俺妹のいわおがこんなにロックなわけがない   作:nasigorenn

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これで俺妹も完結です。短い間ですが皆様、ありがとうございました。


第7話 こうしていわおはロックと成った

 はれて恋人同士となった京介と麻奈実。

 

「きょうちゃん、えへへへ」

「どうしたんだ、麻奈実」

「何か幸せだなぁって。こうしてきょうちゃんと一緒にいるだけで笑顔になっちゃうんだ」

「っ~~~~~~!? あぁ、もう、こいつぅ。可愛過ぎるんだよ、この~」

「キャーーーーーーーーえへへ」

 

 今まで燻っていた分だけイチャつく様はまさに紛う事なきバカップルであった。

そんな幸せそうな姉を見てロックは満足する。弟からすればこれまでずっと拗らせていた長すぎる片思いがやっと成就したのだから。まったくもってめでたいことである。

 こうして麻奈実の恋愛相談という彼女の物語はハッピーエンドを迎えた。彼女は最愛の人と結ばれ、また京介も本当に大切な人に気付きくっついた。田村家の皆からは淀みない喝采と祝福の声が上がりまさに幸せまっしぐらな最高のグッドエンディングだろう。

 物語としてはまさに最高の出来だと言える。

だが、これは本にあるような話ではない。現実なのである。現実である以上、『全てが幸せになれる』なんてことは絶対にない。光があれば闇があるように、幸せがあればそこに必ずすくなからずの不幸が存在するのだ。

確かに京介と麻奈実に幸せが訪れた。この先二人が別れるなんていうことは見た限りあり得ないだろう。田村家の皆も皆嬉しそうだ。

 だが………京介を少なからず慕っていた『他の女性』はどうだろう?

決まっている。皆少なからずショックを受けた。

 彼への想いを自覚している者は悲しみと悔しさで泣き叫び、自覚はしてないものの抱きつつあったものは何とも言えない微妙な顔をする。取り乱す者もいただろう。

 現実とは得てしてそういうものであり、誰かが報われれば誰かが報われない。学校なんかの受験と一緒だ。誰か受かれば当然誰かは受からないのである。京介の隣にあるのはたった一枠のみ。そこに誰かが収まれば残りは皆受からない。世の理としか言い様がない。

 だがここでロックから言わせてみれば、そこで不平不満を漏らす輩は皆ただの負け犬だ。此方は京介を落とすために相応の努力とアクションを起こし、そして射止めた。それをしない者達に謂われはないのである。

 まぁ、そんなわけで幸せな二人の影は多少の者達の影があるわけなのだが、それはそれ、これはこれである。幸せな二人にはあんまり関係が無い。

 多少の不幸はあれど、こうして二人の『恋愛』は始まったのだから。

 

 

 

 だが、それにケチを付ける者がまだいようとは………ロックは思いもしなかったのだ。それも予想外の人物に。まさかここまで『拗らせている』とは思わなかった。

 それは二人が交際を始めてから約二週間が経過した頃、大体周りが落ち着き始めたときに起きた。

 端的に言えばロックがとある人物に呼び出しを受けたのである。それもこの『麻奈実の恋愛物語』に於いてもっとも注目を浴びない人物にだ。

 

「何で俺は呼び出されたのかな………高坂 桐乃さん」

 

 夕暮れ時の公園にて、ロックは京介経由でこうして桐乃に呼び出された。

目の前にいるのはまさに今風の格好をした女子。モデルをやってることもあってスラッとした身体は魅力的であり、異性であるロックからしても格好良く見える。

 そんな彼女だが、その表情はあまり良いものではない。彼女が不機嫌なのは京介を観察すると供に見ていた事で分かっているが、それに加えて今の彼女はロックのことを敵を見るかのように睨み付けている。まるで炎のように燃えさかる怒りを叩き付けられているようだ。正直普通の学生なら怖さのあまり怯えてしまうかも知れない。

 そんな怒気を受けながらも平然と流すロックに桐乃は今にも食いつかんとばかりに怒りに満ちた目で睨み付ける。

 

「アンタね! アンタがちょっかいをかけたからアイツは!!」

 

 憤怒のままにロックにそれをぶつける桐乃。そんな桐乃の言葉を聞いて大体の事を把握した。ロックが知る限り、彼女は素直に認めはしないがブラコンだ。それも独占するタイプの性質が悪いものなのだ。当然気が強い彼女は認めはしないが、京介の行動一つに文句を付け続け、尚且つ最終的に京介に頼ってばかりという辺りは相当なものだろう。

