俺妹のいわおがこんなにロックなわけがない 作:nasigorenn
ロック曰く、高坂 京介を攻略するに当たって重要なものが手に入ったらしい。
その事に麻奈実は嬉しく思うのだが、何故だろうか? ロックのあの深い闇のような笑みを見ていると不安しかない。
だがそれでも優しい彼女は弟を信じて話を聞くことにした。今まで応援してくれた家族だが、ここまで踏み込んでくれたということはそれだけ危機感を感じているからだと思って。
そんなわけでこの恋愛相談は更に続いていく。
ロックは改めて軽く咳払いをしながら静かに語り始める。その様子はやはり中学生には見えない。まるでプレゼンをする会社員のようだった。
「さて、まず姉さん以外に京介さんの近くにいる女性について改めておさらいしようか」
「まるで勉強みたいだねぇ」
「まるでも何も勉強そのものだよ。まず相手の手札を予想出来なければ勝負はしかけられない。無策に勝負に出るのは蛮勇か無能か天然だけさ。勝ちに行くのなら、まず手を読まないとね」
呑気なものだと苦笑しつつロックは姉に言う。
これから始まるのは勉強なんて生やさしいもんじゃない。自分以外の敵の戦力を学ぶという戦略だ。だからこそ、ロックは少しばかり声を真面目なものに変える。
「まず京介さんの妹の学校の友人である『新垣 あやせ』さん。姉さんも知ってる人物だ」
「あやせちゃんのことは知ってるよ。私のお友達だもん」
「姉さんとも知己の間柄である彼女だが、読者モデルをやっているだけあってオシャレで綺麗な美人だ。俺の知る限り京介さんの好みに一番合致しているのは彼女だろう」
「きょうちゃん、まえから黒髪美人に目がなかったからねぇ」
ほわほわとした返しをする麻奈実にロックは危機感のなさが窺えるだけに大丈夫かと心配になってきた。
「そんな彼女だが………端から見て京介さんに気があるのが丸わかりだ」
「………そうかな。あやせちゃん、よくきょうちゃんのこと変態変態って言ってるけど?」
麻奈実から若干間が空いたのは彼女の失敗だろう。すでに分かりきってるとは言えそれでもロックは告げる。
「誤魔化すのは駄目だ、姉さん。既に姉さんも気付いてるだろ。この場で誤魔化したところで何か変わるわけじゃない。はっきりと言うよ…………友人であるまえに恋敵(てき)だ。ここから先は譲り合い無しの潰し合い。相手の足を引っ張るのは常套手段だ。だからこそ、姉さんには現状をはっきりと受け止めて欲しい」
「わ、わかった………うん、確かにあやせちゃんはきょうちゃんのこと、好きだと思う」
「よろしい。発言と行動が噛み合っていない上に何かしらあると京介さんに頼っていることからその信頼関係は確実にあるだろうさ。その上感情が高ぶると暴力的になるところさえ除けば家事炊事もばっちり出来る女子だ。他の二名よりある意味彼女が一番危険だと言える」
「最近思うけど、ロックは何でそんなことも知ってるの?」
「世の中情報というのが状況を左右することが多いからね。引き出しは多いに越したことはない」
自分の弟が変わりすぎていることに改めてひく麻奈実。最早別人なロックはどこに行こうとしているのか…………。
そんな心配をする姉を他所にロックは話を続ける。顔に多少の緊張が見られることから危機感は感じ始めているらしい。ならばよしとロックは決めた。
「次に挙げるのは京介さんと姉さんの学校の後輩に当たる『五更 瑠璃』さん。通称は黒猫と名乗ってる女性だ。彼女は見た目こそ日本人形のように儚い和装の似合いそうな美少女だが、その性格が若干痛々しい。既に高校に入学したのだから厨二病はどうかと思うけど。京介さんに今距離が近いのは彼女だ。妹の友人であると同時に自分の友人であり後輩。更に部活動も一緒ということもあってよく高坂家に入り浸っている」
