僕と、君と、歩く道   作:小麦 こな

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第8話

 

真夏の太陽が僕たちに容赦なく光を当て続ける7月7日(月)。今日の夜と言えば一年で一度だけおりひめとひこぼしが出会えるロマンチックな日。

余談だけど、七夕って古事記とかにも出てくるんだって。

 

そんな事はどうでも良いよね。僕たちは朝に登校してすぐに体操服に着替えている。期末テストも終わり、普通の学生なら三者懇談が来るまで家で居れるけど、僕たちは違う。

 

僕たちの学校の上層部は頭が腐っていると思う。こんな暑い日に毎年体育大会をするんだ。「真夏の体育大会」とか謳っているけど、考えがやばい。

 

「今年で最後だぜ?元気出そうぜ山手ぇ!」

「こんな暑い日に元気なんか出ないよ……」

 

こんな暑い日なのにやたらと桃谷は張り切っている。

桃谷は授業の体育終わりにもプロテインを摂取するぐらいの戦闘狂だからこういうイベントは大好きらしい。

ちなみにプロテインなんて持ってきているのがばれたら即没収だ。

 

「なんだよ、お前まだ引きずってるのか?そんなんじゃ女の子にモテねぇぞ」

「別にそんなんじゃないけど……」

 

桃谷にすっぱりと僕の気持ちを言い当てたから、ちょっと図星をする。

その理由は日にちをちょっとさかのぼるんだけど。

 

 

 

 

 

 

期末テストが終わって、僕たちの背中に羽が生えたかのように気分が高揚する7月4日(金)。

この日に、体育大会の出る種目を決めたんだ。

 

あんまり運動が得意でない僕は一番楽な種目である百メートル走でお茶を濁そうって思っていたんだけど、後ろの席の女の子の提案によってその案は棄却された。

 

「山手君。ジブンと二人三脚に出ませんか?」

「あ、良いね!そうしよっか!」

 

二人三脚は運動があまりできなくても息さえ合えば高順位を取れる。それに相手が大和さんならいける気がする。

だから、僕たちは、二人三脚に立候補した。けど、男子だけ人数超過したんだ。

 

理由は簡単。二人三脚は男女ペアでやるから、下心満載の男どもが立候補するんだ。

男子はじゃんけんだ。五人で三枠を取り合う。

 

「良いか?最初はグーだぞ?」

「「「「おう」」」」

 

僕は負けるわけにはいかない!!

 

「じゃーんけーん」

「「「「「ぽん!」」」」」

 

 

 

 

こうして、僕は悪夢の初戦負けを屈した。しかも最後の希望である百メートル走のじゃんけんにも負け、僕は騎馬戦とクラス対抗リレーと言うスペシャルフルコースになった。

 

そんなフルコースを出されても前菜でお腹いっぱいの僕は、力なく応援席に座る。

応援席は出席番号順だから、左隣が桃谷で右隣が大和さん。

 

「山手君、げっそりしてますよ……」

「き、気のせいだよ。大和さん」

 

校長先生の長いお話を応援席で聞く僕たち。大和さんと二人三脚に出れたらきっと今の雰囲気は違うんだろうなって思う。大和さんには応援するよ、って言ったけど、他の男と大和さんが二人三脚しているところを見たいって思わない。

ちなみに桃谷はトイレに行くって先生に行って隣にいないけど、今頃日陰で時間を潰しているはずだ。

 

「百メートル走に出場する生徒と、二人三脚に出場する生徒は入場門に向かってください」

「あ、では行ってきます。応援してくださいね?」

「頑張ってね、大和さん」

 

大和さんが入場門の方へ歩いていく。

大和さんって意外に胸があるんだよなぁ……じゃなくて。やることが無いから暇だな。騎馬戦は午前の部の最後で、リレーが午後の部最後だから。

 

しょうがないからストレッチでもしておこう。これなら一人で出来るし、騎馬戦は僕が上らしいからケガしないように。

 

 

 

僕がストレッチをしていると、何やら笑い声が聞こえたから見てみると僕のクラスの男子が盛大に転んでいた。たしかあいつは大和さんと二人三脚のペアの奴で、僕は内心ちょっと面白かった。ざまぁみろ、ばーか(笑)

 

 

あの出来事でちょっと機嫌が良くなると言うクズっぷりが発揮された僕は、応援席に座って百メートル走を見学している時だった。

 

「はぁはぁ……山手君。ちょっといいッスか?」

「あれ?どうしたの大和さん?」

 

二人三脚の準備で入場門に居るはずの大和さんが息を切らして僕のところに来たんだ。

走って来るなんて何か急用でもあるのかなって僕は思っていた。僕に用事?

