下位世界にはそれぞれ世界観という物がある。それは下位世界の触媒となった物語の設定であり、その世界の法則も世界観を元に構成されていた。
例えば『魔法少女リリカルなのは』の世界では数えきれないほどの多くの宇宙(世界)が次元世界という一つの世界に内包されていて、それぞれの世界を比較的容易に行き来できるが、他の下位世界ではそんな事は不可能である。
また物語の設定で、魔法がない世界では魔法が使用できない事が多いし、魔法が存在する下位世界であっても世界観が違う下位世界にいけばその魔法が使用できなくなる事が多い。例えば、魔力素がない世界では『魔法少女リリカルなのは』の魔法は使えないし、魔術基盤のない世界では型月世界の魔術は使用できない。
こうした世界観による障害は純粋な科学技術であれば概ね問題ない。科学は大概の世界で問題なく使用できる汎用性の高い技術なのだから。しかし、魔法や魔術となると世界観の壁にぶつかって互換性が悪い事が多いのだった。
さて、前提としてそうなる以上、魔法や魔術を使うマジックユーザーのトリッパーにとって世界観の壁が最大の壁である事は言うまでもないだろう。勿論、エリーゼ・ペルティーニやザビーネ・クライバーのように特殊な転生特典でそれを乗り越えて魔法を使用できるトリッパーもいたが、それは特殊な例外でしかない。
そんな問題を解決するため以前みこが作り出したのが、この下位世界“カオスワールド”だ。
通常下位世界は数多くの上位世界人に認知された創作物を核に上位世界人たちの創造具現化能力によって構築されるものであるが、姫神みこの場合は他の上位世界人の力や、原作と言う媒介もなしに自分が思うが儘の下位世界を創造することができた。
そうして作られたカオスワールドは下位世界に存在するありとあらゆる魔法や魔術などを行使できるという規格外の世界観を持つ世界だった。その為、この世界は監察軍の様なトリッパー組織にとって非常に都合が良く作れてているというか、元々は姫神みこが監察軍の本部として提供する為にカオスワールドを作り上げていた。
しかし、ある事件を切っ掛けにみこが他のトリッパーと距離を取るようになったために監察軍にこの世界を提供することなく、自らの拠点として使用するようになったのだった。
「これがカオスワールドですか、人がいないところを除けば地球と変わりませんね」
ボクがいるこの世界はカオスワールドというご都合主義ともいえる特殊な世界観を持つ特殊な下位世界であるが、人類などの知的生命体がいないことを除けば気候や生態系などは地球と同じであった。
「元々がトリッパーの拠点として作った世界だからね。違和感がないように地球に似せているのよ」
「せやけどなんもないしょーもない世界やねん」
「ジョニー、人がいないのだからそれはしょうがないでしょう」
「そうよ。あんた私の世界にケチ付ける気」
「みこはん、しんどい堪忍や」
みこは右手でジョニーを握りしめている。不用意な言葉でみこを怒らせたジョニーの迂闊さにため息をつきつつも放置はできないのでボクはみこを宥める事にした。
「ところで何でボクはこんな恰好をしているの?」
そう気が付けばボクとみこは水着姿でこの世界の海岸にいたのだ。みこは赤の水着で、ボクは何故かスクール水着を着ていた。
「それはネタよ。まあ美月はスタイルがいいからもっと露出したほうがいいかもしれないわね。それにこの世界は私のとっておきだから、ここで海水浴でも楽しもうよ」
海水浴か。確かにこの世界では他にやる事もないか。取りあえず海で泳ぐとしましょう。
「ふう、こんなものかな」
「ねえ、美月」
「何かな」
存分に泳ぎ程よく疲れて砂浜に建てた椅子に座ったボクに、みこが深刻な顔をして話し掛けてきた。
「美月はもしも時間を巻き戻してやり直すことが出来たらって考えた事はない?」
「それは…」
唐突なみこの言葉にボクは少し考え込んだ。そう転生した次元世界では管理局の所為でボクは家族と引き離されてしまう事になった。もしも、あの時をやり直す事ができたらと思った事はある。
「私なら時間を巻き戻して失った時間を取り戻す事もできるよ」
「やり直しですか」
確かに今生ではやむを得なかったとはいえ親不孝な事をしてしまった。というか前世でもろくな職業に就けず生活苦でさっさと自殺しているから本当に親不孝だったなと、自分の過去の愚行に苦笑した。
通常ではやり直しなどできないが、もしもそれができるとしたら今度はきちんと親孝行するべきかもしれないね。