ミンメイside
「今日もだめかよ! あいつらふざけやがって!」
従兄のカイフン兄さんが怒りながら物を蹴り飛ばした。そして彼は酒を飲んで苛立ちをまき散らしている。
「仕方ないわ。アイドル業界では私たちは問題児扱いされているんですもの」
ミンメイは元々戦争に巻き込まれて軍艦のマクロスに住むことを余儀なくされた民間人の一人だった。しかし、戦後になりミンメイたちマクロスの民間人はマクロスから降りる事ができるようになった。
しかし、既に南アタリア島はなく、親類縁者を頼って各地に散る者、新天地を求めてゼントラーディの主催するエデン移民計画に参加する者など様々であったが、問題だったのはミンメイのファンであった彼らが分散してしまったことだ。それに伴いミンメイの所属する芸能事務所も自然解散して、ミンメイのアイドル活動は中ぶらりん状態になった。
そもそもマクロスでアイドルが誕生したのは地球から離れた場所で戦時下の軍艦にいる羽目になり何もやることがなくなった彼らの気晴らしと娯楽のためというのが主目的だった。だから戦後には事務所が解散して皆それぞれの生活を送ろうとしたのは当然だった。
そこで、ミンメイとカイフンは地球の芸能事務所に入りアイドルになることにした。これは上手くいってミンメイはアイドルにカイフンはそのマネージャーになった。しかし、ここで問題が発生した。ミンメイの芸能活動を利用してカイフンが反統合政府及び反統合軍活動をやりだしたのだ。
当時、統合政府と統合軍は不祥事の責任を取るために人事を一新して体制の立て直しをしていた。そしてマスコミ業界やアイドル業界などはそんな政府と軍に可能な限り配慮していた。
確かに例の情報流出で政府と軍の不祥事が明らかになった時にはマスコミも責任者を追及した。しかし、政府と軍が責任を取ってからは態度を変えて不必要に政府や軍にダメージを与えないようしたのだ。
それは政府や軍を叩きすぎると彼らが困るからだ。例えるなら現代日本で警察が重大な不祥事を起こしたとしても、その当事者と責任者が世論から叩かれて責任追及されるが、何も警察そのものを潰そうとはしない。それは国民にとって警察は必要な存在であり、それなりにお世話になっているからだ。
それと同じように地球の民衆にとって統合政府と統合軍は必要な存在だった。もし彼らが崩壊した場合、地球は大混乱になり無政府状態になりかねない。かつての民族問題、宗教問題などが噴出して地球全土で紛争が起こるだろう。かつての統合戦争の記憶も新しい人々にとってそれは恐怖以外の何物でもなかった。
そう統合政府と統合軍があるからこそ地球は仮初であっても一つにまとまり、平和を構築できている。それが地球の現実だった。
カイフンはそうした事情に配慮しようとはしない。ただ気に食わない政府と軍を叩く。それだけだった。
これは当然ながら大問題となった。不必要に政府と軍の威信を潰さないように配慮するのが業界全体の決定であるのに彼らの行動はそれを台無しにする事だった。
勿論、芸能事務所の社長はカイフンとミンメイに幾度となく厳重注意をしたが、カイフンは政府と軍の肩を持つ(カイフン視点)社長たちに反発して注意を無視して問題行動を繰り返した。
そんな姿勢の彼らに激怒した事務所の社長が、ミンメイとカイフンを解雇したのは当たり前であった。このまま彼らを雇っていたら業界で孤立してしまうし、政府と軍に睨まれて潰されてしまうだろう。既に政府と軍から圧力がかかっていて、もはや事務所としても猶予がなかった。
事務所の社長にだって養うべき家族がいるし、社員たちだっているのだ。たった一人のかけだしのアイドルとそのマネージャーの為にすべてを台無しにするわけにはいかなかった。
こうしてミンメイとカイフンは所属する芸能事務所から叩きだされてしまう。それでも他の事務所に所属しようとしたが、こんな問題を起こした者を雇う酔狂な人間はおらず、どこの事務所に行っても不採用だった。
ならば個人で芸能活動をしようとしても、マクロスならばともかく地球でそれができるわけがなかった。そもそも地球にはアイドルが掃いて捨てるほどいる。何の後ろ盾もないどころか政府や軍に睨まれてブラックリストに載っているような人物が売れるわけがない。
「これも政府と軍の所為だ! あいつら俺たちを潰しにかかりやがって!」
カイフンは現状の不満を政府と軍にぶつける。そんなカイフンをミンメイは冷めた目でみていた。
そもそもミンメイは別に政府や軍を嫌っているわけではなかった。カイフンの行動の巻き添えをくらった形なので、カイフンが疫病神にしか見えなかった。カイフンが来る前のマクロス時代はアイドルとして上手く行っていただけに、その後の凋落で尚更そう思った。
こんな男を兄のように慕い婚約者にまでなった自分はつくづく人を見る目がなかった。ミンメイはどうしようもないほど落ち目になって初めて自分の愚かさに後悔した。
そこまで考えてミンメイは嫌気が指して気晴らしにテレビでも見ようとテレビの電源を入れた。
『いや~、今日も平和の歌姫水蓮寺ルカさんのライブは大盛り上がりだったようですね』
『ええ、相変わらずルカさんはすごい人気ですね。十億人ものファンがいる史上最高のスーパーアイドルは伊達じゃありませんよ』
