『アイドルマスター シンデレラガールズ』を原作としたやる夫スレ作品『やる夫はプロデューサーに転職するようです』の一話を小説化したものです。
元々個人用に書いていたのですが、原作者であるtoJd5AYQtw様から許可をいただけたので投下します。
元ネタがやる夫スレであるため主人公の名前がやる夫となっていますが、普通にシンデレラガールズの二次創作として楽しめると思います。
拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。

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このお話はtoJd5AYQtw様の作品『やる夫はプロデューサーに転職するようです』を元にしています。
自分が言うのもなんですが、元の方が小説よりも面白いです。
興味を持っていただけた方はそちらもご覧になっていただけると幸いです。
そして、許可をくださったtoJd5AYQtw様に感謝を。



一話

346プロダクション。

芸能プロダクションとして古い歴史を持つ老舗であり、歌手や俳優が多数所属。

所属する芸能人を売り出すのみならず、映像コンテンツの企画立ち上げも行っているなど、その活動の幅も広い。

近年アイドル部門を創立し、激戦区となっているアイドル業界に参入したことから注目されているプロダクションである。

 

「ようやく最終面接まで漕ぎ付けたお!これに受かればやる夫もまともな社会人だお!」

 

そしてこの日、346プロの事務所の前に一人の男が立っていた。

彼の名は入速出やる夫。この346プロのプロデューサー募集に応募した男だ。

 

これから始めるのは、彼が担当アイドルと出会う物語である。

 

 

346プロの事務所内にある面接室。そこには入速出やる夫と向き合う一人の女性がいた。

 

「君が我が社を希望する入速出やる夫くんだね。私はこの346プロダクションの常務の美城だ。本日はよろしく頼む」

 

「よろしくお願いますお!」

 

美城常務。346プロ会長の娘であり、同社のアイドル部門統括重役を務めている敏腕常務だ。

なお、下の名前は誰も知らない。公式設定がないんだから是非もないよネ!というやつである。

 

「さっそくだが…高校卒業から5年も空白期間があるようだがその期間は何をしていたんだ?」

 

やる夫が持ち込んだ履歴書を片手に常務が質問する。彼の持ち込んだ履歴書には不備はないのだが、高校卒業後に5年も空白があるとさすがに怪しい。

その質問は予想していたのか、やる夫はさらりと答える。

 

「家業を手伝っておりました」

 

「家業とはどのような職業なので?」

 

「掃除屋です」

 

「掃除屋……?」

 

掃除屋という答えに常務は疑問符を浮かべる。掃除屋、つまり清掃業者という仕事があることは彼女も知っていたのだが、さすがにここでその名前を聞くとは思わなかったようだ。

 

「はい。あらゆる顧客のニーズに応えるべく主に父と祖父と共に日本中、時には世界中を飛び回っておりました」

 

「ふむ…だがその家業を辞め、我が社で働きたいという理由とはなんだ?」

 

「生まれてこの方この世界しか知らない為、新たな境地を突き進みたいと考え御社を志望させて頂いた次第にごさいます」

 

「新たな境地…」

 

やる夫の語ったその理由の中に含まれていた『新たな境地』という言葉。

それは常務の抱くアイドルに対しての考え方と一致している言葉であり、彼女は考え込むそぶりを見せる。

ちなみにその姿を見ていたやる夫は内心で「ぶっちゃけ疲れたから家業を辞めたんだけど。というか、急に無言になったけど不味いこと言っちゃった…?」とかやや失礼なことを考えていた。

そして、ついに常務が口を開く。

 

「気に入った、採用だ。早速だが明日から来てもらおう」

 

「マジかお!?」

 

「ああ。そこで今のうちに担当したいアイドルのタイプを聞いておきたいのだが、キュート、クール、パッションの中ならどのタイプの子を担当したい?」

 

「ふむ…クールでいいでしょうか?」

 

「変t…クールか…わかった。明後日までにアイドル候補生リストを作成しておこう」

 

「ありがとうございます」

 

常務の言いかけた言葉を不審に思うやる夫だったが、それはともかく。

こうして入速出やる夫は346プロの新たなプロデューサーとなったのであった。

 

 

翌日の朝。

346プロの出入り口前には歓喜に震えるやる夫の姿があった。

 

「っっしゃあああああ!!!これでまともな社会人になれるお!!!」

 

