暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
勉強をしていつの間にか土曜日になりました。
そんな休日の午後。僕は現在、どこにいるかと言うと……
「ここで合ってるよね~?」
改めて場所を確認する……うん。大丈夫だ。問題ないね。
ピンポーン
「うーん……?」
インターホンを鳴らしてから僕は迷った。
ピンポンダッシュをするかしないかを。
しかし、迷うのが如何せん遅すぎたのだ。
「はーい……あれ?しっかり居たんだね」
「むぅ。僕を誰だと思ってるのさ~」
「てっきりピンポンダッシュをするんじゃないかなーって」
「いくら僕でもそんなことしないよ~」
何でばれたんだろう。おかしい。絶対にばれないと思っていたのに。
「まぁいいかな。さぁ、あがって」
「お邪魔しまーす……」
そう言って有鬼子の家にあがる僕。
ガチャリ
有鬼子が後ろ手でドアのカギを閉める。
「ふふっ……」
そして静かに笑う彼女……あれ?今の状況相当マズくない?
「安心して風人君。…………絶対逃がさないから」
こ、こわぁ…………っ。
「あ、あはは……逃がさないって……」
「大丈夫。逃げたとしても……地獄の果てまで追い掛けるから」
目に光が宿っていない。…………あ、詰んだかも。
「なんて。冗談だよ」
「そーいうの良くないと思うんだ。怖すぎだったよ~」
「ごめんごめん。何かおどおどしている風人君が可愛いくて……ちょっと苛めたくなっちゃった♪」
おどおどしているって……隠しているつもりだったんだけどなぁ。
いやね。あれだよ?涼香の家とか行く時なんて緊張とかそういうのは一切ないけどね?一応家の中まで入るのは初めてなわけだし……こう、ね?さすがに僕のメンタルは鋼じゃないよ?
というか、それを分かった上で怖がらせてくるとか…………やっぱり鬼じゃね?彼女の皮を被った鬼だろう。
でもお陰でなんかそういうものが吹っ飛んだ気がする。
「じゃあ、案内するね」
僕の横を通って先に靴を脱ごうとする。そんな有鬼子の腕を右手で引っ張り、
「「…………」」
彼女の後頭部を左手で押さえながらキスをする。
数秒ほど唇を合わせたあと、離れると、そこには顔を真っ赤に染めている有希子がいた。
「ふふん~仕返しだよ~取り繕っていたようだけどバレバレだね~」
さっきまで僕をおちょくっていた有鬼子も結局緊張していたことに変わりはないんだ。
「もう……親がいたらどうするの……」
あきれているように言っているけど恥ずかしがっているのがバレバレだ。…………あれ?有鬼子ってこんなに可愛かったっけ?なんというか……そう。凄い可愛い気がする。
「気配でいない事ぐらいはバレバレなのだ!」
(それはそれで凄い気がする……)
「じゃあ、勉強しよっか~今日の目的はそれでしょ~?」
「うん。いこっか」
とりあえず彼女の部屋に案内される僕。そしてその部屋の扉を開けるとそこには……!
「ふ、普通だぁ……!」
「……その反応はあまりにも失礼じゃないかな?」
「だってだよ!あの有鬼子様の部屋だよ!そりゃあもうゲームが山積みになっているとか!そうじゃなければ拷問器具でいっぱいとか……!それがなんか凄い普通なんだよ!普通に綺麗に整頓されていて……おかしい。僕が間違っていたのだろうか……はっ!」
慌てて口を押さえる僕。しかし、時既に遅しという奴で目の前には目以外が物凄い笑顔で……視線だけで人を殺せそうな感じがする。
「…………ふーん」
ゆっくりと、頷いた後、次の瞬間容赦なく足払いを仕掛けてくる。僕はそれを避けようと跳んだが僕の身体が空中にあり、抵抗できないタイミングで片手で僕の頭をつかんで、
ガンッ!
