暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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理事長の時間

 取り出された解雇通知という名の禁断の伝家の宝刀。

 まさかのカードに僕ら全員は神妙な面持ちを浮かべている。

 

「面白いほどに効くんだよこのタコには!」

 

 いや、カードに対してもだけどそれに対する殺せんせーの反応が面白い。凄い取り乱している。ふっ。仕方ない。助け船を出すか。

 

「りじちょー!それは余りにもふとーです!」

「か、風人君……!」

「確かにこのタコはエロくてスケベで変態で巨乳主義で、教員室の机の引き出しの二重底の下にそういう本を隠しているどうしようもない汚職性犯罪教師です!」

「か、風人君!?何で君がそんなことまで知っているのですか!?」

 

(((いや、前の下着ドロの濡れ衣の件で懲りてなかったのかよ!)))

 

「ですがそんなタコでも僕らをここまで育て上げ、真摯に向き合ってくれた素晴らしい……」

 

 と、自分で言ってて思う。あれ?学校でエロ本を読んで生徒のゴシップネタに敏感で変態な教師……ふむ。

 

「りじちょー!せんせーの解雇は適当だと思います!」

「君は何がしたかったんですか!?」

 

 いやね。少しでもフォローできるかな?と思ったら意外に難しかった。

 

「早合点なさらぬように。これは標的を操る道具に過ぎない」

「ダメだったんだよ殺せんせー!せんせーは一度解雇されて大人しく反省するんだ!」

「そんな不当で急な解雇は断固反対です!解雇されたら私はどうやて生きていけばいいんですか!」

「そんなのその辺の草でも食べて生きていくんだよ!」

「嫌ですよ!多額の退職金を貰って豪遊したいです!そもそも給料が安すぎるんです!」

 

(((こいつら聞いてねぇ……理事長先生が怖いくらい笑みを浮かべてるぞ……)))

 

「自分が金使いすぎるから金がなくなってるんでしモゴモゴ」

 

 と、不意に後ろから口元を抑えられる。くっ……!

 

モゴモ(放して)――」

「これ以上喋るなら首を捻切るよ」

「…………」

 

 何でそんな恐ろしいことを平然と言えるのだろう。怖い。怖すぎるんだけど……。

 

「……私は殺せんせー、あなたを暗殺に来たのです。私の教育に……不要となったのでね」

 

 その一言に抗議を続けていたせんせーも押し黙った。というか誰か助けて。後ろの人に殺されそうです。え?喋ったら殺す?僕は人質か何かですか?

 

「……本気ですか?」

「確かにあんたは超人的だけど思いつきで殺れるほどウチのタコ甘くないよ」

 

 そんな言葉を聞いて静かに微笑む理事長。

 

「取り壊しは一時中断してください。中で仕事を済ませてきます」

 

 そして工事関係者にそう伝えると、僕らを教室から追い出す。よし、お陰で有鬼子からの拘束も解けた!

 教室内をセッティングし、殺せんせーと理事長の二人が向き合った。

 

「もしもクビが嫌ならば……この教室を守りたくば、私とギャンブルをしてもらいます」

 

 す、すげぇラスボス感。なんてプレッシャーだよこの人。

 

 ここで理事長が持ち出したギャンブルについて。ルールは簡単。

 用意されたのは五つの手榴弾と五教科のそれぞれ一冊ずつの問題集。

 手榴弾は四つは対せんせー用、一つは対人用のものらしいが匂いや見た目では区別不可能。ちなみに、ピンを抜きレバーが起きると爆発するらしい。

 で、まずピンを抜きレバーを起こさないよう慎重に問題集の適当なページに挟み込む。そのページを開いて右上の問題を解くらしいが……普通に考えたら開いて一秒に満たない時間で爆発するから常人では不可能。だが、せんせーはマッハ20で動ける超生物だからギリギリ何とかなるレベル。ちなみに解けるまで動くの禁止らしい。

 順番は殺せんせーが先に四問、最後に理事長が一問解くそう。

 

「このギャンブルで私を殺すかギブアップさせれば……あなたとE組がここに残ることを許可しましょう」

「ははっ」

「どうしたんだい?和光君」

「いいや~凄いせんせーが不利だなぁーって」

「確かにそうだね。しかし、社会に出たらこんな不条理の連続だよ。強者と弱者の間では特にね。だから私は君たちにも強者側になれと教えてきた」

 

 殺せんせーの肩に手を置く理事長。

 皆は不公平とかそう思っているだろう。でも不思議なことが一つだけある。不利ではあるが殺せんせーも理事長も命というリスクを負ったギャンブルになっている。

 僕が理事長側の立場なら極論、五つとも対せんせー手榴弾にして、五回ともせんせーに解かせる。そしてせんせーが生きてクリアすれば自分の負け。そうすれば、理事長はノーリスクで暗殺を仕掛けられる。

 理事長が死ぬ確率は存在する。ルール的に理事長の番が回ってきたら確実に死ぬ。確率をゼロにしようと思ったらできたはずなのに何故しなかったのだろう?ギャンブルがしたい?試したい?命をかけたい?ダメだ。全然読めない。

 

「さぁ、チャレンジしますか?これはあなたの教職に対する本気度を見る試験でもある。…………私があなたなら迷わずやりますがね」

 

 理事長の威圧感はこっちまで届いている。それに対してせんせーは、

 

「も、もちろんです!」

 

 了承の意を示す。いや、了承しか選択肢がそもそも残っていないか。

 そして数学のテキストの前に座る殺せんせー。理論上と言ったらあれだが早い話、開いた瞬間に解いて閉じれば爆発しないのだ。それがせんせーには出来る。だが……あの殺せんせーは何しろ緊張するとテンパりやすいんだよなぁ……今は完全に理事長のペースだし。

 意を決して問題集を開く殺せんせー。

 

 そして約1秒後。

 

 バアァァンッ!

