俺妹のいわおがこんなにロックなわけがない 作:nasigorenn
京介はロックによって深く突き刺された『田村 麻奈実』という槍を意識する事となった。
ロックに会う前はただの幼馴染みというだけの存在。だが、ロックの言葉によって判明する彼女からの思慕の念。京介は幼馴染みだから一緒にいるのだと思ってた。ずっと昔から一緒にいたから、その関係はずっと変わらないと思っていた。自分がそうであるように、麻奈実もそうだと思っていたのだ。
だが違っていた。京介が見ていた麻奈実と麻奈実が見ていた京介は違っていた。
京介は幼馴染みとしか見ていなかったが、麻奈実は京介のことを異性として見ていたのだと。勿論性別が違うことは分かっている。だがそうではない。そういうものではなく精神的な部分も含めてだ。
『田村 麻奈実は高坂 京介の事を異性として恋している』と。
彼は考えたこともなかった。
彼女は自分と同じことを考えているとずっと思っていたのだ。それが当たり前であるように、当然の事だと言うように、『高坂 京介と田村 麻奈実の関係』がそのようなものであると決定付けられているように。
だけどそれは自分だけだった。幼馴染みは自分の事を『男』として見ていたのだと。
そういった事を本人ではなく第三者であるロックに告げられた京介。普通に考えれば寧ろ本人が言った方が説得力がある言葉だが、京介にとってはそうではなかった。寧ろ何も知らない状態でその言葉を麻奈実から告げられたとしても、彼はきっとそれを冗談だと判断しただろう。
だって『そういう関係だから』。『高坂 京介と田村 麻奈実』は『色恋とは関係ない関係』だからと。二人だけで話せばそうなっていただろう。
だがそこに第三者であるロックが入れば話は変わる。
これまでの二人の関係を間近で見続け、尚且つ麻奈実の想いを知っているロックだからこそはっきりと告げることができ、そしてそれを否定することは許されない。
ロックという第三者によって京介はやっと田村 麻奈実という幼馴染みを『異性』として認識することになったのだ。
そしてまだ恋愛をしたことがない男子が自分のことを好いてくれる女の子がいると知ったのならどうなるのか……………答えは単純だ。
『気になって悶々としてしまう』
思春期特有の思考に浸りがちになってしまい、それ故に改めて自分の意識が変わっていくことを自覚する。己の過去の記憶を掘り返し、そして幼馴染みの少女が自分にしてくれた事を思い出して改めて羞恥の感情に襲われる。
正直な話、高坂 京介は今、最も田村 麻奈実のことが気になっていた。それも身内である妹からニヤニヤしてキモいと毛嫌われるほどに。
そんな京介が気になるのは今週の土曜日。ロックに言われた『お泊まり』の日。
その連絡は当然麻奈実からも伝わっており、京介は土曜日に泊まりに行くことが決定していた。これが普通の感性の人間なら問題事になるものだが、田村家と京介の付き合いの深さからそんなことにはならない。既に何度も泊まっていることから親戚が泊まりに来るのと何ら変わらない対応になっていた。それに寧ろ田村家としては逆に『問題事に発展して欲しい』だけに泊まりに来ることは推奨しているくらいである。
今までだったら気安く泊まりに行くだけだった京介だが、今回はそうならない。自分の中でもそのことがより深く意識させられている。
そんなこんなで待ちに待った?土曜日。
京介は麻奈実との待ち合わせ場所である自宅近くにある公園に来ていた。
別に田村家は近所で場所など既に知っているのだから待ち合わせなどする必要はないのだが、麻奈実が待ち合わせをしたいというので公園で合流することになったのだ。
「何か………変に緊張しちまうなぁ」
そんなことを京介は呟きながら苦笑を浮かべる。
別に今まで待ち合わせなどいくらでもしてきたのだから今更緊張などしないと思っていたのだが、ロックの所為と言うべきか………何故だかこの待ち合わせがデートのような気分を感じさせた。その所為で妙に緊張をしてしまう京介。
そんな京介の心境など知らないはずだが、彼女もまた緊張していたのだろう。京介の姿を見つけると彼に気付かれぬようにゆっくりと近づいていく。その際に彼女の胸は緊張と不安、そして期待でドキドキと高鳴っていた。
「お待たせ、きょうちゃん」
聞き慣れた声に若干緊張が緩むのを感じつつ京介は声がした方向に振り向く。
「あぁ、まっ!?」
待ったぜ、まったく………そう冗談交じりに返そうとした京介だが、その言葉は途中で驚愕により止まってしまった。
何故なら京介の目の前にいたのは彼が知ってる彼女ではなかったからだ。
「ま、麻奈実、その格好は………」
京介の目の前にいるのは確かに田村 麻奈実だ。それは長年付き合いのある京介なら直ぐに分かった。だけどその姿は今までの彼女ではない。
