三千世界監察軍。それは数多の下位世界の技術が終結する地。私はそこの技術力に驚愕した。
「SF小説なんて目じゃないですね」
「そうだね。驚いた?」
私を案内していたランカは愉快そうに笑っていた。多分多くのトリッパーが監察軍の技術力に驚いていたのだろう。
「いろんな創作物の良い所取りをしているみたいですね」
軍事分野はいうに及ばず、ホイポイカプセル(ドラゴンボール)とか、重力波ビーム受信型(機動戦艦ナデシコ)の電気自動車など民生分野でもいろいろな下位世界の技術の影響が見られる。
「それがうちの長所だよ。良いものなら貪欲に取り入れる。これはブリタニア帝国もそうだよ」
「そうですか」
元々、監察軍の後ろ盾であるブリタニア帝国は監察軍を通して下位世界の知識や技術を収集改良していくことで文明を大幅に向上させているそうです。これは異世界間転移技術を保有している強みですね。
私も監察軍の実情に驚きましたが、ある意味好都合かもしれません。後ろ盾が強力であればあるほどにいい。トリッパー支援組織があっても組織が弱小では出来ることはたかが知れていますし。
「一通り施設の案内も終わったし、そろそろ総司令官の所に行くけど、いいかな?」
「ええ、かまいません」
聞いたところによると監察軍の総司令官はトレーズ・クシュリナーダ(新機動戦記ガンダムW)らしいのですが、この人もトリッパーみたいなので私と同じで元になった人物とは違うでしょうね。とこの時は思っていました。
「やあ、君が水蓮寺ルカ君だね」と、話しかけてきたトレーズを見た瞬間、私は自分の間違いを悟った。
何この人。どう見ても常人離れした空気。それに全身から高貴さが漲っています。
ハッキリ言って、この人本当にトリッパーなの?と聞きたくなるほどです。原作通りのエレガントな方ですよこの人。
「あの、すみませんが貴方は本当にトリッパーですか。何かトリッパーらしさというのが感じられないのですが…」
トリッパーは元のキャラクターとは別人なので、当然ながら別人になるはずです。勿論、トリッパーが本人らしく振舞う事はできるかもしれませんが、トレーズのような常人離れしたキャラクターとなると、そっくりになるはずがありません。
「ああ、私は少々特殊な転生者なのだよ」
「そうですか」
この言い方から察するに、トレーズさんには何か込み入った事情があるのかもしれませんね。なら無闇に首を突っ込む必要はないでしょう。元々関係ない話ですから。
「さて、君は監察軍の概要については聞いていると思うが、私達はトリッパーを支援する組織だ。だから君が我々に支援を求める場合はある程度ならば便宜を図る事ができる。勿論限度はあるがね」
支援はするが、それは一定の範囲内でということだろう。つまり彼らにとってそこまで負担にならない事ならいいが、それを逸脱するような事は却下されると言うことだ。
まあ、それは当然でしょうね。組織である以上何でもかんでも要望を聞くわけにはいきませんから。
「その事なのですが……」
私はトレーズに自分の事情を説明することにした。
~中略~
「……なるほどゼントラーディ軍か。確かにそれは厄介だね」
「ええ、流石に地球壊滅の危機を放置するのはどうかと思いますし、なりよりあの世界には両親がいますから見殺しにはしたくありません」
「それで、どうするつもりだね?」
トレーズは端整という表現が陳腐に聞こえるほどに整った顔を私に向けながら質問してきた。普通ならば「すごいイケメンだよ、この人」と思うでしょう。しかし、今は真面目な話をしているので、そういった余計な考えは置いておきます。
「このままでは間違いなく第一次星間大戦が発生してしまいます。だから私は熱気バサラのように可変戦闘機に乗って歌で戦争を止めようと思います。だからその為の機体を提供してください」
「そうか。機体の提供はかまわないが、君はゼントラーディ軍を歌で説得するつもりかね。それは危険を覚悟しているのかい?」
歌で戦争を止めると言うのは容易いが、それはゼントラーディ軍の攻撃を受ける危険性が極めて大きい。熱気バサラのように卓越した操縦技術がないとあっという間に打ち落とされる可能性は否定できない。
「はい。覚悟の上です」
それでもトレーズの質問に私は迷いもなく答えた。既に命を賭ける覚悟は出来ています。
「……わかった。しかし操縦技術に関しては一から習得していくしかないよ」
「そうですね。ですから私はここに残って五年間でみっちりやります」
「あの世界に帰らないのか? 御両親が心配すると思うが…」
「その通りですが、マクロス世界でバルキリーの訓練はできませんし、第一あちらの生活を送りながら準備をするのは無理です。でも、だからといって両親に本当の事を話すのも機密保持の関係で好ましくないでしょう?」
まあ、本当に事を話しても信じてもらえるとは思えないという問題もあります。下手の事をして精神病患者扱いされてしまうのは嫌ですよ。
「確かにそうだね」
「ええ、ですからマクロス世界には私の身代わりのコピーロボットを配置しておく位しか方法がありませんが、こちらにはコピーロボットはありますか?」
「ああ、コピーロボットならこちらにもあるよ。必要ならば手配しておこう」
「ありがとうございます。ですが、それは問題点とかは大丈夫でしょうか?」
コピーロボット(パーマン)とは、鼻を押すことで押した人間や動物そっくりのコピーになり、記憶も引き継がれる道具で、コピーロボットの記憶は、元に戻る前に本人とおでこをくっつけることで本人に引き継ぐことが可能という優れものだ。
しかし、コピーロボットは鼻がスイッチになっているからアクシデントで鼻が押されて人形に戻ってしまったり全くの別人になってしまったりとトラブルが付きまとっていた。後にそれらが改良されたらしいが、監察軍にあるコピーロボットはどうなのだろう?
「それは心配しなくていい。トリッパーにはあれを重宝する者もいるので改良が進められており、現在では実用に支障は出ないようになっている」
「そうですか。それは有難いですね」
これで懸念材料はありませんね。
「では、君はここに残って生活するという事でいいのかな?」
「はい。これからよろしくお願いします」
私はこれから上司となるトレーズに頭を下げた。ここは礼儀正しく挨拶しておきましょう。そうすれば印象がいい筈です。
こうして私は監察軍に留まることになり、マクロス世界ではコピーロボットが水蓮寺ルカとして生活する事になった。
解説
■トレーズ・クシュリナーダ
監察軍の総司令官。『トリッパー列伝 トレーズ・クシュリナーダ』で登場した転生型トリッパー。
諸事情によりトリッパーという感じではなく、原作そのまんまのエレガントな方になっている。
■コピーロボット
監察軍のかかわるトリッパーたちが割と愛用している一品。それだけに色々と改良されている。