ボクは気が付けば人気のない場所にいた。
「ここは?」
周りを見てもこんな場所に覚えがない。確か、管理局に捕らえられた所をみこに助けて貰って、気が付いたらこの場所にいた。
「あれ、ポケットに何か入っている」
スカートのポケットには何も入れていない筈なのに違和感があった。あさってみると二枚の紙が折り畳まれて入っていた。開いて読んでみましょう。え~と、何々。
『美月へ。早速だけど強化計画を始めます。この世界は『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の並行世界だよ。並行世界だから主人公の剣心はいません。時期は幕末の動乱期だから気をつけないとすぐに死んじゃうからね。この世界なら君に不足している実力を付けるのに丁度良いと思うので頑張ってね。姫神みこより』
「……」
あ~、つまりボクは幕末のるろうに世界で生きなきゃいけないわけか。結構キツイね。まぁ無理じゃないけど。そういえば、もう一枚紙があるね。読んでみよう。
『東条美月さんへ。突然の事で驚かれたと思いますが、それはご容赦して下さい。さて、今回は蔵(アーカイバ)の能力を補足説明しておきます。前回みこがちゃんと説明していなかったようですから(笑)。蔵はその名の通り様々な物品を収納できます。その収納量には限界がないのでいくらでも出し入れができます。しかし、蔵の中ではあらゆる生物が生きられないので生き物をそのまま収納することはできません。一方、蔵の内部では微生物ですら死滅してしまうため物品の保存に適しており、食料も腐る事はありません。更にギルガメッシュの王の財宝のように、収納した物品を高速で射出して攻撃に転用することも可能です。その為勝手ながら、美月さんの蔵の中に鉄の槍を千本ほど入れておきましたので、宜しければご利用下さい。
追伸、ついでに蔵には衣服類、お金、宝石、貴金属類もある程度入れておきましたので、生活の足しにして下さい。カリン・エレメントより』
うん、カリンさんには色々お世話になっているね。今度あったら御礼を言っておこう。一文無しは辛いからお金を入れてくれたのは有り難い。
「とりあえず町に行って情報収集でもしますか」
そう気を取り直して、ボクは歩き出した。
「……本当に治安が悪いですね」
ボクは町を探して歩き回っていると、運が悪い事に盗賊の集団とばったり遭遇してしまう。というか盗賊なんて平成日本では見たことがないが、幕府の治安能力が麻痺した幕末ならば珍しくもないのだろう。
「仕方ない」
刀を手に降りかかる火の粉を払うか!
「はあああっ!」
「ぎゃあああ!!」
ボクは身体能力に物をいわせて盗賊達を次々と斬り捨てていく。ボクの刀は恐るべき業物であるため盗賊の刀をあっさりと切り裂いていく。まぁソーマを帯びた刀と、ただの日本刀ではそもそも打ち合いにすらならないだろう。
「何だ! てめえ!」
盗賊の一人が動揺していた。彼らからすれば十にも満たない小娘が一人で出歩いていたので、カモだと襲いかかったのだ。しかし、実際には逆に自分たちが返り討ちにあっていた。勿論、盗賊達もただやられていたわけではない。必死にボクを切ろうとしたのだが、ボクの背丈が小さい上に信じられない速度で動くので捕らえきれなかった。
「がはっ!!」
斬られた瞬間、盗賊は自分たちが運に見放されたことを悟った。盗賊なんてやっていたから、どうせろくな最後はおくれないと思っていただけに、来るべきものが来ただけかもしれない。薄れゆく意識の中で盗賊はそう嘆息した。
「……これじゃ、駄目だね」
ボクは盗賊達を返り討ちにしたけど、この結果に満足していなかった。確かに戦いには勝てたが、ボクも幾つもの深手を受けていた。勿論、そこは不老不死の美月である。そんな傷など即座に癒えた。
しかし、これで自分がスペックだけで、技量がまるで追いつけていないことがハッキリ理解できた。盗賊達は複数いたとはいえ所詮はゴロツキ。はっきり言ってただの雑魚だった。超人的なスペックと業物の刀を持っていながら、その程度の相手に手こずった事実はボクを苛立たせるのに十分だった。
そこに「確かに駄目駄目だな小娘」と声が聞こえた。それにボクは驚愕する。ボクは自分に声をかけてきた男に気付かなかったのだ。
「誰っ!」
ボクは刀を構えて警戒する。そこにいたのは美形の青年だが、その顔には見覚えがあるような? もしかしてこいつ原作キャラか?
「おいおい、そんなに警戒するなよ。俺は盗賊じゃねえよ」
「……その様ですね」
ボクは刀を下ろす。
「しかし、お前小娘の癖に大した身体能力だな。剣の腕はてんで駄目だが…」
男の言葉がボクの胸に突き刺さる。確かにボクは前世では剣道すらしていない素人だったし、現世でもまだ8歳なので当然ながら剣の訓練など一切してこなかった。そんなボクが剣を振るってもチャンバラごっこにしかならない。
「……何分、剣を習っていないので」
だからボクは、そう答えるしかない。
「ふむ、勿体ないな。それだけの身体能力がありながら」
不意に男は盗賊達の死体を見渡す。
「しかし、お前小娘の癖に人を躊躇いもなく斬るな」
確かに端から見れば、年端もいかないボクが躊躇いもせずに人を斬ったのが異様に見えるだろう。
「……ボクは降りかかる火の粉を払っただけ。それに一々躊躇なんかしていたら自分の身も守れません」
「はっ、これは一本取られたな。確かにその通りだ」
ボクの言葉に大受けした男は、大笑いした。
「まあいい。小娘何故こんなところで一人でいる。親はいねぇのか?」
「親は(この世界には)いません。それにボクは一人旅の最中ですから」
うん、嘘は言っていない。るろうに世界には両親はいません。
「そうか……」
それを聞くと男は考え込んだ。それにしても、この男先程から記憶を刺激している。やはり原作キャラか? どうも原作知識がうろ覚えな所為でハッキリ思い出せない。試しに名前を聞いてみるか。
「ボクは東条美月です。貴方のお名前は?」
「俺か。俺は比古清十郎だ」
比古清十郎ですと……。確か十三代目飛天御剣流継承者で緋村剣心の師匠じゃないですか! 何でるろうに世界最強がこんな場所にいるんですか! 今のボクは、鳩が豆鉄砲でもくらったかの様な顔をしていた。
「よし、決めた! おい、小娘お前に俺のとっておきを教えてやる!」
と、比古清十郎は硬直したままのボクに格好良く言い切った。