若干茶色がかった髪が背に届くほどに伸び、少しばかり掛かったウェーブが気品さを感じさせる。その目にはいつもあったはずの眼鏡がなく、くりっとした可愛らしい目が京介の姿をしっかりと捕らえていた。そしてその身に纏う服装もいつもよりオシャレを感じさせるものになっており、真っ白いワンピースに薄水色のカーディガンを来ている。その手に持たれてるのは服に合わせた物なのか真っ白い小さなポシェット。
その見た目はいつもの朗らかな彼女ではない。どこかの深窓の令嬢にしか見えず、しかも薄手の服装の所為か身体のライン……特に胸の形やサイズをさりげなく強調しているという思春期の男子を誘惑する姿であった。
そんな初めて見る格好の幼馴染みに京介は驚きを隠せない。想定していたものを遙かに上回り、その『女性らしい』姿に胸の高鳴り顔が熱くなるのを感じる。
「ど、どうかな、きょうちゃん………似合う?」
不安を感じさせるような瞳をしつつ上目遣いで覗き込む麻奈実。その顔は無垢でありながらどこか危うい魅力を感じさせた。
「そ、そのだな…………凄い似合う………可愛い……ぜ」
麻奈実の問いかけに京介はタジタジになりながらも何とか答える。その反応がいつもの彼と違い、しかも素直に答えていることが付き合いから分かる麻奈実は笑顔になった。京介はこういうときに嘘はつかない。
「えへへ~、そっか~。きょうちゃん、似合ってるって思ってくれたんだ。良かった~」
不安そうにしていた瞳から不安がなくなり代わりに安堵が宿り朗らかな笑顔を浮かべる麻奈実。そんな彼女の笑顔を見た京介は途端に顔を反らしてしまった。
(あれ、麻奈実ってこんなに可愛かったか!?)
改めて幼馴染みの可愛さとその魅力を感じた京介はドキドキが収まらないことに困惑していた。その所為で彼女の異性としての魅力を再確認する京介。
「と、ところでどうしてそんな格好なんだ? それにその髪は………」
そんな精神を感づかれたくなくて京介は早口で麻奈実に問いかけると、麻奈実は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら答えた。
「そ、そのね……私だってこういう服、持ってるんだよって見せたくて………それにこの髪はウィッグだけどそろそろ『いめちぇん?』っていうのをしようと思って伸ばそうと思ってから」
その姿はこれから先の姿の先取りだと答える麻奈実。
そんな彼女の姿に京介は見惚れてしまう。確かに彼女は自分の幼馴染みだと分かるが、同時にこんなに可愛い女性なのだと認識したからだ。
それと供に今までの自分を呪いたくなる自分がそこにいた。幼馴染みの可愛いさをまったく実感していなかった自分が愚かで仕方ないと内心苦悩する。
そんな京介の顔を見て麻奈実は心配そうに顔を覗き込んだ。
「きょうちゃん、大丈夫?」
「!? だ、大丈夫だから………」
間近に迫った麻奈実の顔。普段見慣れている顔だが、そこには彼にとって初めてがあった。
薄らと化粧がが施されていたのだ。それがより彼女の可憐さを際立て、そんな可愛い顔がかなり間近に迫っているというのだから思春期男子は大変だ。京介はドキドキと高鳴る鼓動が耳にまで聞こえてくるのを感じながら顔が更に赤くなるのを感じた。
最初の緊張とはまた別の緊張が京介を支配する。
(あぁ、もう~~~~~~、ロックがあんな事言うから余計に意識しちゃうじゃねぇか!)
そう思いながらも京介は麻奈実から目が離せなくなっていた。
改めて見てもやはり可愛い。それも自分が知ってる幼馴染みのはずなのにまったく違う面を見せられ、その姿に魅力を感じてる自分がいた。
そんなわけでさっきからドキドキしっぱなしの京介。そんな京介に麻奈実は朗らかな笑みを向ける。
「きょうちゃん、家に行く前にちょっとお買い物に行かないと行けないの。今日の夕飯の買い出しとかをしないといけないから。だから悪いんだけど付き合ってくれないかな?」
「つ、付きあッ!? あ、あぁ、うん、そうだな。良いぜ、それくらい」
付き合うという言葉に過剰に反応してしまった京介は自分の早とちりに自己嫌悪をしつつも何とか立て直す。
そんな京介に麻奈実は満面の笑顔で返した。
「ありがとう、きょうちゃん」
その笑顔に京介は頭がクラっとするのを感じた。
「いわお、やけに楽しそうだな」
麻奈実とロックの父親が仕事の合間に休みに来た居間にて、そこにでコーヒーを様になる姿で飲んでいたロックに話しかける。
ロックは父親にそう言われ軽く苦笑した。どうやら自分でも気付かないうちに笑みを漏らしていたらしい。そのことへの苦笑であった。
「やぁ、親父。何、我ながら恥ずかしいとは思うんだけどね。何、新しい始まりというのは得てして楽しみなものなのさ。今日、きっと新しい『ナニカ』が始まる。俺はそれを一等席で祝うことが出来るんだ。これほど楽しいことはそうはないよ」
そう答えながらロックは更にコーヒーを呷った。
その姿を見ながら父親は静かに考えこう返す。
「あぁ、そうだな」
こうして『田村 いわおの恋愛相談』は最終フェーズを迎えた。