ヘヴン状態!とでも出ていそうなくらい喜んでいるやる夫の姿ははっきり言って結構おかしいのだが、そっとしておこう。何せ……

 

「これからはもう無茶苦茶な仕事させられたり、死線かいくぐったりせずに済むと思うともう毎日がエブリディで…おおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

これがきっかけで一人の少女とぶつかり、運命の出会いをするのだから。

 

「す、すみません……」

 

やる夫とぶつかった前髪で目を隠している少女は、ぶつかった際に落としてしまった本を拾おうとして気づく。

明らかに本ではない物が落ちているのだ。しかも、大量に。

 

「…って…銃?」

 

「こ、これはモデルガンなんだお!持ってないと落ち着かなくて…」

 

よく手入れされた銃がこの場に何丁も散乱している光景に驚く少女にやる夫は焦りながら説明する。

その全てがやる夫の持ち物なのだが、この男いったいどこにしまっていたのだろうか。

スーツには隠せない大きさの銃もあるのだが……

 

「…冷静に考えたらそうですよね……本物の銃を持っていれば当然違法ですし……」

 

「そんなことよりお互い早く拾わないと!」

 

「そ、そうですね…」

 

急いで落とした銃を拾おうとするやる夫。だが、タイミングが悪かった。

 

「…君たち、さっきから見ていたがこれは一体どういうことだ?」」

 

ちょうどこの時間は美城常務の出勤時間だったのである。

 

「すみません…私の前方不注意のせいで……」

 

「鷺沢くんの本は別にいい。だが、入速出くんは何故いい年してコートの下にモデルガンを何丁も仕込んでいるんだ?社会人としての自覚はあるのかね?」

 

「ごもっともです」

 

「入速出くんは後で私の部屋まで来るように」

 

「畏まりました」

 

眉間にしわを浮かべた常務はそのまま社内へと入っていった。常務に平謝りしていたやる夫に、ぶつかった少女が声をかける。

 

「すみません、私のせいで……」

 

「いえいえ鷺沢さん…だっけ?は悪くないお」

 

「そう言っていただけるとありがたいです……では……」

 

少女はぺこりと頭を下げると立ち去った。

 

「行っちゃった…しっかし綺麗な子だったな…どうせならあんな子プロデュースしたいなぁ…」

 

少女のことを思い返しつつ、やる夫は落とした銃を拾い集めていく。

 

「…ん?なんだおこの白い粉の袋は…」

 

落とした銃を拾っていくと、銃に紛れて見覚えのない白い粉が入った袋があった。

気になってやる夫は口を開けると少し舐めてみる。

 

「ペロッ、これは……?」

 

何とも言えない苦い味には覚えがあった。やる夫の味覚が正しければ、これは『モルヒネ』である。

当然ながら麻薬であり、こんなものはやる夫は持っていない。状況的にあの少女……鷺沢が落としたと考えるのが妥当である。

 

「うっそだろあんな清楚で可愛らしい子がシャブキメ生ハメセクロスとか世も末だお…って冗談は置いといて。…ちょっと探ってみるかお」

 

まあ、探る前にまずは常務の部屋に行って説教されるのだが。

 

 

 

「これが鷺沢さんが下宿してる叔父が経営する古本屋かお…」

 

その日の晩、仕事終わりのやる夫は346プロの近所の古本屋の前にいた。

どうしてここにいるのか?それは鷺沢について聞き込みしたところ、彼女は近所にある叔父が経営してる古本屋で下宿していると聞いたからだ。その古本屋が怪しいと判断したやる夫はこうして古本屋の前にいるのだ。

 

「それじゃ、ちーっとばっかし屋根裏に失敬するお」

 

周りに誰もいないことを確認するとやる夫はひょひょい、と古本屋の壁を登っていく。

何故そんなことができるのか?それはもう少し後で語ろう。

 

 

「サンプルのモルヒネを無くすとか何考えてんだ!!もし誰かに拾われて警察に拾われたらどうなるかわかってるのか!?」

 

古本屋の一室で眼鏡をかけた肥満体質の男が鷺沢に怒鳴り散らす。見るからにクズなこの男が鷺沢の叔父である。

そんな叔父の前で鷺沢は泣きながら謝っていた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…でも、私はあの事務所でそんなものを広めるような真似はしたくありません…」

