まるで僕の心をシンボライズしたかのような黒く淀んだ雲が空を覆い、太陽を隠していた6月11日。
この日、僕は人生で初めて同級生の女の子の自室にお邪魔したんだ。
普段ならドキドキワクワクの甘酸っぱいイベントなんだけど、今日はそんな気持ちにはなれない。
ベッドでは、冷えピタを貼った大和さんが少し苦しそうに寝ている。
今、彼女は寝ているから起こすのも悪いって思った僕は、すこーしだけ部屋を見渡した。機材の好きな彼女だが、あまり機材があるわけでも無く普通の女の子の部屋。ドラムみたいな置物はあるけど。
本棚には機材カタログがたくさん並んでいたのは、大和さんらしいや。
「うん……?」
ベッドの方から微かに声が聞こえたから、僕はそっちの方向を向いた。そこには寝起きだからか、それとも熱でしんどいのか分からないけど、うっすらと目を開けた大和さんがいた。
僕は思わずドキッとしたんだ。
熱のせいで軽く赤らんだ頬もそうだけど、メガネを外した大和さんを見たのは知り合って初めてだったんだ。
メガネを外した大和さんはギャップ萌えかもしれないけど、アイドルのようなかわいさがあった。
「お、おはよう……。大和さん」
「……」
僕は少しの緊張感を乗せて挨拶をした。まだ大和さんはぽけーっとしているから返事も無い。
けれど、すぐに大和さんの目が見開いて……。
「うわあ!!」
大和さんの大きな声が家中に響いて、僕の頭にも響いた。
それは声の大きさも一因なんだけど、びっくりした大和さんが僕に向かって投げてきた目覚まし時計がクリーンヒットしたのもあると思う。
「だ、大丈夫ですか!?山手君!」
「あ~……うん。大丈夫だよ」
僕は頭をすすりながら答える。今年の僕は良く頭をケガしているような気がするから今後も気を付けようって思った。
「スミマセン……本当に」
「起きていきなり男がいるんだもん。驚いて当然だよ」
大和さんはベッドに腰掛けて、その隣に僕は座らせてもらった。
僕は大和さんに飛んできた目覚まし時計を返す。何だか目覚まし時計はへの字のような口をしているように思えた。長い針と短い針は逆だけど。
「どうして山手君がジブンの家にいるんですか?」
「あ、それはね」
大和さんの問いかけに、僕は答えたい事がたくさんあった。
でも百あるものから一を伝えるのは無理だって思ったから、一番最初に思った事を伝えることにしたんだ。
一つの物事に百の意味を込めて。その中から少しでも良いから伝わってほしいんだ。
「心配したんだよ?だから来たんだ」
「へ?」
「朝のメッセージでは休むって言ってなかったし、何かあったのかなって思ったんだ」
「あ……」
顔をさらに赤くして、目を潤ませながら俯く大和さん。
僕はそんな大和さんを見てとっさに抱きしめてあげたいって思ったと同時に、そっと触れただけで割れてしまいそうなシャボン玉のようにも思えて……。
結局、僕からは何もしなかった。
そう、僕からは。
「山手君。少しだけ手を繋ぎませんか?」
「え?手を?」
「はい。手を繋げばお互いの体温が分かります。それと一緒に想いも伝えられるんじゃないかって思ったんです」
「僕の手で良ければ」
僕の左手は大和さんの右手を繋ぐ。きゅっと。
大和さんの手は、僕の手よりも温かくて。何だか太陽の日の光を直接手に集めたような、不思議な感覚に陥ったんだ。
「メッセージの件ですけど」
「うん」
大和さんの震える右手をしっかりと包む。僕は怒っていないし、むしろ事故にあったとかそんなのじゃ無かった事に安心しているんだから。
「山手君に心配をかけたくなかったんです」
「そっか」
「はい。風邪をひいて、熱まで出ましたから」
「今もしんどい?」
「マシになりましたよ」
大和さんは笑顔を見せてくれた。とっても可愛くて、素敵な笑顔。
僕は照れくさくなったけど、握っていた左手を強く握った。
僕は大和さんを優しく包み込むように、自然と握っていた手で大和さんの指に絡める。いわば恋人繋ぎをした。大和さんも受け入れてくれた。
恋人じゃないのに恋人繋ぎなんて違和感はあるけど、たまには良いよね。
「ジブン、何だか今はぽかぽかしていて心地いいです」
「大和さんも?僕もぽかぽかしてる」
「きっと、山手君が来てくれたからですよ」
