いかにも現代日本という建物が並んでいる無人の街中を二人の少女とオコジョが歩いていた。
「おかしいわね。住民がいないなんてどういう事かしら?」
そう、この街は真昼間にも関わらず人が誰もいないのだ。
「ゴーストタウン、それとも何かの怪奇現象かな?」
下位世界は様々な物語の世界な為に奇妙な事が起こる世界があっても可笑しくない。下手をするとここがゾンビ系の世界で、住民がゾンビに蹂躙されてこの街から人が駆逐されたというオチもありうると考えていたら、いきなり近くの街並みがまばゆい光に包まれて、凄まじい衝撃波がボクを襲った。
「何これ!」
いきなりの異常事態に状況を確認するとそこに巨大なクレーターがあった。そのクレーターの中心に一人の少女がいた。
その少女は紫の鎧に金属とも布ともつかぬ不思議な材質の光り輝くドレスを身に纏っていたが、大剣をこちらの方向に振り下ろしてきた。
「くっ!?」
それは当然ながら剣の届く範囲ではないが、それでも危険と判断したボクは横に大きく回避した。とっさの判断は間違いではなく、それまでボクがいた場所を剣の軌跡が通り抜けていた。それは恐るべき切れ味でアスファルトすらも切り裂いていた。
「ちっ!」
即座にボクは引狭(いなさ)を抜いて、少女に斬りかかる。正直言って彼女が何者なのかとか、彼女が何故ボクに攻撃を仕掛けたのか何かはどうでもいい。状況からみて少女が敵である事は間違いなく、速やかに倒さなければこちらが危ないのだ。
ボクは少女と激しい斬り合いを行っていた。最初から普通の少女ではないと分かっていたが少女の力とスピードは常人のそれではなく、ボクと対等に戦えるほどだったのはやや驚いた。ぶっちゃけると奥義継承を終えて以降はボクと剣でまともに戦える者など皆無だったので、これは意外だった(美月は監察軍の仲間とやり合うことはしていない)。
このままでは埒が明かないので、大技で一気に片付ける事にした。ボクは九頭龍閃(くずりゅうせん)を放った。九頭龍閃とは剣術の基本である9つの斬撃を飛天御剣流の神速を最大限に発動させつつ突進しながら同時に放つ技で、一度技が発動してしまえば防御も回避も不可能な技である。
少女はこれをすべて防ぐことは出来ず五つの斬撃を受けたが、それらは何かに弾かれてしまい致命傷を与えることができなかった。
鎧が覆っている部分だけでなく肌が露出している部分に加えた斬撃も効き目が悪い事から、どうやら彼女の身に纏っている異様な衣装はただのコスプレではなく何らかの防御機能があるのだろう。
勿論、まったくの無傷というわけではなく少女も少なからず負傷していたが致命傷には程遠い。正直言ってこの異様な防御力は脅威と言うしかないだろう。
そこに空からおかしな恰好をした女性たちがこちらに飛行してきた。彼女たちは水着の様な妙に露出度の高い格好の上に重武装といういかにもメカ娘みたいで、どうみても「そんな恰好をして恥ずかしくないの?」と聞きたくなるほどの痛いコスプレ好きに見えるが、実際に空からこちらにミサイルを撃ち込んできたから正式な装備何でしょう。
そうこうしている内に、新たに現れた彼女たちと少女が激しく交戦しだしたので、ボクはみこと共にその場からさっさと退散した。
「みこ、あれは何?」
あの場所からある程度離れた場所で、ボクはみこに先ほどの少女について訊ねた。
「あー、あれは精霊で、後から現れたのはその精霊を武力で殲滅する為に陸自の対精霊部隊だわ」
と、あっさりと答えが返って来た。
元々、この世界を選んだのはみこだから元となる原作の内容ぐらい知っていても可笑しくないし、例えまったくしらない世界でも彼女の出鱈目ぶりからすれば必要とする情報を入手するなど朝飯前なので別に驚くに値しない。
「陸自はともかく精霊ね。私の九頭龍閃でも仕留められないなんて厄介ね。一体どんなやつなの?」
「えーとね。この霊結晶(セフィラ)といわれる物を取り込む事で精霊になれて、美月の攻撃を防いだ霊装という鎧と、天使という武器を得られるわけだよ」
と、みこは青い輝きを放つ宝石のようなものを空中に浮かべた。
「美月はん、それを取り込んでみたらどうや?」
「結構よ。ソーマを取り込んだだけでも十分強くなっているもの。これ以上そんな方法で強くなってもうれしくないわ」
強くなるだけならチート能力を得るのが一番手っ取り早いが、剣士としてそれでは駄目です。ソーマの力だけでも反則染みた身体能力なのに、それ以上になると正々堂々とした戦いではなく卑怯としか言いようがないでしょう。
「そうよね。じゃあ、これは監察軍の連中に上げときましょう」
みこが事なしげに霊結晶を消していた。
「そこの民間人。武器を捨ててこちらに来てもらおうか」
そうしていると、上空から陸自の部隊が展開して、そう要求してきた。
「みこ、行くわよ」
「はあ、そうね」
恐らく、生身で精霊と戦った不審人物を取調べしようというのだろうが、ボクたちはこの世界の戸籍なんかないから不法入国者扱いされて、色々と面倒な事になるから流石にこれは困る。ならさっさとこの世界から引き上げるべきだ。
こうして、ボクたちはそうそうにこの世界から引き上げた。尚、陸自のASTは不審人物たちがいきなり消えた事に困惑したが、彼女たちには何一つわかる事はなかった。
解説
■霊装
精霊が纏う鎧。凄まじい防御力を持ち通常攻撃を受けつけず、陸自のASTでも傷つける事すら不可能であるが、鉄壁というワケではなく、人間離れした極一部の魔術師ならば破壊することは可能である。
■霊結晶(セフィラ)
精霊の力の源。これを取り込む事でただの人間が精霊になる事ができる。今回登場した霊結晶はみこがこの世界の霊結晶を参考にチート能力で作り上げたオリジナルの霊結晶で、それは後に別のトリッパーの手に渡る事になる。