三千世界監察軍本部。そこは『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生した一人のトリッパーが自らの帝国を築き上げ、更にそれを母体に様々な創作物の世界にトリップした仲間達を支援する為の組織だ。そんな監察軍に二人の少女が現れる。
「ここは?」
ボクは周囲を見渡す。
「ここは三千世界監察軍本部だよ。美月を監察軍に紹介しておいた方がいいからね」
そんなボクにみこがことなしげに言った。
「……ここが監察軍ですか」
ボクは監察軍の事は話には聞いていたが、これまで彼らと遭遇したことはなかったし、みことカリン以外のトリッパーと接触した事もなかった。なんかいかにもSFと思える場所である。
「……ユグドラシル・システムを使わずに自力でここまで来るなんて相変わらず出鱈目な能力ね」
そんな二人に近づいてきた少女が話しかけてきた。
「あらハルヒ。貴女だって、かなりのチートだと思うけど?」
「それはそうね」
みこの言葉に涼宮ハルヒは苦笑いした。ハルヒもまた強力なチート能力を持つトリッパーだった。
「それはそうと、そちらの方はどなたですか?」
と、ハルヒが美月に視線を向けていた。
「彼女はこの間話した東条美月よ。私のお気に入りね」
「ああ、貴女がね。噂は聞いています。あたしは涼宮ハルヒといいます。見ての通り『涼宮ハルヒの憂鬱』の主人公に転生したトリッパーです」
「噂ですか」
ボクはハルヒの言葉が気になった。
「ええ、みこに気に入られた気の毒な方だと」
「気の毒って酷い言い方ね」
ハルヒの言い方にみこが心外だと言わんばかりだったが、ボクとしてはさもあらんと思わず頷きたくなった。ボクからしてもみこは少々トリッパーに手厳しい。それはトリッパーであれば多かれ少なかれ反発すると思われるほどだ。
「ともかく連絡もなしに直接こちらに来るのは止めて欲しいわ。そんな事をされると一々確認しないといけないから面倒なのよ」
基本的にトリッパー達が下位世界を移動する時は監察軍の異世界間転移装置『ユグドラシル・システム』を使う為、それらの移動は監察軍がちゃんと管理していた。
しかし、ユグドラシル・システムを使わずとも異世界間の移動が可能な者もいる。死神や姫神みこを含めた極少数の規格外なトリッパーがそうであるが、頭が痛い事にトリッパーの宿敵たるベヅァーもそれが可能であった。その為、そうした管理外の転移がおこると警戒態勢を取ることになっていた。
「それは悪かったわね」
と、みこは少しも悪く思っていないのが丸分かりな表情でそう言った。
「まあ、何事もなくてよかったわ。それで今回来たのはどういう用件です?」
「美月に監察軍を見学させようと思ってね。挨拶というものあるけど」
「そうですか。では彼女を案内しましょう」
「よろしくお願いします」
話がどんどん進んでいるが、ハルヒが案内してくれるらしいのでボクは無難にハルヒに頼んだ。
ハルヒに案内された美月は一通り、監察軍の施設を見て回った。
「ここはスペース・コロニーだったんですね」
スペース・コロニーだなんてガンダムなどの物語の存在だと思っていただけに、そういった場所にいるというのは何ともいえないものがある。
「それほど文明が進んでいない世界にトリップした人なら慣れてないと思うけど、コロニーだからといって不安定という事はないので安心していいわよ。慣れれば有人惑星よりも住みやすいもの」
「凄い技術ですね」
ボクはそれがどれだけ優れた技術であるかきちんと想像できない程だ。
「当然ね。監察軍の技術は三千世界一だもの」
そう話すハルヒは自信満々だ。確かに監察軍は各地の下位世界の優れた技術や知識を収集しているから必然的にレベルが高くなるのだろう。でも、それってただのパクリではないのか?とボクは内心で思った(怖いから口には出さない)。
そういった会話をしていたが、そろそろ食事時になったので食堂に入る事になった。
