暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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守る時間

 その日の夜。窓をノックする音が聞こえた。

 

「殺せんせーか」

「ええ。今時間ありますか?」

「いいよ。でもここじゃあれだし屋根の上でいい?」

 

 というわけで屋根の上に登る僕ら。空を見上げながら僕は話し始める。

 

「ねぇせんせー……僕は止めるべきだったのかな」

 

 帰ってからずっと悩んでいた。僕は彼女の復讐を止めるべきだったのではと。

 

「君は気になったらトコトン突き止める性格だ。誰にもそのことを言わずに一人で突き進んでいく」

 

 耳が痛い話だが自覚はある。鷹岡のこと、殺せんせーのこと、茅野のこと、ジョーカーのこと。最初の三つは実際調べきって考察して確認して。僕は人より多くの情報を持っていたし、鷹岡はともかく他の二つは今も周りの皆より情報を持っている自信はある。ジョーカーは……結局僕一人では真相にたどり着かなかったけど。

 

「だからこそ知らなければよかったことも君は知ってしまい、それを一人で抱え込んでしまっている」

「あはは~だよね……」

「私も甘かった。茅野さんについてそこまで知ることが出来なかった」

「……いつしかさ。実は茅野のことが怖くなってたんだよ。だってさ、憎い復讐相手がすぐそばにいるのにその復讐心を、殺意を僕は真実を確認した後も全然感じ取れなかったんだよ」

 

 ……まぁ、殺気とかはこの教室にいたせいで割と溶け込んでたし、復讐心も僕という素晴らしい身代わりがいたから不自然ではなかっただろう。

 ただそれは溶け込んでいたとか不自然ではなかったのような受動的ではなくて、彼女がそうさせたのだろうけど。だから怖いのだ。

 怖くて怖くて……でもこの教室でそんな風に怖がってるということを悟らせたくなくて。だから親しげな愛称で、親しげな感じで接していた。接しようとしてきた。

 

「でも僕には止める資格はなかったんだよ……僕は同じ穴の狢。あの日まで復讐のためだけに生きて、ジョーカーっていう敵をやれたら正直死んでもいいって思ってた。復讐を果たせば自分はどうなってもいいって。そして僕の復讐は果たされた」

 

 ――――まぁ今の僕にはどうなってもいいなんて気持ちはさらさらないけど。

 彼女は今、復讐の相手を殺そうとしている。復讐を果たそうとしている。

 

「せんせー。僕は……どうすればいいのかな?どうすればよかったのかな?」

 

 茅野を死なせたくないのも、止めたいのも本心だ。でも、僕には止める資格がない。復讐を果たした僕には彼女を止める資格はないんだ。

 

「風人君。人は時に間違えます。せんせーも多くのことを間違えました。でも過去は変えられない」

「そうだよね……」

「私は君に答えを掲示しない。だから君はどうしたいのか。何をすべきなのか。何が大事なのか。明日までに考えてみてください。どの道を選ぶかは君次第です」

 

 去って行く殺せんせー。

 

「どうしたいのか……」

 

 僕は夜空を見上げて、考えることにする。僕はどうしたいのか。どうすればいいのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。殺せんせーは全てを話す決心をした。ただ、それは僕ら三年E組の生徒皆が揃ってる時にとのこと。

 で、茅野からメールで今日の夜7時に裏山のすすき野原に来るように指示があった。

 そして現在。僕らは茅野の呼び出しがあった場所にいる。

 

「来たね……じゃあ、終わらそ?」

 

 見るからに調子が悪そうな茅野。

 

「茅野さん、その触手をこれ以上使うのは危険過ぎます。今すぐ抜いて治療しないと命にかかわる」

「え、何が?すこぶる快調だよ。ハッタリで動揺を狙うのやめてくれる?」

「……茅野。全部演技だったの?楽しい事も、色々したのも、苦しい事みんなで乗り越えたのも」

「『演技』だよ。これでも私の役者でさ?渚が鷹岡先生にやられてるときも、じれったくてしょうがなかった。不良に攫われたり、死神に蹴られた時なんかはムカついて殺したくなったよ。でも耐えてひ弱な女子を演じ続けた。殺る前に感づかれたらお姉ちゃんの仇が打てないからね。まぁ、風人君には気付かれたけど」

 

 僕は皆より前に出る。

 