床にたたきつける。
幸いクッションが頭の位置にあったおかげで助かってはいるが……およそ、彼女が彼氏にしていいようなそんな行為じゃないだろう。
そして僕のおなかの上で馬乗りになる有鬼子。そして、
「風人君。今謝れば許してあげる」
握りこぶしを作りながら笑顔でそう言ってくる。
「ふっ、僕が謝るわけ――――」
ドンッ!
こぶしが容赦なく振り下ろされる……僕の顔から数ミリ横にそれた位置に。
「もう一回言ってあげようか?」
こ、この人……本気だ!本気で僕を殺す気だぁ!
「ごめんなさい」
そう察した僕は素直に謝ることにしました。
最近思うこと。彼女の容赦がなくなっている気がする。あれ?僕らって本当に付き合っているんだよね?
学園祭の終わった日。風人君が私に勝負しようと提案してきた。その勝負の内容はテスト。私が勝ちを収めた――と言ってもあまり望んだ勝ち方ではなかった――あの一学期期末テスト。簡単に言うとそのリベンジをしたいらしい。
勝負するのは5教科。国語、数学、英語、理科、社会の5教科で、1つでも私が風人君以上の点数を取ったら勝ち。…………と、ここまでなら前の戦いの敗因を踏まえたルール設定と言える。そこに彼はもう一つ追加した。
「もし、僕が学年一位を取れなかったら無条件で僕の敗北。有希子の勝ちでいい」
それを聞いた時私の中にはあらゆる感情が生まれた。私はゲームが好きだ。勝負も好きだ。ただ、ここまでハンデを与えられた状態で彼と戦うことに私は抵抗を覚える。
彼が私のことを舐めてるとかそう言うわけじゃなくて、もっと単純だった。
「無茶苦茶なことを言っている。でも……お願い」
単純に悔しかった。
彼は本気だ。でも、彼自身が最大限本気を出すには私じゃ役不足だったんだ。
この勝負は私と風人君の勝負。でも、風人君にとって、意識的にか無意識にかは分からない。ただ彼は私を相手としてみてない。その先にいるカルマ君や浅野君を見ている。私に勝てるという油断?そんなのは一切ない。だって、彼の目はいつになく本気だったから。
「……分かったよ。その熱意に応じてあげる」
だから私は勝負を受けた。
このゲームの必勝法は一つだけ。私がどれかの教科で満点を取ればいい。いいや、必勝法じゃないか。私の唯一の勝ち筋なんだ。
風人君は本気で全教科満点を取りに、学年一位を取りに来るだろう。前回の勝負は同点は引き分けだったが今回は同点を風人君の負けとした。だってそうじゃないと私に勝ち筋がなくなるから。
薄々風人君は感じているんだろうな。今回は1問……いや、1点でも落としたら負けるようなハイレベルの戦いになるって。それを自覚させるためにこの勝負を挑んでいる。…………なんか都合のいい道具みたいだなぁ。まぁ理由が理由だから許すけどさ。
風人君はきっと私が関わらなくても満点を取れるように努力するだろう。じゃあ、何故この勉強会を開いたか。簡単な話だ。私が点を伸ばすためだ。
「ねぇ。ここの問題教えて」
「うん~ここはね~……」
死神の一件以来、風人君の人格変更はなくなり、一人称の変更は起こらなくなった。
真面目な話をするときに「私」を一人称にしなくて話せるようになったし、怒っても「オレ」になることはない。風人君が言うには本来の自分に戻ったって言ってるけどそれは違うと思う。
彼はようやく自分の足で立てたのだ。
言い方はアレだが多分この表現がふさわしい。
「ありがと。じゃあ次はこっち」
「は~い」
後はこのゆったりとしたしゃべり方の時でも教えるのはうまくなったのも成長だろうか。
「ん~よく勉強しているな~我ながら」
時刻は7時頃。休憩も少しは挟んでいるけどそれでも長いこと勉強している気がする。
「遅くなっちゃったけどそろそろ夕飯作ろうか」
「だね~」
どうやら有鬼子のご両親は今日は外泊してくるらしい。理由はこの地区のなんとかと言っていた気がするけどあんまり記憶に残ってない。つまり、この家には今、僕と有鬼子の二人だけ…………?ん?何だろう。夕食作り、二人きりと思うと不思議と包丁を持った鬼が追いかけてくるイメージが流れる……気のせいだよね?うん。
