俺妹のいわおがこんなにロックなわけがない 作:nasigorenn
いわおが変異した事により『ロック』となって始まった物語。
きっとこの物語は綺麗にはいかないのかもしれない。何せ恋愛事というのは得てして綺麗事だけではすまないものだから…………。
ロックから恋愛相談を持ちかけられた麻奈実。彼女は大切な幼馴染みの幸せを第一に考えて今まで接してきた。その為なのか少しだけ周りよりも気後れしてしまい、自身の想いよりも周りを優先させてしまうきらいがあった。
だが、彼女は弟に発破をかけられ、やっと………やっと自身の想いと向き合い『戦う決意』を決めたのだった。
そこで彼女とロックが始めることは…………。
「姉さんは緑茶でよかったかな?」
「う、うん、ロック。言ってくれれば私が用意したのに」
「これぐらい手間というほどじゃないさ。それに俺はコーヒーが飲みたかったからね。姉さん、コーヒー駄目だろ」
麻奈実の自室にて、ロックがお盆に飲み物を乗せてやってきた。
ロックは麻奈実の部屋に入ると姉に向かってお盆に乗せている湯飲みを麻奈実に渡す。湯飲みからモクモクと上がる湯気が如何にも熱そうであり、それに気をつけるように言うロック。そんなロックから湯飲みを受け取る麻奈実は自身に向き合う形で座布団に座り込んだロックを見た。
ロックは丁寧に座布団の上で胡座をかくと、お茶同様に湯気をあげるコーヒーカップを軽く持って口元に運ぶと舌を火傷しないようにゆっくりと飲み始めた。その姿はとても様になり過ぎていてとても中学生には見えない。
「はわ~、ロック、随分と慣れてるね。とても中学生に見えないよ」
姉らしい少し間延びしたのんびりとした声にロックは苦笑する。
「別に慣れてるわけじゃないさ。俺にはこっちの方が合うらしい。気分的にコーヒーな気分なだけだよ」
そう答えるロックには妙な大人の落ち着きというものが感じられる。その所為なのか、麻奈実は弟と話しているという気がしない。寧ろ年上の大人を相手にしているような気を感じさせられた。
互いに飲み物を飲んでホッと一息つく二人。その光景はまさにのんびりとしたものだが、今はそんな場合ではない。
時刻は深夜であり、朝が早い田村家の面々は眠りについている。家族公認とはいえ恋愛相談というプライベートな問題を相談するにはこの時間帯が好ましいのだ。
「さて………さっそくだけど」
恋愛相談を始めようと声を出すロック。そんなロックを見ながら麻奈実は固唾を吞んだ。何せロックの雰囲気が変わったからだ。ソレまでの穏やかな大人らしい落ち着きもさることながら、そこに更に鋭利な思考をする賭博師のような雰囲気を醸し出し始めた。彼女が見てきた人達の中でこんな雰囲気を出す人間は初めてであり、それが余計に緊張を呷った。一体何を言われるんだろうと不安になった麻奈実は若干冷め始めた緑茶を少量口に入れ喉を潤そうとした………が。
「どうして京介さんを好きになったのか? そこから聞かせてもらおうか」
「ッ!? けほ、けほ………ちょ、ちょっと、ロック~」
ロックの最初の質問に驚き噎せてしまった。
今更過ぎる質問をされて噎せてしまったことを攻めるように膨れ面でロックを見る麻奈実。だが可哀想というべきか、その顔はまったく怖くない。寧ろそんな顔も可愛らしいのであり、そんな顔をされた程度でロックが戦く理由はない。
「姉さん、これは大切なことなんだ。いいか……『物語(ストーリー)』を作るのに重要なのは設定だ。この設定が細かければより重厚感溢れる物語が描ける。設定に凝り固まりすぎてそれを活かせないのでは本末転倒だがね。だが今回の話はそんな複雑なものじゃない。一人の女の子が抱いた恋物語だ。こういう物語の根幹は好きか嫌いかの二択でしかない。単純(シンプル)なんだよ。だからこそ、最低限度の設定が必要なのさ」
勿体ぶった言い回しだが様になりすぎているロックに麻奈実は変に関心させられている。だが、それでもやはり実の弟に意中の相手を好きになったのかを語るのは恥ずかしいものがあった。それでも重要だとやんわりとしながらもどこか説得力のある言葉でいうロックに麻奈実は顔を赤らめながら恥じらいつつも語る。
「えっとね、きょうちゃんを好きになったのは………」
そこから語られるのは実にまぁ青々しく青春真っ盛りな姉の恋バナ。聞いてる此方が恥ずかしくなるほどにベタ惚れな様子が感じられ、ロックはその話が終わるまで身じろぎ一つすること無く聞いていた。
そして姉の初恋の馴初めを聞いたロックは口元に手を軽く添えて考え始める。その姿が思考しているということを知っている麻奈実は何やら期待の籠もった眼差しをロックに向けていた。
だが残念なことにロックの口から出たのは彼女にとって酷なことだった。
「では次に………どうして京介さんが『昔』と変わってしまったのか? 姉さんなら知ってるはずだ」
まずお前が言うなという言葉を投げかけたくなるが、ここは敢えて言うまい。
