オーゼンの拾いモノ   作:ぽぽりんご

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第4話_私は出来る奴だぞオーゼン!

 

 

■深界四層 一日目

 

オーゼンから、いろいろレクチャーを受けた。

天才的な頭脳を誇る私なので、当然その全てを記憶することに成功した。

その日の最後に再確認したときには半分ぐらい覚えていなかったが、きっと不要な知識だとして、わが聡明なる頭脳が削除してしまったのだろう。

最適化というやつである。

まったく、性能が良すぎるというのも考え物だ。

我ながら、自分の頭脳が恐ろしい。

 

 

 

 

■深界四層 二日目

 

血反吐を吐いた。

坂道を上っただけでこれである。

なにこれ、上昇負荷って何なのどうなってるの?

危うく死ぬところであった。

 

ちなみに、死にかけた理由は窒息である。

色々な場所から流血しており傷口が特定できなかったため「これ、もう体中の穴をふさいだ方が早いんじゃね?」と思い、実践してみたのだ。

そうしたら、目は見えないわ耳も聞こえないわ、呼吸すらできないわと散々であった。

下の穴も塞いでなかったら、きっと漏らしていたに違いないな、がはは!

 

 

 

 

■深界四層 三日目

 

上昇負荷についてだが、一度症状が出た後は、登り続けている限りそこまで重篤な状態にはならないらしい。

とは言っても、ペース配分を考えないと危険な事に変わりは無いし、登り続けるということ自体も非常に難しいのだが。

どんなにルートを最適化したとしても、どうしたって下らざるを得ない場所はある。

 

つまり何が言いたいかと言うと、とても辛いということだ。

 

 

 

 

■深界四層 四日目

 

天才である私は、あっさりと傷口を塞ぐコツを掴むことに成功した。

もとより、血の流れを感じることはできていたのだ。血が外に漏れないようにする程度のことは、朝飯前である。

 

朝飯といえば、そろそろタマウガチの肉が痛み始めてきた気がする。

……いや、まだいけるか? 

 

 

 

 

■深界四層 五日目

 

腹を壊した。

オーゼンは平気そうなのに、なぜだ。

オーゼンは、やはり怪物なのでは。

 

 

 

 

■深界四層 六日目

 

腹減った。

 

 

 

 

■深界四層 七日目

 

空腹でぼーっとしていたら、いつのまにかオーゼンにぶちのめされていた。

理由はよくわからないが、口の中に広がる血の味と関連があるのやもしれぬ。

 

 

 

 

■深界四層 八日目

 

やめろオーゼン。私のライフはもうゼロだ。

 

 

 

 

■深界四層 九日目

 

なんか変な生き物に襲われたが、オーゼンの無慈悲なパンチにより撃滅された。

食糧ゲットだぜ!

 

 

 

 

■深界四層 十日目

 

とても不味い。

どれだけ下処理をしても、肉が臭い。

タマウガチを見習うとよいぞ。

 

 

 

 

■深界四層 十一日目

 

タマウガチに遭遇したが、こちらを見るなり逃げていった。

貴重な食糧が! 肉、おいてけぇ!

 

それもこれも、オーゼンの顔が怖すぎるのがいけない。

オーゼンの笑顔なんて目にした日には、逃げ出してしまうのも当然であろう。

 

 

 

 

■深界四層 十二日目

 

オーゼンの仲間にメッセージを残した。

ここが連絡用に使っているポイントらしい。昔から使用しているのか、あちこちに穴を掘った形跡が見られる。

きっと、色々と埋めてあるのだろう。

 

 

 

 

■深界四層 十三日目

 

上空に穴が見えた。

あれが深界三層・大断層らしい。

 

でかくね? このペースだと、到着まであと二日かかるとか。

おかしい。縮尺の感覚が狂う。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「その喋り方は、なんとかしたほうがいい」

 

 道中。

 地上に出たらあんなことがしたい、こんなことがしたいと(まく)し立てていたら、不意にオーゼンがそんな事を口走った。

 なんだ。何が問題だ。

 私に悪いところなど、一片たりとも無いはずだが。

 きっと。たぶん。希望的観測として。

 

「子供らしくないよ。人間味が感じられない」

 

 その言葉を聞き、私は思わず「ああ」と口にした。

 なるほどなるほど、そーいう事ね。完璧に理解した。

 

「知ってる。それ、冗談。突っ込み待ち。お前が言うなって言えばいい? ……あいたっ」

「冗談は嫌いだよ」

「私がつっこまれるのは不可解。理解に苦しむ」

 

 そもそも、人間味のある喋り方とはなんだ。

 記憶喪失の私が参考にできる者など、目の前のオーゼンぐらいのものだが。オーゼンを参考にしたら、阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは目に見えている。頭の中でオーゼンが二人いる光景を想像してみたが、こいつらずっと無言だぞ。怖い。

 それ以外に参考になる奴など……

 

 ……あ、いた。

 夢でオーゼンと話していた、金髪でキラキラした目をしていた奴。

 あの人なら参考にしても良さそうだ。なんだか少しバカっぽかったが、それぐらいの方が愛嬌があっていいだろう。

 なにしろ私はきっと天才の類なので、あふれ出る知性をそのままにしておいたら、周囲の嫉妬を買ってしまう。たぶん。めいびー。

 

