈夫なんだろうかって一抹の不安を感じた。

 

 

今回においては好都合だから、気持ち速足で大和さんの家に向かう。僕の家からさらに十分ほど歩いたところにあるらしい。

大和さんの家に行くのに何か持って行った方が良いのだろうか。桃谷は「薬局は絶対に行けよ」って言ってたけど、それは無視していいアドバイスだ。

 

 

結局何処も寄らずに大和さんの家の前まで到着したんだけど、何とも形容し難い緊張感に包まれてそわそわしてきたけど、思い切ってインターホンを鳴らしたんだ。

 

ここで大和さんが出てきて、プリントを渡そうって思ってたんだけど。

 

「はーい。……どなた?」

 

死んだ。

ドアから出てきたのは大和さんのお母さんらしき人物だった。

 

 

 

「え、えっと……。大和さんと同じクラスの者で、大和さん、き、今日は休みだったからプリントを渡しに来ました」

 

噛み噛みで恥ずかしい。壊れたラジオでも、もっとまともに言葉を発しそうなものだ。だって仕方ないじゃん。急にお母さんが出てきたら緊張しちゃうよ。

 

「あら、そうなの!ごめんね~わざわざ。部屋まで案内するわ」

「あ、はい」

 

思ったより簡単に通れたし、まさか女の子の部屋に行くなんて。

お昼に桃谷と話した会話が脳裏を走り回るから、一発自分の頬っぺたをぶん殴っておいた。

 

「ここが麻弥の部屋」

「あ、ありがとうございます」

「入る前にこれ、つけてね?」

 

僕は大和さんのお母さんからマスクを受け取った。

え?なんでマスク?って僕は思ったけど、瞬時に答えが頭をよぎったんだ。

 

「風邪……ですか?」

「そうなの。あの子ね、一昨日ずぶ濡れで帰って来て」

 

僕は一昨日の自分の行動に後悔した。もっとしっかり大和さんを止めていれば、大和さんは風邪をひかなかっただろう。今更後悔しても遅いのは分かっているけど、僕の行動が悔やまれるんだ。

 

「熱もあるんですか?」

「今朝は三十八度もあったわ」

 

高熱じゃないか。心の中で大和さんに謝る。ごめんなさい。

それに冗談だと思っていたけど、桃谷の言う事も聞いておけば良かったかもしれない。本当に薬局に行けば良かった。

 

 

だけど、後悔ばっかりしても意味ないじゃないかって思ったんだ。

僕は大和さんを心配してこの家に来たんだ。寂しい思いをしてるんじゃないかって思って来たんだ。僕だけでも笑顔でいなきゃいけないんじゃないか?

僕の進む道、なりたい自分。決めたんだろ。

だから、僕は。

 

「お母さん、すみません。マスクは大丈夫です」

「え?風邪、感染(うつ)っちゃうわよ?」

「僕、丈夫なんで」

 

僕は丈夫って訳じゃないけど、今この時ぐらいは丈夫になってもいいだろう?

僕は大和さんの部屋のドアノブを握って開けようとしたんだ。

でも、後ろからちょろっと言葉が聞こえたんだ。

 

 

「ねぇ君。もし良かったら今日ここで晩御飯食べない?」

「え!?悪いですよ」

「ううん、平気よ。君のご両親が許してもらえるなら遠慮なく。君にお礼をしたいのよ」

 

 

そう言って、大和さんのお母さんは階段を降りて行った。

 

僕はお辞儀をした後、握っていたドアノブを開けて部屋に入る。

 

 

 

そこには、冷えピタを貼った大和さんが少し苦しそうに眠っていたんだ。

 

 




@komugikonana

次話は12月7日(金)の22:00に投稿予定です。

この小説をお気に入りにしていただいた方々、ありがとうございます!
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評価8と言う高評価をつけていただきました 菘亜杞さん!
この場をお借りしてお礼申し上げます。 本当にありがとう!!

次話はみなさん、看病回ですよ!
私が出来る限りの甘さを出したので、お楽しみに!

では、次話までまったり待ってあげてください。

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