「僕も、今日大和さんに会えて良かった。だってずっと違和感があったんだ。大和さんがいない事に」
今思えばすごく女性を口説いているような恥ずかしい言葉も、この時はさらっと、さも当然のように言えたんだ。
僕は大和さんの方を向き、軽く微笑んだ。
「ジブンも、今日山手君がいなくて寂しかったんですよ?一緒ですね」
微笑みながら大和さんも僕の方を向いてくれた。
夕方の日差しがより一層大和さんの可愛さを増長させていて、僕は見惚れた。
恋人繋ぎをしていて、見つめ合っていて、二人きりの密室で。僕の心臓は今頃になって大暴れしだした。僕の心音は大和さんにも聞こえているんじゃないかって思うぐらい心拍数を上げる。
僕の目線は大和さんの麗しい唇に目が行って。そのままキス出来るんじゃないかって思ってしまって。大和さんも目を閉じていて。
僕は徐々に大和さんとの距離を縮めて……。
「麻弥、気分はどう……。あら!ごめんなさいね、邪魔しちゃった♪」
ドアが開いたのはとっさの出来事で、僕たちは固まってしまった。
大和さんのお母さんは「ごゆっくり~」と言って出て行ったけど、僕たちはまるで全力ですべった漫才師のように顔が真っ赤になって、急に恥ずかしくなったんだ。
僕は現在、大和さんの家で彼女のお母さんに晩御飯をご馳走してもらっている。
僕の母親は「礼儀よく、しっかりお礼を言うんだよ」ってしつこく言われた。おまけにお世話になった友達を家に招待しろとも。
ちょっと引っかかる人もいると思うけど、ご飯を食べているのは僕と大和さんのお母さんの二人。
大和さんはあの後、「ジブン、もう一回寝ます~!おやすみなさい!」と言って布団に潜ってしまった。僕も穴があったら入りたかったけど、入る穴なんて無かった。
僕は晩御飯のおかずであるハンバーグを一口サイズに切って口に運ぶ。口に入れた瞬間、肉汁があふれ、また噛めば噛むほど肉の旨味が口全体に広がってとっても美味しかった。
「それで、聡士君は麻弥と付き合ってるの?」
「ぶふっ!!」
僕はハンバーグの付け合わせとして一緒に食卓に並んでいたコンソメスープを吹いてしまった。慌てて布巾で机を拭く。
「あら、その慌てっぷり。もしかしてビンゴ?」
「びっくりしただけですよ!……付き合ってませんよ」
「そうなの?あれだけピンク色の空気を作っていたのに?」
僕たちはそんな空気に着色できるような特殊技術は持っていないと思うけど。それにピンク色の空気って何だかいやらしくて嫌だな。
「ふふっ!冗談よ」
大和さんのお母さんは口に手を当てて上品に笑う。こういう冗談が一番きついなって思いながらハンバーグをもぐもぐと食べる。
「それにしても、麻弥に男の子の友達がいるなんてね~」
「大和さんって誰とでも仲良くなれそうですけどね」
「そうなの?あの子、機材の事ばっかりだから困ってるのよ」
少しは年頃の女の子らしくして欲しいわ、ってため息を混ぜながら話す。確かに機材って女の子らしくないかもしれないけど、機材の話をする大和さんは年相応の女の子の顔をしていると思う。
「あ、そうだ!このタオル、もしかして聡士君のやつかな?」
そう言って大和さんのお母さんは僕が一昨日貸したタオルを出してきた。そう言えばタオルはまだ帰ってきてなかったっけ。
「そうです。すみません、きれいに洗ってくださって」
「やっぱり聡士君のだったんだ!……ふふっ」
僕はタオルを受け取ったんだけど、その後大和さんのお母さんが「これは面白い事になりそうね」なんて独り言を言っていたけど気にしないでおく。わざわざ爆弾にちょっかいを出す必要は無いだろう?
食事を終えた後、僕は大和家を後にすることにした。
突然の事なのに晩御飯まで作ってもらえて。感謝しかない。
「すみません、今日は本当にお世話になりました」
「いいのよ。またいらっしゃい」
僕はこのまま家に帰ろうと思ったけど、後ろから大和さんのお母さんが最後に一言くれた。
「麻弥の事、よろしくね」
「こちらこそ、ですよ」
僕は帰り道、携帯で大和さんにメッセージを送ったんだ。
「お大事に」って。
@komugikonana
次話は12月10日(月)の22:00に投稿予定です。
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