「ねぇ茅野……復讐なんてやめにしない?復讐なんてさ、何にもならないよ」

「うるさいなぁ……君は黙っててよ」

「僕の時と違ってさ。殺せんせーが雪村あぐりさんを私利私欲の為に殺したとは思えない。だからさ……せめて話を」

「うるさい!」

 

 触手の先端部分が発火する。それはまるで彼女の中の怒りを表しているようだ。

 

「いいじゃん風人君は!復讐を果たせたんだから!その手で憎いやつを倒せたんだからさ!邪魔しないでよ!放っておいてよ!君には私の復讐を止める資格はないっ!」

 

 確かにその通りだ。僕には資格はないだろう。でも、

 

「お前を止めるのに資格もクソもあるかよバカが!目の前で仲間が間違った道に進むのを黙って見ていられるわけがないだろ!絶対に止めてやる!それが僕の答えだ!」

 

 二度と自分と同じような存在を生み出したくない。だから僕は茅野を止める。たとえ僕が彼女に恨まれようとも絶対に。

 すると、茅野は触手を振るい、円状の炎のリングを作る。内側にいるのは殺せんせーと僕、そして茅野。

 

「そう……私の邪魔をするなら君を殺ってから殺せんせーを殺すだけ!」

「そうか……それが君の答えなんだね」

「そうと決めたら一直線だから!」

 

 次の瞬間。僕に迫る炎を纏った二本の触手。

 

「僕もこうと決めたら一直線だから!」

 

 僕は武器を構えて彼女に向かって走って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相対する風人と茅野。その戦いは常軌を逸していた。

 

「僅か十数秒の全開戦闘でもう触手に精神をむしばまれている」

 

 繰り出される触手の応酬。その攻撃は一撃でも当たれば風人はひとたまりもないだろう。

 

「死んで!死んで!死んで!死んで!死んで!」

「絶対に死なせるかよ!」

「うるさい!」

 

 触手の応酬。戦闘開始から数秒で、茅野は風人一人に焦点を定めず、殺せんせーと風人の両方を狙ったものになっていく。精神が不安定なために目の前にいる相手全てを狙っている。

 殺せんせーは触手を防御と回避。対して風人は、

 

(右左上左右下上左右上上右上左下右上左上下下右左――――)

 

 視点をあらゆる方向に移し、身体を動かし、脳をフル回転させていた。

 触手の動きは終始速いわけではない。引き戻した瞬間であったり遅くなる瞬間が何度も存在している。その引き戻す場所を狙って手錠を投げつけたり、ワイヤーで攻撃することで彼女の攻撃回数を減らそうとしている。さすがに触手を傷つけて再生に体力を奪われては意味がないと悟り使ってるのは全て金属製のものである。

 だが、風人は自分の力を分かっている。さすがに二本の触手に対し、同時に攻撃を行うことは出来ない。しかも間違っても茅野自身に攻撃を当てないようにするにはなおさらだ。一本の触手に注視して攻撃を行い、もう一本の触手はほとんど放置。回避のみに専念している。

 

「これじゃ、死んでと言ってる方が死にそうじゃ……」

「だが、風人の野郎。あの攻撃を全て対応してやがる……」

「なんて奴だよ……」

「それは違います!」

 

 すると、炎のリングの外にいた生徒たちに向かって殺せんせーは顔だけ分身を作り出す。

 

「な、何故に顔だけ!?」

「風人君のお陰で攻撃そのものの回数は減っていますが、それでも全身の分身を作り出すまでの余裕はないです」

「それはそれで器用なような……」

「だが、さっき言った風人がってやつは……」

「風人君がやってるのは異常なまでの処理を短時間でこなしているに過ぎません!茅野さんの位置、触手の位置、スピード、自身の位置、手錠とワイヤーのスピード……何十手先まで彼は読み切って戦っている!はっきり言って長くは続きません!」

 

 そう。風人は手錠をマッハの速度で投げれるような超人ではない。マッハで移動できる化け物でもない。どうしても茅野や殺せんせーと比べるとかなり劣っている。そのため、彼は並外れた思考力でその差を無理矢理埋めているのだ。風人が手錠を投げつけているのは何十手も先にある攻撃の溜のポイント。読みが一つでもズレれば効果はなくなるのだ。

 しかも、どれだけ収納しているかは分からないが手錠にも限りがある。二つの要因を考えるとあと数十秒持てば奇跡だろうか。

 