ロックの言葉の意味を理解出来る麻奈実は顔色が若干悪くなり悲しそうな顔をする。この質問の意図に関し、実は意外と深い意味があるのであった。
今でこそ平々凡々な高坂 京介であるが、実は最初からそうではない。昔、すなわち京介と麻奈実が知り合ってロック共々付き合いを始めた頃。
その頃の京介は今の京介と違い意気揚々としていて率先して皆を引っ張っていくタイプの人間だった。所謂リーダー気質であり、厄介な問題事に自分から飛び込んで解決する、幼子からすれば皆が憧れるヒーローであった。
だが、それも中学生に上がってしばらくすると辞めてしまったのだ。それまであったヒーロー気質はなりを潜め、歳なりの落ち着きをするようになり問題事にはあまり関わらないようになった。端から見たら京介も中学生になりそれなりに大人としての分別を弁えるようになった様に見える。それはこうなる前のロックから見てそのように感じていた…………が、今のロックから見てアレは明らかに『不自然』だ。
それまでの京介と今の京介を比べると明らかにおかしいのだ。別にロックほど激変したわけじゃないのだが、京介の変異に違和感のようなものがある。まるで……………。
「そう、まるで何かを犯してしまい恐れてしまっているような、そんな感じだ」
その言葉が更に核心を突いたのだろう。麻奈実の顔から血の気が引いていく。
その様子が伝わったのか。もしくは鋭い観察眼を持つロックだからこそ気付いたのか、ロックは麻奈実に問いかける。
「姉さん、これは絶対に必要なことだ。これこそが京介さんのターニングポイントだ。それを知らなければ勝利の欠片は手に入らない」
酷い事を言っている自覚はあるのだろう。だがそれでもロックはそれを聞く義務があると言わんばかりにそう告げる。その顔は真剣そのものであり誤魔化すことは不可能だろう。それを悟ったのか、それもと麻奈実が今まで後悔していたのか、彼女はゆっくりと語り始めた。
それは麻奈実と京介が中学に上がってある程度馴染んだ頃の話。
ソレまでと同じく皆を引っ張るリーダー気質の京介はその気質でクラスメイトを引っ張ってきたし問題事があればそれに自ら首を突っ込んで解決していた。当時の麻奈実はその様子をハラハラしながら見ていたらしい。
そうして過ごしていて一つの問題に直面した。それはとある不登校児の話。
京介はそれを聞いて早速その問題を解決すべく首を突っ込んだ。それからまぁ、色々あって不登校児は登校し始めた。そこだけ見れば成功だろう。だが、校外学習で出かけた時、そこで何かあったらしい。結果だけ聞けばその不登校児は腕の骨を折る怪我をし、京介はそれに何かしら関わっているらしい。その原因が自分にあると京介は自身を責め、それを見ていられない麻奈実は『あること』を京介に言ったらしい。どうやらその言葉が原因で今現在の『安全主義の京介』になったんだとか。
麻奈実が悲しそうな顔でそれを語り終えるとロックは顔を下に向けて俯いていた。端から見たら麻奈実同様に悲しんでいるようにしか見えない。
だが……………違った。
「…………よし」
ロックが浮かべていたのは喜びであった。
彼が顔を上げ麻奈実がその顔を見ると彼女は驚いてしまう。何せ悲しんでいると思ったら違っていたのだから。正直不謹慎だと思ってしまい怒りがこみ上げてしまうのは仕方ないだろう。
「ロック、何でそんな顔してるの?」
静かだけどしっかりと怒りを感じられる声。普段の麻奈実からは考えられない程に『怒っている』声に性格が変わる前のロックなら背筋が凍る思いをしただろう。
だがロックはそうならなかった。寧ろ闇のような深い笑みを口元で浮かべながら左手の掌に右手の拳をぶつける。静かな室内にバシッという音が響いた。
「まさか欠片どころか『鍵』が手に入るとは思わなかった! 姉さん、その『鍵』は最高の『聖槍(ロンギヌス)』だ。それは神すら殺せる最高の切り札! 京介さんを落とすのに絶対に必要な『主鍵(メインキー)』だ。よくやったよ、姉さん。これなら他の女の子たちから絶対的なリードが取れる。おめでとう、姉さん。これで後は一対一の決闘だ! 京介さんは防弾楯、そしてこっちは神殺しの槍だ。目的まで一気に縮んだ!」
そう語るロックに麻奈実はそれまで感じていた怒りが吹き飛んでしまい、何故ロックがここまで喜んでいるのかが分からなくて逆に怖くなってしまっていた。別人どころか同じ人なのか分からなくなるくらい、彼女にとって今のロックは怖く映っていた。
一頻り喜んだロックは冷め切ったコーヒーを一口飲むと話を再開する。
「さて、姉さんがせっかく手に入れた切り札だが、正直姉さんが使っても効果が薄い。だからそれは俺が使うとして………今度はもう少し健全な話をしようか」
「け、健全?」
「そう…………姉さんの今現在の戦況と周りの状況を詳しく掘り下げてみようか。姉さんには悪いが、もう少し焦ってもらわないといけないからね」
そう笑顔で告げるロックに対し、麻奈実はどこか薄ら寒さを感じたのだった。