オーゼンの拾いモノ   作:ぽぽりんご

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第10話_私って、誰だっけ

 

 

「うおお……明るい」

 

 深界一層。

 始まりの階層、奈落の縁。

 そこは、太陽の光であふれていた。

 二層はとても薄暗かったため、余計に眩しく感じる。

 

 光だけではない。緑が溢れている。水も、生命も。いままでの階層とは大違いだ。

 ここまでくれば、地上とそう変わらないはず。

 

「一応は穴の中なのに、なぜこんなに明るい……?」

「まぁ、色々とあるのさァ」

 

 ぞんざいな返答だけして、オーゼンが歩き出す。

 おい待て、まだ私の観光が終わっていない。

 まだ見たいものが沢山……

 

「むっ」

 

 違和感を探知!

 無駄口を叩いてオーゼンにどつかれる遊びをやめて、そちらに向かう。

 私の背丈より成長した草(万死に値する)をかき分けると、それはあっさりと見つかった。電報船だ。手にとって調べてみると、ガス袋に穴が開いている。鳥にでも襲われて、ガスが抜け墜落してしまったのだろう。

 

「待て……今、どうやってそいつを見つけた?」

「んー、何となく? ノリで?」

 

 私を追いかけてきたオーゼンの問いに、適当に返答する。

 うまく説明できないが、ビビビと来るのだ。

 なんとなく、もやっとした感覚。そうとしか表現できない。

 

 腑に落ちないといった表情のオーゼンだが、諦めたのか追及を止め、電報船に乗せられていた紙を手に取って広げる。

 

「中身は、二層のスケッチか? ついでだ。こいつも持って行こう」

「まぁ待てオーゼン、気が早い。せっかく電報船がここまで運んできてくれたんだ。最後まで役割をまっとうさせてやろうじゃないか」

 

 スケッチを鞄に入れようとするオーゼンを抑え、私は腕まくりをした。

 見た感じ、簡単に直せそうなのだ。チャレンジしてみたくある。

 

 ふへへ、なんだかワクワクしてきたぞ。

 電報船の損傷個所を確認。近くにあった水たまりにガス袋を沈めてみるが、穴の開いた箇所以外からのガス漏れは無し。柔らかい草の上に落ちたからだろう、損傷は軽微だ。

 開いた穴からガス種を放り込み、手早く補修。糸で縫った上から、温めた樹脂を塗りたくる。これで、ガスが漏れないはずだ。あとは軽く火にあぶってやるだけで完了。樹脂部分を熱してしまうと再び溶け出してしまうので、そこに注意しつつしばらく待つ。一度濡らしたため時間はかかったが、中に入れた種が熱で破裂。ガスを発生させて──

 

「ほら、浮いた」

「へぇ……」

 

 ものの十分程度で完璧な補修をこなした私に対し、オーゼンは驚きの表情だ。

 オーゼンが驚くなんて、これはレアなのでは?

 

「裁縫道具に、補修用の樹脂。シーカーキャンプにあったものか。いつの間にくすねて来たんだろうねぇ」

「や、有効活用しているのだから良いのでは」

 

 適当にごまかしつつ手を離すと、電報船がゆっくりと上へと登っていく。

 樹脂を塗った面を下にしたので、いい感じでバランスも取れている。これなら、地上まで上がってくれることだろう。

 

「害獣除けは、塗らなくてよかったのかい?」

「焦げ臭さ満点の電報船を襲うような鳥は居ないのでは? 三十分ぐらいなら持つはず。それだけあれば、地上まで届く」

「まぁ、そうだね」

 

 電報船は、どんどん高度を増していく。

 ものの数分で、その姿は見えなくなった。

 

 

 満足した私は、移動を再開……おい待てオーゼン、置いていくな。

 走ってオーゼンを追いかけつつ、ちらりと上空を見上げる。電報船が落ちてくる気配は無い。久しぶりに弄ったが、どうやら腕は衰えては──久しぶり? いや、電報船を弄るのは初めてだ。

 初めてでこんな完璧な仕事をこなすなんて。

 やはり、私は天才なのでは?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんなこんなで、寄り道をしながら色々拾い集めつつ、私たちは地上を目指した。

 今までと比べると、格段に楽な道のりだ。なにせ、観光ができるぐらいである。

 