 

 大爆発。風圧は外にいた僕らのところまで届いてきた。

 殺せんせーを見ると大ダメージを受けている。とてもじゃないがあと三回は耐えきれないだろう。

 

「まずは1ヒット。あと3回耐えられればあなたの勝ちです。さ、回復する前にさっさと次を解いてください」

 

 浅野理事長は解雇通知をちらつかせながら余裕な表情で殺せんせーを見ている。

 狼狽える僕らに対して理事長は諭してくる。

 

「弱者は暗殺でしか強者を殺せないが、強者は好きな時に好きなように弱者を殺せる。私はこの真理を教える仕組みを全国にばらまく。防衛省から得た金とあなたを殺した賞金があれば全国に我が系列校を作れるでしょう」

 

 なるほどねぇ……。

 

「でもさぁりじちょー。本当に強者は弱者を好きな時、好きなやり方で殺せると思ってるの~?」

「えぇ。現に今証明して見せているでしょう?」

「まぁ殺せたら証明かんりょーだね~殺せたらだけど」

「まぁいい。さぁ、殺せんせー。私の教育の礎となってください」

 

 あと三回喰らえば殺せんせーは死ぬ。それぐらい僕でも分かる。でも、あと三回喰らわなければ死なないだろう。

 次の瞬間。社会のテキストを開き閉じたせんせー。問題集の表紙には紙が貼り付けてあった。

 

「はい、開いて解いて閉じました」

 

 固まる理事長。

 

「この問題集シリーズ……ほぼほぼどのページにどの問題があるかを憶えています。数学だけ難関でした。生徒に長く貸してたので忘れてまして……」

「私が持ってきた問題集なのにたまたま憶えていたとは」

 

 せんせーの言葉に対し、呟くように応えた理事長。だがそんな偶然が起きたわけではないことくらい理事長なら分かってると思うが……。

 

「まさか。日本全国全ての問題集を憶えましたよ。教師になるんだからしっかりと勉強しました。『問題が解けるまで爆弾の前から動けない』こんなルール情熱のある教師ならクリアできますよ」

 

 理科と国語も問題を開いて解いて閉じるせんせー。

 そう、今殺せんせーが言っていることくらい理事長なら分かっていたはずだ。あの常識外れの教師バカにこの手は通用しないことくらい。

 

「残り1冊……あなたの番です。どうですか?目の前に自分の死がある気分は。死の直前に垣間見る走馬灯。その完璧な脳裏に何が映っているのでしょうか?」

 

 理事長が何を思い何を考えているかは分からない。

 あの浅野理事長とは言え、開いて解いて閉じるなんて不可能だ。絶対に爆発する。

 普通の人間だったら100%死ぬと分かった状況でこのギャンブルを続けないだろう。

 

「………殺せんせー。私はね。もしあなたが地球を滅ぼすなら、それでも良いんですよ」

 

 英語の問題集を開いた理事長。

 

 ズドン!

 

 閃光と共に本物の爆弾の音が響き渡る。教室内では煙が充満して状況が分からない。

 煙が晴れて行き残ったのは……

 

「ヌルフフフ」

 

 笑う殺せんせー。そして、薄い膜のようなものに包まれた理事長の姿だった。

 

「私の脱皮をお忘れですか?」

 

 月に一度のせんせーの切り札。

 

「……何故私に使った?」

「私が賭けに勝てばあなたは間違いなく自爆を選ぶでしょうから」

 

 立ち上がる理事長。

 

「似たもの同士だったからです。テストの間に昔のあなたの塾の教え子たちに会いに行ってきました。あなたの教師像や起こったことも」

 

 話によれば、浅野理事長は昔、ここで小さな塾を経営していたそうだ。最初の生徒は三人。そのうちの一人が中学に上がり……自殺したそうだ。

 それを浅野理事長は責めた。自分が良い生徒へと育て上げたのに……すぐに死んでしまったからだ。

 

「私の求める理想は、昔のあなたの教育とほぼ同じでした。私があなたと比べて恵まれていたのはこのE組があったからです。あなたは昔描いた理想の教育を無意識に続けていたんですよ」

 

 するとせんせーはどこからか対せんせー用のナイフを取り出した。

 

「これからもお互いの理想の教育を貫きましょう」

 

 ナイフを受け取った理事長。

 

「このE組は温情を持って存続させることにします」

「ヌルフフフ。素直に負けを認めませんね」

「それと、たまには私も殺りに来て良いですかね?」

 

 そして先ほどとは違う笑顔を向ける理事長。

 

「ヌルフフフ。好敵手にはナイフが似合う」

 

 こうして理事長来襲編は幕を閉じたのだった。


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