 そんな彼女が言いたいことは勿論最近の事…………即ち京介の事だろう。

京介と麻奈実が付き合い始めたことが彼女には我慢できなかった。彼女にとって麻奈実という人物は大好きだった兄を変貌させた悪人という認識だ。言うなれば元凶である。そんな人物が兄と交際するというのが耐えられない。だからこうして怒り狂っているというわけであり、それをけしかけていたのがロックだと彼女は言いたいらしい。

 

「言いがかりはよしてくれないか? 俺は何もしていないよ。姉さんが京介さんのことを好きだからこそ、こうして告白して付き合ってるんだ」

「嘘よ! あの地味子がそんな急に行動を起こすはずがない!」

「姉さんのことをそういうのはあまり関心しないなぁ。それに地味というのは言い換えれば貞淑だということだ。良妻賢母には必須なものだよ」

 

 ロックがそう言うと彼女は更に怒る。既に限界を突破しているんじゃないかと思うくらいその顔は赤い。

 

「五月蠅いッ!! あの地味子が………マナちゃんがそんなに急に動くはずない。それにアイツがソワソワし始めたのはここ最近、そして最近あった事と言えばアンタが倒れておかしくなったってこと。つまりアンタが何かしたからこうなったのよ!」

 

 言いがかりではあるが的を得ている発言に内心ロックは関心する。ただのブラコンだと思ったが、どうやら以外と頭は回るらしい。

だからこそ、少しばかり解禁する。

 

「そこまで言われては何もしていないとは言えないな。確かに俺はあの二人の交際に関し少しばかりは関わりは持っている。だがそれはただ姉さんの相談に乗っただけだよ。それ以外は特にしていない」

「っ!? それがちょっかいだって言うのよ! アンタの所為で!」」

「それは待って欲しい。何度も言うが、俺はただ姉さんの相談を受けただけだ。それが京介さんと付き合いたいというものだったわけだが、別にしたのは何てこと無い普通の相談だよ。それにしてもさっきから随分とお怒りのようだが、何故そこまで怒っているのか俺には分からない」

 

 その言葉が余計に桐乃の怒りに火を注ぐ。

 

「はぁ? 巫山戯んじゃないわよ! 許せるわけないじゃない、アイツを堕落させたマナちゃんを。そんなマナちゃんがアイツと付き合うことなんて絶対に許せない!」

 

その言葉にロックは呆れた表情を浮かべる。

 

「君が言っているのはただの私怨だろう。それで京介さんを縛り付けるのは同じ下の者として関心しない。逆に言えば俺が姉さんの相談を受けたのは姉さんの幸せを願ってだ。身内が幸せになる手伝いをする。それは身内として当たり前の事だろう。君がやっているのは真逆だ。京介さんの幸せに水を差す気かい?」

 

 そう答えるロックは微笑みを浮かべる。まさに聖人君子のような笑みと言えるだろう。

 それが桐乃には我慢できなかった。

陸上部仕込みの脚力をもって一気にロックとの距離を詰めると躊躇することなくロックの頬に平手を叩き付けたのだ。

 

「!?」

 

流石のロックもコレには驚く。単純に驚いただけだが。

 そして桐乃の怒りは業火となった。

 

「アンタのその面を見て分かった……アンタが今回の事の犯人だってこと。アンタがマナちゃんを唆してアイツにけしかけたってことがね!」

「さっきも言ってるがそれは言いがかりだと」

「嘘ね! 確かにアンタが言ってることは世間一般からすれば正しいのかもしれない。でもね………その顔! その顔でそうじゃないことがわかる! アンタのその顔、陸上の大会の時に見たことある顔よ。それも卑怯な事をバレないようにして自分達の都合の良いように競技を運ぶ汚い大人の顔、今のアンタはそんな顔をした。それはマナちゃんの幸せを願ってる顔じゃない。それは自分が思うようにマナちゃんを動かして自分が思い描いた形に物事を成す下衆の顔よ!」

 

その言葉にロックは少しだけショックを受ける。

自分ではそんなことはないと思っているはずなのに、何故かショックを受けたのだ。

 今にも殴りかかりそうになっている桐乃。そんな彼女にロックは熱を持ち始めている頬を意識しつつも答える。

 

