「山手だけ目立ってて面白くねぇから俺たちも頑張ろうぜ」
「「もちろんだ!」」
「何だか傷つくんだけど」
僕と桃谷と、数人は騎馬戦の為に入場門の前にいる。
僕は二人三脚の時に甘すぎる恋愛映画みたいな事を全校生徒の前で堂々と行ったから、女子生徒からは輝いた目で見られ、男子生徒からは敵の目で見られるもので。
僕は湖に泳ぐブラックバスのような気持ちになった。釣り人からは良い目で見られるけど、そうじゃない人からすれば厄介な生物。
「まぁケガするのは山手だし、俺たちは全力でぶつかりに行こう」
「さすがに怒るよ」
始まる前から騎馬の人達に不安を覚える。騎馬が暴走しないように今のうちに手綱を締めておこうって思ったけど、相手は桃谷だし無理かもしれない。
「でもよ、山手」
「どうしたの?」
「お前も大和に良いところを見せたいだろ?」
「まぁ……そうだね」
「だから本気で一位を狙いに行くぞ!」
僕たちは颯爽と入場して、騎馬を作り僕は上に乗って臨戦態勢に入る。
僕たちの学校の騎馬戦は特にルールなんて無い。大将もいないからね。クラスごとに三騎作って時間終了までに多く残った方が勝ちだ。
応援席は異常なほどに盛り上がる。騎馬戦は三年生限定の種目で、午前の部最後と言う事もあって毎年すごく盛り上がる。
スタートの合図と共に十五騎が一斉にぶつかり合う。
僕たちA組の作戦は三騎とも固まって誰も死なないようにするオーソドックスなタイプだから様子を見ながら戦いの中心に入っていく。
……気のせいかな?何だかたくさんの騎馬が僕たちの方に向かってきている。嫌な予感しかしない。
「女たらしから潰すぞ!お前ら!!」
「「おー!」」
「俺たちも続くぞー!」
うそやん。そんな事ってありなの?なんでこの時だけ他のクラスの息も合うんだよ、お前ら敵同士だろ。
現にC組とE組はグルらしい。ずるくね?
「山手!お前後でぶっ殺すから覚えとけよ!」
そう言って桃谷はC組の騎馬にぶつかりに行った。フィジカルモンスターの桃谷にかかればどんな騎馬でも揺らぐかもしれない。揺らいでいる隙に僕は騎手の鉢巻きをすっと取る。
「女たらしに負けるなんて……一生の不覚!」
鉢巻きを取られた騎手がそう叫んでいたけど、無視しておこう。お前の一生狭すぎるだろ。
僕たちはぶつかりに行って一騎潰したけど、その弊害で周りを敵に囲まれた。
「桃谷!前だけやっつけてこの場を去ろう!」
「言われなくても分かってる!山手!」
こうして僕たちは前にいる騎馬に襲い掛かった。
けれど、後ろから来た騎馬にものすごい勢いで体当たりされて僕の足元が完全に揺らいでしまって。
前の騎手の鉢巻きを取ったと同時に、後ろからの衝撃によって僕は思いっきり地面にたたきつけられたんだ。
「山手君、じっとしててくださいね」
「うん……」
体育大会のお昼休み休憩。僕は大和さんに連れられて保健室にいる。
このセリフに場所。先生もいない。思春期男子なら大興奮のシチュエーションなんだけど、生憎今はそんな雰囲気ではない。
大和さんに、僕は顔に出来た擦り傷を消毒してもらっている。冷静沈着な大和さんはまず「消毒をしましょう」と言ってくれたんだ。
僕はケガしても特に消毒なんてしないから久しぶりに感じる染みるような痛みに顔を引きつらせる。
仕上げに大和さんは保健室にあった絆創膏を貼ってくれた。顔に絆創膏なんてやんちゃ坊主みたいだなって思った。
「これで大丈夫ですね。他に痛めているところはありますか?」
「大丈夫。大丈夫だよ、ありがとう大和さん」
僕たちはこのまま保健室を後にした。
僕はここである隠し事を大和さんにしてしまったんだ。
落ちた時から、右足首に違和感がある事を……ね。
「山手君」
「どうしたの?大和さん?」
「リレー応援します!勝ってくださいね」
「もちろん!死んでも一位取るよ」
僕は大和さんにそう宣言した。
女の子に応援されて頑張らない男なんていないよ。男って単純なんだから。
「体育大会が終わったら、ジブン校門で待ってますから一緒に帰りませんか?」
「うん。もちろん」