「ここが食堂ね。監察軍ではトリッパーの特権として最低限の衣食住が無償保障されているから、美月なら大衆食堂とかなら無料で利用できるわ」
その他にも必要であればマンションの様な個室や衣服類と光熱費も無償提供されるらしく、極端な話トリッパーであれば働かなくても生活していける。事実監察軍本部には一切働くことなく個室に引きこもってニート生活している者もいるらしい。
それはそれで拙くないかと思わなくもないが、監察軍はトリッパーの支援を行う組織であるから生活苦に陥らせるわけにはいかなかったのだ。といっても保障されているのはあくまで最低限にすぎない。
食事は大衆食堂、ファミレス、屋台などは無料で使えても高級レストランなどは利用できない。衣類もある程度の必要な物は供給されるが、ブラント品などは支給されず、当然ながら宝石類などのアクセサリーもなし。住居は快適に生活できるだけのマンションは可能でも豪邸なんかは当然却下させる。
こうした質を向上させたければ働いて自分で用意しないといけないが、文化的に生活できる最低限の質を無条件で与えられるだけでもトリッパーは十分優遇されているだろう。事実、ボクが知るだけでもるろうに世界ではその最低限を確保できずに困窮していた者などいくらでもいた。
食堂で日替わり定食を食べてかなり美味しかったですね。これはこれまでいた世界は明治時代だったから食品の質が監察軍のそれに大きく劣っていたからです。遺伝子操作や品種改良などで用意された美味しい食材だけを食べるなんて贅沢はあの世界ではまず不可能でしたからね。
食事が終わって食堂を出たボクたちは監察軍の施設を巡り他のトリッパーにあいさつ回りをするなど、色々やって監察軍本部訪問は終わりました。結構大変でしたね。
みこside
美月が挨拶回りで四苦八苦していた頃、みことハルヒは世間話をしていた。話題は美月の事であった。
「美月の強化計画ですか。意外と手間を掛けるのね」
「ええ、流石に能力的に駄目だったからね。ある程度の実力がないと困るのよ」
「だったら貴女が能力をあげたらいいじゃない?」
確かにみこがその気になれば必要な能力などいくらでも与えられるだろう。
「それじゃ、私に頼ってしまうじゃない。そんな風になったら嫌よ」
「まあ、確かにそうでしょうね。でも随分と彼女を気に入っているね。正直驚いたわ」
みこはあの事件以降は同じトリッパーであっても倦厭するようになり、例外は親友のカリン・エレメントだけだと監察軍の所属するトリッパーは誰もがそう思っていた。
「美月はあれで見所があるからね」
その言葉にハルヒは複雑な表情をする。それにはみこに目をつけられた美月に対する同情があったのかもしれない。
「それより、例のトリッパー増員計画は順調なの?」
「ええ、令子もカリンも計画通りやっているわ。貴女が送り込んだトリッパーたちも特に問題はないみたいね」
みこは監察軍とは疎遠であった。というよりもある時期から意図的に監察軍を避けていたが、ベヅァー戦争後はトリッパー補充の為に監察軍の外部協力者としてトリッパー増員計画に協力していた。これは親友であるカリン説得もあったが、状況的にやるしかなく、それだけトリッパーの増加は急務で差し迫った問題だったのだ。
「それならいいわ。私も骨を折っている訳だから成果を出してくれないと困るからね」
あの計画に関わっているのはみこだけではないが、彼女が他のトリッパーには出来ない事を一人でこなしている事はハルヒも分かっているので、彼女はみこの言葉を黙って受け入れたのだった。
解説
■涼宮ハルヒ
『トリッパー列伝 涼宮ハルヒ』で登場した転生型トリッパー。監察軍では数少ない科学者にして技術部の部長である。
■トリッパー増員計画
第一次ベヅァー戦争で激減したトリッパーの補充と更なる増員を目的とした計画で、現在二つの下位世界で推進されている。