地球side
2009年5月。地球統合政府とゼントラーディ軍第118基幹艦隊との間で和平が成立した。
開戦から僅か三カ月という短期間での終戦であったが、地球にとっては異星人との初めてに戦争であり、この戦争は『第一次星間大戦』と呼称されることになった。
だが、実際の和平内容は地球統合政府の予想を大きく異なっていた。彼らゼントラーディは不平等条約を押し付けるなどといった行動は一切せずに、ほぼ対等の条件だった。
これは無条件降伏もやむなしと思っていた統合政府にとって渡り船であったが、彼らの意図が掴めず困惑した。
彼らには理解できない状況であったが断る理由もなかった。というよりもここで断るとどんな結果を招くか分からないほど彼らは無能ではなかった。
こうして和平終結後に当然ながら彼らはこの不可解な出来事の詳しい事情を知ろうと必死になったが、それを知った時、彼らは愕然とした。
彼らゼントラーディは水蓮寺ルカという少女の歌に感激して、彼女の説得に応じて和平を結ぶことになったのだ。それはたった一人の少女の歌が異星人との星間戦争を終結に導いたという信じられない事実だった。
その事実を知ったとき、彼らは頭を抱えた。そもそも地球統合政府というのは異星人との戦争に備えて、統合戦争という世界規模の戦争を行うという大きな代償を払って設立されたものなのだ。
だが、蓋を開けてみれば地球を守る盾にして剣である筈の統合軍など異星人には対抗できない弱小勢力にすぎず、その統合軍の不始末で勃発した異星人との戦争を終結させたのはたった一人の民間人の少女だった。これでは統合政府と統合軍の面子は丸つぶれだった。
更に大きすぎる不祥事の数々、これらに対する世論の突き上げに苦慮した統合政府では政変が起こり、統合軍では大規模な人事異動が発生していた。つまり、政府と軍の上層部が揃って責任を取って辞任する事態になったのだった。
こうして棚から牡丹餅とばかりに新たに政府や軍の要職に就いた者たちも、出世できたと無邪気に喜んでいられなかった。民衆の統合政府や統合軍に対する不信感はシャレにならないもので、彼らはこんな事態を招いた前任者たちに対する恨み言を心の中で言いつつも必死に事態の収拾を図った。
そんな彼らが思いついた方法が英雄を作り上げるというものだった。
民衆の不満を抑えるために作られた英雄を使って国民の不満を逸らすというのはいわば常套手段とも言えるものであったが、有効な策だからよく使われて陳腐化している物だった。
しかし、すぐに彼らは誰を英雄にするのか? という根本的な問題に突き当たってしまった。そう英雄に祭り上げる人材(材料)がいなかったのだ。
軍人から選ぼうにも誰もいない。マクロスの艦長? 彼は戦争を引き起こしたマクロスの責任者という汚名を背負った立場なので英雄になどできないし、第一既に辞職させている。
では政治家はどうか? と思っても当時の政治家たちは不祥事の数々で民衆の怒りを買って辞職に追い込まれている。そんな人材を担ぎ上げようがない。
この為、議論がいきづまってしまったが、ここで水蓮寺ルカを英雄に仕立てようというとんでもない意見が飛び出した。
政治家でも軍人でもない未成年の少女を英雄に担ぎ上げるというトンデモな意見に周囲が固まったが、よくよく考えれば悪くない人選だった。
水蓮寺ルカはゼントラーディを歌で説得して戦争終結に導いている。その功績は比類なきものであり、担ぎ上げるのに何の問題もなかった。
ただ民間人の少女を英雄と称するにはいささか問題があるので、歌で戦争を終わらせた平和の歌姫として担ぐ事にした。話が決まれば後は実行するだけだった。
こうして地球圏では平和の歌姫として水蓮寺ルカが担ぎ上げられるようになった。
ルカside
ルカです。なんか気が付いたら平和の歌姫にされていました。
ルカです。マスコミが大騒ぎして大変です。何かマスコミに付きまとわれて困っています。
ルカです。ルカです……。
はあ、地球統合政府にも困ったものです。彼らの盛大なプロバカンタによって今では歌で異星人の心を動かして戦争を終結させた伝説のアイドル扱いです。
彼らの考えは分かっています。確かに苦しい立場でしょう。それは分かりますけど、こちらの許可も取らないで人を勝手に利用しないで下さい。
まあ、上層部の人間がこういう勝手な行動を取るのはある意味仕方ありませんね。正直言うと業腹物ですが、私の名声が高まるのは例の計画の事を考えれば好都合なので文句は言いませんよ。私は転んでもただでは起きませんから。
さて、話がとんでしまいましたね。私はこの間マクロスに行って和平の足掛かりを作って置いたわけです。
そこで「和平の足掛かりじゃなくて恐喝の間違いだろうが!」と突っ込まれそうですが、あれぐらいはいいんです。別に誰も死んでいませんし、むしろさっさと和平を結べたので文句を言われる筋合いはありません。
そうした下準備のおかげで統合政府との和平もスムーズに進みました。リチャードさんの事前会談もその後のボドルザー司令長官との交渉も上手く行きました。まあ、統合政府の選択肢なんて一択しかないので上手くいって当然ですが、それでも成果が出たのは嬉しいわけです。
それで、和平が成立した当たりでちょうどマクロスが地球に帰還したワケです。
地球に帰還して事態を知った両親は、私が本当に和平を成立させたのに驚いていましたね。普通に考えれば確かにそうでしょうが、これは私だからできた事なんですよ。ゼントラーディ相手にそこいらの政治家が出張っても和平が取り付けられるワケがありません。
両親を含めて多くの民間人がマクロスから降りたわけで、私は両親ともう一度話し合うために両親の元に行ったわけですが、そこでこの騒ぎに巻き込まれました。やれやれですね。
そういえばマクロスには原作通りリン・ミンメイとかいうアイドルがいましたが空気でしたね(汗)。
解説
■大きすぎる不祥事の数々
民衆の中でも統合政府の都合で勝手に死亡者扱いにされてしまったマクロスの民間人の怒りは一際大きかった。
■統合軍の不始末
マクロスに仕掛けられたブービートラップに気付かずに戦争のきっかけを作ってしまったとして統合軍は世論から突き上げをくらった。
■大規模な人事異動
この際、マクロス艦長グローバル准将も責任を取って軍を辞職している。別に彼が悪いというわけではないが、第一次星間大戦を引き起こしたマクロスの艦長という貧乏くじを引いてしまったのが運の尽きだった。
■平和の歌姫
この呼称は統合政府のプロバカンタによって使われ始めたものであったが、水蓮寺ルカの功績はそう称しても何ら問題ないほどの物であった為に後世においてルカの代名詞となる。某種のピンク姫もそう呼称されているが、まさに月とスッポンである(笑)。
■伝説のアイドル
統合政府のプロバカンタによってルカはそう扱われているが、三度目のルカはまだアイドルデビューしていないので、これは間違いである。
■リン・ミンメイ
本来ならば歴史に名を残すほどのアイドルになる少女だったが、この世界ではルカが活躍したのでそこまで有名ではない。