マクロスside
SDF-1マクロス。それは地球統合軍の象徴として扱われていた艦であった。
しかし、マクロスには異星人のブービートラップが仕掛けられており、ゼントラーディとの戦争を発生させる直接的な原因となった時にマクロスの評価は一変したのだろう。更にゼントラーディ軍がマクロスのみを執拗に狙うようになるにつれて、地球統合政府はマクロスを時間稼ぎに使うようになった。
このように原作では不遇を囲っていたわけであるが、この世界では冥王星近郊にデフォールドして以降は、何故か敵の襲撃などはなく順調に地球に進路を進めていた。その日までは…。
「艦長! フォールド反応多数感知しました!」
「なに敵か!」
マクロス艦長のグローバル准将は、即座に警戒態勢に入った。
「敵数は……、嘘っ! 何これっ!」
マクロスのブリッジオペレーターの一人で、主に通信・レーダーを担当していたヴァネッサ・レイアードは悲鳴を上げた。
「どうした! 報告しろ!」
「フォールド反応総数不明です。フォールド反応の計測限界を超えました!」
「な、何だと!?」
グローバルは驚愕した。計測限界を突破した。それはフォールドしてきた敵艦の数が多すぎて計測できない状況であるということだ。
ちなみに計測限界を超えるということは十万や二十万では不可能であり、敵の総数は最低でも数十万以上となる。あまりの現実にグローバルたちマクロスクルーが慌てふためく内にも艦隊は次々にデフォールドしていく。
「敵艦の総数が四百万隻を突破しました…」
「……」
ヴァネッサの擦れた声が伝わると、グローバルを含めたマクロスのブリッジクルーが沈黙した。本来ならば戦闘準備するべきであるが、彼らの頭には「何に?」という疑問があったが、勿論それはマクロスを包囲する形でフォールドしてきた敵艦隊とであった。勿論、彼らに勝算などない。戦った所で圧倒的な数の敵に包囲殲滅されるのは目に見えていた。
「こ、これは…。艦長、敵艦隊より通信が来ています」
「敵はなんと言ってきているのかね?」
「それが、停戦を申し込んで来ています。また使者をマクロスに送ると言っています」
「停戦だと! この状況でか? 一体どういうことだ?」
グローバルは敵の申し出に考え込んだ。ここで一気に叩き潰されると思っていたのに、この対応は一体何だ? 相手の思惑が分からない。
「艦長いかがいたしましょうか?」
「敵が何を考えているのかはわからないが、ここは受け入れるしかないだろう。この状況で断れば袋叩きにあうぞ」
「…わかりました」
こちらが彼らに了承すると、戦闘ボッド(リガード)が一機この艦にやってきたので、それを格納庫に誘導した。
「大きいな」
「ああ」
敵の戦闘ボッドから降りてきた巨人を見て、マクロスの軍人達が感想を言っていた。彼らゼントラーディと呼ばれる巨人は我々地球人のおよそ五倍もの大きさを持っていた。そんな巨人との交渉の為にグローバル艦長を初め多くの者がこの場に来ていた。
ちなみに会談の場所をそれなりの所にしないのは使者が巨人の姿であったために運送に手間がかかってしまうからだ。ならば自分達が出向けばいいと判断したのだ。
「おい、彼女は地球人じゃないのか? なんで敵の戦闘ポッドから出てきたんだ?」
「俺に聞くなよ。分かるワケないだろう」
マクロスの兵士たちは敵機から降りてきた地球人と思わしい少女に驚いた。
「私がこのマクロスの艦長グローバル准将です」
「それはどうも、僕はゼントラーディ軍第118基幹艦隊を代表して来たリチャード・ビルラーだよ」
「私は水蓮寺ルカと申します。一応、念の為に言っておきますが私は地球人ですよ」
「やはり地球人ですか。では、なぜここに?」
グローバルはルカに質問する。彼女がこの場に来ていることは明らかにおかしいからだ。
「私は南アタリア島に住んでいた民間人だったのですが、あの後で彼らゼントラーディと接触して彼らと交流を持つようになったのです」
つまり、あの武力衝突の時に敵に連れ去られた民間人なのかと、グローバルは常識的な判断からそう結論付けた。
そう、常識的に考えるとそういう結論になる。まさか民間人の少女が敵艦隊にバルキリーで突っ込んで、そのまま居座っていたなどという非常識極まる正解が出るわけがない。
勿論、ルカは意図的にそう誤解されるような言い方をしていた。
「今回は停戦の申し込みとお聞きしましたが、それはどういうことでしょうか?」
「それなのだけどね。実は僕たちが所属する第118基幹艦隊の司令長官ボドルザー閣下が彼女の説得を受け入れて君達地球人と和平を結ぶ事を決定されたので、その事前会談だよ」
リチャードがルカという少女に視線を向けながら、そういった。
和平という言葉が彼らの口から出たことで周囲は安堵した。あれだけの大艦隊を有するゼントラーディと称する異星人とこれ以上戦えばあっという間に地球が滅亡してしまうだろう。だからそれは渡り舟だ。
しかし、この少女が彼らのトップを説得したという話だが、それはどういうことだろうか?