それは水蓮寺ルカの特集番組だった。水蓮寺ルカは地球いえエデンやゼントラーディを含めて最高の人気を誇るトップアイドル。最近では彼女の特集番組も多かった。
彼女と私は共通点が多い。同じ年齢である事、南アタリア島に縁がある事、戦争を契機にアイドルになった事など。
しかし、彼女は政府や軍から持ち上げられて平和の歌姫と称賛されている一方で私はどん底にいる。それを考えると彼女と自分との落差が嫌になる。
いや人気だけでなく実力の差も圧倒的だった。彼女の歌と踊りも凄い。私など足元にも及ばない。同じアイドルであってもここまで実力に差があるとは思わなかった。
風の便りによると、かつてマクロスにいた人々の間でもルカが地元出身という事もあって彼女の人気が上昇しており彼女のファンになった者も多いらしい。かつてのファンにも忘れられて落ちぶれていく、それが私の現実だった。
もう何もかもが嫌になった。アイドルなんて諦めて横浜の実家に帰って店を継ごう。
その後、ミンメイはカイフンに別れを告げて、実家に帰った。
ルカside
リン・ミンメイがアイドルを辞めて横浜の中華料理店の看板娘になったという話を知って私は耳を疑ったが、その経緯を知って納得した。
実のところ、ルカの介入によってミンメイは原作よりも更に酷い状況になっているが、カイフンと関わらなければミンメイにもアイドルとして売れる可能性は十分にあった。
まあ、地球ではアイドル(ライバル)は沢山いるから売れるには相当の努力が必要だろうが、それでも何とかできたでしょう。でもカイフンはその可能性を完全に潰してしまった。
原作とは違い、統合政府も統合軍も健在なのに反政府、反軍活動なんかやれば潰されるのは分かりきっているでしょうに、それにミンメイは政府や軍から圧力を受けて潰されてしまったようですが、反政府及び反軍活動なんかすればどうなるかわからなかったのか?
やっていたのはカイフンで自分はやっていないと他人事だったのかもしれませんが、カイフンがミンメイのマネージャーで、彼女の活動を利用してそんな事をしていたのは分かっていた筈です。止めようと思えば止められたでしょうし、そもそもマネージャーを変えれば問題なかった。
前回の私は一個人に過ぎない某プロデューサーの枕営業を断っただけなのに嫌がらせを受けて潰されています。それを考えれば政府や軍という大きな組織を敵に回すような行動をすればこうなるのは当たり前です。むしろ呆れて何も言えません。
原作でも思ったけどカイフンは何を考えているのだろうか? そもそも弱小芸能事務所という小さな後ろ盾しかなかったミンメイがマクロスで売れていたのは軍の支援があったからだ。
まあ、軍としても戦時下で地球から遠く離れた孤立した中で、五万人もの民間人を抱えてしまうという目も当てられない状況になったから、民間人の不満を抑えるためにアイドルを作ることを考えて支援していたのでしょう。つまりミンメイにとって軍は重要な支援団体だったワケで、決して蔑ろにしていい存在ではなかったわけだ。
しかし、カイフンはマスコミを利用して戦時下で反戦を訴えるなどの問題行動をやたらと起こしていた。これにはグローバルを初めとしたマクロス上層部は相当頭にきていた筈だ。それでも軍がミンメイに圧力をかけていなかったのはグローバルの器の広さの賜物だったと思う。
最も戦後になるとさすがに軍も彼らに嫌気が指して支援をしなくなったようだ。それなら戦後にあれだけミンメイの人気が凋落したのも頷ける。
何のことはない。カイフンが問題を起こしても「彼は軍が嫌いなのよ」と言って軽く流していた彼女は、そのせいで自分の支援団体を失っただけなのだ。
こうして時代が下り、2031年に映画がヒットしたことで、彼女は過剰なまでに偉人として祭り上げられるが、それは彼女が行方不明(事実上死亡と同じ状態)になったために彼女を英雄として祭り上げても問題なかったからだろう。死んでしまえばカイフンの反政府及び反軍活動に頭を痛める必要もない。
こうして考えると本当にリン・ミンメイは作られた英雄ですね。まぁ私も人の事は言えませんが。
相変わらずの原作ブレイクですが、まぁいいでしょう。今更ミンメイが偉人になる必要はない。というよりもその役割は私が果たしたことになります。
その結果ミンメイが悲惨な結果になっているようですが、よく考えると原作では地球壊滅に伴い彼女の実家は消滅して両親も死んでいますが、この世界では実家も両親も無事です。帰る場所があるだけ原作よりはマシでしょうね。
そう結論を出すと、私はミンメイの事を考えるのを止めた。今の私はアイドルの仕事でとても忙しく、最早どうでも良くなった人の事を考えている余裕はなかった。
解説
■実力の差
水蓮寺ルカとリン・ミンメイでは才能だけでなく努力の積み重ねが違う。それによってもたらされる実力差は圧倒的だった。
■ブラックリスト
この世界ではアイドル業界でも危険人物はブラックリストに載せて対処しているという設定です。その為、ミンメイとカイフンはアイドル業界では相手にされなくなった。
■横浜の実家
リン・ミンメイの両親は横浜で中華料理店を経営しており、ミンメイには店の後を継いでもらうことを希望していた。