おっちゃんin女子高生 某トリプルフェイスに出会う   作:ルナ子

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俺は『毛利小五郎』だ!

(あんのガキャッ!!一回シ○とかないといかんな)

 

メーターが振り切れてしまった俺は、『勘』のことなどすっかり忘れて『ポアロ』の前を素通りして、事務所への階段を――。

 

「依頼人の方ですか?」

 

「は?」

 

階段を昇りかけたところで振り返ると、安室透がいた。

 

「ああ、すみません。僕はこの喫茶店でバイトをしている安室透といいます。上の探偵事務所にご用でしたら、当人はまだ来ていないようですので、こちらで待ってみればどうでしょうか?」

 

にっこりと笑う顔は邪気のないものに映るが、目は笑ってない。

 

(……何か、疑われてんのか?俺)

 

といっても別にやましいことは、って、今の姿を考えると――そうでもないか。

 

「……そうですね。待たせてもらいます」

 

(うおっ、言い慣れねー!!)

 

慣れてきた、と思っていたが相手が顔見知り、となるとその範疇ではないようだ。

 

思わず腕を掻きむしりたくなったのを堪えながら、俺は『ポアロ』の店内へと足を踏み入れた。

 

 

 

店ん中はほどほどに客が入っていた。

 

「いらっしゃいませ。安室さん、どうしたんですか?」

 

(おおっ!梓ちゃん!いつもながら可愛……あぶねー。俺は初対面だっつーの)

 

「ええ。こちらのお嬢さんが上の事務所に用があるみたいでしたので、今は留守だと伝えて、こちらで待ちませんか、と声を掛けていたところです」

 

「初めまして。榎本梓です。見ての通り、この『ポアロ』で働いてます」

「初めまして。六徳(りっとく)正美です。あの、上の事務所、名前が『工藤』になっていて……」

 

そう言葉を濁すと、察してくれたようだ。

 

「ああ。あれね。その……毛利さんがあんなことになってしまって。本当はもう少しそのまま残しておくはずだったみたいなんだけれどね」

 

「契約の期限がちょうど、切れるところだったみたいで、仕方なく、毛利先生の娘さんの同級生の親御さんが買い取ったようですよ」

 

(何だよ。あの探偵ボウズな訳ないか)

 

探偵事務所を未成年が開業できる訳なかったしな。

 

カウンターに案内されてそこに落ち着くと、

 

(ん?ってことは?)

 

「それじゃあ、探偵事務所としては営業してないんですか?」

 

「それは――」

 

梓ちゃんが答えようとしてくれたが、注文が入って行っちまった。

 

俺は仕方なく目の前にいる優男に顔を戻した。

 

「どうぞ」

 

お冷やとおしぼりを出され、一応礼を言っておく。

 

「ご注文は?誘ったのはこちらなので、おごりますよ」

 

「いえ、そんな訳には……」

 

(がー!!使いづれぇっ!!知り合い相手に、こんなに女言葉が使いづらいとは思わなかったぜっ!!)

 

固辞していると、いつの間にか戻って来た梓ちゃんが、

 

「何でもいいから頼んじゃいなさいね。そうしないと、安室さんに媚び売ってるように見えちゃうわよ」

 

こそっと囁いてきた。

 

(へ!?何だあ、そりゃ!?)

 

どうゆうこった、と梓ちゃんを見るとさりげなくある方向を顔で示してくれた。

 

すると、そっちの方向には何か剣呑な顔した女子高生のグループがあった。

 

(そういや今、俺は女子高生に見えるんだよな)

 

俺達のやり取りを見ていた安室が、困ったな、という顔でこっちを見た。

 

「梓さん」

 

「はーい、でもホントにそうなんだもの」

 

と言うとまた注文を取りに行ってしまった。

 

「……コーヒー、お願いしマス」

 

「かしこまりました」

 

先に注文のあったものも作りながら、コーヒーも手際よく入れる。

 

(ここだけ見ると、普通に仕事ができる店員なんだけどな)

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

(うむ。いつもながらここのはうま、おっと!俺は一見さん!!)