ガチャ
「降りてきたか二人とも」
「ご飯できているわよ」
リビングへと続く扉を開けるとそこには一組の夫婦と、食卓には料理が並んでいた。
ガチャ
それなのになぜか有鬼子はドアを閉める。
「…………(ブツブツ)」
何故だろう。ドアに額を当て小声で呪詛のように唱える彼女。声は聞き取りにくいけどその姿を見ていると……うん。寒気しかしないね。
「……風人君」
「はい」
「ちょっと待っててね」
そう言うとドアを開けて乗り込む有鬼子。ちょっと待っててと言われたので、一瞬だけ動きを止めてから有鬼子に付いていく。人によって時間の感覚は違うからね。しょうがないね。
「お父さん!お母さん!今日は外泊してくるんじゃ……!」
「ああ。俺が急遽明日仕事入ったからキャンセルした」
「しっかりと連絡入れておいたわよ……あ、貴方が風人君ね」
「そうです~有鬼子のお母さん」
「あ……本当だ……数時間前に連絡が……」
「そういうことだ。で、君がウチの娘と付き合っている」
「これからもよろしくね。あ、嫌いなものとかある?」
「嫌いなものはないです~コホン。有希子さんとお付き合いさせてもらっている和光風人です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
「よろしくね。ほら有希子。貴女も早く座りなさい」
「う、うん……って風人君!?いつの間に!?ちょっと待っててって言ったじゃない!」
隣に座るや否や物凄く驚いている有鬼子。あれ?会話にも混ざっていたのに気付かなかった?
「まーまー。気付かなかった方が悪いと言うことで~」
「うっ……」
「じゃあ、食べましょうか。いただきます」
『いただきます』
ということで手を合わせ、食べ始める。
「何か……納得いかない……」
何が納得いかないんだろう?そんなことより、
「おいしい~」
「ありがとうね」
いや~あれだね。平和だね。有鬼子の親だからもっと怖いかと思った。
そんな感じで談笑しながらご飯を食べるのであった。
夕食も終わり一段落ついた頃。
「有希子。先風呂入っていなさい。ちょっと風人君とお話していたいわ」
「うーん。僕は勉強があるのでちょっと遠慮――」
「一緒にゲームしながらね」
「――わーい。ゲームする~」
あっさり風人君がゲームに釣られた。あれ?お母さんってゲーム……まぁいいか。
「安心しろ。別にお前らの関係にとやかく言うつもりはない」
顔を青ざめるようにして私に言ってくるお父さん。ふふっ。1年前は絶対に考えられなかったことだ。
「はーい」
従う……という言い方はあれだが言われたように私は風呂に入る準備をして風呂に向かう。
歯を磨いたり諸々し、服を脱ぎ、シャワーで髪を洗い終えた後に湯船に浸かる。
「ふぅ……」
風人君が来る前――朝からずっと勉強していたからさすがに疲れた。
「風人君の適応力高いなぁ……」
私でさえ急に親がいて戸惑っていたのに、何も気にした様子がなく受け入れていて……はぁ。流石というか何というか。
それにしても危なかった……風人君を泊めると言うことを伝えておいてよかったぁ……。
「……あれ?」
今って私がいないから……?ま、まさか話したらマズいことを……!……んん?私に関して話したらマズいことなんて存在したっけ?お父さんを黙らせた話?あの程度では風人君からの評価なんて変わりようがないだろう。
でも、本人が聞いたら笑っちゃうかもしれないけど、私は風人君のおかげで自分の心をさらけ出すことに抵抗を覚えなくなった。他者からの評価なんてお構いなし。自分の思うままに生きようとする彼の姿を見て。
「ふふっ……」
