地球上のすべての生命体がL.C.L.に変換されて微生物すら存在しない世界。かつてはこの世界も生命が満ち溢れていたが、サードインパクトによって心の壁を解かれた者たちはその姿を保つ事が出来ずL.C.L.となってしまった。こうしてサードインパクトの依代となった一人の少年を除いて、誰一人いない世界となっていた。
その状況が変わったのが、異世界から一人のトリッパーがやって来た時だった。そのトリッパーはこの世界をいたく気に入り、自らに仕える百五十名の死徒と共にここに住み着いたのだった。
「本当に赤い海と廃墟しかない世界だね」
「ほんまに殺風景な所やねん。こないな場所に住みたがるなんて奇特な人もおるもんや」
少なくともボクはこんなこの世とは思えない様な世界に住みたいとは思えないからジョニーの意見に頷く。
「そうね。でもここがいいってトリッパーもいるのよ~。ほら見えてきた。あれがザビーネ・クライバーの千年城よ」
と、みこが言う通り遠目からでもはっきりと立派な城が見えた。
サビーネside
転生者ザビーネ・クライバー。彼女はこの世界の住む住民(碇シンジを除く)を取りまとめる人物である。彼女はかつて型月世界に真祖と人間のハーフとして転生して活動していたが、現在ではこの世界を根城にして事実上の楽隠居状態であった。
実のところ監察軍の延命技術によりトリッパーには長生きをするものが多いが、その場合周囲との確執によって自らの世界から引き上げて監察軍本部に移住する者が大半だったりする。まあ、普通に不老長寿の人間がいるわけにはいかないからそれも当然ですが、ザビーネの場合は自分の配下以外は誰もいない世界に移住するという方法でこの問題をクリアしていた。
「ご主人様。監察軍の方からお客様が来られました」
「へえ、あいつ以外でここに来るなんて珍しいね」
と、ザビーネは興味を持った。
実のところ、碇シンジがこちらが呼んでもいないのに頻繁にこの千年城に訪問してくるから、いい加減ブチ切れたザビーネがシンジを門前払いしていたのだ。その以降、シンジが来ても無視していたが、シンジ以外がそれも同胞たる監察軍からの来客となると無視するわけにもいかない。
「それで誰が来たの?」
一言で監察軍関係者といっても該当する者はザビーネが知っているだけでも多数いる。一応確認しておこうと何となくメイド長のクレアに訊いてみた。
「姫神みこ様です」
「彼女ですか?」
メイド長クレアの報告にザビーネは意外そうな顔をした。監察軍本部に所属していないとはいえ、ザビーネは監察軍と関わりが深いから、監察軍のトリッパーがこの千年城に尋ねてくることはかなり稀であるがあるが、あの姫神みこが来たことはなかったから予想外だったのだ。
勿論、ザビーネはみことは関わりがあった。何しろ彼女には借りがあるが、彼女がわざわざ私に会いにくるとは思えなかったのだ。
「いかがいたしましょうか?」
私が熟慮しているのを見てクレアが訊ねるが、この場合答えは決まっている。
「まあ、いいわ。会いましょう」
あれこれ考えても仕方ない。どうせ暇だし取りあえず会いましょう。
「久しぶりね。ザビーネ」
「ええ、本当にそうですね。それでそちらは?」
みこには少女とオコジョの同行者がいた。ザビーネの見立てでは少女は常人ではないし、オコジョもただの小動物ではないようだ。
「そういえばザビーネは初対面だったわね。紹介するわ。東条美月とオコジョのジョニー二人ともトリッパーよ」
「そうですか。貴女がカリン以外と行動を共にしているなんて驚きました」
確かみこはあの一件以来人間不信になっており、トリッパーに距離を取っていた筈だ。まあ、例のトリッパー増員計画でしぶしぶ協力しているようなので関係改善したのかもしれない。
「美月が気に入ったから暇つぶしに旅に同行しているのよ。貴女こそその気になれば自力で世界を旅できるのに相変わらずニート生活送っているのね」
「まあ、この世界が気に入ったからね」
以前ザビーネは監察軍の協力を得て移住先を求めて各地の世界を探索していた時期があったが、この際に問題となったのが、天敵、食糧、魔術基盤の三点だった。
天敵は言うまでもなく魔術師や聖堂教会だ。ザビーネからすれば脅威ではないが、戦力不足なメイドたちには十分脅威であるし、食糧調達も問題だった。更に魔術基盤がないと魔術が使えないので地味に困るのだ。その為、いろいろな世界を探し回り結果としてこの世界にした。
この世界は碇シンジを除いて人類が滅亡しているから邪魔な天敵はいないし、L.C.L.が血液の代わりになるのでメイドたちの食糧調達がかなり容易、おまけに魔術基盤がありマナが豊富にあるので魔術を使用できる環境、と申し分ない世界だった。
この世界に移住したザビーネはメイドさんを侍らせつつもゴロゴロと自宅警備員(ニート)をやっていたが、みことカリンが監察軍に所属したばかりの頃にみこから固有世界観というチート能力を貰っていた。
実は私の第六魔法・異世界間の移動【世界門(ワールド・ゲート)】は監察軍のサポートなしでも数多の下位世界を自由自在に移動できる物であるが、型月世界の魔術が使えない世界では使用できず大きな制限を受けていたので、その制限を取り外す為にみこに借りを作っていた。
この結果、ザビーネはみこと同じく異世界間転移装置ユグドラシル・システムに頼らず下位世界を自由自在に旅できる存在になったのだが、彼女はその能力をあまり有効活用していなかった。その気になればどんな世界にでもいけるのだが、わざわざ旅をする気になれなかったのだ。
「そういえばカリンは例の計画に志願したらしいね」
「ええ、現在はアトランティス帝国で奮闘しているわ。とても手が離せないらしいわね」
「それはご苦労様です」
すでに自宅警備員を長く勤めてだらけきっているザビーネは勤労意欲というものはとうになくなっており、カリンが自ら苦労や責任がある大変な仕事をしている事に何か口をはさむつもりはない。勿論、カリンがそれをやっている理由は分かる。下位世界存続の為には誰かがやらなければならない事なのだ。
まあ、それはともかく折角同じトリッパーが来てくれたのだ。暇を持て余していた事もあるし、歓迎しておくとしよう。
解説
■ザビーネ・クライバー
『トリッパー列伝 ザビーネ・クライバー』に登場した転生型トリッパー。現在は赤い海に包まれた地球で自分に仕える死徒メイドたちと悠々自適の生活を送っている。
■第六魔法・異世界間の移動【世界門(ワールド・ゲート)】
ザビーネ・クライバーが会得したオリジナル魔法。型月世界では並行世界とも異なる完全なる異世界に行くことはどんなにお金と時間をかけても不可能なので、これも立派な魔法。元々は監察軍の世界間跳躍システム『ユクドラシル』の機能を参考にして作り出した物で、ザビーネがこの魔法を編み出せたのは根源に至ったため。
■固有世界観
トリッパーシリーズでは、魔法や魔術はその世界観が適合して初めて行使可能になるという設定になっています。例えば精霊のいない世界で精霊魔法を使えませんし、魔術基盤がない世界で型月系の魔術は使えませんが、この能力は現地の世界観の壁を無視して自分の都合のいい世界観を現地世界に押し付ける事が出来る。これによって本来ならば魔術が使えない筈の世界で魔術が使えたりします。