 鳥の鳴き声が聞こえる。

 近い。捕まえて、食ってしまうのもいいかもしれない。

 連中、私が姿を見せるとすかさず襲い掛かってくるのだ。鳥というものは、子供を見たら襲う習性があるらしい。私の常識と乖離があるが、襲われるのは事実なので、私の常識が間違っているのであろう。

 

 

 今日のご飯を確保したあと。

 明るい日差しに照らされながら、深界一層を登る。登る。登る。

 もっと上までいけば、頻繁に人とすれ違う程だという。

 

 上昇負荷も、気持ち悪くなって吐きそうになる程度……オロロロロ。

 

「汚いねぇ」

 

 おいこらオーゼン、吐いている人間に追い打ちをかけるんじゃない。

 お前には、人の心がないのか。

 あと、なんでオーゼンは平気そうなの。

 

「オロロロロ……お、あれはなんだオーゼン。風車か?」

「切り替えが早い」

 

 謎の建造物を見た私は、瞬時に体力を回復させた。

 ふーむ、風車とは。たしかにここは風が強い……が、あと少し下ならもっと強いのだ。なぜこんな中途半端な所に。

 

「そもそも、あれは何のための風車? こんな所で風車を回す必要性を感じない」

「今は使われていないが、昔はあれで水を汲み上げていたみたいだねぇ。おそらく、その辺で畑でも耕してんだろう」

「まじか。すげぇな昔の人」

 

 こんな所で日常を過ごす? 上昇負荷はどうした。

 昔の人は、みんなオーゼンのような人だったのかもしれない。

 なにそれ怖い。そんな世界は滅んでしまえ。

 

 ふむ? そういえば、六層にも都と呼ばれている場所があったような。

 そんな所に都を作るなんて、大昔の人は、常軌を逸しているとしか思えない。ここで農業を営むのとは、わけが違う。

 そも、住みやすい所に人が集まるからこそ、町ができるのだ。

 住みにくい所にわざわざ町を作るとか、ぜんぜん意味わかんない。

 

 それとも、あれか。

 昔の六層は、町を作るのにいい場所だったとでも言うのだろうか。

 

「ありえないか。地上より奈落のほうが住みやすい、なんて状況は」

「どうかねぇ。何にだって、例外はツキモノさ」

「オーゼン、常識で考えた方がいい。オーゼンはどちらかというとゴリラ寄りの存在だから、人としての常識に疎いのは理解している。しかし人類というものは……あいたっ! この程度で怒るとは、大人げないぞオーゼン」

 

 無駄口を叩き、気分を紛らわせながらも足を前に出す。

 このペースなら、明日には地上に着きそうだ。

 今までとは段違いのスピード。上昇負荷が弱いと、こんなにもペースが変わるものか。

 

 

 

「もうすぐ、深度六百メートルだ。そこにエレベータがあるけど……君と一緒なら、裏口から登った方がいいかなァ」

「裏口とな」

「スラムの住人が、盗掘する時によく使う場所さ。君は探掘家ではないから、正規のルートが使えない。盗掘者扱いされたくないなら、こっそりと登るしかないよ」

「盗掘者扱いされないために、盗掘者と同じルートを登るとは皮肉が効いているな……お、空が見えてきた」

 

 空。始めて見る景色。

 青い。綺麗だ。

 まるで、吸い込まれるかのよう。

 

 なにもかもが雁字搦めで縛りつけられる地上とは違い、空は自由だ。誰にも辿り着けないがゆえに、誰にも邪魔されない。

 空の彼方まで飛んでいけば、どこまでも自由になれる気がした。

 だから、私は旅立ったのだ。

 

 そう。空は私の原点だった──

 

 

「……あれ」

 

 

 そこまで考えて、思考にノイズが入った。

 ザリザリと、耳障りな音。頭がぼーっとする。回路が焼き切れてしまったように、思考が繋がらない。

 

 えーっと、何だっけ。

 私は今まで、何を考えていたんだっけ。

 空を見上げて、何かに思いを馳せていたような気がするのだけれど、思い出せない。

 

 私は、何をしようとしていたのか。

 なぜ、空を見上げているのか。

 なんでこんな所にいるのか。

 

 

 

 というか、そもそもの疑問として。 

 

 

 

「私って、誰だっけ」

 

 

 

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