 

心の中でリハを繰り返してから、

 

「おいしいですね」

 

「ありがとう」

 

(ふん、その上っ面の笑顔は見慣れてるっーの!)

 

 

 

「そう言えば、六徳さんは何の依頼でいらしたのですか?」

 

「え、ええと」

 

(ぐ、そこを突かれると弱ぇな。出たとこ勝負で何も考えてなかった)

 

思わず明後日の方向を見ると、客が減って手が空いてきたのか、梓ちゃんが、

 

「大丈夫よ、正美ちゃん。安室さんね、本業は探偵さんなのよ」

 

「えっ!?」

 

(いやお前、ほんとはコーア……いかん。今、そいつは言っちゃいかん)

 

「そんなふうに見えませんか?これでも毛利先生の弟子、だったんですが」

 

(ん!?何か今、ほんの少し、寂しそうな顔したか!?――いや、分からんな、『コ』の字の付く連中のやるこたあ)

 

だがそれでも、それでも一応は寂しいとかは思ってくれてんのかなあ、と俺もしんみりした気分になっていると、

 

「もしかして正美ちゃん、毛利先生のファンだった?」

 

「えっ!?」

 

「だって、この上が『工藤』探偵事務所になってるってことはまだ告知してないし、それに工藤くんだって――」

 

「……え?」

 

「だからね、工藤新一くん。『東の名探偵』って言われていたでしょう?彼が戻ってきてね、『工藤探偵事務所』の所長をしているっていうお父さんの助手として事件を担当するんですって」

 

「まあ、実際は工藤くんが探偵するんでしょうね」

 

後の方は耳に入ってこなかった。

 

(あんのク○ガギャアッ!!次、顔会わせたら――)

 

「……正美ちゃん?」

 

「あ、すいません」

 

ちょっとショックだったので、とも付け加えておく。

 

梓ちゃんはそんな俺の様子を見て何かを察したように、

 

「よっぽど、毛利さんのこと好きだったのね」

 

(うおぅ!!梓ちゃんの善意が身に沁みて痛ぇっ!!)

 

仕方ないので、頷いておいた。

 

(潮時、ってやつか)

 

「あの、私そろそろ……」

 

ごちそうさまでした、と席を離れようとしたが、

 

「待って下さい。一応僕も毛利先生の弟子だったんですが」

 

その依頼、聞かせて貰えませんか。

 

(まだ、諦めてなかったのかよ)

 

 

 

 

「へえ、杯○町ですか」

 

案外近いんですね。

 

前にも乗ったマ○ダ、アンフィニRX7――何か、送って貰ってるというより、連行されてる気がするのは気のせいか?

 

(……お前、童顔だからまだいいんだろうが、いい年した大人が助手席にジョシコーセー、乗せてたらマジ、事案ってやつだぞ)

 

『依頼』の件をうやむやにしたら、何故か送って行く、と言われちまった。

 

(首の後ろがチクチクしやがる)

 

俺の『勘』は、とっとと帰れ、って言ってやがるのに。

 

適当に相槌を打っていると、車が止まった。

 

(お、着いたか)

 

礼を言って降りようとした時だ。

 

「待ってください、聞きたいことがあります」

 

「は?」

 

振り返ると、真剣な顔をした安室がいた。

 

(何だあ?)

 

「先ほどから気になっていたのですが……」

 

「はい?」

 

「毛利先生を慕っていることと、その雰囲気、仕草。……まさかとは思いますが――」

 

(お、おい。まさか、こいつ……)

 

「もしかして貴女は……」

 

先生の隠し子ですか?

 

「はああああっ!?」

 

(なん、じゃっ、そりゃああっ!!)