なんかいいなぁ。こういうの。風人君はきっと私がすべてをさらけ出しても受け入れてくれる。もっと、この自分の中の黒い心をさらけ出しても。うーん……ヤンデレ路線もいいかもしれないけどちょっとなぁ……いや、狂おしい程に風人君のことを愛しているのは事実だけど、風人君のバックグラウンドを考えるとあんまり……。
「まぁいいかな」
そんな感じで風呂を出る。浴室と脱衣所の扉を開け……
ガラッ
脱衣所と廊下を繋ぐ扉が独りでに開いた。
「…………え?」
「…………あ」
一瞬の沈黙。
時がまるで止まってしまっているのではと錯覚させられる気分に陥る。
目の前には珍しく固まってこちらを見る風人君。
そんな彼を前にして私は……
「きゃあああああああああああああああああああああああ!」
少し時を戻そう。
僕は有鬼子のお母さんに誘われゲームすることにした。と言っても、電動ゲームでなく、トランプでのゲーム。近くにいた有鬼子のお父さんも誘ってババ抜きをしていた。
「ふふふっ。実物を見ると聞いていたのと同じくらい面白い子ね」
「何を聞いていたんですか~?」
「超マイペースで自由人。褒めていた……というより悔しがっていたわよ。学力とか自分より遙かに上だって」
「あはは~そんなことないですよ~」
別に遙か上だとは思わないんだけどなぁ~まぁいいや。
「君にはこれでも感謝している。私は……娘をしっかりと見ていなかった。親失格だ」
「あの時のあの子は凄かったわよ。本当に」
「あの時?」
「そう。あの子は今までお父さんには決して逆らわなかったの。まぁ、内心ではそのせいで荒れていたのに気付いたのは遅すぎたんだけどね」
「去年の夏の非行。気付いていたら止めていたはずだった……なのに気付けなかったのはきっと娘を娘として見ようとしてなかったからだろう」
「それが進路に関して喧嘩して、その上であの子が君と付き合うって言ったときにはもうね」
うわぁ……うちでは想像できないなぁ……。
「お父さんも頭に血が上ってつい彼氏――君をバカにする発言をしたの。そしたら、あの子、恐ろしいほどにキレてね」
「やめてくれ……思い出すだけで鳥肌が立ってくる」
血の気が引いていく有鬼子のお父さん……何したんだろう……マジで。
「でも、その件のお陰でお父さんも強く言うことはなくなったし。何というかようやく丸く収まったのよ」
「大変そうですね~」
「君も気をつけた方がいい。あの子は怒らせると……死を覚悟した方がいい」
「大丈夫です。既に何度も死を覚悟しましたから」
(凄いいい笑顔で言ってるけど……え?それって大丈夫なの?あなたたち)
何だろう……有希子のお父さんからはシンパシーを感じる。とても他人とは思えない。
「コホン。でも君の存在があの子にとって大きなプラスになっているのも事実だ」
「本当にね。あの子が君のこと話すときは凄い楽しそうよ」
「だから……というわけでもないが、これからもよろしく頼む」
「任せてください」
と、後は数回ババ抜きをした。有希子の祖母の話とか、後は秘蔵のアルバムがあるとかいろいろ聞かせてもらう事ができた。で、そんなことやってると有希子のお母さんがもう風呂行っても大丈夫よって親指を立ててグーってやって来た。
おかしいな?人が通った気配はないんだけど……?ま、いっか。時間も経ったしもう大丈夫だろう。
「面白いことも聞けたな~」
とりあえず脱衣所と廊下の間の扉を開ける。
ガラッ
「…………え?」
「…………あ」
その美しく長い黒髪は水分を含み、毛先から水滴が垂れ落ちる。
そしてその水滴は、普段衣服に包まれて見ることが叶わない胸にある二つの小さな丘。その片方を超え腹部へと進む。
僕は無意識に水滴を視線で追い掛け、そのまま下に。傷一つ付いていないその美しい肌を滑る水滴は少しくびれのある腹部を下り、足の付け根へと……
「きゃあああああああああああああああああああああああ!」
僕にはこの後の記憶がない。
最後に覚えているのは衣を一切身につけていない彼女の姿。
そして、その可愛い顔を紅潮させる彼女だった。