「黒猫さんもきょうちゃんのこと、好きだからね~。あやせちゃんといい黒猫さんといい、きょうちゃんはモテモテだね」
「そこに姉さんも含まれているからね。流石は兄貴分と言うべきだろう。あの人は絶妙なタイミングで漢気を見せる、それも計算じゃなく天然でだ。ある意味人たらしの才能があるんだよ」
「そう言われるとそうかも。でもそれだと無節操な人になっちゃうよ?」
「全部無意識にやってるだけに余計質が悪いけどね。だがそれも姉さんがくっつけば変わるさ。ああいうタイプは恋人が出来るとそれに一途になるからね」
「何でロックはそういうことが分かるのか、私気になるんだけど………」
「さっきも言ったけどこれも情報だよ。大体学校で恋愛関係にある連中を色々と観察していけば大まかな分類分けが出来るからね。その統計結果から予想しての事だよ」
最早弟がどこに向かっているのか分からない麻奈実。本当に中学生か疑わしい気分であった。
「彼女もまた家事炊事はバッチリのようだ。両親が共働きで忙しいため、妹二人の世話は彼女がしているらしい。それもあって庶民的に家事炊事のレベルが高い。将来は良妻賢母になれるだろうさ。厨二病なのもいずれ治るはずだから、ソレを見れば彼女も十分危険だ」
今現在発表された二人でさえすでに危険度大の人物である。それ以外にもまだいるというのだから京介の人たらしぶりは相当だとロックは関心半分呆れ半分になっていた。
「そして最後が妹の友人である『槇島沙織』さん。京介さん達と会ったり趣味で動くときは『沙織・バジーナ』を名乗り行動している。その際は敢えて『それらしい』格好を好み、言動や性格などもノリが良い人物を演じているが、その実態は所謂大富豪の令嬢でありそれに相応しい教養を受け自身も立派な淑女をしている。二面性が激しい人物だ」
「そういえばきょうちゃん、結構言ってたかも………『沙織は凄い』って」
「京介さん達の前に出る格好が如何にもなオタクファッションだから気付かれづらいけど、私服の時はもの凄い美少女だよ、彼女。スタイルが年齢に噛み合わないくらい凄まじい上に京介さんの好みに合致してる。少なくても年頃の男なら誰しもが惹かれるね」
「ロックもそうなの?」
「どうだろう。こんな感じになってる身としては、それどころではないのかもしれない。今の俺はそういうことを考える暇が無いと言うべきかな。あまりそういうことに興味が湧かないんだ」
その答えに恋愛相談に乗ってもらっているはずの麻奈実が逆にロックのことを心配する。弟の精神は異常じゃないだろうかと。もしかしたら友人の赤城 浩平の妹みたいな趣味なのだろうかと思ったのだ。
だからこそ、そんな目を向けられたロックは呆れた目を姉に向けた。
「何を心配しているのか予想が付くから敢えて言わないけど、俺にその手の趣味はない。ただ今は青春より生活ってだけだよ。その内するかも知れないからさ。それよりも今は姉さんだろ。余計な寄り道はしない」
「はぁい、ごめんなさい」
弟を心配したら逆に弟から叱られる麻奈実。これではどちらが年上かわからない。
「お金持ちで美人、その上性格も良しとまさにパーフェクトを地で行く彼女も十分危険な存在だ。京介さんなら相手のそういう上辺の部分しかみないなんて事はしないと思うが………それが逆にまた危ない。彼女にとってそういう素の自分を見てくれる存在というのはそれだけで好意的な存在だ。それも頼れるあの人ならまさに白馬の王子様に見えるだろうさ。今はまだそこまでいってないようだが、いつコロッといくかわかったもんじゃない。そう考えると時間はそこまでないのかもしれない」
以上、3人の要注意人物を上げたロック。
