『なんでわざわざ一般の交通機関で向かうんだい?』
「時間はありあまっている。 それにな、そこにしかない楽しみってのはあるもんだよ。 少なくとも人参型のロケットに詰め込まれて空を飛ぶよりかは楽しい時間を過ごせるだろう」
『ふーん、やっぱじょーくんは変わってるねぇ…… まあいいや! 気が変わったらいつでも言ってね! すぐにロケットをそっちに渡すからさ!』
「ああ、まあ気が変わったらの話だ。 それを用意する時間があれば美味いアップルパイを焼いて、そして泥水みたいなコーヒーを少しはマシにする方法を模索しな。 じゃあな」
一方的に通話を切る。
イヤホンを取り外すと、ゴウゴウと爆発的な風の音が鳴り響いていた。 寝台列車の屋根、ちょうど進行方向にちょっとした出っ張りのあるところに寝そべっていた。
柔らかいシーツも、酒や飯を売る者もない場所だ。
しかし性に合っている。 特にすることもなく硬い床で景色を見つめ続ける。 そういうものが俺は好きなのだ。
そしてそういう場所で景色をほっぽり出して眠りにつくのも悪くない。 テンガロンハットを顔へ被せて日差しを防ぎ、目を閉じた。
♢♦︎♢
1時間ほどの時が経ち、目を覚ました。
自然で健やかな目覚めではない。 外敵を察知しての目覚めだ。
「まあ…… そういうのもまた一興だ」
以前変わりなく鳴る風の中に、僅かに銃声が混じった。 1発のみ放たれたそれは天井を貫通して空へ飛んでいく。 恐らくは威嚇射撃だろう。
身を起こし、テンガロンハットを被り直した。 確かめるように右腰に手をやり、ホルスターからリボルバーを取り出し、弄ぶ。
「俺とこの銃は
それこそが俺の存在理由であり、彼女に与えられたもう一つの名であった。
リボルバーをホルスターへしまい、列車の窓を蹴破りながら車内へ飛び込む。 いくつかのガラスの破片とともにシートへ掛ける者たちを飛び越え、中央の通路に着地する。
「何だ!?」
驚愕と困惑の混ざった声を上げ、列車の進行方向の扉の前から目出し帽をかぶった3人の男がこちらへ銃を向ける。
乗客も彼らと同じ感情、そして僅かばかりの希望を持ってこちらを見ていた。
「3つだ」
「……は?」
指を3本立て、宣言する。
少しだけの静寂の後、3人の男のうち1人が間抜けな声を上げた。
「3つ数えるうちに逃げれば許してやると言っているんだよ。 3…… 」
「ほざけ!!」
怖いことに、激昂した男達が俺へ向けた銃を一斉に撃たんとする。
しかし、奴らが引き金に指をかけるよりも早く、ピースキーパーを腰に構えてファニング・ショットにより3発の銃弾を弾き出す。
それぞれの弾は奴らの銃を構える腕を貫通した。 思い思いの悲鳴を上げたそいつらは、銃創を押さえながら膝をつく。
どうやら客の多くは俺のことを正義の味方と認識したらしく、いくらかの喜びを持った騒めきが聞こえる。
弾を装填しながら列車の前方へと歩みを進め、奴らの取り落とした銃を観る。
模造品ではない。 純正のAK47で間違いない。 そうなると嫌な予感がする……。
「おい! 銃を使える奴はこいつを持ってテロリストどもを人質にとっておけ! 俺は他の車両へ向かう!」
扉を蹴破り、一つ前の車両へ。
どうやらここは食堂車らしい。 目出し帽をかぶった男が5人、そして金髪ロングに赤みがかった目とその下に泣きぼくろを持つ女…… 俺はそいつに見覚えがあるそれどころか大分因縁のある相手だ。
「あら、あなた…… ジョエルね?」
「スコール…… やっぱりお前か……」
先に声を上げたのはスコールであった。 その返しには自分でも驚くほどに嫌悪感に塗れた声が出た。
簡単に表すのならテロ組織の女ボス、何度か会ったことがあるが…… 嫌いな相手だ。 奴らが持っていた純正のAK47からして嫌な予感はしていた。 そんなものを持てるのはこいつの組織だけだから。
嫌悪感を抱きながら口を開く。
「なあ、手を引いてくれないか?」
「あら、あなたが引けばいい話じゃないの」
「お前らと戦うのは面倒なんだ」
「私たちだって仕事で来てるのよ」
当然でしょ? と顔で訴えてくるスコール。
腹が立つ仕草だ。