「水蓮寺ルカさんでしたかな?」
「ええ、そうですよ」
「聞くところによると貴女が異星人たちを説得したという話ですが、それは本当ですかな?」
「その通りですよ。戦争なんてやるものではありません。だから彼らといろいろとお話して和平をお勧めしました」
と、実に微笑んでいっていた。彼女の言ういろいろという言葉は非常に気になるが、ここは深く聞くべきではないな。グローバルはそう考えた。
「和平とのことですが、それは私達の独断では決めることはできません。マクロスは地球統合軍に所属する軍艦にすぎませんから」
「そうですね。もっともな事です。でも、あまり時間をかけすぎると不味い事になるかもしれません」
「不味い事ですか?」
グローバルはルカの言葉が引っ掛かった。
「ゼントラーディの血気盛んな方々の中には随分と過激な事を言う人もいます」
そこでルカが言葉を切ったが、グローバルは彼女の過激という言葉を聞いて猛烈に嫌な予感がした。
「それは、どのような事ですかな?」
その言葉が気になったのでグローバルは思わず質問してしまった。
「彼らは地球に小惑星を落とせと言っています」
「なんですと!」
ルカの言葉にグローバルは驚愕した。地球に小惑星を落下させる。そんな事をすれば地球は…。
「直径1000kmほどの小惑星にフォールドシステムを取り付けて地球の重力圏にフォールドさせれば、後は地球に落下して一掃できるというわけです。何とも過激な主張だと思いませんか?」
そう言ってルカは和やかに笑っていたが、とてもじゃないが笑える話ではない。和平を断るようなことをすれば敵艦隊が襲来する以前に、小惑星の落下で地球が壊滅する事態もありえるということなのだ。
「まあ、いずれにしても地球統合政府に連絡しておいた方がいいですよ。私としては彼らが速やかに対処することを願っています」
ルカのその言葉にグローバルは頷いた。ゼントラーディからの和平の申し込み。これは当然ながらマクロスが独断で進めることはできない。やはり速やかに統合軍と統合政府に連絡して、その指示を受けるべきだろう。何しろ地球の未来がかかっているのだ。
ルカside
会談は思いのほか上手くいった。ボドル基幹艦隊総出で来た甲斐があるというものだった。
さすがに中途半端な戦力では和平が進まない可能性が大きいと考えていたので、一気にやることにしたのだ。
確か原作では地球統合政府は、グランドキャノンの完成するまで時間稼ぎをするつもりだったようで、マクロスはその煽りをくらっていたが、この世界ではグランドキャノンはまだ完成していない。
しかし、原作では地球統合政府が時間稼ぎを行い、完成したグランドキャノンでゼントラーディ軍に大打撃を与えて和平を有利に進めようとしていた。多分彼らは戦勝という形で戦争を終わらせる事を求めていたのではないかと推測できるが、ルカとしては彼らの都合に合わせてやる必要はない。
だからダメ押しとして直径1000kmの小惑星を落とすという見せ札を出したが、あれはルカのハッタリだった。実際には誰もあんな過激な事を言っていない。
確かにあれは一見出来そうに思えるでしょう。しかし、ルカから見れば破壊しか能がないゼントラーディがそんな大規模な工作活動ができるとは思えない。その実情を知る者がいれば突っ込みどころ満載でしょう。
でも何も知らない地球統合政府は慌てる筈です。グランドキャノンは対艦隊用の装備だ。敵艦隊の撃滅には使えても巨大な小惑星の迎撃には向いていない。だから尚更脅しには都合がいい。