「一刻も早く茅野さんの触手を抜かなければ!彼女の触手の異常な火力は自分の生存を考えていないから出せるものです!ですが彼女の殺意と触手の殺意が一致している間は触手の根は神経に癒着して離れません!」

「じゃあどうすれば」

「手段はひとつ、戦いながら引き抜きます。風人君は既に限界を超えている。こんな環境で無理もありません。そこで先生のネクタイの下の心臓。そこの限りなく心臓に近い部分を貫かせます。『殺った』という手応えを感じさせた瞬間、触手の殺意は一瞬弱まります。その瞬間に誰かが茅野さんの殺意を忘れさせてください。方法は何でもいい、思わず暗殺から注意が削がれる何かです」

「でも、先にせんせーが死んじゃうんじゃ……!」

「恐らく先生の生死は五分五分です。でもね?クラス全員が無事に卒業できない事は先生にとって死ぬよりも嫌なんです。……マズい!これ以上は彼の命に関わる。今から彼をそちらに放り投げます。誰か受け止めてください!さっきの件はお願いしますね!」

 

 殺せんせーの分身が消えた次の瞬間。火の壁を越えて風人が弧を描いて飛んできた。

 

「って本当に飛んできたぞ!」

「誰が受け止めるんだよ!」

「寺坂!杉野!磯貝!行くよ!」

「お、おうっ!」

「分かった!」

「任せろ!」

 

 カルマの指示に合わせて四人が風人の落下地点に先回りして、風人を受け止める。

 

「がはっ……!……けほっけほっ!」

 

 風人が身軽な事もあってか衝撃は小さくすんだ。

 

「風人君!」

 

 受け止められた風人の元に駆け寄る有希子。

 

「けほっけほっ……やっば……」

 

 幸いなことに一撃も喰らっていない。だが、先読みに回避に脳と身体をわずかな時間で酷使しすぎたために一気に体力とか諸々を持ってかれている。

 

「飛ばすなら……先に言ってほしかった……」

 

 その上緊急事態とはいえ、急に吹き飛ばされたんだ。彼の中での状況把握がまだ完全に出来ていない。

 

「もう!無茶ばっかりして……!今は休むの!」

「はーい……」

 

 有希子に肩を借りる風人。立ち上がろうとするも緊張感が解けたせいでさらに疲労が押し寄せ立っていられない。そしてそのまま座り込む。だが、その目は確かに茅野と殺せんせーの方を向いていた。

 

(ははっ……さっきまであんな化け物の戦いの中にいたのかよ~……というか頭痛い……)

 

 疲れのあまり何にも考えたくない風人。

 そしてそんな風人の退場には気にも止めず茅野は殺せんせーを殺そうとしていた。

 

「死ンデ!死ンデ!死ンデ!」

 

 茅野の猛ラッシュ。その中で一瞬の隙を見つけた茅野は殺せんせーのネクタイの真下に位置する心臓。そこにめがけて二本の触手を突き刺した。

 

「ごふっ……!」

 

 少量の吐血。

 

「殺ッタ……!」

 

 茅野が殺したと確信した次の瞬間。茅野に伸びる二本の触手。

 

「離シテ!離シテヨ!」

 

 その触手は茅野を捕らえ、離さなかった。

 

「君のお姉さんに誓ったんです。君たちからこの触手を離さないと……!」

 

 そんな茅野と殺せんせーの前に立ったのは渚だった。

 

「……渚」

  

 次の瞬間。渚は一瞬で茅野との距離を詰め茅野にキスをし始めた。

 ほとんど全員が突然の出来事に驚いている中、カルマと中村はケータイを取り出し左右に分かれ撮影を開始した。

 

「――――――――っ!?」

 

 しかも舌を入れる大人のキスをする渚。

 

(あーありゃ、堕ちるだろうなぁししょー)

 

 特に驚いた様子もなく淡々と見守る風人。

 5HITを超えた頃には茅野の目から殺意の色は消えていたがそれでもキスを続行する渚。

 結果10秒15HITのディープキスを持って、茅野は目を回し、渚の腕の中で気絶した。

 

「これでどうかな?殺せんせー」

「満点です渚君!今なら抜ける!」

 

 茅野の触手は殺せんせーによって綺麗に取り去られた。

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