 

「なんの為に346プロに入れたと思ってるんだか…あのねえ、最近ここからシャブを買っていく人が減ってるのは知ってるよね?そのせいで組への上納金が苦しいことになってるのも知ってるよね?」

 

この古本屋には裏の顔があった。暴力団『帝愛組』が提供するシャブ、つまり麻薬の販売窓口という裏の顔だ。

叔父が鷺沢を346プロに入れたのはその販路の拡大が狙いなのだ。

 

「はい…でも……」

 

「『でも』じゃない!こうなったら裏の風俗にでも行ってもらうしかないかな?」

 

「そんな…それだけは…」

 

「だったらまずサンプルを落とした場所に行ってサンプルを見つけてこい!!」

 

「…わかりました……」

 

叔父に怒鳴りつけられた鷺沢は涙を流しながら部屋を出ていった。その姿を見た叔父はイラつきながらつぶやく。

 

「ったくどんくさいガキだぜ…いっそのこと帝愛組の幹部にあいつを売るのもありかもな」

 

役に立たないのなら、別の使い道を考えればいい。幸いにして鷺沢は容姿は整っている。それなりの金にはなるだろうとほくそ笑む。

 

「へー、このモルヒネって帝愛組から流れたものだったのか」

 

自分以外の声に驚いて振り向く叔父。そこには見慣れないスーツ姿の男性……やる夫がいた。

彼は屋根裏で先ほどの会話を聞いており、鷺沢が部屋を出たことを察すると部屋の中に侵入したのだ。

そんなやる夫は叔父の前に見せびらかすように白い袋をちらつかせる。

 

「誰だお前は…ってそれうちのモル…」

 

叔父は白い袋がサンプルのモルヒネだと気づき、意識が部屋に入ってきた男から袋にそれる。

その一瞬があれば十分だった。床を蹴って加速したやる夫は勢いそのままに叔父の腹に拳を打ち込む。

あまりもの痛みにうめき声を上げて叔父は倒れこみ気絶した。

 

 

「痛たた…」

 

それから数十分後、まだ痛む腹を抑えながら叔父は立ち上がった。

 

「そういえばあいつに腹パンくらって………まさかあいつ!」

 

焦りながら叔父は部屋のデスクに駆け寄って引き出しを開けた。

 

「良かった…シャブの倉庫の地図が入ったSDカードが無事で良かった…」

 

その中にある書類に紛れて一枚のSDカードを見つけると安堵する。だが、これは叔父にとって悪手であった。

 

「なるほどなるほど、その中に地図のデータが入ってるんだな」

 

「てめえハメやがっt…」

 

物陰からゆらりと笑顔を浮かべたやる夫が現れる。

部屋の中を確認せずに重要物を確認するという、ミスをやらかしたのだ。

そして、もうこの男に用はない。再び拳を叩き込んで黙らせると、SDカードを取り上げる。

SDカードを携帯に差し込んで中身を確認する。SDカードの中には帝愛組が管理するシャブの倉庫の位置、そしてそこにあるシャブの内訳が記されていた。

中身を確認したやる夫はそのままある人物に電話をかける。

 

「もしもし黒男?前に言われてたモルヒネが調達できそうなんだけどどれくらい要る?100kg?ざけんなてめぇで取りに来い。場所?また後で連絡するお。んじゃ」

 

電話を終えたやる夫は足取り軽やかに古本屋を出て呟やく。

 

「さーて、黒男と合流したらはよ燃やしてまうかお」

 

……入速出やる夫。彼の家業は掃除屋である。しかし、掃除するのはゴミはゴミでも生きたゴミ。始末人と呼ばれる仕事なのだ。

 

 

埠頭にある倉庫。その入り口前にはやる夫と一人の男が立っていた。

 

「いっつもすまないねぇ。今後ともよろしく頼むぜ」

 

そういってやる夫に礼を言うこの男の名は黒男。いわゆる闇医者で、麻酔につかえるモルヒネの調達先を探していたのだ。

 

「今回はさっき話したように事情が事情で特殊だっただけでもうやらんから、次からは親父達に頼んでくれお」

 

「そうつれねえこというなよ何かあったら半額で手術してやっからよ」

 

「やっかましいわ。おめーの場合は半額でも500万は払わされるじゃねーかお」

 