 

「原田君が足を捻ったらしくて……」

 

原田って誰だっけって最初は思ったけど、百メートル走で盛大に転んだ奴だ。わざわざそんな事まで知らせてくれる大和さんは優しいなって思っていた。

普通、この後に続く言葉くらい分かりそうなものだけど。

 

 

 

「なので、代役でジブンと二人三脚に出てもらえませんか?」

 

 

 

急遽、二人三脚に参戦する事になった僕は大和さんと入場門に並んでいる。まさか大和さんと出場できるなんて考えもしていなかった僕は、今日の体育大会は最高だなぁ!なんて早速の手のひら返しをする。

 

「ねぇ大和さん。僕たちって何走目なの?」

「ジブンたちは三走目ですよ」

 

たしか三走目が一番最後だったな。それで一年生から順番に消化していくんだ。と言う事は僕たちは必然的にラストを飾る組だ。

あんまり目立つのが好きでは無いけど、今日ぐらいは良いかなって思えたんだ。

 

 

二人三脚が始まった。一年生たちがスタートを切る。

その間に僕たちは作戦会議を開く。掛け声や、どの足から歩を進めるか。

 

僕の左足と大和さんの右足を鉢巻きで結ぶ。緊張感と密着度に胸をドキドキさせながら僕たちの出番を待つ。

そして、僕たちはスタートラインに立った。

 

 

「よーい」

 

パン!とピストルが鳴る。少しの火薬のにおいを吸いながら最初の第一歩を進めようとした。最初の一歩は内側の足のはずだったんだけど。

 

「わっ!」

「うわあ!」

 

僕たちは早速つまずいてしまった。一緒の組の人達はゆっくりと確実に一歩を踏み出している。

それに焦ってしまったのか、大和さんの動きがぎこちなくなって全く息が合わなくなったんだ。大和さんの顔を伺うと焦燥に駆られていて。

 

 

だから僕は、大胆にも立ち止まってから向かい合って大和さんの両手をぎゅっと握ったんだ。僕の両手が大和さんの手を優しく包み込む。

 

「大和さん。ちょっと深呼吸してみない?」

「山手君!手!み、みんなの前ですよ~」

「良いから。ね?」

 

僕と大和さんは深呼吸をした。顔を赤らめながらも一緒に深呼吸をしてくれる大和さんはやっぱり素直だなって思う。

周りからは黄色い声が聞こえるけど、今の僕には気にもならなかった。殺気はかなり感じてしまったけど。

 

「大和さん。いつもの朝のように気楽に歩いてみない?」

「え?分かりました」

 

僕たちはもう何十回も、もしかしたら何百回も一緒に歩いて登下校している。その時の僕たちは、ほぼ歩幅が一緒なんだ。息が合えば僕たちに敵はいないはず。

もう一度僕たちは一歩を踏み出す。今度はとても上手くいって、どんどんと前に進める。

 

「おお!いけそうですね!」

「そうだね、ちょっと走ってみよう」

「はい!!」

 

 

僕たちはどんどんとスピードを上げる事が出来て。そのまま僕たちはゴールラインを越えることが出来たんだ。

結果は五組中、四位だったけど無事にゴール出来たし、何より楽しかった。

 

 

 

応援席に戻った時に、僕と大和さんはクラスの女子たちに囲まれて質問攻めにあって大変だったんだけどね。

 

 




@komugikonana

次話は12月11日(火)の22:00に投稿予定です。

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では、次話までまったり待ってあげてください。

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