 

 私は頭に手を当て、みょんみょんみょんと思考する。

 少し夢で見た程度。そう思ってみたが、思い出そうとしてみると、次々と新しい記憶が出てきた。

 はて、そんなに長く夢を見ていただろうか。

 

 まぁいい。

 たくさんサンプルデータがあるほうが、参考になる。

 

 どうやら彼女は度し難い性格をしているようだが、嫌悪感を抱く類の者ではない。

 むしろ、好感が持てる。

 オーゼンと比べたら、月とスッポン。

 ライザが月で、オーゼンがスッポン。そして私が太陽だ。間違いない。

 

 私は頬を叩き、気合を入れた。

 

「よし分かったオーゼン! これでいこうオーゼン! 私は出来る奴だぞオーゼン!」

「……確かに、言葉に感情が乗るようにはなったけれど。なんだか、急にバカっぽくなったね」

「それは仕方のない事だぞオーゼン。なにしろ参考にできる奴がいないからなオーゼン。自分を(かえり)みた方がいいんじゃないかオーゼ……あいたっ!?」

「うるさいよ」

「理不尽極まりない。この程度で腹を立てるなんて、大人げないと言われないかオーゼン」

「いいや? そんなことを言われるのは、はじめてだね」

「ははは、冗談がうまいなオーゼ……あいたっ」

「私にそんな口を利けるやつなんて、そうはいないさ」

「言論が統制されている……」

 

 少し抑えよう。殴られると痛いからな。

 私は学習できる奴なのだ、ふはは……あいたっ!?

 

 

 

 そんなこんなで、私は人類のゴミ溜めがごとき存在である探窟家として、奈落を歩く。

 世が世なら、神と崇め奉られてもおかしくない私が穴倉の底を這いまわるなど、本来あってはならないことだ。

 だが許そう。私は許そう。

 私が偉大な存在となり、足跡(そくせき)が聖書としてまとめられた時「ええっ、あの偉大なるお方が、こんな過酷な旅を!?」となるようなエピソードがあった方がいい。

 

 そう。私はただの探窟家。

 いずれは偉大な存在になることが確定しているとはいっても、今はまだ、名も無き探窟家……名も無き……名も無き?

 

 

 あれ、ちょっと待って。

 もしかして。そんな馬鹿な。

 あれぇー?

 

「オーゼン。私は大変な事実に気づいてしまったぞ」

「……なんだい一体」

 

 言外に「またバカなことを言い出した」という意図の込められた言葉が返ってきた。

 が、スルーする。私は、自分に都合の悪い事を積極的にスルーできる偉大な存在なのだ。

 グレートな存在である私は、衝撃的な言葉を口にした。

 

「もしかして、私、名前が無いのでは?」

 

 何を今さら、とでも言わんばかりの溜息が聞こえてくる。

 

 ええ、おいおい。気づいていたなら言ってくれたまえよオーゼン君。

 自分じゃ気づかないんだから。偉大なる存在である私は、「偉大なる」という修飾語を用いる事で、それすなわち私のことを指す言葉であると定義付けられてしまうのだ。

 まぁそれは言い過ぎだが、ここには私とオーゼンしかいない。ゆえに、名前なんて無くても個体識別ができてしまう。こいつぁ盲点だった!

 

 

「オーゼン、オーゼン」

 

 私は、オーゼンの袖をくいっと引っ張る。

 この身長差では、袖を引っ張るだけでも一苦労だ。

 苦労してまで注意を引く必要はないような気もするが、おねだりするのであればこうすべきだと、私の中の何かが囁いていた。

 

「名前が欲しい」

 

 可愛く言ってみたが、反応が無い。聞こえなかったのだろうか。

 私の渾身のおねだりが、スルーされてしまったのだろうか。

 そんな馬鹿な。

 

「オーゼン、やはり耳が悪い? 老化に伴い五感が鈍くなるとは理解している。オーゼンの年齢は……あいたっ」

「聞こえてるよ。急に気味の悪い声色を出すんじゃない」

 

 私の渾身のおねだりを、気味が悪いとな。

 オーゼン、君の感性は残念な性能をしているらしい。

 仕方が無いので、言い直そう。

 

「もう一度言う。名前を付けてくれ。私に相応しい、威風堂々とした名前を」

「嫌だね。ガキで十分さ」

「ええ……冷たいじゃないかオーゼン。もしかして、自分のネーミングセンスに自信がないのかオーゼン。私は気にしないぞ、気に入らなかったらプークスクスって笑ってスルーしてやるからなオーゼン。遠慮なく言ってみろオーゼ……あいたっ!?」

「私は君の親じゃあないし、君の人生にも責任が持てない。どうしてもというなら、自分でつけな」

 

 突き離されてしまった。酷い奴だ。

 しかし、自分で考えろというのも、もっともな話ではある。

 ふむ、私の名前……私に相応しい名前か。

 こいつぁ難問だ。

 

 

 しばし考えた私は、小さく呟いた。

 

「シュトルテハイム・ラインバッハ三世」

 

 そして、横目でオーゼンの方をちらりと見上げる。

 

 冷たい目をしている……暗い暗い、洞のような目だ……

 この名前はやめておこう。

 

 

 

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