地球side
『みんな、まだまだいくよー』
「ルカちゃん可愛いな~」
「ごほん、そうじゃないだろう。真面目な話なんだからな」
「そうですね。すみません」
同僚に突っ込まれて男は謝る。最も同僚の男も、数億人もの異星人を熱狂させる”スーパーアイドル水蓮寺ルカ”を内心では可愛いなと思っていたのは実に男らしいと言えるだろう。
2011年。戦争終結から二年が過ぎたこの時期、アラスカ統合軍総司令部では水蓮寺ルカのライブ映像が流れていた。
仮にも軍の総司令部でこのような映像が流れて、ただの民間人にすぎないルカについて話し合いがもたれているのは、彼女にはあまりにも不審な点が多かったからだ。
事の始まりは、戦後になって『水蓮寺ルカ物語』というテレビドラマが放送された事だろう。それ自体はそれなりに好評であったが、番組制作スタッフの意向で可能な限り事実を放送しようとした為、彼らはゼントラーディに取材したり、第一次星間大戦時の映像データなども調べたりしてドラマを制作した。
その結果ルカの戦場ライブや、ルカが見たこともないバルキリーに乗りながら歌でゼントラーディにカルチャーショックを与える所など、大いに盛り上げるアクションシーンもあったが視聴者から疑問の声が上がった。
それは、そうであろう。明らかに不自然すぎたのだ。ドラマで描かれている不審点をこのように挙げてみる。
1.どうやってあんな高性能なバルキリーを用意したのか?
映像を見るとバルキリー単体でフォールドしているし、機体の装備を量子変換して格納している。さらに出鱈目な機動性に空間歪曲を利用したと思わしきバリアまで装備していた。
こんなバルキリーは当然ながら統合軍もゼントラーディも保有していない。
2.どうやってバルキリーの操縦を覚えたのか?
当時バルキリーの訓練は統合軍とかつての反統合勢力でしか行われておらず、ルカがバルキリーの操縦訓練を受けたという記録はなく、彼女が操縦できるのは明らかにおかしい。
3.どうやってブリタイ艦隊の制御を掌握したのか?
状況から見てルカがブリタイ艦隊をハッキングして制御を奪っているようだが、そんなことは普通ならできない。
4.明らかに事前にゼントラーディの情報を知っていたとしか思えない。
開戦直後ルカがブリタイ艦隊に歌でカルチャーショックを与えていたが、当時はゼントラーディが文化を持たず歌でカルチャーショックを与えることができるなど統合軍でも知らなかった。
5.歌や踊りが上手すぎる。
ルカはその手の専門教育を一切受けていないにも関わらず、凄まじい実力を持っていた。専門家(アイドル業界の人間)に尋ねた所、すぐにでもトップアイドルになれる実力と保障されている。
ここまで来ると、統合政府としても所詮は民間人の少女と笑っていられない。本音であればルカを強制連行して徹底的に取り調べしたい所であるが、彼女は平和の歌姫としてエデンだけでなく地球でも絶大な人気を誇る有名人であったのでそれが躊躇われた。下手をすると世論から叩かれたり、ゼントラーディとの関係が悪化したりする恐れもあった。
だから穏便に聞こうにも、「女の子は秘密が多いほうが魅力的ですよ」と笑って誤魔化すだけであった。かといって証拠品のバルキリーは既にどこにもなく。それを回収することもできない。
「それで、どうするのだ?」
「そうだな、確かに聞きたいことは山ほどあるが、それをするにはリスクとリターンが釣り合わないな」
疑問を解消するためだけにしてはリスクが高すぎる。とてもじゃないがやれたものではない。
「では、放置するという事でいいのか?」
「まあ、それがベターだろう。彼女は別に我々に不利益を与えているわけではないし、むしろ戦争を終結させた英雄様だしな」
ルカの存在による利益不利益を考えると明らかに利益になるだろう。彼女の存在によって地球滅亡の危機は救われたのだ。それを考えると多少のことは目をつぶるべきだろう。
「アイドルと言えば、確かリン・ミンメイとかいうアイドルが反軍活動をしているらしいな」
軍幹部の一人が思い出したように言った。
「それはミンメイというよりもカイフンとかいうマネージャーの男が民衆を扇動して我々統合軍への反感を煽っているようだ。まあ、どちらにせよ邪魔だよ」
「そうか、面倒だな」
反軍活動をやるだけでなく、そのために民衆を煽るなど彼らにとって邪魔以外の何物でもない。
「心配はいらん。既に手を打っている」
「ほう、手回しがいいな」
「当たり前だ。唯でさえ厳しい状況を乗り越えたばかりだというのに、馬鹿な芸能人に反軍活動などされたら困るからな」