「テロリストが"仕事"だと? 常識人ぶりやがって、目的は何だ? 乗客に用人でもいるのか? それとも積荷がお目当てか?」
「良くわかってるじゃないの。 その半分半分ってところかしらね?」
「それはつまり───」
言い切るより早く、背後から轟音が迫る。
前方へ全力で飛びながら振り返ると、そこにいたのは体中に装甲を貼りつけた女であり、そいつは右手を振り抜いた体勢で、驚きの混ざった殺意の目でこちらを睨んでいる。 避けなければ俺は列車の壁に叩きつけられてミンチにされていたことだろう。
しかし不意を打つだなんてスコールらしくない策だ。
「背後から奇襲とは汚ねえなスコール!」
「違うわよっ! あれが私たちの標的! 他の組織の幹部!」
「なるほどね!」
足が地面につくと同時にピースキーパーを抜き、構える。 敵も同じく、実体化させたアサルトライフルをこちらへ向けている。
さて、このピースキーパーは言ってしまえばただのリボルバーだ。 目の前の女の装甲を貫くことはできないし、生身の部分を狙おうとも彼女が身につけている装置の展開するエネルギーが盾となり銃弾は阻まれる。
ならば銃を狙う。 あの巨大なアサルトライフルを。 アレは固く、外側を撃ってもちょっとした傷が付くだけで大したダメージは期待できない。
内側を狙うのだ。 銃口へ銃弾を撃ち込み、内部から破壊するのだ。
右腰のホルスターから抜いたリボルバーを腰に構え、ファニング・ショットで6発をほぼ同時に弾き出す。 整列した銃弾達がアサルトライフルの銃口に吸い込まれていく。
「何ッ!?」
アサルトライフルは小さい爆発とともに破損し、奴は小さな悲鳴とともに鈍器と化したアサルトライフルを取り落とした。
スコールがこんな隙を見逃すわけがない。
「ナイスよ、ジョエル!」
「共闘は今回だけだ!」
喜びの混じった声とともに、俺の後ろからスコールが飛び出す。 生身ではない、目の前の女と同じ類の装置を纏った状態でだ。 彼女は丸腰になった女に組みつき、列車の壁を破壊して外へ飛び出した。
壁にポッカリと空いた大穴を通し、内から外へと凄まじい風が吹く。 俺は咄嗟に固定されたテーブルに掴まり、車外へ放り出されるのを防いだ。 少しは周りへの被害も考えて欲しいもんだ……。
車外上空ではスコールとその標的が戦闘を展開している。 最新鋭の戦闘機よりも速く、舞のようにも見える美しい戦いである。
片方は深緑の機体。 もう片方は彼女の瞳の色と同じ紅の機体。 それらは互いを睨み合い、いくつもの円を描くように飛び回り、撃ち合う。 流れ弾が心配なところだが、なにしろ奴らも列車も高速で動いている。 そう当たりはしないだろう。
その上決着はすぐにつきそうだ。
技量においても装置の性能においても、スコール・ミューゼルが圧倒的に優っている。
なんてことを考えている間にも、スコールの打ち付ける雨の如き銃弾が標的の装置を打ち据え、エネルギー切れを起こした装置は解除された。 生身の女が高高度から落下を始め、スコールが空中でそいつを回収して帰ってくる。
それと同時に、まるで戦闘が終わるのを待っていたかのように列車が緩やかに速度を下げて停止した。
ようやくテーブルをはなすことができた
「まあ、これを回収することが私たちの今回の目的ってわけ」
穴から車内へ戻り、装置を解除したスコールは気絶している女からネックレスを奪い取り見せつける。 それは奴らの纏っていた装置の待機形態である。
「目的が終わったなら早く帰ってくれ……」
「ええ、速やかに撤収するわ。 迎えももう来てるみたいだし」
その迎えとは会話中に近づいてきたヘリのプロペラの音を示しているのだろう。 スコールは部下を引き連れ、電車の横でホバリングするヘリに飛び乗り去っていく。
「また会うときは殺し合いましょう! 楽しみにしているわ!!」
笑顔と、不穏なセリフを残しながら。
壁の大穴から外を覗いてみると、地面が随分と遠い。 どうやら電車は橋の上で止まったようだ。
俺は少しの躊躇とともに携帯電話を取り出し、登録された番号の一番上に電話をかけた。
「束か? ロケットの用意を頼む」