 

「違いますか?」

 

ぶんぶんと首を振ると、

 

「とてもよく似てるんですがねぇ」

 

と、また何か考え始めた。

 

これ以上コイツがおかしな結論を導き出す前に、何か言わねぇと――

 

焦った俺は、つい、

 

「何考えてんだ、お前!俺は毛利小五郎だっ!!」

 

 

 

 

「「……」」

 

たっぷり一分は黙っていたか。

 

「何を言ってるんですか」

 

「そう言われてもだなあ」

 

事実だし。

 

「ふざけないで下さい。先生は、あの人は――」

 

(あー、マジに怒ってやがるな)

 

「英理に悪いな、って言ってくれ」

 

「なっ!」

 

「あと、お前。ダチ少なそうだから――」

 

あ、と思った時には胸ぐら、掴まれてた。

 

「どこで、それを、知った」

 

(おお、迫力。マジ怒りか。しかし、もしやコイツ、赤くなってねーか?)

 

「どこで、って、俺が言ったし、ってか、離せ、……キツイ」

 

「――失礼」

 

何とか離れてくれたが、納得しちゃいねーな。

 

どうすっかなあ、と思っていると、

 

「信じられないんですが」

 

「……悪ぃな。俺もそう思う」

 

大きなため息が聞こえてきた。

 

(俺だって同じ気分だよ)

 

これ以上、どうやって証明したらいーんだ、と腕を組んで、うんうん唸っていると、紙とペンを渡された。

 

「取り敢えず、これに毛利先生の住所と名前、書いて貰えますか?」

 

(お、筆跡鑑定か)

 

流石、立ち直りは早いな。

 

早速受け取って以前の住所氏名を書いていく。

 

(何か、もの凄い視線を感じるが、無視だ無視)

 

「ほらよ」

 

渡すと、信じられないモノを見た、というような顔をした安室がいた。

 

「どーした?」

 

「……信じられない。信じたくないんですが、本当に先生なんですか?」

 

(へ!?もう!?)

 

納得してくれんのは助かるが、まだ筆跡――

 

そこで俺はあるコトに思い当たった。

 

(アレか)

 

人の何気ない日常動作――コイツは案外馬鹿にできないものがある。

 

例えば今の場合だ。

 

『毛利小五郎』の住所氏名なんざ、本人やその家族でもない限り、淀みなく書く、なんて真似はなかなかできやしない。

 

(コイツ、筆跡鑑定と思わせて、それをチェックしてやがった)

 

「やっぱ、お前、いー性格してやがる」

 

「なっ、何ですかそれ!というか、何故女子高生なんですか!?」

 

「あー、それな」

 

一応、俺なりに仮説を立ててみた。

 

今際のさい、俺は英理にしか遺言を遺せなかった。

 

つまり、蘭に対する心残り、ってやつが残っちまったって訳で。

 

「ま、だからそれで何とか蘭の奴に遺言、ってゆーか、何か遺してやりゃ、成仏できっかな、と」

 

「……何ですか。それは」

 

「いや、だから、一応推論ってやつで」

 

「そう言えば、何で蘭さんに何も言伝てしなかったんですか?」

 

蘭さん、落ち込んでいましたよ。

 

「う、それはだな。あと少し位は時間ある、と思っちまったんだよ」

 

「何ですか、それ」

 

「ってゆーか!あの時、お前があんまり情けねー顔しやがるから!」

 

「情けない顔って、人のせいにしないで下さいっ!!というか、こんなところで寄り道してないで、さっさとあの世、行って下さいよ!将来、僕の子供に生まれ変わってくれるんでしょうっ!?」

 

「かっ、まだ相手もいねぇ、青二才が何言ってやがる」

 

「すぐに見付かりますよ!これでも、引く手あまたなんですから!!」

 

そこで俺は、ある事実を指摘してやった。

 

 

「俺がお前くらいの年にはとっくにケッコンして、蘭も生まれていたぞ」

 

 

 

 

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