彼ら統合政府や統合軍は二年間もかけて体制を整えてきた。そんな彼らにとってカイフンとそれに利用されているミンメイは放置できない存在だった。
こうして地球統合政府と統合軍の方針が決まった。
ルカside
戦後二年がたった現在、私の介入で登場キャラの人生が変わっています。
まず、死ななかったキャラですが、ロイ・フォッカーはクローディアと結婚して幸せな結婚生活を送っていて、柿崎速雄は軍に所属したままで今もパイロットをやっています。
主人公の一条輝は軍のパイロットになっていましたが、一度も戦闘することなく終戦を迎え、その後は退役してアクロバット飛行機パイロットに戻っています。
早瀬未沙は原作ではそんな輝に好意を抱いていましたが、改変の結果彼女は輝に好意を持つ事もなく普通に軍人をやっていました。
まあ、彼女の場合は父親の早瀬提督が辞職に追い込まれているものの問題なく軍人生活を送れているようです。
そしてマックスことマクシミリアン・ジーナスですが、正直彼がミリアと結ばれるイベントを潰してしまったので、「これではミレーヌが誕生しないぞ。マクロス7はどうなるの?」などと内心では狼狽えてしまいました。
これをカバーするためにミリアにマックスの事を「凄腕のパイロットだ」と教えて、「彼と模擬戦をやって腕試ししてみるといいよ」などと吹き込んで上げました。結果としてプライドを刺激されたミリアはマックスに模擬戦を挑み原作通り敗北してしまい、マックスがミリアに惚れて求婚するという流れになりました。こうして二人は無事に結婚して現在では長女も誕生しています。
正直言ってもう駄目じゃないかと思っていましたが、案外上手く行きました。もしかしたら修正力というものか、それともご都合主義と言えるものが上手く働いたのかもしれませんね。
ちなみに当の私は正式にアイドルになってエデンで活躍していた。まあ、元々アイドルとして活動していたけど地球から移民してきた地球人が私をサポートする為に弱小ながらも芸能事務所を立ち上げてくれたんですよ。なんだかミンメイみたいですね。
事務所があまりにも弱小だったので昔の嫌な事を思い出してしまいそうですが、意外な事に割と上手くいき、当時弱小だった事務所は業績を上げてそれなりに成長しています。
よくよく考えてみると、エデンはアイドルが掃いて捨てるほどいる地球とは違ってアイドルは極めて少ない。エデンの住民の大半が文化を持たなかったゼントラーディで、元はと言えばアイドルどころか文化のぶの字も知らない人たちです。残りは少数の地球人の移民で、彼らの開拓魂は豊富であるが、アイドルをやろうとする者はいなかった。
こうして考えると、エデンはライバルが存在しない良い市場です。これなら暫くの間はトップアイドルの座は揺るぎないものになるでしょう。
まあ、それも時間が経てば他のアイドルもそれなりに出てくるでしょうが、それまでに地位を固めておけば私の優位は確保できるから問題ない。というか何もそこまでアイドルの座に拘る必要もない。ある程度芸能活動をやって地球人とゼントラーディの共存共栄が軌道に乗れば引退してこの世界から撤退しても問題ないでしょう。
それに最近は『水蓮寺ルカ物語』というドラマの所為で色々と突っ込まれて困っています。まあ、秘密で押し通しましたけど本当に苦しかったです。功績を上げて絶大な影響力を持っていたのでなんとか切り抜けられましたけど、本当にストレスがたまりますね。
それも含めて考えると適当な所で切り上げるのもいいかもしれません。
解説
■ルカの戦場ライブ
これはブリタイ艦隊の実際の映像を流用したので迫力満点だった。
■高性能なバルキリー
戦後に記録映像を分析した統合軍はルシファーの出鱈目なスペックに驚愕した。
■バルキリーの操縦
ルカの操縦テクニックは人間離れしたもので、それを知った統合軍は驚いたが、実際にはルシファーのパイロットの能力を向上させる各種システムのおかげである。
■空間歪曲
ルシファーに使われているディストーション・フィールドはこの空間歪曲を利用したもの。
■歌や踊り
ルカは一度目と二度目の転生で十分な実力をつけており、現世では自己練習でやっていた。
■ゼントラーディとの関係
ルカはゼントラーディから絶大な人気を誇っているアイドルであり、もし彼女を政府が叩くと彼らから悪印象を受ける可能性が高かった。
■バルキリーの回収
ルカはオーバーテクノロジーの塊であるルシファーをいつまでも手元に置くほどおバカではなく、和平成立後すぐに監察軍に戻している。