ライカ島。気候が穏やかで自然は豊か、他では見られない様々な絶滅動物が沢山いる場所である。と言えば聞こえはいいが、その実情は非常に面倒な島で、凶暴な肉食獣がごろごろしてかなり危険であるし、毒ダニや生物兵器として開発された粘菌もどきまである。そんな世界にわざわざやってきたのには理由がある。
そもそもの始まりは以前ボクが時空管理局につかまった時にボクを助ける時に、みこが時空管理局本局と次元航行艦隊に所属するすべての局員を、自然が豊かで珍しい動物も一杯いるという下位世界に飛ばした事で、実はその転送先こそが『エデンの檻』のライカ島だったのだ。
当然ながら次元世界ではなく別の下位世界に飛ばされた彼らの運命は悲惨なものであった。まず、この世界では次元転移どころか魔法そのものが一切使用できない。これは次元世界で使用されている魔法がこの世界に対応していないからだ。
これで質量兵器で武装でもしていたらまだマシだっただろうが、彼らは魔法を絶対視して質量兵器を忌み嫌い廃絶していた為、治安維持組織でありながら何の力もなくこの島の動物たちに狩り立てられて最後の晩餐(食べられる方)となっていた。
それは次元世界の支配者を気取っていた彼らの没落ぶりをものの見事に表していたが、ボクとしては今更どうでもいい事だった。とはいえ、早々に駆逐されると思われていた彼らが二十年以上すぎてもしぶとく生き残っていた事にみこが興味を示し、ボクとみこは彼らの様子を観察することにした。
元管理局員といっても動物の皮をきて石器を使う彼らの姿は原始人そのものだった。もう二十年以上も前に着の身着のままでこの世界に飛ばされた彼らの衣服はとっくに駄目になり、そんな恰好をするようになったのだろう。
「それで美月どうする?」
みこは言外に管理局員の生き残りをどうするかと訊きたいのだろう。確かにボクは奴らには煮え湯を飲まされた事があるから思う所がまったくないわけではないが、ここで過去の報復とばかりに無力な彼らを虐げるのはボクの好みではないし、少なくとも飛天御剣流継承者として間違っている。
「どうも、こうもしないわ。彼らはどうでもいいから無視するわ」
「へえ、関心がないんだ」
そんなボクの態度にみこは面白そうに言う。
「それよりこんな何もない世界から移動しましょう。ここ数日、自然と動物ばかりで嫌気が指しているのよ」
「せやでぇな。確かにこれやおもんないでっせ」
「そうね。じゃ別の世界にいこうか」
ボクとジョニーが移動したがっていたのでみこも次の世界に行くことにした。
クロノside
僕の名はクロノ・ハラオウン、時空管理局の執務官だ。この世界に僕たちがいきなり転移してから既に二十年以上が過ぎていた。何故かこの世界では転移魔法どころかあらゆる魔法が一切しようできなかった。正直な話、何が原因なのかまったく分からないが、気が付けば管理局本局と次元航行艦隊にいた管理局員がすべて謎の塔の周囲に転移していた。
当初はそこまで危険ではなかったが、転移した塔の辺りは植生が乏しくて大人数が必要とする水と食糧の調達に問題があったからとりあえずここを移動して調査しようと考えていたが、そこに猛獣たちが襲いかかってきたのだ。
次元世界の武力の象徴である高ランク魔導師が多く揃っている管理局員たちにとって通常ならば問題なく撃退できたが、魔法が使えず武器もない非力な一般人に転落した彼らに戦う術などなく、管理局員たちは次々に猛獣たちの餌食になり、ボクたちはパニック状態になってバラバラに逃げ惑った。
それからは悲惨の一言だった。僕たちは多数のグループに分かれて島の各地をさまようことになったが、どこに行っても危険極まりない動物たちに襲われて仲間が次々に死んでいった。更にこの極限状態によって局員の中には精神を病んで殺し合いになってしまうこともしばしばあった。
ちなみに僕たちが使っている武器は研磨した石を木の棒に取り付けた石器の槍ぐらいで、そんな状況では質量兵器があればと誰もが思うだろう。命がかかった状況だと危険だとかクリーンじゃないとか言っていられないのだ。
こうして考えると、管理局の質量兵器廃絶は一方的なものだったのだろう。それを盲信して魔法を絶対視した結果がこれである。魔法が使えず動物たちに蹂躙される弱者になってから質量兵器を求めるなど身勝手極まりない事を願う羽目になってしまったのは最早笑うしかないだろう。
そんな惨めで悲惨な日々の中で、ボクたちはある人工物を見つけた。それは朽ち果てた居住区であり、ここに人がいた証拠でもあった。
この島の凶悪な動物たちは何故かこの場所にだけは入ってこなかった。僕達のグループにたまたまいた技術者は電磁波がどうとかいっていたが、管理世界でも実用化されていない技術が使われているらしかった。まあ、詳しい理論はどうでもいい。重要なのがここは拠点として使えるという事だ。
こうして僕たちはここに家を建てて住み着いたおかげで二十年も生き残ることができたのだ。正直な話、時間が立てば管理局の救援が来ると期待していた、というよりそう思わなければやっていられなかったが、ここまで待っても管理局の救援どころか他の人間も来ない事から救援が来ないのは誰の目にも明らかだった。
その後、クロノたち元管理局員は仙石アキラという少年たちのグループと合流して、彼らと一緒にライカ島の外に出発することになるがそれは余談である。
解説
■ライカ島
『エデンの檻』の舞台。凶暴な絶滅動物が存在している殺伐とした世界でまともな装備がない一般人が暮らせる環境ではない。また下位世界におけるリリカル世界の魔法の互換性の悪さが仇となってこの世界ではミッドチルダ式魔法は使用できない為に管理局ご自慢の高ランク魔導師もそこいらの一般人と変わらない存在となっている。というかライカ島では自動小銃で武装した犯罪者の方がよっぽど役に立つ。
■クロノ・ハラオウン
『魔法少女リリカルなのは』の登場人物。執務官として次元航行艦隊に所属していたためにみこの転送によってエデンの檻のライカ島に強制転移させられた。
あとがき
クロノたちが仙石たちと違ってライカ島から逃げ出そうとしなかったのは、なまじ次元世界の知識があった為に、この世界が猛獣たちがうじゃうじゃいる無人世界だと勝手に思い込んでしまったからです。つまりこの島を脱出しても意味がないと誤認したわけです。