「それは言いがかりだし、何よりもそんなつもりはない。そして此所が重要だ。いくら俺でも子供の癇癪に付き合い続けているほど暇ではないからね。君がいくら喚こうと京介さんと姉さんの仲は決定している。既に振るったサイの面は決まっているんだ。それを気にくわないと喚くのは結構だが、それで京介さんを不幸にすることだけは間違っている」

 

 ロックの言葉に桐乃の顔が一瞬だけ曇る。

それを見逃さないロックはここに来て、初めて『汚い大人の顔』をした。

 

「良く聞けよ、小娘。アンタが認めないと喚くのは結構だが、いくらしようが負け犬の遠吠えに変わりはない。アンタが今から二人の間に割り込もうとも結果は絶対に覆らない。アンタが京介さんのことをどう思おうとも勝手だが、それは絶対に叶わない。無理に叶えようとしてもその先にあるのは絶対不可避のバッドエンドだ。誰も幸せにならない。喚くのは結構だが、アンタの不幸に京介さんを巻き込むな。アンタが言ってることはそれこそアンタが言う下衆そのものだってことを自覚しろ………負け犬の小娘」

 

普段のロックよりも凶暴な言葉遣い。それでいて不相応な大人らしさはより極み、まるでマフィアの頭目のような貫禄を見せつける。その目は桐乃を見ていない。桐乃を見ている目はまるで豚を白い目でみるアレと一緒だ。唾棄すべき汚物を見るような、そんな腐った目。

 それを向けられた桐乃は一瞬で頭に昇った血が引き下がるのを感じ、そして恐怖に身体が震え出す。

 目の前にいるロックが何なのか、その人に向けてはならない視線に晒されて怖くて仕方なくなったのだ。とても同じ人間には思えない。

 その視線に耐えられなくなったのか、彼女は逃げるようにその後を去って行った。

その背中を見送るロックは自嘲気味な笑みを浮かべている。その心には内心少なからず考えさせられることがあった。

 

 

 その日の夜、ロックは父親と二人でいた。既に母親や祖父母は眠り、麻奈実は明日の京介とのデートに胸をときめかせている。

 

「なぁ、親父……聞いてくれないか」

 

そうロックは父親に声をかけると桐乃との話をやんわりとした感じで話し始めた。

 

「どうやら俺は人を駒のように使って弄ぶ最低野郎らしい。そんなことは思ってないつもりだったんだが………何故だか否定できない気がする」

 

自嘲気味にそう語るロックに父親はゆっくりと考えると静かに答えた。

 

「確かに否定出来ないならそうなのかも知れない。お前が麻奈実を動くように指示していたことは事実だしな。でも同時にお前は麻奈実の幸せも確かに願っていた。ならそれは両方ともそうだったってことだろう。弄んだとまでは行かないが、お前は上手くいく状況を楽しんでいたのかも知れない。そして同時に姉の幸せも確かに願ったんだ。どちらかしかないというのは難しいからな。それは世の中よくある話だ。俺だって一緒だ。お客さんに美味い和菓子を出したいと心がけるが、ソレと同時に利益が欲しいと考える。どちらも譲れないだけに不純にも思えるが、それが社会というものだ。お前は年頃にすれば間違っているのかもしれないが、社会的には間違ってはいない。俺はお前を責めることは出来ないよ」

「そうか………」

 

その答えを聞きながらロックは静かにコーヒーに口を付けた。

 結局のこの問題に答えなんてないのだろう。なら自分はどうするべきか。どうあるべきか、そう考えた。

 

 

 

「早く行こうぜ、いわお」

「いわお、置いてくぞ」

「何してんだよ、いわお」

 

 目の前で早く来いよと急かす友人達。

そんな友人達に向かってロックは不敵な笑みを浮かべこう言うのだった。

 

「俺はいわおじゃない。ロック………そう俺はロックだ。だからこれからはロックと呼んでくれ」

 

 

 こうして彼は『ロック』となったのだ。その目に映るのは夕闇の狭間かもしくは真っ暗な闇か………それを知る者は誰もいない。だからこそ、それを決めるのは彼自身だ。その瀬戸際を見極めるために。

 

 

 

『俺妹のいわおがこんなにロックなわけがない』………完ッ!!


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