その3人を聞いて麻奈実はむむむと気難しい顔をしたのだが、そこである疑問…………というよりも自分にとって一番警戒すべき相手のことだ。
「ねぇロック………桐乃ちゃんは?」
「桐乃さん?………あぁ、妹さんのことか。言っては酷いがあれは論外だよ」
ロックは決めつけるようにそう答えたが、それを聞いて逆に警戒している麻奈実は不思議に思い問いかけた。
「どうして? ここ最近きょうちゃんと急に仲良くなったよ?」
「確かにそうだし彼女からはブラコンの気を感じるのは確かだ。見た目も綺麗だし成績も優秀、性格に難があるけどそれを除けば美少女だって断言できる。だけどね…………どうあがいても『肉親と恋愛は出来ない』」
その答えがやけに断定的なので麻奈実は聞いてしまう。何でなのかと。常識から考えればそうなのにと、分かっていながら。
「でもアニメとかだと本当の妹と恋人になるお話もあるよね」
そんな答えにロックは呆れながらジト目を麻奈実に向ける。
「姉さん、もう少し現実的に考えよう。そういうフィクションは放っといて。いいかい、家族っていうのはどこまでいっても家族であり、そして姉が姉であるように妹はどこまでいっても妹なのさ。それは覆しようがないしどうしようもない事実。そして人間は本能、それこそ遺伝子レベルで血族との交配を拒絶する。近ければ近いほどにね。それは精神にも現れる。だから近親婚は上手くいかないんだよ。遺伝的にも問題がでるし、精神的にも異常を来たす。だから彼女はあり得ない。それに何より……………」
ここで一旦ロックは言葉を切ると、まるで賭博師のような薄暗い笑みを浮かべた。
「彼女達では絶対に気付けない。京介さんが求めてるものを」
「きょうちゃんが求めてるもの?」
その答えに麻奈実が頭に?を浮かべる。
その答えを知っているロックは麻奈実を見ながら答えた。
「姉さん、よく考えて欲しい……京介さんは凄い人だ、とても頼りがいになる。だからこそ、皆が頼り京介さんはそれに一生懸命応えてきた。だが…………京介さんを助けようという人はいるかな? 確かに京介さんがそう助けを求めれば彼女達はそれに応じるだろう。しかし、それでは遅い。京介さんがSOSを出す前に察して手をさしのべられるのが正解だ。そしてそれをして京介さんを癒やせるのは………甘えさせられるのは姉さん、貴女だけだ」
その言葉に麻奈実はポカンとしか顔をしてしまう。何故自分なのかと。
その答えを本人以上に知っているのがロックだ。
「京介さんを昔から知っていて、彼が何を考えているのかを察する事が出来て、そのフォローをすることが出来る。誰もが彼を頼る中、唯一彼から頼られる事が出来る、彼が甘えられるのが姉さんだけだからさ。幼馴染みで母性的な女性、それが姉さんなのさ」
「え、そうかな~?」
褒められたことが嬉しいのか頬を赤らめて笑う麻奈実。
そんな麻奈実を見ながらロックは告げる。
「姉さんの不利な事は京介さんにとって距離が近すぎて異性として見られていないということ。だから逆に此方が異性としてアピールすれば京介さんは戸惑うだろう。そして聖母の如く包み込んで京介さんを癒やせれば、その時は姉さん………貴女の勝ちだ」
その言葉に麻奈実が息を飲んだ。
そしてロックは此所で決める。
「姉さん………京介さんを頼る女の子は多いが京介さんを癒やせるものは誰もいない。聖母マリアがいないなら聖母マリアになればいい。その資格は十分にあるんだ。自信をもって京介さんにアタックをかけてくれ。姉さんは唯一の聖母なんだからさ」
この言葉で麻奈実は京介を癒やせる存在になろうと決意を固めた。
そして…………。
(さぁ、これで仕込みは上々だ。後は京介さん、貴方の胸に手に入れた槍を突き刺すだけだ)
ロックは仄暗い笑みを浮かべた。