「それはそうと爆破しなくていいのか?」

 

「ごめんごめん忘れてたお」

 

やる夫は気楽にスイッチを押す。その瞬間倉庫が爆発し、炎に包まれた。これで中にあった麻薬は全て使い物にならなくなるだろう。

 

「まーた派手に吹っ飛ばしたね。帝愛組だっけ?これからどうなるんだろうな」

 

「資金難に陥るわ倉庫の燃えカスから麻薬の類が検出されるだろうから確実に潰れるんじゃないかお?」

 

「さっき話してたその例のアイドル候補の子の叔父は?」

 

「SDカードが無いのがバレ次第、残党の手で山行きか海行きか焼却炉行きのどっちかだろうな」

 

「因果応報って奴だな。で、その鷺沢さんは今どうしてるんだい?」

 

「確か会社の前にモルヒネが入った袋を探しに行かされて……あっ」

 

うっかりしていた。面倒になるのを避けて探しに行ったのを放置していた。

 

「とっとと会社前に行って袋の中身を適当な粉にすり替えて渡してやれ。それと今家に帰したら組員に連れ去られかねんから適当なビジホに放り込んどけ」

 

「やべええええええ!!!行ってくるお!!!!!」

 

 

駄目…全然見つからない…このままじゃ……

 

電気はほとんど消され、月灯りと彼女の持つライトだけが照らしている事務所の前に鷺沢はいた。

もう何時間も探しているのにモルヒネが見つからない。既に誰かに拾われてしまったのだろうか。

そうだったとしたら、自分はどうなってしまうのだろうか。それを考えるだけで体の震えが止まらない。

 

「あのー…」

 

突然声をかけられて鷺沢は驚きつつも振り向く。そこには彼女が朝ぶつかった男が立っていた。

男は鷺沢に白い粉の入った袋を差し出す。

 

「向こうにこれ落ちてたんだけどもしかしてこれ探してたりするかお?」

 

「そ、それです!…って入速出さん…でしたっけ?」

 

「覚えててくれたのかお」

 

「第一印象が強烈でしたから……」

 

そりゃそうか、とやる夫は内心苦笑しながら袋を鷺沢に渡す。

 

「しっかしえらくこの膨らし粉を必死に探してたみたいだけど、料理とか好きなのかお?」

 

「いえ…全くできません。家ではいっつもインスタントばっかりなものでして…」

 

だけど、これを持って帰ってもまたあの叔父にシャブを売れと言われることには変わりはない。

そう、今を凌いだだけであって現状は何も変わらないのだ。そのことに鷺沢は表情を暗くする。

 

「…もしかして身内と喧嘩してるのかお?」

 

「どうしてその事がわかるんですか…?」

 

「よーく表情みたらだいたい察しは付くお」

 

やる夫は鷺沢に微笑みながら返す。こんな人が身近にいてくれたらいいのに、と心の中で思う。

この人ならば、と鷺沢は口を開く。

 

「…私これからどうすればいいのかわからなくて……」

 

「それじゃ金貸すから気持ち整理する為にそこのビジホ泊まっていったら?」

 

「お気持ちはありがたいですが……そんな会ってまた一日も経ってない人からお金を借りるなんてできません」

 

「…じゃあ条件付けるのはどうだお?」

 

「条件…?」

 

「実はやる夫、新人のプロデューサーで担当のアイドルが決まっていないんだお。鷺沢さんさえ良かったらやる夫の担当アイドルになってくれないかなーって…駄目?」

 

やる夫は照れ臭そうに鷺沢に聞いた。その様子を見た鷺沢は安堵して口を開く。

 

「…入速出さん、いえ…」

 

「ん?」

 

「プロデューサーさん、こちらからもお願いします。私のプロデューサーになってください」

 

澄んだ蒼い瞳で彼を見つめ、小さく微笑んでやる夫の問いに答えた。

それは月灯りが照らす寒い夜の出来事だった。

 

これが、入速出やる夫と鷺沢文香の出会いの物語。

そしてこれから彼女をやる夫はプロデュースしていくのだが、その物語はまた別のお話。




ここから文香がすっごく可愛くなるんですが、一話はここまでです。
元の作品ではほんっとうに文香が可愛いので文香ファンの方、あるいは文香ファンになった方はぜひご覧ください!


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