「お前最近ケガしすぎじゃね?疫病神でも憑いてんのか?」
「「山手、もしそうなら悪い事は言わない。だから近寄らないでくれ」」
「泣いても良いかな?」
体育大会ラストの競技、クラス対抗リレーに出る為に入場門にいる。走る前にリレーメンバーである桃谷や他の二人にも足に違和感がある事を告げる。
「じゃ、代役誰かに頼むか?」
「みんなが良かったらなんだけど、僕は出たい。良いかな?」
僕はメンバーの三人の顔を見てお願いする。大和さんにあんなこと言って代役に変わってもらいましたなんてダサいし、何よりこんな時ぐらいかっこつけたい。
たまにはこういうのも良いよね。
「「「メンバーは山手だからな。このメンバーで行くぞ!」
「ありがとう、みんな」
「その代わり聞きたいんだけど、大和とキスした?何味だったか教えろ」
「僕の感動を返せ、桃谷」
メンバーたちは各々場所に就く。
100m×4リレーだから、アンカーの僕と第2走者の桃谷は二人でグラウンド奥の位置に着く。グラウンドは一周200mだから半周しなくちゃいけない。
どうして僕がアンカーなのかはA組の作戦で、第二走者の桃谷で一気に距離を離して第三走者とアンカーで逃げ切る作戦だ。
ちなみに第一走者は陸上部の短距離専門だから間違いないはずだ。
一年生、二年生とリレーを消化されていき、ついに僕たち三年生の番になった。
ピストルの音が鳴って、第一走者たちはダッと走り出した。
そして桃谷にバトンが渡り、駆け抜けていく。
僕は深呼吸をしながらスタートラインに立つ。
ちょっとは落ち着いたかな。僕は50mのタイムが七秒五ぐらいでそこまで速いわけでは無いと思うけど、アンカーなんだ。みんなが守ってくれた順位を譲るわけにはいかない。
第三走者からバトンを受け取る。現在の順位は一位。
僕は必死に走り抜ける。風が僕の頬をチクチクと刺激する。右足が少し痛むけど、走りに支障をきたすほどでは無い。
残り20mぐらいに差し掛かった時、後ろから足跡が聞こえる。追いついて来たんだ。後ろを振り向く時間なんて無いから今までより全力で足を回転させる。
でも現実は非情で、残り10m付近で横に並ぶ。
でもね、その時に
「山手君!頑張ってください!」ってあの子の声が聞こえた気がしたんだ。
あの子はあまり目立つことを好まないから彼女の声は聞こえないと思ったけど。
聞こえたんだ。
その声援は不思議と僕の背中を押してくれたみたいに感じて
一番最初にゴールテープを切る事が出来たんだ。
まだ明るいけれど、少しだけ夕焼けの雰囲気を感じる午後五時。
真夏の体育大会は終了して、今日は各自で応援席を片つけたら帰宅しても良いと聞いていたから片つけていたら、リレーメンバーやクラスメイトから手荒い祝福を受けた。
よくやったとか言いながらポコポコ叩くのはやめて欲しい。
体操服から制服に着替えて、しっかり制汗剤をつけて僕は校門に向かう。
校門に背を預けて待っていた大和さんを見つけて声をかける。
「ごめんね大和さん。お待たせ」
「いえいえ。そんなに待ってませんから」
「山手君は今日、日記に書く事が多そうですね」
「そうかも、色々あったからね」
二人三脚から始まって、何故か女の子からキラキラした目で見られるし、男はみんな敵だし。だけど最後はしっかりと一位で終われた。
二人三脚の後は大和さんも大変だったらしく、詳しく聞こうとすると「あ、はは……」と誤魔化される。
今日は内容も濃かったから、帰り道もあっという間に感じた。僕の家の前に着く。
僕は大和さんにまたね、って言った。次の学校は終業式だから携帯で連絡を取って夏休みも何回か会いたいなって思ったからさよならでは無くて、またね。
「今日の山手君。とてもかっこよかったですよっ!」
「え?」
「では、また!」
大和さんは小走りで帰って行ったけど、僕はしばらく家のドアの前で立ちっぱなしだった。
@komugikonana
次話は12月13日(木)の22:00に投稿予定です。
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